業界最大手の日比谷花壇が、個人宅のお庭をプロデュース

経済産業省が発表した商業動態統計(時系列データ)によると、2021年のホームセンターにおける「園芸・エクステリア」の売上高は5376.7億円となり、コロナ禍突入前の2019年と比較して12.9%(前年比では2.2%の増加)の売り上げ増加となった。

何かと制約の多い“withコロナ”の暮らしもいよいよ3年目。自宅で過ごす時間の長さが当たり前になったことで、住まいの中に新たな安らぎや変化を求める人も多い。その手段のひとつが「植物を育てること」であり、園芸ファンの層は着実に厚くなっているようだ。

こうした園芸ブームの中で、花卉小売業界最大手の日比谷花壇が個人向けお庭サービス『ウェルネ』を立ち上げた。少々意外に感じるが、日比谷花壇が個人宅の庭のプロデュースや管理に参入するのは今回が初の試みだという。『ウェルネ』誕生の経緯について担当者に話を聞いた。

▲日比谷花壇の個人宅向け新サービス『ウェルネ』のホームページは2022年2月3日に立ち上がったばかりだ▲日比谷花壇の個人宅向け新サービス『ウェルネ』のホームページは2022年2月3日に立ち上がったばかりだ

「ちょっといい暮らしをお庭から」コロナ禍で個人宅需要が急拡大

▲インタビューはリモートにて実施。左上から(反時計回りに):株式会社日比谷花壇『ウェルネ』担当の保坂悠平さん、長尾悠太さん、広報担当の青木渉さん。「観葉植物や庭木というのは生育条件によってケアの仕方が大きく変わりますので、そこに植物たちを置いてからが園芸のスタートです。『ウェルネ』にも問い合わせフォームを設けておりますので、ぜひお気軽にご相談いただきたいですね(長尾さん談)」▲インタビューはリモートにて実施。左上から(反時計回りに):株式会社日比谷花壇『ウェルネ』担当の保坂悠平さん、長尾悠太さん、広報担当の青木渉さん。「観葉植物や庭木というのは生育条件によってケアの仕方が大きく変わりますので、そこに植物たちを置いてからが園芸のスタートです。『ウェルネ』にも問い合わせフォームを設けておりますので、ぜひお気軽にご相談いただきたいですね(長尾さん談)」

「日比谷花壇ではこれまで、法人様や企業様向けに特化して造園・緑化事業を行ってきました。

実はコロナ前の市場環境でも、お得意様から“個人宅向けのサービスには対応していないのか?”といったお問い合わせをいただく機会が増えており、そこに対するアプローチを考えていたのですが、コロナ禍を受けて需要が急速に拡大したため、2022年2月3日から個人のお客様向けのお庭のサービス『ウェルネ』を本格的に稼働することになりました(長尾さん談)」

「植える」と「WELL」をかけてネーミングされたサービス名『ウェルネ』には、「生活の中に植物を採り入れることで、より良い暮らしを提案したい」という日比谷花壇の想いが込められているという。

「おうち時間が増えたことで、おうち園芸に目を向ける方が増え、それが追い風になったという実感はあります。『ウェルネ』のサービス開始から約1ヶ月(取材時点)が経過しましたが、お問い合わせが多いのは“一戸建てのお庭全体をトータルでコーディネートしてほしい”というオーダーです。こうした個人宅のお庭に関するご相談は、『ウェルネ』を立ち上げる前から各店舗のスタッフが個別に対応しておりましたので、その中で特にご要望の多かった項目をわかりやすくメニューにしてご提案しています(保坂さん談)」

▲インタビューはリモートにて実施。左上から(反時計回りに):株式会社日比谷花壇『ウェルネ』担当の保坂悠平さん、長尾悠太さん、広報担当の青木渉さん。「観葉植物や庭木というのは生育条件によってケアの仕方が大きく変わりますので、そこに植物たちを置いてからが園芸のスタートです。『ウェルネ』にも問い合わせフォームを設けておりますので、ぜひお気軽にご相談いただきたいですね(長尾さん談)」▲お庭デザインの提案書の一例。日比谷花壇のガーデンデザイナーが要望をヒアリングし、イメージに沿って提案してくれる

