「やっぱりシェアハウスに住みたい」の声をきっかけに。自然豊かな田舎まちに初の「シェアハウス」誕生

以前暮らしていたQhouseのメンバーとの様子。一緒に暮らす猫たちをみんなでお世話した。この頃の楽しさが忘れられなかったそう以前暮らしていたQhouseのメンバーとの様子。一緒に暮らす猫たちをみんなでお世話した。この頃の楽しさが忘れられなかったそう

鹿児島県霧島市。鹿児島空港から車で20分ほどの場所に、川沿いの既存戸建てを活用して、2016年夏、霧島市初のシェアハウスがオープンした。まだまだ珍しい存在のシェアハウス。
なぜ霧島に作ることにしたのだろうか。
仕掛け人である、江頭さんと管理人のリンダさん(仮名)に話を伺ってきた。

江頭さんが福岡市で運営していたシェアハウス"Q house"に住んでいたリンダさんは、海外生活の後、地元の鹿児島に戻り、一旦は1人暮らし始める。
海外に行くことを見据え、ルームシェアに慣れておこうとQhouseに入居したのだが、そこでの生活が想像以上に楽しかったそう。
「それに、海外では当たり前に住まいをシェアするのに、なぜ日本では『1人暮らしが当たり前』なんだろう?って思うところもあったんです。私にとって普通になってきているのかもしれません。1人暮らしが寂しいとかじゃなくて、やっぱりシェアがいいなって」とリンダさん。
家に誰かがいることに、安心感がある。帰った時に部屋の明かりがついていたり、さっきまで誰かがそこにいたという温度を感じる暮らしが丁度いい。
1人暮らしをする際、彼女は自分でシェアハウスを作ることも考えた。しかし運営に不安もあり、断念する。「だけどやっぱり…」そんな想いを江頭さんにこぼした。

リンダさんの話を受けて「じゃあやろうよ!」と江頭さん。すぐに彼女はリンダさんの希望地区の1つだったこの場所に家賃4万円と格安の戸建て住居を見つける。間取りもシェアハウス向きだった。
ただ、「シェアハウスをやりたい」と物件への問い合わせをすると、管理会社や大家さんから拒否されるケースは少なくはない。
物件を掲載していた不動産会社に「法人契約で、シェアハウス用として借りたい。内装も自分たちで多少手を加えたい。」とダメモトで連絡してみた。すると意外にも寛大な理解を得られた。
内覧時、担当者からは「霧島にはまだシェアハウスもないし、新しいことにも挑戦したい。応援します!」とエールをもらったそう。大家さんも快諾してくれた。

江頭さんに相談してから物件の契約までは1ヶ月弱だった。トントン拍子に話が進んだ。
ちなみにリンダさんの1人暮らし期間は約3ヶ月。前の部屋の短期違約金を支払ってでも、シェアハウスに住みたかったそう。

江頭さんが福岡市に住んでいたこともあって、内見はリンダさんが担当した。何よりこれから管理人になる彼女が「住みたい」と思えることの方が重要だからだ。
契約時には江頭さんも霧島へ足を運んだが、内見にはあまり時間をさけず(物件滞在時間は5分ほど)、これが後にちょっとした事件になる。

間取り図にない部屋と住人とのまさかのシェアハウス?

決めた物件は大家さんが綺麗にリフォームしてくれていたため、すぐにでも住める状態だ。7月半ばにはリンダさんが管理人として入居した。
引越し後、「下に住んでいるおばあちゃんも優しくていい人でした」と江頭さんへ報告があった。近隣の方と仲良くなったのだろうと安堵していると、どうも話が合わない。
どうやら契約時の間取りに載ってない部屋があり、そこに人が住んでいる……らしい。幽霊物件なのかという疑惑の元、慌てて不動産会社に確認したところ、実はそうではなかった。
「私も、物件を見に行ったときにおばあちゃんの姿を見たので、まだ前の方が引越されていないんだと思ったんです。不動産屋さんにもその会話はスルーされて」と江頭さん。
もちろん契約時には何も聞かされていない。

