住宅で注意すべき電磁波とは?
以前に住宅の電磁波対策について取材をし、記事を書かせてもらったが、それがきっかけでさらに興味を深め、筆者も日本電磁波協会の1級電磁波測定士を取得した。
低周波用の電磁波測定器も取得したため、実際に自宅を測定しながら対策方法を紹介していきたい。
前回の記事ともかぶるところはあるが、暮らしの中で注意すべき電磁波は、低周波(電場・磁場)と高周波だ。今回も低周波の電場(でんば)と磁場(じば)について詳しく触れていきたいと思う。というのも、高周波は携帯の電波やWi-Fiなどで、個人ではなかなか対策がしにくいのが現状だからだ。対策や考え方に関しては別の機会に紹介したい。
電場と磁場は、電化製品を例にとると分かりやすい。製品をコンセントに挿した時点で発生するのが電場。電源をオンにしたときに発生するのが磁場だ。
それぞれ身体への作用は異なり、対策も異なることを前回紹介したが復習しておこう。
電場
身体や物質の表面に伝播する。伝播することを帯電するというが、人間が帯電すると、自律神経の乱れ、倦怠感や疲労、頭痛、睡眠障害、アレルギーなどが起こりやすくなるといわれている。アースを取ることで対処することができる。
磁場
身体を貫通するため、遺伝子損傷や内臓疾患、発ガンなどのリスクが懸念されている。距離を取ることで対処することができる。
日本電磁波協会の電磁波の安全基準
日本電磁波協会では、セーフティガイドラインという低周波の電磁波の安全基準を設けており、住環境ではこの数値以下になることが望ましいとしている。
電場:25V/m(ボルトパーメーター)以下
磁場:2.5mG(ミリガウス)または250nT(ナノテスラ)以下
しかし、電磁波が発生するのは電化製品からだけではない。屋内配線からも電場が発生している。最近の住宅はコンセントや照明の数も増え、それに伴って壁や天井の中には1棟当たり950mほどの配線が張り巡らされているそうだ。屋内配線が多くなれば、壁や床から出る電場も多くなる、ということがいえる。
磁場は、稼働中の電化製品から発生するため距離を取ればいいとわかりやすいのだが、電場は見えない配線からも発生しているので、測定器で初めて見える化することができる。そのため、通常は電場に注意しながら測定をしている。
長い時間を過ごす寝室の電磁波は?
電磁波対策をしようと考えたとき、1日の中で長時間同じ動作をしていることは何だろうと、まず考えてみてほしい。睡眠や、仕事、家事などが挙がると思うが、そういった作業時間が長い場所から電磁波対策をしていくことが基本だ。
まず、毎日かなり長い時間を過ごすであろう寝室から見ていこう。私たちは睡眠時に疲労回復など身体の不調を整えるため、質の良い睡眠が大切といわれている。自律神経のうち、副交感神経が優位になることで質の良い睡眠を得ることができるのだが、電磁波は交感神経を刺激してしまう作用があるため、睡眠時にも高い数値の電磁波を浴びてしまうとうまく身体を休めることができなくなってしまう。
今回は、子ども部屋のベッドを測定してみる。
子ども部屋は2階にあり、2階の床下には1階の天井の配線が敷いてあるため、電磁波の数値が高くなる傾向にある。床を測定したところ電場は約100V/mと基準値を上回った。周りに稼働中の電化製品はないので、磁場は約47nTと基準値以下だった。
筆者の自宅は、昭和54年築と築年数も古い一戸建てなので、コンセントや照明の数も少なく、築浅の物件と比べると屋内配線も少ないため電磁波も少ないことが予想できる。測定結果は、個々の物件の状況によって異なることを理解いただきたい。
ベッドの頭側を測定してみたところ、電場24V/mだった。
寝室の電磁波対策
ベッドは床と距離があるため、基準値より低い数値が出たが、床の上に直接布団を敷いている場合はもっと数値が高くなる。
そういった場合の対策は、アースを取りながら睡眠することができるシーツを使用するとよい。ベッドの上にそのシーツを敷きアースを取ったところ、数値が約0.7V/mまで下がった。この数値が低ければ低いほど睡眠の質が向上することにつながるだろう。
そのほか、睡眠時に気をつけたいことは、
・ベッドを壁から離す。
屋内配線からも電場が出ているため、壁から15cmほど離すといいだろう。
・携帯を充電しながら、枕元に置かない。
充電時は約500V/mほど電場が発生している。携帯のアラームを使用したいときは、機内モードにしWi-Fiも切っておくとよいだろう。
・電気毛布は寝る前の温めのみに使用し、睡眠時はコンセントから抜く。
