料理列車、ゆるキャラ、イルミネーションなど、あの手この手で集客

草木トンネル通過中の「トロッコわっしー号」。天井のイルミネーションが天の川のように輝く草木トンネル通過中の「トロッコわっしー号」。天井のイルミネーションが天の川のように輝く

JR足尾線を引き継ぐ形で1989年に開業した、第3セクターのわたらせ渓谷鐵道。一時は廃線の危機に直面したが、公的支援により再建を目指すこととなった。
地域の足としての役割を果たしつつ、観光鉄道として再生への道を歩み始めた「わ鐵」。その舵取りを任されたのが、2009年に社長に就任した樺澤豊氏だ。樺澤氏は社長就任後、観光客を呼び込むためのアイデアを次々に実行に移していった。

その1つが、トロッコ列車の天井へのイルミネーション導入だ。渡良瀬渓谷沿いに走っていた列車は、神戸駅(*)を過ぎると、全長5,242mの草木トンネルに入る。トロッコ列車の車窓からの眺めは突然、闇に閉ざされ、約10分間、轟音が響く真っ暗なトンネルの中でじっと耐えなくてはならない。
そこで、樺澤社長は天井にイルミネーションを付けることを発案。トロッコ列車の天井に1万2,000球のLEDが設置された。

草木トンネルに入ると、トロッコ列車の天井にはイルミネーションが灯り、車内は一転して幻想的な雰囲気に包まれる。光の銀河が織りなすロマンチックな光景はたちまち評判になり、それを見ようと、神戸駅で降りずにトンネルの先の足尾エリアまで足を伸ばす乗客も増えた。

また、2010年には、わ鐵の“ゆるキャラ”「わっしー」をデビューさせ、2012年にはわっしーを車両にデザインした「トロッコわっしー号」の運行も開始。
この車両を活用して生まれたのが、“料理列車”のアイデアである。これは、車窓の景色を眺めながら、ヨーロッパの豪華列車のようにフレンチやイタリアンを楽しんでもらおうというもの。各駅を彩るイルミネーションを眺めながらフランス料理が味わえる「クリスマス列車」や、県内の名店の味が堪能できる「イタリア料理列車」などが次々に運行された。この企画は大いに人気を呼び、冬枯れの季節をかき入れ時に変えるヒットとなった。

地元企業と連携して、オリジナルわ鐵グッズを開発

わ鐵名物「やまと豚弁当」わ鐵名物「やまと豚弁当」

観光振興策の一環として、わ鐵では弁当やキャラクターグッズ、旅行商品などの開発にも力を入れている。

キーワードは「地産地消」。なかでも好評なのが、2009年末から販売を開始した駅弁「やまと豚弁当」だ。
これは、地元のブランド豚「やまと豚」に醤油ベースのタレをたっぷりとかけ、白飯の上に載せたもの。弁当の掛け紙の裏面は沿線の観光案内マップになっており、弁当を食べながら、旅のプランを練ることができるようになっている。
また、桐生産のオリジナル手ぬぐいもセットになっており、弁当の敷物として使うもよし、わ鐵の水沼駅構内にある温泉で使うもよし。この斬新なアイデアは高く評価され、「やまと豚弁当」は2011年度「グッドデザインぐんま」パッケージ部門で見事、大賞を受賞した。

商品にさりげなくユーモアをまぶしてあることも、わ鐵グッズの人気の秘密である。
「わ鐵のお守り」は、車両をデザインした桐生織物製のお守り袋の中に、車輪とレールの間にまく“滑り止め”の砂を入れたもの。一方、“七転八起”のだるまの中に“滑り止め”の砂を入れることで、ご利益をパワーアップしたのが「わ鐵だるま」だ。いずれも、「人生の滑り止め」としてのご利益を謳った縁起物だが、ユーモラスな能書きをつけているのは、メディアに採り上げてもらいやすくするためでもある。

「おかげさまで、『わ鐵さんと一緒にやりたい』という企業からの引き合いも増えました。6年前に私が来た頃は、グッズは25種類で売上は年間270万円でしたが、今は160種類に増え、売上も年間1,100万円と4倍になった。今後もいろいろな企業と連携しながら、Win-Winで相乗効果を生み出したいと考えています」

トロッコ列車の指定席化がもたらした、沿線地域への経済効果

昭和の名残をとどめるレトロな大間々の街並み昭和の名残をとどめるレトロな大間々の街並み

わ鐵が観光に力を入れているのは、経営再建のためだけではない。「鉄道事業を通じて地域の活性化に貢献する」ことも目的の1つだという。

樺澤氏はこんなエピソードを紹介してくれた。社長就任後、初めて大間々駅でトロッコ列車の発着を見たときのことだ。駅の構内は大勢の観光客でごった返しているのに、駅の向こうの町には誰もいない。大間々町は、昭和初期の芝居小屋や醤油の醸造蔵などが残る、見所の多い町だ。にもかかわらず、レトロな町並みを誰も見に行こうとせず、切符を買うために駅に列を作っている――。

