名古屋の、というより東海地方随一の繁華街・栄(さかえ)。考えてみれば思い切った地名だ。栄えているからサカエ。栄町なら国内にいくつもあるが「栄」ただひと文字、これ以上ないシンプルさだ。
この名古屋の中心地に地上211メートルの超高層複合ビル「ザ・ランドマーク名古屋栄」が開業した。向かいには2024年にリニューアルオープンした中日ビルが高さを競うように聳え、栄の光景は一変した。
ザ・ランドマーク名古屋栄にはショッピングブランドや飲食店がそろう「HAERA(ハエラ)」、外資系ホテル(コンラッド)、オフィスやシネコン(栄地区に映画館ができるのは20年ぶり)などが入り、エリア全体の人の流れや滞在時間に早くも変化をもたらしている。
つい数年前まで苦境にあったことを忘れさせるほどの「勢いを感じる街」と「中部圏の未来」はどうなっていくのか、その歴史を振り返りながら探りたい。
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始まりは「家康の人工都市」、21世紀に起きた「主役交代」とは
大都市・名古屋の歴史は徳川家康の「清洲(きよす)越し」に始まる。関ヶ原の戦いの10年後、西の豊臣家の勢力に備えるため当時尾張の中心だった清洲(現・愛知県清須市)から、6万人とインフラを丸々移転させてつくられた、言わば"人工都市“が名古屋なのだ。
名古屋城の東には大名屋敷、南(今の栄エリア)に町人街が形成され、栄エリアは明治以降も商業・ビジネスの中心地として発展した。戦後復興で焼け野原に幅100メートルの現・久屋大通がつくられた際には市民から「名古屋市は栄に滑走路をつくるのか」と囁かれたという。
トヨタ自動車のお膝元らしいクルマ社会に適応した広い道路と、名古屋で最初の市営地下鉄と名鉄瀬戸線の公共交通網、江戸時代に整備された碁盤目状の町並みが融合した「栄一強」の時代が長らく続いた。しかし20世紀末にその風向きが変わることになる。
東海エリアの超高層ビル時代の幕明けは「栄」ではなく「名古屋駅」から
1999年、JR名古屋駅が超高層ツインビル「JRセントラルタワーズ」に生まれ変わった。ビル内にオープンした百貨店・ジェイアール名古屋タカシマヤは駅直結の利便性もあって、2015年には名古屋の百貨店売上1位の座を松坂屋から奪い、今もトップの位置にある。
また東海道新幹線品川駅開業(2003年)による「のぞみ」の増発と、トヨタグループの活況で首都圏や関西からの新幹線利用者数が伸びた。勢いづく名駅は、名古屋鉄道、近鉄、市営地下鉄で岐阜、三重、三河方面の主要都市からも人々を吸い寄せ続けた。
一方、長らく「4M」(松坂屋、三越、名鉄百貨店、丸栄)として親しまれてきた老舗デパートは防戦を余儀なくされ、2018年に丸栄が、2026年に名鉄百貨店がそれぞれ閉店した。どちらも地域の再開発を伴う閉店で売上げだけが原因ではなかったが、消費行動の変化とタカシマヤの勢いに押された面は否めない。
タワーズの後も「ミッドランドスクエア」(トヨタ自動車など)「JPタワー」「大名古屋ビルヂング」など超高層ビルが続々と誕生し「名駅摩天楼」と呼ばれるまでに発展を遂げた名駅エリアは、2008年に商業地の公示地価で初めて栄を抜いて1位となり、以来首位を続けている。
実は高層ビル建設で栄が名駅に先を越された背景の一つに「地上波テレビ」の存在がある。テレビ電波(アナログ波)が栄のテレビ塔から発射されていた時代は、栄に超高層ビルを建設することは、電波障害の観点から難しかった。名駅のJRセントラルタワーズがテレビ塔側から見て円形状なのも、角形の建物では強い電波反射(ゴースト障害)が生じる懸念があり、それを回避することが目的だった。その後、名古屋市郊外のタワーからデジタル波が送られる時代となり、四角い超高層ビルが続々建てられることになった。
ターミナルに吸い寄せられる人々、しかし栄もここへきて巻き返し
昔からの中心地がターミナル駅エリアの追撃に苦戦する、この事象は他都市でも見られる。大阪なら「キタ」(大阪駅を中心とした梅田地区)と「ミナミ」(難波)。札幌の駅前と大通公園地区。福岡の博多駅と天神地区などだ。
国鉄分割民営化(1987年)以降、駅ビルの高層化や大都市の主要ターミナル駅の広大な敷地が売却され、複合施設の誘致が全国レベルで進んだことが背景にある。名古屋もその例に漏れなかった。
しかし令和に入り、栄の巻き返しが進む。まずは2020年の「ヒサヤオオドオリパーク」開業。名古屋テレビ塔を中心とした栄を南北に貫く久屋大通公園に商業施設や市民が憩える広場を再設計した。名駅に比べ広い空間に恵まれた栄のアドバンテージを活かした再開発だ。その後、テレビ塔のリニューアルや、前述の2つの超高層ビルが開業し今に至っている。
市も「栄地区グランドビジョン」を策定し規制緩和を推し進め、栄復活を後押しした。ヒサヤオオドオリパークも官民一体のプロジェクトの1つだった。
「リニア前夜」の名古屋に、2つの拠点の相乗効果は生まれるか
一方、名駅はリニアの開業延長、建設資材高騰、人手不足の影響で、名鉄駅ビルの再開発計画の見直しが発表された。足踏み状態だったリニアは建設再開に動き出したが、開業時期は2036年以降と依然不確定のままだ。
栄では今後
・2026年11月…旧東急ハンズアネックス跡地に複合ビル(三菱地所)竣工予定
・2032年…栄「オアシス21」開業30周年でリニューアル(検討中)
・2036年…久屋大通南エリア再開発(リニア新幹線開業にあわせ完成目指す)
などの再開発が計画されているほか、栄町ビル跡地一帯の再開発や、トヨタホームビルとパナソニックビルの共同再開発(当初2030年代初頭に完成予定だったが時期未定に)などの大型プロジェクトが控えている。
かつて「名駅=オフィス、商業地」「栄=居住地」の「都市機能分担論」が真剣に議論されたことがあった。しかしそれも今は昔。栄エリアは依然住宅地で地価トップなのに加え、近年の再開発で商業地、オフィス機能も向上し、外資系ホテルの進出も目立つ。一方、名駅エリアも官民一体による再開発が進んでいる。
「栄一強」から「名駅との2拠点」へ──その相乗効果で「リニア前夜」の名古屋は、どう進化するのか。その牽引役としてのパワーを、栄に期待したい。














