大阪・八尾にも誕生したこども食堂「夢うららほっとステーション」

前八尾市教育長である浦上氏が代表を務める「夢うららほっとステーション」。こどもたちがホッと安心でき、夢を育める場にしたいというのが名前の由来前八尾市教育長である浦上氏が代表を務める「夢うららほっとステーション」。こどもたちがホッと安心でき、夢を育める場にしたいというのが名前の由来

戦時中や発展途上国の話ではなく、経済大国として豊かなイメージのある現代日本が抱える社会問題の1つとして浮き彫りとなり、近年マスメディアをにぎわすようになった児童の貧困問題。

17歳以下「6人に1人」という貧困率についても周知されはじめ、さまざまな困難を抱える子どもたちの一助になれば、と全国各地で多様な取り組みが行われるようになってきた。

その1つが「こども食堂」。

子どもに限らず、人間だれしもが安心して生活を送るのに欠かせないのが衣食住の充足だ。その中でも、成長期の学童にとっては特に重要となるのが「食」である。栄養バランスや回数など、食事の質や量を危惧するのはもちろんのこと、子どもが家で1人きりで食事を取る「孤食」についても問題視されている。背景には家庭の悪しき経済状況、親の貧困が否めない。そんな子どもたちを取り巻く状況や環境を憂えた個人や団体が立ち上がり、地域の子どもたちに無料あるいは安価で食事や家族や先生以外の地域の大人とのふれあう時間を提供することが活動の主な目的である。

そんな中、大阪・八尾にも「夢うららほっとステーション(以下、夢うらら)」が誕生した。まだ手探り状態ながら、じわじわと反響も出始めていると聞く。どんな人々が、どんな思いで立ち上げ、どんなことを行っているのだろうか。

代表者である浦上弘明氏に会うため「夢うらら」活動日に足を運び、オープンまでの経緯と活動内容、氏を始めとする活動者たちの思い、利用する子どもたちの様子や感想、そして今後の課題や目標などを伺ってきた。

心の込もった「おいしさ」と大勢でワイワイ食卓を囲む「楽しさ」を

定番メニューはカレーライス。スタッフ持ち寄りの副菜や、寄付されたスイーツなども食卓をにぎわせていた定番メニューはカレーライス。スタッフ持ち寄りの副菜や、寄付されたスイーツなども食卓をにぎわせていた

「夢うらら」は毎月第2と第4水曜日の2回、午後5時~7時半まで、龍華・永畑・亀井・安中の4小学校区に住む小学4年生~中学3年生を対象に、市立龍華コミュニティセンターで開かれる。基本的に子どもは無料、同伴の保護者からは300円をいただく。定番メニューは、ほとんどの子どもたちが大好きであり、その上、調理や配膳などのお手伝いもしやすいカレーライス。運営費や食材は現状すべてメンバーや市民の寄付によってまかなわれ、日によっては副菜やパン、デザートなども付く。

今年の6月8日に、活動スタート。最初は「本当に子どもたち、来てくれるかな」そう不安もあったとメンバーは語る。「自分たちの志がいかに高く、社会的にも意義のある活動だとしても、何かと制約は付き物」とは浦上氏。

1つは、告知だ。地域に根ざした活動のため、多方面への配慮が必要となる。多くの人に「夢うらら」の存在を知ってもらいたものの、対象となる年齢、地域には限りがある。興味を持ってくれた八尾市すべての子どもたちを受け入れられるわけではない。とはいえ、なんらかの困難を抱えた子どもたちに個別に声をかけてよいものではない。子ども食堂の存在が認知され、全国的に広がりを見せるのは良いことだが、逆に「子ども食堂=貧困」といったイメージも持たれつつあるからだ。必要とする子どもたちに支援の手が届かない。そんなハードルやジレンマに、当然「夢うらら」も直面している。

それでも、回を重ねるごとに着実に参加者(会員)は増えている。5時スタート時には常連の子どもたちでいっぱい。そんな光景も珍しくなくなってきた。メンバーやボランティアスタッフが心をこめて作ったカレーライスを、みんなでテーブルを囲んで食べる。おいしくないはずが、楽しくないわけがない。

教育の「現場」を離れることでようやく差しのべることのできた「手」

1人で生きているわけではない。みんなのおかげで自分はいる。大人も子どもも、さまざまな交流を経て、そんな気付きも得るのだ1人で生きているわけではない。みんなのおかげで自分はいる。大人も子どもも、さまざまな交流を経て、そんな気付きも得るのだ