「当時はトロッコ列車の座席指定をしていなかったので、お客さんは少しでもよい席をとろうと駅で並んでいたわけです。そこで、トロッコ列車を指定席化し、発車時間まで自由に町を歩いてもらえるようにしました。わ鐵のお客様が駅から出て町を歩くようになれば、町で食事をしたり、ものを買ったりする機会も増える。こうした形で、目に見えない経済効果をもたらすことができれば、地域の皆さんも『わ鐵があってよかった』と思うようになるでしょう。地域に鉄道を応援してもらうためには、地域全体の活性化に寄与できるような鉄道でなければならない。そこに再生の鍵もあるのではないか、と考えるようになりました」

険しい道のりの先に見えてきた光

わ鐵のゆるキャラ「わっしー」わ鐵のゆるキャラ「わっしー」

とはいうものの、わ鐵の先行きは依然として不透明だ。震災後の風評被害もあって、2013年度には年間乗客数がついに40万人を割り込んだ。2014年度は約42万人と、やや回復したものの、震災前の水準にはほぼ遠い。沿線自治体による赤字補填がなければ、経営は成り立たないのが現状だ。

「自治体からの赤字補填が減っていないということは、人件費や修繕費などの固定費がかさんでいることを意味します。そこをどう効率化できるかが今後の課題です。しかし、税金の補助を受けている分、効率化だけを追求するわけにはいかないのが第3セクターの難しさ。公共の足としての利便性を損なうわけにはいかないので、お客様が少ない時間帯でも列車を動かさなければならない。オフシーズンは車両編成を2両から1両にするなど、ムダを省いてコストを削減する取り組みはしていますが、それにも限度がある。そこがジレンマですね」

もう1つの不安材料は、わ鐵をサポーターとして支えてきた沿線住民の高齢化だ。
JR足尾線の廃止にあたり、沿線住民は「乗って残そう運動」を展開することで、鉄道を廃線から救った。その後は、沿線住民が中心となって「わたらせ渓谷鐵道市民協議会」を結成。今も約200名が所属し、車両の清掃やイベント参加など、さまざまな支援活動を続けている。

「たとえば、わ鐵の名物となった冬の”各駅イルミネーション”も、沿線住民や地元企業の皆さんがボランティアで飾り付けをしてくださっています。おかげさまで12月~2月という冬枯れの季節にもかかわらず、1,000人の乗客を集めるヒット企画となっています」

会員の高齢化で、協議会による支援活動は岐路にさしかかっているが、明るい材料がないわけではない。最近は沿線住民の間で、再び「鉄道と一緒に自分たちを盛り立てていこう」という機運が盛り上がっているという。

わ鐵のお客様、熱烈歓迎! 住民が沿線に花桃を植え始めた

神戸駅には300本の花桃が植えられ、春には多くの観光客が訪れる神戸駅には300本の花桃が植えられ、春には多くの観光客が訪れる

現在、神戸駅ではわ鐵社員の手で300本の花桃が植えられ、4月には駅前で「花桃まつり」が行われている。このイベントに合わせて、わ鐵では臨時列車「花桃号」を運行。これに触発される形で、沿線では「花桃を1万本植えよう」という取り組みも進められている。

「『地域を活性化するためには鉄道が必要だ』という意識が、少しずつ地域に浸透しつつあります。地域を活性化できるかどうかは、沿線の方たちといかに心を1つにして、まちおこしに取り組めるかどうかにかかっています」

樺澤氏がメディアでの取材や情報発信を重視しているのも、1つには沿線住民の心をつかむためだ。
わ鐵がメディアで紹介されれば、「また、テレビに出ていましたね」「わ鐵もずいぶん有名になりましたね」と地域の人に喜ばれ、わ鐵に対して愛着や誇りを感じてもらうことができる。その意味では、鉄道と沿線住民との蜜月こそが、地域の再生をもたらす鍵となるのかもしれない。

「『鉄道はあって当たり前』と思われがちですが、けっしてそうではない。地域の鉄道がなくなれば、沿線の町が1つなくなってしまうほどのインパクトがあります。鉄道こそが地域活性化の軸にならなければいけないし、鉄道とは地域にとってそれほど重要な存在なのだということを、ぜひ皆さんにわかってもらいたい。そのためにも、民鉄や3セクを含め、全国の鉄道を応援していただきたいと思います」

(*)わ鐵の駅の1つ。「ごうど」と読む。

2015年 06月30日 11時06分