法律に基づいて活動する「補助犬」。でも街の理解はまだまだ
「商業施設や病院で補助犬の同伴を拒否された」というニュースを時折目にする。私たちは補助犬を目にする機会が少ないこともあり、「補助犬同伴の受け入れは法律で義務付けられている」という認知が広がっていないのが実情だ。
補助犬とは、目や耳、手足に障害のある方をサポートする「盲導犬・介助犬・聴導犬」の総称。2002年に施行された「身体障害者補助犬法」に基づいて訓練・認定され、障害のある方の自立や社会参加を後押ししている。
盲導犬の仕事ぶりはすっかりおなじみだが、「介助犬」の役割はあまり知らないのではないだろうか? 「現在、国内で活躍している盲導犬861頭に比べると、介助犬は57頭とまだ少ないです。盲導犬は外出時の誘導が主な役割ですが、介助犬は家の内外で日常生活動作をサポートするのが仕事です」と、日本介助犬協会 広報の石田夢果さんは話す。
愛知県長久手市には、日本で唯一となる介助犬専門の訓練センターがある。2009年に開所して10年以上が経つ「介助犬総合訓練センター シンシアの丘」へ訪れ、介助犬の現状や課題についてお話をうかがった。
1年半程度の訓練を行い、介助犬になれるのは2~3割
「介助犬」は手足が不自由な方に付き添い、障害の程度に応じたサポートを行う。例えば、ドアを開けたり、スマホを拾って届けたり、冷蔵庫から飲み物を持ってくることもできる。外出時にはエレベーターのボタン操作や車いすの牽引を行うことも。仕事内容が多岐にわたり、さまざまな場所に出かけるため、介助犬になれるのは2~3割だ。
「子犬が1歳になったら1年半程度の訓練を行い、適性を見極めていきます。介助動作ができても、繁華街の音や電車の揺れが苦手な犬だと介助犬には向きません。それぞれの犬が得意なことや好きなことを把握し、介助犬にならない犬は『キャリアチェンジ犬』として新たな働き方で活動しています。広報活動をするPR犬、病院で患者さんに寄り添うDI犬*、子どもの法廷証言や事情聴取に同伴する付添犬などがいますね」(石田さん)
*DI犬とは:Dog Intervention(犬による介入)。犬を介して笑顔や意欲を引き出すように、動物介在活動などを行っている
また、介助を求める側も希望すればすぐマッチングできる訳ではない。本人の自立への意志に耳を傾け、リハビリ専門職のアドバイスを受けながら「介助犬がどんなサポートができるのか」を一緒に考えていくという。介助犬と一緒に40日間以上の訓練を行うことが法律上必須であり、国の認定試験に合格して初めてパートナーになれる。そのため「シンシアの丘」は宿泊施設も備えている。
実際は40日間では足りず、半年ほどかけて希望者と介助犬の息を合わせていくそうだ。介助犬はロボットではなく、命のあるパートナー。だからこそ、お互いが幸せに過ごすために国の認定試験が設けられている。
長久手市内での「介助犬の認知度」を全国にも広げたい
日本唯一の「介助犬専門の総合訓練センター」は、なぜ愛知県長久手市に誕生したのだろうか?
「まずは交通利便性です。愛知県は日本のほぼ中心に位置するため、全国のユーザーさんが訓練に訪れるのに適していました。なかでも長久手市は『日本一の福祉のまち』を理念にまちづくりに取組んでいることから、2009年に日本初となる介助犬の訓練施設を設立し、2012年には長久手市との連携協定を締結しました」(石田さん)
実際、介助犬のトレーニングには、街との連携が欠かせない。適性を見極めるためにも、実際の施設に出かけて「パブリック訓練」を行う必要があるのだが、犬たちが楽しそうに訓練する様子が伝わるにつれ、受け入れてくれる施設が増えてきたそうだ。今は市内の数カ所のスーパー、公共交通機関の駅や車内でも訓練を行っている。
「『仕事中の介助犬には声をかけたり、触れたりしない』というルールが浸透し過ぎて声かけを遠慮されるケースがよくあるのですが、長久手市は介助犬と同伴していても特別視されることが少なく、お店の受け入れも好意的です。長久手市のような介助犬認知度が全国にも広がり、介助犬と一緒にいるのが当たり前の世の中になればいいですね」(石田さん)
介助犬の育成は、寄付とボランティアで成り立つ
介助犬とユーザーのペアが1組誕生するまでには250万~300万円の費用がかかる。こうした育成費やセンター運営に関わる費用の9割以上は、個人会員や法人会員、遺贈といった有志からの寄付でまかなわれているそうだ。加えて、街頭での募金活動や講演、チャリティーグッズ販売、寄付型自動販売機の設置といった地道な啓発活動を続けている。
また、2018年から長久手市とのタッグで新たにチャレンジしたのが、ふるさと納税を活用した支援「ふるさと長久手寄附金」だ。
「私たちから長久手市に働きかけて実った制度です。2018年には400万円が集まり、2020年には全国約600名の方から1,300万円ものご寄付をいただくことができました。コロナ禍で活動が制限されている中でもご支援いただき、大変ありがたいです」と石田さんは笑顔を見せる。
もうひとつ、介助犬育成に欠かせないのがボランティアの存在。「シンシアの丘」の清掃や事務、イベントをサポートする「日本介助犬協会ボランティア」と、1歳になるまでの子犬や繁殖犬を一時的に預かる「犬飼育委託ボランティア」が活躍している。
「多くの方が協会ボランティアに登録くださり、今は約20名の方がローテーションで掃除や事務を行ってくださっています。パピーホームボランティアさんには年間30頭前後の子犬をお預けしていて、毎年受けてくださる方も。皆さんに本当に助けられていますね」(石田さん)
「もし街で介助犬のペアが困っていたら、声をかけてください」
「ユーザーさんにとっては、介助犬が特に仕事をしなくてもそばにいるだけで心の支えになります。介助犬が同伴していると街の方々が自然に温かい笑顔を向けてくれるので、困った時に声をかけやすいそうです」と石田さん。介助犬のペアを見かけたら過度に遠慮することなく、困っているようならユーザーさんに声をかけてほしい、と話してくれた。
人と自治体のサポートで介助犬の育成が成り立ち、愛情を込めて育てられた介助犬が障害のある方の自立を手助けしていく―。今回の取材でそんな思いやりの好循環を実感することができた。AIやロボットの介護支援も重要だが、生き物にはテクノロジーを超える不思議な力がある。補助犬の活動が増え、障害のある方がいきいきと自立できる社会に期待したいと思う。
■日本介助犬協会 https://s-dog.jp/
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