スイッチを入れた状態だと、電場と磁場両方の影響を受けてしまうためだ。肌に触れて使う電化製品は注意したい。
デスクまわりを測定してみた
リモートワークが進み、自宅でパソコンを使って仕事をする方も増えただろう。
実際に自宅のデスクまわりを測定し、対策をしてみようと思う。
電磁波は、距離を取ることが一番の対処法なのだが、パソコンやスマホなど距離を取ることができない製品は注意したい。
筆者の自宅のデスクは写真のような状態に通常パソコンを置いて使っている。すぐ近くにプリンターもある。使わないときはコンセントから抜くほうが電場の影響を避けられるのだが、電源はオフにしていてもコンセントは差しっぱなしになっていることが多いのが現状だ。
ノートパソコンを置いて測定してみたところ、約22V/mと基準値を下回った。安全基準からみると、作業環境としては良好と考えられる。
しかし、充電ケーブルにつないでみると、約640V/mと途端に数値が跳ね上がった。
プリンターとUSB接続してみると、約710V/mとこちらも高い数値が出た。プリンターから発生している電場がノートパソコンにも帯電したということだ。
また、充電しながらパソコンを使っている時の人体も測定してみた。約580V/mとパソコンからの電場が人体にも帯電していることがわかる。
ノートパソコン利用時の対策
パソコン作業は長時間に及ぶことも多く、帯電しながらの使用を続けることで、疲労や肩こり、目の疲れなどを誘引している可能性がある。
ノートパソコンは、充電しながら使わないことを心がけたい。
デスクトップパソコンであれば、アース付きコンセントなのでアースに接続すればよいのだが、そもそも居室にアース付きコンセントがない場合やどうしても充電しながらノートパソコンを使いたい場合もあるだろう。
その場合は、コンセントからアースを取ることのできる製品がある。その製品を使用してみると、パソコンを充電しながらの状態でも約3V/mまで数値を落とすことができた。
キッチンの電磁波と対策(冷蔵庫・電気ケトル)
続いて、キッチンだ。
筆者の自宅は引越しをしたばかりでアースを取っていない電化製品も多く、これを機会に対策をしてみたいと思う。今までは電場の数値を気にしていたが、キッチンは電化製品が多く、磁場の数値にも注意していきたい。
・冷蔵庫
アースを取ることで428V/mから約13V/mまで下がった。
磁場の数値も46nT(0.46mG)と低かったが、通常は冷蔵庫の背面から高い磁場が出る傾向にあるそうだ。背面に部屋がある場合は注意が必要だ。
・電気ケトル
コンセントに挿しているだけの状態で電場は290V/m、磁場は基準値以下でだった。しかし、水を入れスイッチをONにすると電場が約490V/m、磁場が基準値を上回り1,750nT(17.5mG)となった。
こういったアースを取れない製品は多くあるのだが、使用中は距離を取ることが大切である。60cmほど距離を取って測定してみると基準値を下回ることができた。
キッチンの電磁波と対策(IH調理器)
筆者宅は卓上のIH調理器を使用している。IH調理器は200Vのため、アースは取れているので、電場の心配はないが、強い磁場が出る傾向にある。
鍋を2つ中火にかけた場合、800nT〜1200nTほどの数値で変動していたが、基準値(250nT以下)を超えていた。
IHの磁場は製品やメーカーによって異なるといわれており、もっと高い数値が出るものもあるかもしれない。対策としては、距離を取ることしかない。筆者の自宅の製品では、中火の場合30cmほど離れることで、基準値を下回ることができた。
一歩下がるだけでも数値が下がるので、なるべく距離を取って調理することを心がけている。しかし、強火にすると磁場の数値も上がるので、離れるべき距離は火力にもよることを注意しておきたい。
家の中での電磁波対策を紹介してきたが、お分かりいただけただろうか?
低周波の電磁波は、電気や家電製品を使用したときに生まれてしまう副産物である。
紹介したとおり、私自身資格を取ったからといって家から電化製品がなくなったわけでも、スマートフォンやパソコンのない暮らしに戻ったわけでもない。むしろ家事の負担を減らしてくれる便利な製品に頼ることも多い。この記事を通して、うまくテクノロジーを使いながらも、それによって生まれる電磁波との付き合い方を考えるきっかけとなればうれしい。
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