市に寄付された築100年以上の古民家と蔵を宿泊施設に
日本のほぼ中央に位置する、岐阜県美濃市。日本三大和紙のひとつである「美濃和紙」は、1300年以上も昔からこの地で作られてきた。豊かな自然と伝統文化息づく美濃市の象徴ともいえるのが、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている“うだつの上がる町並み”。ゆっくりとした時間が流れる美しいこの場所に、これまでたくさんの人が魅了されてきた。
そんな美濃市も多くの地方自治体と同じく高齢化が進んでいるが、新たなる取り組みに挑戦しまちを盛り上げようとしているのが「みのまちや株式会社」代表取締役・辻晃一さんだ。
辻さんはここ美濃市で生まれ育った。早稲田大学卒業後、ベンチャー企業にて上場を経験しUターン。家業である美濃和紙メーカー「丸重製紙企業組合」を継いだ。その後、電力の小売全面自由化を受け、地域のお金を地域で回すことを目指して美濃市に「みの市民エネルギー株式会社」を設立。
そんな折、辻さんの元に、のちにNIPPONIA(ニッポニア)美濃商家町となる空き家を再生する話が舞い込んできた。かつて和紙原料商人の邸宅と蔵だった立派な建物が美濃市に寄付されたのだが、市としてどのように利用すべきか手をこまねいていたそうだ。
もともと美濃和紙の普及と空き家問題に興味を持っていた辻さんは、この話をチャンスと捉え、その後、自らの人脈でつながった全国で古民家再生事業を行う「株式会社NOTE」とタッグを組み「みのまちや株式会社」を設立。NIPPONIA美濃商家町を運営することとなった。
さらに辻さんは、以前当サイトで紹介した“まちごとシェアオフィスWASITA MINO”を運営する「みのシェアリング株式会社」も昨年設立。
美濃市の「地域循環共生圏」構築を目指し、美濃和紙、観光、エネルギー、古民家再生、まちづくり、農業、教育、福祉など、さまざまな事業に取り組んでいる。
当時の趣を残し生まれ変わった古民家ホテル「NIPPONIA美濃商家町」
「みのまちや株式会社」が運営を手掛けることになった建物は、美濃和紙の原料問屋「旧松久才治郎別邸」。築100年以上という古民家と蔵だ。邸宅は主人の住まいではなく、客人を招く別邸。いくつもの中庭を有するその造りは、現代では考えられないほど贅沢な設えである。
後世に残したい立派な建物であったが、持ち主が高齢となり管理が難しくなったため、美濃市に寄付をした。市側はこの建物を活用するため、民間委託することにし公募。辻さんが提案した古民家ホテルとなることが決まった。
そして2019年に古民家ホテル「NIPPONIA美濃商家町」がオープン。当時の客人をおもてなしするその思いを、100余年の時を超えて感じることができる宿に生まれ変わったのだ。
「NIPPONIA美濃商家町」はうだつの上がる町並みの中にあることや、美濃市は観光資源が豊富なこと、また名古屋や岐阜市などからのアクセスも良好であることからホテルへと生まれ変わることができた。しかし全国的にこういった価値ある古民家を自治体に寄付するというケースもあるというが、うまく活用できず手つかずの状態になっていることも多いそうだ。
金庫蔵や愛犬と宿泊など、バラエティ豊かな客室にも注目
「旧松久邸」を改修し2019年にオープンしたNIPPONIA美濃商家町だが、続いて2020年には築約150年の商家「旧須田邸」を改修して2棟目をオープンした。
「旧須田邸」には4つの客室があり、2棟合わせて10ある客室は、じつにバラエティに富んでいる。先述のような情緒あふれる部屋以外にも、愛犬と宿泊できる客室や、金庫蔵に宿泊することも可能。どの客室も魅力的なので何度も泊まりたくなってしまう。
まち全体でおもてなし。暮らすように滞在する豊かな時間
NIPPONIA美濃商家町は「旧松久才治郎別邸」と「旧須田邸」の2つの旧邸からなる分散型ホテル。まち全体をホテルと考え、宿泊客はまちの中を散策し、人との交流を楽しむのが、同ホテルの醍醐味といえるだろう。
ホテル内では夕食の提供をしていないため、まちのレストランなどに食事に出かけるかテイクアウトをして部屋で食べることになる。うだつの上がる町並み内にはホテルと提携し宿泊客用のメニューを用意している店舗もあり、飲食店の売り上げにも貢献している。
宿泊客には「美濃馴染み符(みのなじみふ)」という美濃和紙でできたバッグを配布。この馴染み符を持ってお店を回ると“顔馴染み客”として特別なおもてなしを受けることができるのだそう。とてもユニークな企画だ。
同ホテルの取り組みにより、まちには人の交流や雇用が生まれ、経済が回る。宿泊客が快適に滞在できるだけでなく、受け入れるまち側にも良い影響があるのだ。
「美濃市を元気に!」仕掛人の想いとは
”うだつの上がる町並み”はとても静かで風情があり、まちを歩くのも心地いい。ただ決して店舗数が多いというわけではない。
今後空き家や空き店舗に新しいお店が入り活気づくことも、美濃市が活性化するためには必要だろう。
そこでうだつの上がる町並みの空き店舗やホテルの芝生広場を利用し、年に1回「ミノマチヤマーケット」を開催。物販だけでなく、飲食やワークショップなども行い、“うだつの上がる町並み”は賑わいを見せる。
「いつか空き店舗や軒先を貸し出したいという家主さんが現れたときに、お店や工房などを持ちたいと考えているミノマチヤマーケットの出店者と橋渡しができれば」と辻さんは話す。まちづくり会社として、ミノマチヤマーケットの賑わいが美濃市の未来像となるようシミュレーションしているのだ。まちの人たちも同マーケットによって、リアルに想像できているに違いない。
「美濃市には伝統ある美濃和紙をはじめ、緑豊かな山々や清流長良川や板取川、そしてうだつの上がる町並みなど、観光資源が豊富です。田舎だけれど、名古屋市から約1時間、岐阜市からは30分程度という都心部からのアクセスの良さも美濃市のポテンシャルの高さ。また人の優しさ・温かさも、このまちの大きな魅力です。美濃市を訪れた方は皆さん『いいところだ』とおっしゃいます。私も一度美濃市を離れたからこそ知り得た素晴らしさがありました。この美濃市の豊かさを多くの人に伝え、そしていずれ美濃市に移住定住していただきたい。私は本気で『美濃から日本を変えたい』と思っています」と、辻さんは力強く話してくれた。
今までに培った経験や人脈で、さまざまな角度から美濃を元気にしようと挑戦する辻さん。ぜひ読者の皆さんにも「NIPPONIA美濃商家町」を訪れ、美濃市の素晴らしさに触れてほしいと感じた。
■NIPPONIA美濃商家町 https://nipponia-mino.jp/
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