日比谷花壇への信頼感・安心感が『ウェルネ』のサービス価値に

▲専門スタッフが定期的に庭の手入れを行ってくれる「お庭をきれいに管理コース」では、庭の掃除だけでなく、素人では判断が難しい施肥や病害虫防除など、年間を通じて定期管理してくれる。「お客様のニーズに合わせて大枠のコース設定を行っていますが、メニューにない細部のご要望についてはその都度オプションで追加可能となっています(保坂さん談)」▲専門スタッフが定期的に庭の手入れを行ってくれる「お庭をきれいに管理コース」では、庭の掃除だけでなく、素人では判断が難しい施肥や病害虫防除など、年間を通じて定期管理してくれる。「お客様のニーズに合わせて大枠のコース設定を行っていますが、メニューにない細部のご要望についてはその都度オプションで追加可能となっています(保坂さん談)」

実際に『ウェルネ』のページを確認してみると、
●お庭づくりメニュー10種
●お庭の管理メニュー6種
のほか、季節の花やインテリアグリーンが定期的に届けられるサブスクプランも用意されている。

興味のあるメニューを選択し、問い合わせフォームに入力すると、即日または翌日には日比谷花壇の担当者から連絡が入り、プロのガーデンデザイナーが無料で相談に対応。具体的なオーダー内容が決まり見積金額を確認して正式な契約を終えると、最短約1週間で庭づくりがスタートするというから想像していた以上のスピード感だ。

「園芸への関心の高まりというのは、季節やタイミングによって異なります。特に『ウェルネ』のお客様の場合は、最も気分が高まっているタイミングでご相談をいただいていると思いますので、スピード感を大切にしながら対応しています。

個人宅のお庭づくりというのは、これまでたくさんの想い出がつまった“大切な場所”を変えていく作業になりますから、お庭のスタイルや樹種に関しても、お客様自身でより具体的なイメージをお持ちのケースが多くなります。そのため、最も肝心なのはファーストコンタクト。最初のお打ち合わせの時点でお好みをしっかりとお聞きして、的確なご提案をしなくてはいけないと考えております。

また、『ウェルネ』のお客様は日比谷花壇ブランドに対する信頼感や安心感で選んで下さっている方がとても多いので、そのご期待に沿えるよう、より丁寧なサービスを心がけています(保坂さん談)」

▲専門スタッフが定期的に庭の手入れを行ってくれる「お庭をきれいに管理コース」では、庭の掃除だけでなく、素人では判断が難しい施肥や病害虫防除など、年間を通じて定期管理してくれる。「お客様のニーズに合わせて大枠のコース設定を行っていますが、メニューにない細部のご要望についてはその都度オプションで追加可能となっています(保坂さん談)」▲日比谷花壇のガーデンデザイナーと一緒に庭づくりを行う「日比谷花壇おまかせガーデナー」コースでは、①診断→②施工・改修工事(工事契約は別途)→③年間植栽管理計画書制作→④年間植栽管理が基本サービスとなっており、基本として1か月に2回、上記のような管理項目に沿って適切なメンテナンスが行われる

庭造りだけでなく、維持・管理までトータルプランを提案

▲大鉢1鉢、中鉢2鉢、小鉢4鉢が毎月届けられる「インテリアグリーンのサブスク」コースは月額9900円から。メンテナンス不要で“グリーンのある暮らし”を楽しめる▲大鉢1鉢、中鉢2鉢、小鉢4鉢が毎月届けられる「インテリアグリーンのサブスク」コースは月額9900円から。メンテナンス不要で“グリーンのある暮らし”を楽しめる

さらに、注目を集めているのが日比谷花壇こだわりの「管理サービス」だ。他社でもありがちなガーデンエクステリアの施工プランの提案にとどまらず、庭の維持・管理までをセットにしたコースが『ウェルネ』の強みとなっている。

「お客様の多くは“あの日比谷花壇がどうやって植物を提案してくれるのか?その先の管理までどうやって面倒を見てくれるのか?”という長期的な期待感をお持ちです。

お庭づくりとともに、より長く美しく快適なお庭の状態を維持するための管理計画も含めて、トータルでご提案を行わせていただく点は、他社サービスとの明確な差別化につながっていると思います(長尾さん談)」

