ベビーカー利用に関する取り組みを発表するイベントが開かれた

イベントは、「子育て応援に関する取り組み」と題したフォーラムと、「ベビーカーのいろいろ」と題したフォーラム・ベビーカー体験の2部構成で行なわれたイベントは、「子育て応援に関する取り組み」と題したフォーラムと、「ベビーカーのいろいろ」と題したフォーラム・ベビーカー体験の2部構成で行なわれた

住まい探しをするとき、「緑が多い」「日常の買い物に便利」「通勤や子どもの通学に便利」といったことを考える人は多い。だが、「子育て中のバリアフリー」も考えてみるのはどうだろう? 子育て中の人や若い夫婦の住まい探しなら、さらに一歩進んで、希望するエリアの駅や電車、バスが子育て世代にどのくらい配慮しているかをポイントに加えてみてもいいはずだ。そんなことを気づかせてくれたイベントが、2014年暮れに東京で開催された。公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団主催の『子育てにやさしいまちを考えるイベント』である。テーマは、電車やバスなど公共交通機関でのベビーカーを利用しやすい環境づくり。筆者は子育て当事者ではないのだが、広くバリアフリーについて知るよい機会と思い、取材に出向いた。この記事では、イベント前半に行なわれた「子育て応援に関する取り組み」のフォーラムでの取材レポートをお届けする。なぜこうしたイベントが開かれたのか、その背景をも伝えたいと思うので、国土交通省発表の資料もひもときながら2回にわたって記事をお届けしたい。

ベビーカー利用をめぐるさまざまな問題

イベント会場内ではさまざまなベビーカーが展示されていたイベント会場内ではさまざまなベビーカーが展示されていた

「子育て応援に関する取り組み」のフォーラムで講師として登壇したのは、学識経験者、行政機関(国土交通省)、子育て関連団体の代表者、東京圏の交通事業者(鉄道会社・バス会社)で、それぞれの立場からベビーカー利用の現状や取り組み、課題などが語られた。そのレポートをする前に、そもそもベビーカー利用をめぐってどんなことが問題になっているのか、説明させていただく。

このところ駅構内や電車などで、ベビーカーで外出する親子をよく見かけるようになった。東京都内で暮らす筆者にとっては日常的に見慣れた光景といえる。ベビーカーで出かける親子が増えてきたのは、2000年11月に「交通バリアフリー法」が施行されて以降といわれている。この「交通バリアフリー法」は、公共交通機関の駅や乗り物などのバリアフリー化をめざすためにつくられた法律で、建築物におけるバリアフリー化を促進する「ハートビル法(1994年9月施行)」と統合され、現在は「バリアフリー法(2006年12月施行)」と名称を変え、公共交通機関や建築物のバリアフリー化を推し進める法律となっている。

こうした法律の整備によって、駅構内でのエレベーターや多機能トイレ、スロープなどの設置、乗り降りしやすいノンステップバスなどバリアフリー化が進み、高齢者や障がいのある人のみならず、小さい子どものいる人もベビーカーで外出しやすい環境になってきている。国土交通省の調査によると、鉄道の大都市ターミナル駅でのベビーカー使用者は、全乗降客に対しておよそ1~2%前後で、車いす使用者のおよそ20~30倍になると推測されている。

そうしたなかでさまざまな問題が浮上してきた。まず安全面での問題。駅のホームからの転落、電車内での転倒、車両ドアに挟まれるといった事故が発生している。そして、周囲の乗客との間での摩擦。他の乗客との間で接触や通行の妨げになるといったトラブルがみられるようになり、電車やバスなどでベビーカーを折りたたむべきかどうかをめぐる社会問題にまで発展してしまった。「ベビーカー論争」といわれるものである。この問題は、世代などによってベビーカーに対する意識に違いがあることから起きてしまったものとも考えられるのだが、そもそもベビーカー利用に関する統一的なルールがなかったことにも起因するという見方をする人もいた。

そうした安全面の課題や利用をめぐる論争が起こってきたことを契機に、国土交通省ではベビーカーを利用しやすい環境づくりをめざし、「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会(以下、ベビーカー協議会)」を2013年6月に設置した。この協議会は学識経験者、子育て関連団体、ベビーカーメーカーの関連団体、鉄道・バス会社の団体、商業施設団体、行政機関などの実務者で構成され、ベビーカー利用に関する課題について検討を重ねてきた。では、このベビーカー協議会ではこれまでにどんなことが検討され、どんな活動が行われてきたのだろう? 一部のマスコミでも報道されてはいるものの、その取り組みと今後の方向性についてはまだまだ知られていないと思うのだが、それを広く多くの人に知ってもらうことも、今回の『子育てにやさしいまちを考えるイベント』開催の目的ということで、フォーラムでは同協議会の構成員と関係者が講師を務めた。

ベビーカーで外出する親子にとっての大きな“バリア”とは?

フォーラムに登壇する大森宣暁氏フォーラムに登壇する大森宣暁氏

さて、「子育て応援に関する取り組み」のフォーラムは、まず最初に登壇したのは、学識経験者より、宇都宮大学大学院工学研究科教授の大森宣暁氏。大森氏は都市交通計画や人の交通行動分析などを専門とし、子ども連れ外出の環境づくりに関する研究活動も行なっている。このフォーラムでは公共交通でのベビーカー利用に関するさまざまな調査結果を発表。筆者が興味深く感じたのは、ベビーカー利用の意識についての国際比較調査だった。日本、韓国、スウェーデン、ドイツ、フランス、イギリスの首都(都市圏)に居住する20代、30代、40代の男女、各50サンプルを対象に実施した調査によると、このような結果が出ている。

●公共交通利用時に周囲の乗客がしていたら不快・迷惑に感じる行為(混雑時)
「ゴミを社内に放置する」「化粧をする」など20の行為を挙げての調査で、「ベビーカーを折りたたまずに乗車する」に対して迷惑だと感じる人の割合が最も高いのは日本で約40%。ちなみにフランス、イギリスはそれぞれ約20%、スウェーデン、ドイツ、韓国はそれぞれ約10%だった。
●公共交通利用時にベビーカー利用者に対して行うこと
「何もしない」と回答した人の割合が最も高いのは日本。また、この調査で他に調査項目となっている「子どもをあやす」「ベビーカーのために場所を空ける」「席を譲る」「乗降する順番を譲る」「乗降を手伝う」について、行なっていると回答した人の割合が最も低いのも日本という結果になっている。
●ベビーカーで公共交通利用時に周囲の乗客にしてもらう行為
「特にしてもらっていない」と回答した人の割合が最も高いのは日本で、50%を超える数値になっている。また、この調査で他に調査項目となっている「子どもをあやしてもらう」「席を譲ってもらう」「ベビーカーのために場所を空けてもらう」「乗降する順番を譲ってもらう」「乗降を手伝ってもらう」について、行なっていると回答した人の割合が最も低いのも日本という結果になっている。

こうした調査結果から、日本はベビーカー利用者に対し、関心がない、あるいは「場合によっては手助けが必要」といった意識を持つ人が少ないということが浮き彫りになっている。ベビーカーを使う側が周囲に協力を求めない、ということもあるだろう。しかし、ベビーカーを利用する子育て世代にとって、周囲の人の理解や協力が得られにくいこと、つまり意識のバリアが大きな障壁のひとつになっていることがわかった。

電車やバスなどでベビーカーは折りたたむべき?

イベント会場に展示されたポスター。「ちょっと気づかう、そっと見守る」のキャッチフレーズが目を引くこのポスターは、ベビーカー利用への周囲の理解・使用者の配慮を啓発する目的で制作されたものというイベント会場に展示されたポスター。「ちょっと気づかう、そっと見守る」のキャッチフレーズが目を引くこのポスターは、ベビーカー利用への周囲の理解・使用者の配慮を啓発する目的で制作されたものという

大森氏の発表に続き、国土交通省総合政策局安心生活政策課・交通バリアフリー政策室長の大熊昭氏によって、ベビーカー協議会の発足経緯や取り組みが語られた。

ベビーカー協議会では「安全な使用」「ベビーカー利用への理解・配慮」の2点を課題とし、協議を重ねてきた。これまでの主な取り組みは、ベビーカー利用にあたってのお願い事項の策定と統一的なベビーカーマークの作成の2点。そして、2014年3月に「ベビーカー利用にあたってのお願い」とともに、ベビーカーマークを決定し、公表にいたっている。

「ベビーカー利用にあたってのお願い」の作成にあたり、国土交通省ホームページを通じて国民の意見を募り、検討。その結果、公共交通機関などではベビーカーのシートベルトの着用、ストッパーによる車輪の固定、駆け込み乗車はしない、駅構内などのエスカレーターや階段では子どもを降ろすなど、子どもの安全を守るためのベビーカーの使用方法の考え方を示した。重要ポイントは、「ベビーカーは基本的に折りたたまずに使用できる」という方向性を示したことだ。前述のようにベビーカーを折りたたむかどうかについては賛否両論があるのだが、同協議会でも、混雑した車内でのベビーカー使用はスペースを少し広めに利用してしまうことに対する周囲の人からの抵抗感や、周囲で立っている人がベビーカーに倒れ込む危険性といった指摘があった。しかし、ベビーカー使用者は子どもの荷物などを持っているため、子どもを抱っこした状態でベビーカーを折りたたむことはむずかしいケースが多く、また抱っこした状態で立ったまま乗車する場合には体勢が不安定になり転倒などの危険があるため、子どもの安全性の面で問題があるとの意見があったという。