慌てて不動産会社に確認したところ、幽霊物件ではなかった。
この物件、増改築が幾度か行われ、玄関が2つある。いわゆる二世帯住宅の造りだ。それぞれ玄関・設備等は独立しているため、居住空間が入り混じることはない。担当者の感覚としてはアパートなどの集合住宅のそれと同等だったそう。
「不動産屋さんに『え、その説明要りました?』と逆に不思議がられちゃいました」と江頭さんは苦笑い。
ちなみに、上述の「下に住んでいるおばあちゃん」の娘さんが、シェアハウス用に賃貸借契約を結んだ部分の大家さんである。

既存戸建てに増改築が施されている例は少なくはない。また、二世帯住居の片方が空いてしまう事も今後増えていくだろう。通常の賃貸物件として借りる場合、現地の不動産会社と認識の差もあるようなので、要確認だ。
今回は、その認識の違いが後に分かったものの、入居者にはすんなりと受け入れられていた。
「コミュニティ」や「寛容さ」という観点では、二世帯住居の片方の空き家と、シェアハウス・シェアオフィスなどとの親和性は高いのではないだろうか。

現在はまだ管理人のリンダさんが1人で住んでいる霧島シェアハウス。ただ、下のおばあちゃんとその飼い犬・猫達がいて、あまり寂しい思いはしていないそう。

一軒家だと思っていた物件は、実は二世帯住居の一部だった一軒家だと思っていた物件は、実は二世帯住居の一部だった

「経営者」「シングルマザー」様々な顔を持つ仕掛け人の魅力

ここで、何度も登場する江頭さんについての紹介をしたい。
江頭聖子さん(株式会社福岡リノベース代表)は現在、福岡で複数のシェアハウス・シェアオフィスの運営やリノベーションの企画、保護猫活動関連事業のプロモーションなどを行っている。

もともと、彼女は東京で普通のOL生活をしていたが、その頃の出張続きの生活で飼っていた猫に多大なストレスを与えてしまう。猫とストレスなく暮らすために、実家のある福岡に戻り父親の営んでいた内装業を手伝うことにした。が、実家にはすでに飼い猫がいて、多頭飼いできる環境ではなかった。猫が安心して暮らせる場所を作ろうと、シェアハウス事業を始めたのだそう。上述のQhouseがこれにあたる。
並行して、リノベーションの企画会社を立ち上げた。
「父の手伝いをして、このままではいけないと思ったんです。職人としてやっていけるほどの技術を私は持っていないし、量をこなせる体力もない。そして職人さんの環境の課題も見えて。だから、職人さんに仕事を作れたらと考えました。」(江頭さん)

そんな中で、彼女は小さな命をその身に授かった。未婚出産を決断し、現在彼女は1歳の子どものお母さんでもある。
「産みたいと思ったから産みました。シングルで楽しそうに子育てしてる先輩を見てたこともあって、子どもを産むことに躊躇いは一切なかったです。シェアメイトや周囲の人たちの存在も本当に大きい。また自営にしたことで、仕事の時間の調整もできるので、子どもと過ごす時間も多くとれています。今はありがたいことに、OLの頃以上には稼げています。」(江頭さん)

「シングルマザーの悲しいイメージをどうにかしたい」と彼女は語る。
旦那さんがいなくても、生きていける。
会社に勤めていなくても、生活できる。
子育ての時間も、しっかり作れる。
そんな形を今選択しているからこそ、自身の楽しんでいる姿を見せていきたいそう。

「こうじゃなければならない」「こうだからできない」
もしそんな風にがんじがらめになって、やりたいことへの思いを閉ざしたり、今を苦しんでいる人がいたら、彼女の姿はひとつのロールモデルにできるのではないだろうか。

夏の霧島滞在時の江頭さんと息子の輝一郎くん。彼女を見ていると子育てはすごく楽しそうに思えた夏の霧島滞在時の江頭さんと息子の輝一郎くん。彼女を見ていると子育てはすごく楽しそうに思えた

霧島シェアハウスの存在で、実現した「二拠点生活」

夕暮れのお庭ピクニック。近所のおばあちゃんも立ち寄って一緒に休憩中夕暮れのお庭ピクニック。近所のおばあちゃんも立ち寄って一緒に休憩中

江頭さんは現在約1ヶ月半に1度のペースで霧島に訪れ、徐々におしゃれな家へと改装を施している。それをきっかけに霧島シェアハウスは、彼女にとって福岡と霧島の二拠点生活の拠点の1つとなった。

7月に1週間ほど霧島に滞在して、すごくリラックスできたのだそう。
カーテンがなくても生活できる解放感や網戸を通して入ってくる風、虫の声、電車の音が心地よく、滞在中は、いつも悩まされていた子どもの夜泣きがなかった。
「福岡は住みやすいと言われるけど、子どもを通わせてる保育園は都会で、排ガスの舞う中登園させていることを少しかわいそうにも思っていたんです。3歳くらいまではもっと自然の中でのびのび育ててあげたいなと。それに、以前から漠然と沖縄と福岡での二拠点生活を夢見ていたのもあって、夏に、家の前で見た綺麗な夕日に感動して、霧島いいなと思いました。」

「ここにリンダさんがいるのも大きいです。子育てしながらの二拠点生活は、きっと1人暮らしだと踏み出せなかった。彼女がいて、彼女の兄弟が近くにいて、友達がいて。知り合いがいるっていう安心感はやっぱりあります。あと、下のおばあちゃんが本当に優しい」と江頭さん。
地縁のない場所にも頼れる同居人がいるというのは、シェアハウスだからこそ。

ちょうど取材の日はシェアハウスでBBQイベントを開いていて、来春近所に開園予定の保育園の園長さんも息子さんと遊びにきてくれていた。滞在時の子どもの預け先も決まった。
霧島での仕事づくりにも、これから本格的に取り組んでいくそう。
着々と、足場を固めている。

大切なのは「自分はどうありたいか」

外でのBBQの様子(左上)と、室内の様子。キッチンの壁紙はイメージと違ったためさらに張替え中。「作り続けていくシェアハウス」というのもおもしろい外でのBBQの様子(左上)と、室内の様子。キッチンの壁紙はイメージと違ったためさらに張替え中。「作り続けていくシェアハウス」というのもおもしろい

霧島シェアハウスの運営は、江頭さんと管理人のリンダさんの共同運営だ。
水光熱費やインターネットの費用などの経費と、設定家賃の売上を折半して、リンダさん1人入居の場合の家賃は47,000円。さらに入居者が増えるとリンダさんの支払う家賃は下がる。
初期費用や家具・家電などの費用や物品も、2人で支出した。
「無理なく運営できるし、私の二拠点生活も叶いそう。ただ、リンダさんのためにも早く入居者さんが増えてくれたらなおHappyですね。それともしも、彼女が結婚することになったら、この家を引き継ぐこともできるようにと考えています」と江頭さん。なるほど、状況に合わせてフレキシブルに対応できる仕組みというわけだ。

「何事も心の準備は必要かも」と彼女は言う。
すぐには実現できない妄想みたいな事も、タイミングによっては実現できる。
だから自分が何を本当に求めているのか、しっかりと受け止め考えることは大切だ。

筆者などは、できる範疇にとらわれてしまい、自身が本当に欲している物事は未だによくわからない。
「トータルの人生を見て、物事を判断するようにしています。」と、彼女からのアドバイス。
「例えば3万円の椅子を今の収入で買うのは高いとしても、一生使うならアリだと思ったら買うし、私は子どもを産むことを考えたとき、自分の人生でその方がいいと思ったから、子どもがいる前提で幸せになれる方法を必死に考えます。」
きちんと物事と向き合い、かつ、伸びやかな様が彼女の魅力なのだろう。

現状に閉塞感を感じている人、自分の暮らしを見つめたい人、1人暮らしに飽きた人も、一度彼女たちとの暮らしを参考にしてみてはいかがだろうか。

霧島シェアハウス: https://www.facebook.com/kirishima.sharehouse/

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