壁のない豚小屋だって不動産。 その自由さが面白い

2015年8月29日、30日に渋谷ヒカリエで行われたニュー不動産展。前夜祭のニューニュー不動産ナイトの登壇者は不動産屋さん兼シェアハウスオーナーのエガミナツコ氏を除けば、後の5人は直接は不動産会社勤務などではない人達だった。その中で比較的不動産業に詳しいと思われるのは大家さんである青木純氏だが、青木氏が有名になったのは不動産業界初の賃貸のカスタムメイド、オーダーメイドなど。従来の不動産業の「かくあるべし」を打ち破った人とも言え、そこから押してこの日の登壇者がいわゆる常識にとらわれない人達であったことがお分かりいただけるだろう。

このセッションでは様々な新しい不動産情報サービスが紹介されたのだが、一番会場がどよめいたのは鳥取にあるとっとりあそびば不動産が扱ったという壁のない豚小屋。この団体はいわゆる不動産会社ではなく、地元でゲストハウスその他の町おこしに関わっている人達の集まりで、行政からの依頼で使われなくなった場の活用を手掛けている。壁のない豚小屋は不動産ではあるが、住宅やオフィスという従来の使い方はほぼ不可能。だが、人が集まって遊ぶ場としてたまに使うなら、それはそれであり得る。不動産はそこまで自由で良い。どよめきはその自由さに対しての反応だった。

ところで、ニュー不動産展のどこが「ニュー」かという点について間取り図ナイトなる、変な間取り図を面白がるイベントを主宰している森岡友樹氏の発言が興味深かった。いわく「旧来の不動産会社は不動産自体に価値があると考えている、そこで自分たちが持っている情報の優位性だけで商売をしている。だが、ニューな不動産会社は暮らしからキュレーションをする」。従来の不動産会社は不動産を箱、ハードとしてだけ見てきたが、そこに今、どんな暮らしをしたいかという住む人のニーズから不動産を捉えるニューな会社が登場、これからはその二者の争いになるというのである。

どちらの不動産会社と家を探したいか。あるいは、自分はどんな暮らしをしたいかが自分で分かっているか。住む人も考えたいところだ。

前夜祭登壇者。左上/左からおもろ不動産ナイト、間取り図ナイト代表でマドリストの森岡友樹氏、不動産屋さんでシェアハウスオーナーでもあるエガミナツコ氏、大家さんでリノベーションまちづくりにも取り組む青木純氏 右上/左から地図好き、散歩好きのライター三土たつお氏、ソトコト編集部山本梓氏、SINRA 編集部/ZINE『未知の駅』編集長でヒッチハイカーの諫山三武氏 右下/青木純氏 左下/森岡友樹氏前夜祭登壇者。左上/左からおもろ不動産ナイト、間取り図ナイト代表でマドリストの森岡友樹氏、不動産屋さんでシェアハウスオーナーでもあるエガミナツコ氏、大家さんでリノベーションまちづくりにも取り組む青木純氏 右上/左から地図好き、散歩好きのライター三土たつお氏、ソトコト編集部山本梓氏、SINRA 編集部/ZINE『未知の駅』編集長でヒッチハイカーの諫山三武氏 右下/青木純氏 左下/森岡友樹氏

話がかみ合わない、遊休不動産の再生・利活用

どのセッションも満員御礼。会場の前で立ち止まる人も多く、人気だったどのセッションも満員御礼。会場の前で立ち止まる人も多く、人気だった

以降の6回のセッションのうち、一番話がかみ合わなかったのが「遊休不動産の再生・利活用を面白がる」と題したもの。モデレーターは別荘・リゾートマンション専門の不動産ポータルサイト「別荘リゾート.net」を運営する唐品知浩氏で、3人の登壇者のうち、2人は夢のある活用を実践している人たちである。吉村真代氏は別荘シェアリングのプラットフォームSTAYCATIONを運営しており、重松大輔氏は不動産が空いている時間を他の人にレンタルするスペースマーケットを運営。扱っている建物は空いているとしても、利用に耐えうる空間で、その多くは個性的で美しくもある。

