中古マンション・中古住宅の人気が「住宅すごろく」を変える
「コロナ禍によっておうち時間が増えると、住まいについて考えることも自然に増えるのでしょう。もう少し広いスペースがほしいとか、テレワークに適した間取りにしたいとか、さまざまなニーズが高まるようで、緊急事態宣言が発出された影響で昨年(2020年)の春こそリノベーションマンションの需要は落ち込みましたが、6月以降は急速に回復しました」
こう振り返るのは、中古マンションの買い取り・再販事業を手がけている株式会社エフステージ代表取締役の藤島昌義氏だ。
「中古のマンションや住宅の人気の高まりによって、新築の一戸建てを“あがり”とする『住宅すごろく』は、確実に変わってきていると感じます。少なくともマンションに関しては、新築にこだわらないお客さまが増えています」(藤島氏、以下同)
エフステージが開南エステート株式会社と共同で取り組んでいるのが「リノハウス(Renohouse)」。東京では手がける事業者があまりいない中古木造住宅の買い取り・再販事業だ。エフステージが中古住宅の仕入れ情報を集め、木造住宅の建築にノウハウがある開南エステートがリノベーションを担当することになっている。
中古木造住宅の「安全・安心」を確保するために
一般的に、木造住宅は時間の経過とともに資産価値が下がる。中古木造住宅の価格は、そのまま土地の価格ということも多く、これまでは再販どころか、取り壊されて建て替えられることが多かった。
しかし、住居に対する消費者のニーズや価値観が多様化し、中古木造住宅に向ける目は変わりつつある。住宅のストック化を国が後押しをしたり、大手ハウスメーカーが自社物件の買い取り・再販事業を始めたりといった動きもある。「木造住宅が消耗品のように扱われるのはもったいない」と思っていた藤島氏にとって、関心のあった中古木造住宅の再販事業を行う状況が整ってきた。
「リノベーションマンションの場合、消費者が関心を持つのは間取りや設備、住み心地です。そのため、居住性や機能性、デザイン性がやはりアピールポイントになります。一方で、躯体構造を気にかける人は少数派です。ところが中古木造住宅は、質に不安を持つ消費者が多いです。まずは、躯体構造をはじめ、建物が安全で安心できるものであることを示し、マイナスイメージを払拭しなければなりません」
実はリノハウスが力を入れているのは、安全・安心の担保。リノハウスは、国土交通省の「安心R住宅」制度への登録、ホームインスペクションの実施、既存住宅瑕疵保険への加入など、5つの「安全・安心」を打ち出した。
ちなみに、安心R住宅とは、耐震性などの基礎的な品質を備えているといった要件を満たす既存住宅。ホームインスペクションは検査専門会社が実施する住宅診断のことだ。
「既存住宅瑕疵保険の加入条件を満たし、ホームインスペクションを行うことで、住宅の安全性は確保できていると考えています。ただ、残念なのは、ホームインスペクションが、ほとんどの消費者に知られていないことです」
ホームインスペクションの役割や重要性などについても、これから積極的に伝えていきたいという。
リノハウスが提供する住宅とは
中古住宅のリノベーションにあたっては、躯体や断熱性能などのチェックに始まり、設備の更新や床材の張り替えなどを行う予定になっている。
「和室を洋室にするといった改修は行うかもしれませんが、間取りを変えるような大がかりな工事をするつもりはありません」と言うように、住宅性能の維持・向上を基本にするとのことだ。
リノハウスの第1号として、このほど完成した東京都足立区の物件も間取りに変更はなく、和室もそのままリノベーションされている。ちなみに第1号の物件は、外壁の塗装、クロスやクッションフロアの張り替えなどが行われたほか、システムキッチンやユニットバス、洗面化粧台などの設備が新しいものに交換されている。
リノハウスでは、このようなリノベーション木造住宅を新築に比べて20%程度安く、年間50棟程度提供することが目標だ。
第1号物件は、土地面積が85.95m2(約26坪)で販売価格が3,480万円(税込み)。周辺の新築物件は4,000万円台前半のものが多いことから、単純に比較はできないが、10%以上安いのではないかとエフステージでは判断している。
社会的な意義が大きい中古木造住宅のリノベーション事業
「物件の仕入れにあたっては、競合関係になる建て売り事業者より、建物を評価する分だけ価格は高くなるので、有利に働くことになりますが、東京の都心部は土地の価格が高く、そもそも市場に出る数も少ないので、リノハウスに適した物件はあまり多くないのが現状です」
大きな利益を望むことは難しく、むしろ社会的な意義といった側面が大きいビジネスだという。
「リノベーションマンションの流通が活発になってきたのは、近年、質の高いマンションが増えたことによって、消費者が築年数を気にすることなく、安心して長く住めるようになったからです。それによって、リノベーションマンションが、さらに人気を集めることになりました。中古木造住宅も価値が認められ、長く住む人が増えるようになると、質を高める方向に必ず向かうはずです。それがまた、中古住宅を求める人を生むという好循環に結びつくに違いありません」
新築から約20年で建て替えられるという木造住宅のサイクル。消費者にも事業者にも当たり前になっているそのサイクルを変えるきっかけに、リノハウスがなりたいという藤島氏。まもなく第1号の物件が東京の足立区で竣工を迎える。第1号の物件に対して消費者がどのような反応を示すか、藤島氏は楽しみにしている。
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