そうした経緯から同協議会が導き出したのは、「折りたたむことを一律に求めるのは子どもの安全面で困難で、むしろそのことを周囲の人に訴えかけることが重要であること」と、「仮に混雑時に折りたたむことを求めるとしてもその基準を求めることはむずかしいということ」。そうして、たたむことに関する呼びかけは行なわないことになったが、ベビーカー使用者に周囲の人への接触などに気をつけるよう、求めていくという決定にいたった。なお、バスなどの場合は、ベビーカーをたたまず乗車することが困難な場合もあり、そうしたケースに対しては折りたたむことを求めてもよいものとした(バス会社の取り組みについては次回レポート記事で紹介する)。

こうした「ベビーカー利用にあたってのお願い」は、ベビーカーを使用している人たちだけではなく、それ以外の人たちへの「お願い」も盛り込まれたものとなっていることもポイントだろう。ベビーカー使用者と、周囲の人が交通機関などでお互いに快適に過ごせるよう、「ベビーカー使用者に対する周囲の人の気遣い・見守り・手助け」、また「ベビーカー使用者が周囲に配慮したベビーカーの操作を心がけること」をお願い事項としてとりまとめたという。

問題はこれらをどう広く一般に伝え、理解してもらうか? そこでベビーカー協議会ではベビーカーの安全な使用についてイラスト入りのチラシを作成し、ベビーカー利用への周囲の理解・使用者の配慮に関してはポスターを作成した。2014年5月の1ヵ月間に渡り、駅や電車・バスの車両、商業施設などでチラシの配布やポスターの掲出といった形でキャンペーンを実施した。また、ベビーカー販売時や子育て支援イベントなどでもチラシの配布が行なわれた。その結果、社会的な関心は高まったといい、国土交通省のホットラインステーションなどに対しても数多くの意見が寄せられたという。バスや電車内でベビーカーを利用しやすくなった、たたむのは重くて大変だったのでよかったという肯定的な意見もあった一方、否定的な意見もあった。ベビーカーを折りたたまずに乗車可能としたことに対する反発の声、ベビーカー使用者のマナー向上を求める声、混雑状況を考慮した対応をするべきだといった声、鉄道会社の取り組みが不十分であるなど否定的な意見もあった。

今後の課題として、フォーラムの場で大熊氏が語ったのは、どう情報発信をしていくか、ということだった。ベビーカー使用者のマナーの向上や、周囲の人の理解・協力を双方に引き続き呼びかけ、ベビーカー利用などの取り組みをより多くの人に知ってもらうため、より一層の普及・啓発活動に取り組んでいきたいという。

公共交通機関等で統一的なベビーカーマークの使用が始まっている

決定したベビーカーマーク。エスカレーターなど、ベビーカーをたたまずに使用することが適切ではない場所には、禁止を表す「禁止図」を表示する決定したベビーカーマーク。エスカレーターなど、ベビーカーをたたまずに使用することが適切ではない場所には、禁止を表す「禁止図」を表示する

さて、ベビーカー協議会の取り組みのもう1本の柱であるベビーカーマークの作成だが、フォーラムの席ではその決定までの経緯などが語られた。

ベビーカーマークとは、公共交通機関や建築物などで、ベビーカー使用者が安心して利用できる場所や設備に表示する図記号のこと。これまで鉄道会社やバス会社でベビーカーマークを用いていたケースは少なくなかったそうだが、各社でマークの図案が異なっていたためにわかりづらく、広く一般に浸透しにくいという問題があったという。そこで誰にでもわかりやすく、長く使用できる統一的なベビーカーマークの作成が進められ、既に使用されているマークなど複数の案の中から決まったのが「ベビーカーと中性」のマークである。女性がベビーカーを押している様子を図案化したマークを使用している鉄道会社が多かったとのことだが、「イクメン」という言葉もあるように男性も子育てに参加するケースが増えている現在、性別を限定しないほうが望ましいということで決定にいたったとのことだった。

こうして決まった統一的なベビーカーマークは電車の車両や駅構内などで、順次、掲出されているという。前出の大森氏によると、スウェーデンやイギリス、フランスなどでは鉄道やバス車内にはベビーカー優先スペースが設けられ、ベビーカーマークが掲出されているケースが多いという。では、日本ではどうなのだろう。次回の記事では、鉄道会社やバス会社の取り組み、そして子育て関連団体代表者の声をお伝えしたい。

☆取材協力
公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団
http://www.ecomo.or.jp/index.html
☆参考
「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会 とりまとめ」(国土交通省)

2015年 02月04日 11時09分