だが、もう一人の登壇者、NPO法人空家・空地管理センターの上田真一氏が扱う空き家はごく普通の家であり、その多くは打ち捨てられて、周囲から冷たい目で見られるような状態になっていることすらあるほど。当然だが、借りてくれる人がいようわけはなく、売ることすら難しいケースも少なくない。そんな空き家と別荘にできるような建物が同じ土俵に乗るわけはない。その意味で話の噛み合わなさは空き家問題解決の難しさを表している。活用できる物件は良いが、それが難しい、大量の空き家。それをどうしていくか。

ひとつ、面白かったのはモデレーター唐品氏の「(空き家を)壊す際に人間のお葬式に代わるような、なにか、イベントをしたらどうだろう」という発言。相続した実家が放置され、空き家になる場合、所有者はかつて住んでいた人への情から取り壊しに踏み切れないことが少なくない。その思いを葬式のような、ある種の儀式を経ることでふんぎりを付ける。葬式が人との別れとして機能しているなら、それに代わるものが家との別れとして機能してもおかしくはないだろう。

個人間の不動産取引はこの先、実現するか

右上から時計回りで末吉一敬氏、伊東祐司氏、松田龍祐氏、織田健太朗氏右上から時計回りで末吉一敬氏、伊東祐司氏、松田龍祐氏、織田健太朗氏

イベント2日目に行われた「不動産×テクノロジーの可能性」では不動産ポータルサイトの運営サイド3人が登壇、不動産好きでITに詳しいフリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリ執行役員の松本龍佑氏がモデレータを務めた。ITがこれからの不動産と人との関係をどう変えていくかについてがメインテーマだったのだが、会場から出た不動産の個人間取引は今後、あり得るのかという質問が興味を引いた。

「フリマアプリは手掛けているものの、不動産はやっていない。ヤフーも土地を売ってはいるが、実際の取引には間に不動産会社が入っている」と松本氏。ネクスト執行役員の伊東祐司氏は「海外では行われているものの、あまり普及しておらず。やはりプロが必要と認識されているのでは」と懐疑的。リブセンスdoor賃貸ユニットマスターの織田健太朗氏は「賃貸はできるのではと思うものの、売買は難しいのでは」と部分的にありという姿勢だった。

確かに賃貸ではごくわずかだが、大家さんが入居者と直接契約を結ぶ例もある。アットホーム取締役の末吉一敬氏は「手数料が惜しいからという理由では難しいのでは?」と疑問を投げかけた。売買では瑕疵担保の問題その他トラブルになると、多額の費用が発生するリスクがある。「そのリスクを引き受ける覚悟があるのなら、個人間取引もありえると思いますが、まずは社会的合意が形成されることが大事でしょう」とも。

不動産会社に手数料を払うことを無駄と考える人もいるようだが、間に入ってもらうことで回避できるリスクもある。直接取引で生じるリスクと手数料を天秤にかけ、リスクを取れるなら直接取引もありえるが、現状では難しいというのが大方の意見というわけだ。

シェアハウスに求めるものの多様化、そしてこれから

シェアハウスをテーマにしたセッション。一般的になったことで入居者にも変化が出てきているというシェアハウスをテーマにしたセッション。一般的になったことで入居者にも変化が出てきているという

「シェア、最近どう?」という他に比べると緩いというか、具体性に欠けるタイトルの下に始まったのがシェアハウスの今とこれからを語るセッション。モデレーターはシェアハウス専門のポータルサイトひつじ不動産の北川大祐氏だ。北川氏によると、シェアハウスはここ10年ほどで一般化し、拒否反応は無くなりつつあるものの、最近は混沌としているという印象があるという。そのため、よく「シェア、最近どう?」と聞かれるので、それを登壇者に聞いてみたいというのがこのセッションの意図。

