DIYを手がかりに団地の魅力を再発見する試み
団地の空き部屋は増加傾向にあり、自治体や住宅事業者はさまざまな取り組みをしている。
そんな中、大阪府住宅供給公社は、DIYを手がかりに団地の魅力を再発見してもらおうと「DIYで育てる暮らしプラン」を提供するというので、オープンルームを見学しながらお話しを聞いてきた。
大阪府住宅供給公社は以前から団地のDIYに取り組んでおり、そのひとつが茶山台住宅で2014年10月~2015年の3月の日程で行われた、「DIY R SCHOOL」。一般の参加者がプロに学びながら、団地のリノベーションをワークショップ形式で行うものだ。空き部屋5部屋をDIYするのに毎週末25~30名の生徒が集まり、部屋の解体や床貼りのほか、壁を作る作業などを行ったそうだ。
ただ、作業を進めるうちに愛着がわき、賃貸契約をする参加者がいるだろうという予測ははずれた。すでに物件を所有している参加者が多かったからだ。このときDIYを施した部屋は人気があり、現在満室だが、リノベーションした本人が居住する形にはつながらなかった。
しかし、住居をDIYしたい人は増えているようだ。
「賃貸住宅居住者の2割弱がDIYを希望しながらもあきらめているという調査結果があります。あきらめてしまう原因を調べてみると、原状回復義務が壁になっていること、そしてノウハウの知識が広まっていないことが見えてきました。そこで、居住する人にDIYしてもらいやすいプランを計画したのです」と、大阪府住宅供給公社団地再生課の田中陽三氏。
その言葉通り、「DIYで育てる暮らしプラン」は、DIYインストラクターによる5回のレクチャーがつき、DIY部分の原状回復不要、さらに契約後3ヶ月はフリーレントと、手厚い内容になっている。
手厚いフォローで初心者にもハードルを低く
DIY賃貸の先行例はあるが、基本的に居住者にお任せなのでどこから手をつけてよいかわからず、結局そのまま住む人も多いという。
「初心者がDIYを始めるときは、どんな工具と材料をそろえればいいのか迷うものです。ホームセンターには工具も材料もたくさんそろっていますが、安いのと高いのはどう違うのか、どこにどんな材料を使えばいいのか、判断するのが難しいものです。もちろんDIYの本はありますが、自分の家に最適な材料は、本を読んでもわかりません」と、アルブル木工教室DIYインストラクターの谷拓也氏。
本プランは、レクチャーが含まれているうえ、DIY部分の原状回復は免除。希望すれば貸し出してもらえるので電動工具を買い集める必要もない。一部注意事項はあるものの、壁を取り払ってもかまわないし、居住者の理想に近い空間を作り上げることが可能だ。
レクチャーは合計5回。初回に谷氏と相談し、自分好みのメニューを作る。レクチャー日程は土日でも平日でもよく、実費負担にはなるが、インストラクターと相談して回数を増やしても良いという。
さらに契約から3ヶ月間は家賃無料でDIY作業ができるので、現在居住している部屋を慌てて退去しなくても良い。もちろん、住み始めてから、個人でDIY作業を追加してもかまわない
材料を運ぶのもゴミを捨てるのもDIYの一環
それでも費用は、居住を開始してから茶山台団地のスタンダードな部屋と同じ家賃を払うだけ。
これでは大阪府住宅供給公社の赤字になるのではないかと心配になるが、田中氏は、
「本来工務店に依頼せねばならないリノベーションを、居住者にしてもらえるのですから、Win-Winなのです。また、あまり人気のない4階や5階の部屋に『DIYできる』という魅力を付加する意味もあります」と微笑んだ。
だから、部屋は前の住人が退去したあと、一部未補修の状態で引き渡される。必ず現地を確認してもらい、その部屋をリノベーションする覚悟のある人だけ、応募を受け付けるのだという。
オープンルームは、インストラクターに教わりながら、公社の新入社員らスタッフがDIYしたもので、施工した箇所には、作業にかかる日数の目安やこつなどが書き込まれたポップが貼られている。見学者に人気があるというバーカウンターや壁に設置した棚、壁紙、板床など、ほとんどの作業日数が半日から数日程度のようだ。
工具が進歩しているので、DIY作業自体は女性にも無理なくできるという。ただし、資材を運ぶのも、ゴミを出すのもDIY作業の一環。部屋は5階なので材料を部屋まで運ぶのは重労働だし、作業後のゴミ出しに階段を何度も往復せねばならないが、そういった作業もふくめてDIYであることを知ってほしいそうだ。
交流を増やすきっかけとしてのDIYに期待
女性にも本格的なDIYの人気が高まっており、大人が集まって作業する機会が減っている現状もあり、交流のきっかけとしてもDIYが注目されているという。今回募集の二部屋は近所同士なので、居住者同士がDIYをしながら仲良くなってもらおうという狙いもあるのだそうだ。
「団地の高齢化が進んでいますから、若い方に入居していただきたいという思いはあります。しかし、DIYは若い人だけのものではありません。DIYが好きな人同士が、教え合ったり、知識の共有をしたりして、多様な世代の交流が生まれればうれしいです」と、今後はほかの団地でも、DIYプランを実施したいと考えている。
また、今回の募集住居は比較的きれいな状態だが、今後はもっと居住年数が長くて傷んでいる部屋を使ってレクチャー数を増やし、「部屋を生まれ変わらせた」と強く実感できるプランを実施してみたいそうだ。
今回の「DIYで育てる暮らしプラン」で部屋がどう生まれ変わるか、今後も注目を続けたい。
参考サイト:DIYで育てる暮らしプラン+マンツーマンレクチャー
http://sodaterudiy.danchi-renovation.com/
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