こうした「夢うらら」の構想は、公務員時代から浦上氏の胸中にあったものだ。

1976年に中学校教員となった浦上氏は、八尾市立中の校長などを歴任した後、2012年4月からは市教育長に就任。今年の3月退任するまで長きにわたって学校現場や教育行政に携わってきた。現場では、経済的に困っていても周囲に助けを求めることもできず辛抱や我慢を続ける子ども、両親の離婚などが原因で家に帰っても1人、孤独に絶える子どもなどを何人も見てきたという。現場にいるからこそ、行政に携わっているからこそ、見えること、聞こえてくることがある一方で、教育と福祉の壁やプライバシーの問題など、支援できないもどかしさをずっと抱えていたと言う。「退任して自由な身になったら、子どもたちに直接手を差し伸べるような地域活動をしよう」。まさに積年の想いを実らせたのが、この「夢うらら」だと言えよう。

八尾市内で絵本の読み聞かせ活動をするボランティ団体やボクシングを通じて非行少年の更生に取組む団体など、かねてより交流のあった人々に声をかけると、みな共感し、賛同してくれた。支援してくれる仲間は60人も集まった。開催する場所は、運営資金はどうする、衛生管理は? 始動に向けてクリアすべき問題を挙げ出せばきりがないが、自分たちの信念には一点の曇りもない、誰に、なんの遠慮もあるものかと、行動を開始した。それが今年の2月のこと、退任を目前に控えてのことだった。実行委員会議を開き、知恵を絞り、アイデアを持ち寄り、数々の課題つぶしに奔走する。それぞれの人脈も頼りとなった。

家庭と学校に加えて「地域」もが子どもたちにとって温かな“居場所”となることを目指して

家庭や学校とはまた異なる「地域」という枠組の中で、おっちゃん、おばちゃん達とのふれ合いから、自然と何かを学びとっていくことは、子どもにとって非常に良い経験となる家庭や学校とはまた異なる「地域」という枠組の中で、おっちゃん、おばちゃん達とのふれ合いから、自然と何かを学びとっていくことは、子どもにとって非常に良い経験となる

「子どもというのは、さまざまな枠組の中で活動しています。基本となるのは家庭ですが、8時から下校までは学校が主となる。下校後はまた家庭というように。枠があって、その枠の中には自分以外の人がいて、いろんな関係性があって、自分は1人で生きているのではなく、人のおかげで自分があるということを認識できる。最近は昔のような関係性はなくなり希薄にはなりつつありますが、地域も、子どもを取り巻く枠の1つ。見知らぬおっちゃん、おばちゃんらがその枠にはいて、自分と関わり、いろんな言葉をかけてくれる。そうした家族や先生以外の大人たちとのふれ合いや交流から、社会のルールなど、自然と学べることはとても多いですし、子どもたちにとって非常に良い経験になる」と浦上氏。

浦上氏の言う「枠」とは帰属意識に通ずる。互いを認め合うことで芽生える「人のおかげ」と感謝する心と、人に大切にしてもらった経験から自分を大事に、他人をも大事にする暖かい気持ちが連鎖していく場ということだ。そういう場があるから、人は安心して、枠の外へも飛び出していけるのだろう。

「安心してご飯を食べることは、心の安定に繋がるもの。食事は本来家庭で行われるのが理想だが、昨今の保護者や児童を取り巻く状況をかんがみれば、家庭だけでまかなうのはなかなかに厳しいものがある。1人でも友達を誘ってでもいい、気軽に『夢うらら』に来て、みんなで一緒にご飯を食べよう。食事だけじゃない、ここで宿題などの勉強をしてもいい。楽しい時間を一緒に過ごしていきたい」。

「夢うらら」の表看板は子ども食堂だが、浦上氏の構想はもちろん、子どもたちへの食の提供だけに終わらない。浦上氏が繰り返し語った「みんな一緒」「楽しい」を実感できるゲームかイベントなども今後は企画していきたいそうだ。裾野を広げていくことで、子どもだけでなく保護者も足を運び易くして、悩みを相談したり共有できる場を目指していくという。

子どもたちが安心して過ごせる場所、自分らしくいられる場所。そんな“居場所”がある街に暮らすことが、子どもたちの心身共に健やかな成長や発達を願う子育て世代にとって1つの選択肢、新たな価値基準となっていくのではないだろうか。

2016年 10月03日 11時06分