それに対してのリビタの土山広志氏が提示したのは年齢、性別、年収などではなく、どのような滞在をしているかに着目し、入居者を3分類したデータ解説。それによると、入居者にはシェアハウスを当座の一時拠点と考えるビバーク型、交友関係を再構築する、旅人のような暮らしを望むトラベラー型、人脈、情報を住まいながら得ようとするピボット型があるという。シェアハウスには安上がりな住まいという印象があるが、ピボット型の場合には年収2000万円(!)などという人も含まれており、シェアに求めるものが経済性だけでなくなっていることがよく分かる。様々な人がそれぞれの思惑、意図をもって利用する住まいとなりつつあるわけだ。

当然、これからのシェアハウスには住むことでどんな体験ができるか、その多様性が求められるようになる。これについて東京急行電鉄都市創造本部の三淵卓氏は「誰と住むかという体験価値を高めていきたい」とし、例として外国人、アーティスト、起業、地方創生などの言葉を挙げた。また、コーポラティブ住宅を手掛けるコプラスコンサルティング事業部の露木圭氏は「ひとつの物件をいろんな人が使えるほうが楽しい」という。今後はひとつ屋根の下にどれだけ多様な人が住むかが、賃貸住宅の新しい魅力になってくるのかもしれない。

これからの賃貸住宅に必要なのはハンサムと女性

ハンサム社長は右から2人目の黒い眼鏡。写真が小さくて申し訳ないハンサム社長は右から2人目の黒い眼鏡。写真が小さくて申し訳ない

イベント最後のセッションは「愛ある賃貸住宅との出逢い方」と題し、HOME'S総研の島原万丈氏をモデレーターに新しい切り口で賃貸住宅を紹介しているサイト運営者が登壇した。その冒頭で連発されたのがハンサムという言葉。デザイナーズ賃貸を扱うRストアの浅井佳氏は自らをハンサム社長と称しており、それが取り上げられたのだが、これは業界のイメージを考える上で大事な点ではないかと思う。

不動産会社に勤務する人に聞くとかなりの人が「不動産業をやっています」という言葉に「悪い不動産屋さん?」と返された経験がある。残念ながら、不動産業にはいまだにそうしたイメージが付いて回る。それをどう変えていくか。業務を誠実にこなすなど、当たり前にやるべきことは多々あるが、ポジティブなイメージを伝えることもそのひとつ。ハンサムという言葉自体はいささか古い気もするが、軽やかな前向きイメージを伝えられていることは確か。人は言葉に、イメージに左右されるのである。

その観点でいうと、今回のニュー不動産展主催者の意気込み、登壇者の熱意はおおいに評価するが、前夜祭で2人、セッション登壇者24人のうちで女性は1人というのは、不動産業界はまだまだ男社会という印象を与える。実際に活躍している女性も多いことを考えると、次回はなんとかしていただきたいものである。

ひとつ、このセッションで印象に残った言葉を紹介したい。東京R不動産の林厚見氏は11年前、東京R不動産を始めた時、周囲の人に真剣な顔で心配されたそうである。「不動産は資産だぞ、遊びじゃないんだぞ」と。そのR不動産が現在、日本全国に展開し、空き家や街に新しい命を与えていることを考えると、従来とは違う見方をする、難しいものを楽しくすることには意味がある。ましてや社会に行き詰った感のある今、新しい発想で不動産を楽しむ人が増えることは、何かを変えるきっかけになるのではないか。期待したい。

ニュー不動産展
http://new-fudosan.net/

紹介した以外にも「まちと不動産の幸せな関係」「中古住宅が不動産のメインストリームになる日」というセッションも行われている。全セッションは現在、YouTubeで見ることができる。関心のある人はぜひ。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLXRogqRAO5jNov-ItL_S_-z5G_At6fCcO

2015年 10月04日 11時00分