日本人の文化に根付いた年賀状
今年も年賀状を送付する時期となった。
メールやSNSの台頭により、年賀状の習慣は廃れつつあるというが、それでも郵便局の発表によれば、2016年のお年玉つき年賀はがきの発行枚数は、32億枚以上。まだまだ多くの人が年賀状を送っているということだろう。
それでは、年賀状の習慣はいつごろ始まったのだろうか。
実はWeb上に「年賀状博物館」なるものがある。民営化前の日本郵政公社や逓信博物館に取材して2006年に年賀状博物館を開設したのはフタバ株式会社である。
フタバ株式会社は、1972年の創業当初より、活版印刷で年賀状に住所氏名を入れる印刷サービスを営んできた。その後1977年に、年賀状事業に変化が起きる。「年賀はがきの印刷済み商品」をパック入りで発売したことにより、老若男女を問わず、きれいなプリント年賀はがきが手軽に購入できるようなった。その後、経済活動の成長とともに、年賀はがきの発行枚数は年々増えていったという。
年賀状博物館を開設された、フタバ株式会社の取締役・市川隆史氏にお話しを聞いた。
「現在ではWeb環境の拡充とともに郵便以外の通信手段が多様になり、2000年頃をピークに年賀はがきの取り扱い数量は年々減少が続いています。しかし、『年賀状は贈り物』と言われるように、我々の生活や習慣に深く根ざした『日本の文化』です。今後も年賀状を大切な文化として残していきたいとの思いから、年賀状博物館を開設・運営しています」と、市川氏は思いを語る。
年賀を祝う習慣のはじまり
年賀状以前から、年の始まりを祝う習慣はあったと考えられている。年の始まりは、暦の誕生とともに意識されるようになったようだ。
狩猟生活であれば、暦との関係は農耕よりは薄い。狩りに出て食料を確保し、また蓄えがなくなれば狩りに出るという生活に、暦によるリズムの影響はすくないと考えられるからだ。しかし、農耕牧畜の生活になると、種まきや刈取りなどの時期を知るため「暦」が必要となる。天体の運行などから1年が約365日であることが発見されると、それぞれの文化圏で区切りとなる日が違うものの、一年のはじまりが意識されるようになった。ごく自然な生活の習慣として、新しい一年が始まる日には前年の収穫を神に感謝し、新年の豊穣を祈られてきただろう。エジプトやメソポタミアなどの四大文明にも、新年を祝う宗教的儀式の痕跡が多く見られるという。
日本でも新年を祝う習慣は古くからあったと考えられるが、年賀状のはじまりは、手紙や書類などを送る風習が生まれてからだろう。
「645年の大化の改新により、畿内各所に駅馬を置いて、政治的な書類を届ける『飛駅使』という制度が始まっています。そして時を同じくして、元旦に、天皇が家臣たちの年賀を受ける『朝賀の式』が制度化されているのは、面白いところではないでしょうか。史料がないため、日本最古の年賀状がいつ、誰から誰に送られたのかはわかりませんが、大化の改新以降ではないかと考えられます」
現代の年賀状と郵便制度
現代の年賀状が生まれたのは、1870年の郵便制度の創設とほぼ同時期だったようだ。
当初、年賀状のやりとりは上流階級や知識人が中心で、封書が主流だったが、1873年に郵便はがきが発行されると、一般庶民にとっても年賀状が身近な存在となった。
しかし、当事の郵便システムは人力に頼っていたため、平常の何十倍もの年賀状が送られるようになると郵便物全体の処理が遅れ、年末から年始にかけては、通常郵便物まで到着が遅れがちになってしまった。商売人にとって、年末年始の郵便物の遅れは大きな問題。そこで1899年から、年賀状は通常郵便物と別枠で処理される年賀郵便の特別取扱が誕生した。
年末の12月20日~30日の間に指定の郵便局に持ち込めば、新年になってから配達してくれるうえ、1月1日の消印を押してくれるのだ。当初は指定郵便局の数も限られていたが、1905年には、全国すべての郵便局で取り扱いが可能に、1906年には、年賀特別郵便規則が公布されたのだ。
しかし、1937年7月に日中戦争が始まると、年賀郵便の特別取扱は中止となる。さらに翌1941年に太平洋戦争がはじまると、逓信省(日本郵政公社の前身)が「お互に年賀状はよしませう」と自粛を呼びかけるポスターを掲げており、年賀状の数は激減したと考えられる。その後1945年8月に終戦を迎えると、年賀状の数も徐々に増えていく。
「面白いのは、この時、表(おもて)面の下部に通信文を書くことが許されるようになり、一枚のはがきに、より多い文面を記載できるようになったことです。年賀状が復活したのは、お互いの安否を知らせ合う意味もあったのでしょう」と、市川氏は教えてくれた。
年賀状のマナー
次に、年賀状を出すときのマナーを教えていただいた。
「はがきを書くときに大切なのは、必ず切手の下に『年賀』と朱書きすることです。これがなければ通常郵便として扱われ、お正月前に届いてしまいますし、今年から年賀状以外のはがきは62円に値上がりしましたから、料金不足になってしまいます」
(※2021年現在、通常はがきは63円)
なお、2022年の年賀状の引受開始は2021年12月15日から12月25日までだ。
喪中の人に知らず送ってしまった場合は、どうすればよいだろうか?すぐにお詫びの連絡をし、年が改まってから、あらためてお悔みを述べると良い。二親等以内の親族がなくなった場合は喪中欠礼を出す。はがきには「喪中につき年始の挨拶を欠礼する旨」「誰がいつ亡くなったのか」「お付き合いへの感謝・先方の無事を祈る言葉」「日付」を記載し、11月中に届くように投函すると良いだろう。もしも、年明けに送っていない人から年賀状が届いた場合は、特にお詫びを書く必要はないが、なるべく早く返信すると良いだろう。
年賀状は日本人に古くから深く根付いてきた風習。なくなってしまわないよう、今後も守り続けていきたいものだ。
■取材協力
年賀状博物館:http://www.nengahaku.jp/
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