予算に関しては、年6回の庭メンテナンスを行う「お庭をきれいに管理コース」が年間30万円から、年4回の植え替え作業を行い一年を通して花のあるガーデンを楽しめる「花咲くお庭コース」が月額1万円/m2からとなっている。

その他にも、日比谷花壇のガーデンデザイナーと共に理想の庭づくりを行う「日比谷花壇おまかせガーデナー」コースがあり、いずれも安価な設定ではないが、それでも問い合わせが後を絶たないのは、カスタマーの“暮らし方の意識変化”によるところが大きいようだ。

「コロナ禍で旅行が中止になったり、おじいちゃん・おばあちゃんとお孫さんが会えなくなったりしたぶん、その費用を“お庭を楽しむ予算”に換えているお客様が増えています。お庭やバルコニーの使い方も大きく変わってきていて、ただ単に鑑賞できるだけのお庭や、洗濯物を干すだけのバルコニーではなく、“もっと居心地の良い場所にしたい”というご要望が多いですね(保坂さん談)」

▲大鉢1鉢、中鉢2鉢、小鉢4鉢が毎月届けられる「インテリアグリーンのサブスク」コースは月額9900円から。メンテナンス不要で“グリーンのある暮らし”を楽しめる▲マンションの場合、大規模修繕工事の際のバルコニー什器の撤去が大きな課題になるが、『ウェルネ』では打ち合わせの時点で次回の大規模修繕のスケジュールを確認し、撤去・復旧計画までまとめてケアしてくれるというから有難い。「マンションの事例では、タイル・ソファ・プランターまでルーフバルコニーをまるごとコーディネートしてほしいというご要望を多く頂いております。ただし、バルコニーはマンションの共用部にあたるため、管理規約に沿った内容でご提案を行います(保坂さん談)」

植物は足音を聞いて育つ──植物と向き合うことで人は癒しを得る

▲家主の高齢化に伴い、庭を駐車場に変えたり、メンテナンスの手間がかからない人工芝へ変更したいというオーダーも増えているという。「お庭じまいコース」では、思い入れのある樹木の移植にも対応してくれる▲家主の高齢化に伴い、庭を駐車場に変えたり、メンテナンスの手間がかからない人工芝へ変更したいというオーダーも増えているという。「お庭じまいコース」では、思い入れのある樹木の移植にも対応してくれる

現在『ウェルネ』のサービスは東京・名古屋・大阪・福岡とその周辺地域で対応中だが、今後需要に応じてエリアの拡大が予定されている。

「植物は水をあげて育つのではない、植物は足音を聞いて育つ──これは僕が新人時代によく先輩から言われてきた言葉です。植物と向き合うことで人は癒しを得て、同時に植物たちも健やかに成長していきます。

おうちで過ごす時間が長くなっているいま、『ウェルネ』では、できる限りお庭やバルコニーなど外の空間にも目を向けて、お部屋と同じように楽しんでいただきたいという想いから様々なメニューをご提案しています。枯れてしまうかも…という心配はせずに、まずは“始めてみる”を楽しんでいただきたいですね(保坂さん談)」

==============================

他者とのコミュニケーションが圧倒的に不足しているいま、植物たちとの対話が日常生活の安らぎとなることも多い。ちょうど季節は芽吹きの春を迎える。この機会にプロのアドバイスを受けながら「植物との暮らし」をスタートしてみてはいかがだろうか?

▲家主の高齢化に伴い、庭を駐車場に変えたり、メンテナンスの手間がかからない人工芝へ変更したいというオーダーも増えているという。「お庭じまいコース」では、思い入れのある樹木の移植にも対応してくれる▲「樹木医の樹木診断コース」は年間30万円から。結婚記念日や子どもの誕生日に植樹したシンボルツリーなど、大切な庭木を良好な状態で維持するために、定期的な健康診断を行うサービスだ

■取材協力:株式会社 日比谷花壇『ウェルネ』
https://www.wellne.jp/

公開日: