倉庫代わりに使われていた家をシェアハウスに

奥浅草の街並みの一角にある「シェアハウス粋iki」奥浅草の街並みの一角にある「シェアハウス粋iki」

東京を代表する観光地、浅草。多くの観光客が訪れる浅草寺の一帯から北側へ進み、言問通りを渡った先の界隈は「奥浅草」と呼ばれるエリア。住宅が多く、観光地・浅草とは違った表情を見せているのだが、しゃれたカフェなども増えている。

そんな奥浅草の一角に、古民家をリノベーションしたシェアハウスがある。2017年3月にオープンした「シェアハウス粋iki」だ。女性専用で、4.8帖~7.3帖の部屋が合計5室。家賃は5万4000円~6万2000円、このほかに共益費が月1万2000円。つくばエクスプレスの浅草駅から徒歩5分、東京メトロ浅草駅からも徒歩11分と交通アクセスがよいこともあり、オープンして2ヶ月めで満室になってからも入居の問い合わせがあるという人気のシェアハウスである。

運営を行なうのは、泰伸株式会社(東京都板橋区)。同社は主に事業用不動産の売買仲介と管理を行なっているが、2011年からは管理物件の一部を活用し、シェアハウスの企画・運営・管理を手がけている。この「シェアハウス粋iki(以下、粋)」は同社にとって5棟めのシェアハウスになる。

5棟の物件に共通しているのは、マンションの広めの空室や、空き家の一軒家を活かしてつくった女性専用シェアハウスであること。また、「粋」のほかの4棟も、最寄り駅から徒歩10分強圏内の立地にあり、部屋の数はそれぞれ7室と小規模であることも共通点。着目したいのは、いずれの物件も常に満室か、空室が出ても1~2ヶ月ほどで次の入居者が決まるという高い稼働率であること。人気の理由には、立地のよさだけではない要因がありそうだ。

そこで「粋」へ取材に出向き、泰伸の代表取締役・寺澤宏樹さんに話を聞いた。「粋」の魅力とともに、同社のシェアハウス運営のこだわりについてお伝えしたい。

かつてあった土間を復活させ、共用のキッチンに

「粋」はもとは1961年に建てられた2階建て住宅だが、住む人がいなくなり、倉庫代わりに使われていたという。そんな状態が約20年続いていたのだが、「自分の生まれ育った愛着のある家を活用し、収益をあげられる物件にしたい」という所有者(以下、オーナー)の希望を受け、寺澤さんがシェアハウスへと再生させたのだった。

「私が初めてここを訪れたときの第一印象は、建物は古びているうえに家の中はものが散乱していて、ごちゃごちゃしている家。でも、ダイヤモンドの原石と出会ったような手ごたえを感じました。階段や廊下のあたりには昭和の家の趣があって、そのたたずまいに惹かれたのです。また、経年変化で黒ずんでいるものの、昭和初期頃の貴重な調度品がたくさん残っていて、これらを活かすことができれば、風情あるシェアハウスになりそうだと思いました」

そうして寺澤さんがコンセプトなどを提案し、オーナー、リフォーム会社と話し合いながらの約4ヶ月のリノベーション工事を経て完成した「粋」。耐震補強を施し、「新築の家が1棟建つくらい」のお金をかけたという。

「シェアハウスには家賃が安いというイメージがありますが、ここ数年、さまざまなシェアハウスが登場しています。そのなかで『ここに住みたい』と選んでもらうには、一般の賃貸住宅にはない住空間をつくることが必要だと考えています」

「粋」のコンセプトは、古民家風の雰囲気を楽しめる住まいで、大きな特徴となっているのは、玄関から続く土間。土間とは、屋内で床をはらず、土足で歩けるようにつくられたところで、古い民家では玄関と、靴を脱いで上がる居室との間につくられていた。現代の住宅ではほとんど見られなくなっているが、「粋」では土間があり、共用のキッチンとなっている。

「かつて倉庫だった頃には車庫だったスペースですが、それ以前は土間だったそうです」と、寺澤さん。つまりシェアハウスとしてリノベーションし、土間を復活させたというわけだ。

左)玄関の引き戸を開けて中へ入ると、このような土間のキッチンの空間が広がる</BR>右上)キッチンには作業台や収納棚などが配されている。冷蔵庫は2台</BR>右下)冷蔵庫の後ろの窓ガラスは、かつてのまま。リノベーションする以前の窓ガラスがそのまま使われている左)玄関の引き戸を開けて中へ入ると、このような土間のキッチンの空間が広がる
右上)キッチンには作業台や収納棚などが配されている。冷蔵庫は2台
右下)冷蔵庫の後ろの窓ガラスは、かつてのまま。リノベーションする以前の窓ガラスがそのまま使われている

昭和の調度品を自らの手で磨き上げ、壁には手作りのアート作品

土間から上がり口で靴を脱ぎ、共用のリビングへ。そこには、ソファや4人掛けのダイニングテーブルとともに、古い桐箪笥やアンティークオルガンなどが置かれている。

「桐箪笥もオルガンも、オーナーさんのお母様がお嫁入り道具として持参したものと聞いています。私が初めてここへ伺ったときは真っ黒になっていましたが、私がひとつずつ持ち帰って、タワシで磨きました。リビングに限らず、『粋』にある古い調度品類は、私が磨いています」

仕事とはいえ、手間のかかる作業ではないかと不精者の筆者は思ってしまうのだが、「私は部屋のインテリアを選んだり、手入れをするのが好きなんですよ」と、楽しそうに話す寺澤さん。リビングのテーブルやソファなども、寺澤さんが家具店を見て回り、丹念に選んだものといい、リビングの壁を彩る和柄のファブリックアートは寺澤さんの手作りという。寺澤さん作のファブリックアートは、リビングのほか、2階の廊下や居室など、ところどころに飾られていて、入居者の目をなごませている。

このように内装にこだわりながらも、住む人の目線に立っての配慮もなされている。例えば、入居者5人に対して洗面所とトイレはそれぞれ2ヶ所ずつあり、洗濯機も2ヶ所に置いているという具合。

「入居者さんが不便に感じることのないようにと、誰かが使っていても、もう1ヶ所があるというようにしています。ただ浴室はスペースの余裕がないため、1ヶ所のみになったのが残念です」

左上)キッチンから見たリビングの様子</BR>右上)取材に対応してくれた寺澤宏樹さん。商社勤務と不動産会社勤務を経て、2010年に泰伸株式会社を設立した。「私と妻の二人三脚でやっている会社ですが、妻は子育てで忙しくしていて、今のところは私ひとりで頑張っている感じです(笑)」</BR>右下)リビングにはソファも置かれ、ゆったりとくつろげる雰囲気</BR>左下)オーナーの母親のお嫁入り道具である桐箪笥左上)キッチンから見たリビングの様子
右上)取材に対応してくれた寺澤宏樹さん。商社勤務と不動産会社勤務を経て、2010年に泰伸株式会社を設立した。「私と妻の二人三脚でやっている会社ですが、妻は子育てで忙しくしていて、今のところは私ひとりで頑張っている感じです(笑)」
右下)リビングにはソファも置かれ、ゆったりとくつろげる雰囲気
左下)オーナーの母親のお嫁入り道具である桐箪笥

共同生活を楽しめて、浅草のまちと古いものが好きな人に住んでほしい

シェアハウスの雰囲気づくりをするうえで最も力を注ぐのは、入居者同士の交流をサポートすることという。

「シェアハウスは、自分の家族以外の人と共同生活をするところです。入居者さんたちがほどよくコミュニュケーションを交わし、交流を楽しむことで、雰囲気のよい住まいになると思うのです。そういう居心地のよい場にするためのきっかけ作りをするのが、私の役目と思っています」

「居心地のよい場」にするためには、まず、どんな人が住むのかがポイントになってくると思うが、「粋」など、寺澤さんが運営する5棟は「女性で月々の家賃を支払えること」以外には特に条件はない。とはいえ、誰でも大歓迎というわけにはいかないようだ。

「入居するみなさんが楽しく住めるよう、最低限のルールやマナーが守れて協調性のある人に住んでいただきたいというのが基本です。加えて『粋』については、浅草のまちが好きな人や、古民家、古民具が好きという人に住んでいただければ嬉しいです。浅草での暮らしを楽しんでいただきたいし、古いものが好きな人ならここを大事に使って住んでくれるのでは、という想いがあります。入居のお問い合わせをたくさんいただくことはありがたいのですが、内覧のときなどにお会いして『ここでの共同生活に向かなそうだな』と思ったときは、入居をお断りしたときもありました」

年齢の条件も特にないが、「粋」の入居者は20代後半から30代前半。寺澤さん運営のほかのシェアハウスも入居者の平均年齢は30代前半くらいという。職業はほとんどが会社員。

「問い合わせをしてくる年齢層で多いのは30歳前後で、その結果として入居さんの平均年齢が30代前半になっています。私としても、入居者さんは同年代のほうが望ましいかなと思っています。私が運営するのは少人数で暮らすシェアハウスなので、年齢は近いほうが話も合うだろうし、年齢が開きすぎると世代間のギャップが生じてしまって、交流が進まなくなる可能性も出てくるでしょう。そのため、多世代が住むシェアハウスにすることは、今のところは考えていません」

ちなみに「粋」では40代、50代の女性からの問い合わせも多く、内覧にも訪れているそうだが、大半が申し込みにはいたらないという。

「内覧のときに入居者さんの平均年齢は30歳前後と伝えると、ひいてしまわれるようです。『若い人と暮らしていけるのかしら?』と不安に思われたりするのかもしれません」

左)2階廊下から見た階段の様子</BR>右上)居室があるのは2階。廊下には浅草の新旧の地図とともに、寺澤さん作のファブリックアートが飾られている</BR>右下)2階の廊下に置かれた収納用の引き出し。もともとこの家にあったものを寺澤さんが磨いた。引き出しの背後にあるのは洗面台で、古くから使用されていた石をそのまま使っているという左)2階廊下から見た階段の様子
右上)居室があるのは2階。廊下には浅草の新旧の地図とともに、寺澤さん作のファブリックアートが飾られている
右下)2階の廊下に置かれた収納用の引き出し。もともとこの家にあったものを寺澤さんが磨いた。引き出しの背後にあるのは洗面台で、古くから使用されていた石をそのまま使っているという

入居者同士のコミュニケーションを深めるために連絡ノートを活用

では、交流を活発にするためのイベントなどはどうしているのだろう?

「基本的には入居者さんの自主性におまかせしていますが、『粋』はオープンして1年たっていないので、私がみなさんに呼びかけてイベントを開いています。転勤や結婚で退去された方のお別れ会や、新しい入居者さんを迎えたときの歓迎会などですね。私も差し入れを持って、参加しています。入居者さんたちもだんだん仲良くなってきて、一緒に浅草のまちへ食事に出かけたりして楽しんでいるようです」

社会人になると友だちはできにくいとされているなかで、同年代の友だちを増やすことができるというのも、一般の賃貸住まいでは得ることができない貴重な体験だろう。

しかし、同年代の女性が少人数で住むシェアハウス。寺澤さんは、これまでのシェアハウス運営の経験を踏まえてこんな話をしてくれた。

「オープンして月日が経過し、入居者の入れ替わりが出てくると、長く住んでいる人と、新たに入居した人とがうまくかみ合わなくて、ぎくしゃくした雰囲気になるケースもないわけではありません。また、入居者のなかに気が合わない人がいると悩んだ方もいらっしゃいました。そういうときは、みなさんの交流が進むようにと私がイベントを提案したり、悩んでいる方の相談にも対応しています。ただ、私は入居者さんとの間に壁をつくらず、しかし、近すぎないというスタンスです。何かあれば、ご本人同士で話し合っていただくしかないと考えているし、そのことは入居の契約のときにもお伝えしています。幸いなことに、これまで深刻なトラブルはなく、運営できています」

さて、『粋』の運営・管理だが、寺澤さんは常駐しておらず、月に3日ほど備品類のチェックのために訪れる程度という。入居者と顔を合わす機会は少ない。そこでリビングに連絡ノートを置き、気づいたことなど、入居者に書いてもらっている。寺澤さん自身も、「歓迎会のご都合、いかがですか?」などと書いたりして、入居者とのコミュニケーションをはかっている。

ノートを少しだけ見せていただいた。

「私の代わりに宅配便を受け取ってくださった方、ありがとうございました」「ケーキを買ってきました。冷蔵庫に入れておいたので、みなさん、食べて下さいね」「ケーキ、おいしかったです!」など、入居者によるさまざまなメッセージが書き綴られていた。

「この連絡ノートが、入居者さん同士の交流に役立ってくれればいいなと思っています」と、真摯に語る寺澤さん。
今回の取材を通して感じたのは、設備面や入居者とのかかわり方など、ひとつひとつにていねいに取り組んでいるということ。そんな運営・管理のあり方というのが、シェアハウスの住み心地の良さをつくるうえで、やはり重要なのだと思った。

☆取材協力
泰伸株式会社
http://www.taishin-re.co.jp

左上)5室ある居室はそれぞれ広さと趣が異なる。写真は4.8帖の部屋で、畳のベッドが設置されている</BR>右上)7.3帖の部屋には古い机と桐箪笥が置かれている。※居室の写真はオープン時のもの(泰伸株式会社提供)</BR>下)リビングの書棚の上には、古いそろばんと連絡ノート。連絡ノートの最初の1ページ目には、</BR>寺澤さんから入居者へのメッセージが綴られていた左上)5室ある居室はそれぞれ広さと趣が異なる。写真は4.8帖の部屋で、畳のベッドが設置されている
右上)7.3帖の部屋には古い机と桐箪笥が置かれている。※居室の写真はオープン時のもの(泰伸株式会社提供)
下)リビングの書棚の上には、古いそろばんと連絡ノート。連絡ノートの最初の1ページ目には、
寺澤さんから入居者へのメッセージが綴られていた

2017年 12月22日 11時05分