オンラインによる現地案内と対談で構成。アーカイブ動画で後追い視聴も可能
九州各地+αのDIYリノベーション現場を、リモートでつなぐ『九州DIYリノベWEEKENDオンラインステーション』。福岡・熊本・鹿児島・長野の全23チームの活動を順繰りに紹介し、オンライン会議システムを介して質疑を交わす。イベントは現在も進行中で、動画はアーカイブされており、後追い視聴も可能だ(記事末尾参照)。
各回はオンラインツアーとインタビューで構成。インタビューでは、訪問先のチームを主役に、他チームが聞き役となって、取組みの背景や想いを深掘りする。それぞれ特徴の異なるまちで、同じく九州DIYリノベWEEKに参加する者同士、なかなか聞けない裏話にまで切り込んでいく。ここでは、順次そのハイライトを紹介していきたい。今回は、2021年3月27日に行われた第9回。福岡県八女市でNPO法人八女空き家再生スイッチの理事を務める中島宏典さんを、鹿児島県頴娃(えい)町のNPO法人頴娃おこそ会の加藤潤さんが訪ねた。
舞台は、国の重要伝統的建造物保存地区(以下、伝建地区)に選定された八女福島にある、明治の木造建築「旧八女郡役所」。中島さんは2014年に地域おこし協力隊として八女に赴任して以来、この建物の再生活用に取組んでいる。20年近くも空き家のまま放置されていた建物を、どうやって再生するのか。自らも頴娃町で空き家活用に取組む加藤さんが聞く(以下、敬称略)。
廃墟になりかけていた明治の大規模木造建築を持ち主から引き取る
加藤:ずいぶん大きな建物ですね。
中島:おおよそ500m2あります。大正2(1913)年までかつての八女郡の役所で、そのあとロウソクや銃弾の工場、店舗などを経て、最後は住宅として使われていたそうです。1996年に空き家になってから老朽化が進み、2006年に持ち主から八女空き家再生スイッチの前身のNPOに相談が持ち掛けられたんです。瓦が崩れて屋根に穴が空き、台風でも来たら危険だと、苦情が出るようになったそうで。
加藤:しかしこれだけ大きいと、改修するにも活用するにも手強い……。どこから手を付けたんですか。
中島:何よりもまず、権利関係の調整が必要でした。というのも、土地の持ち主と建物の持ち主が別々だったんです。最初は、市役所にまとめて引き受けてもらって、それをNPOで活用できないかと考えたのですが、自治体としては、そんな特別扱いはできないと。それなら、先に自分たちでできるところまで改修して、使ってみせるしかないと考えました。まず建物だけを、持ち主からNPOに寄付してもらったんです。
加藤:それはまた、重たいものを背負いましたね。
中島:修理するには1億円以上かかると言われました。
補助金に頼らず、先払い賃料で資金を捻出。DIYリノベで少しずつ改修
加藤:ここは国の伝建地区だし、建物の改修に補助金が出たりはしないんですか。
中島:ありますが、改修費用の80%までで、上限は960万円。仮に3年分出るとしても3000万円程度で、全然足りません。しかも、補助金をもらうには、原則として全面改修が求められます。行政の仕組みには、少しずつ修理をするという発想がありませんから。
加藤:で、補助金は使わないと決断したんですか?
中島:まずは使わずにやろうと。建物の安全性を確保しつつ、使いながら修理して、活用策を探ることにしました。
加藤:すごいなあ。それで、財源はどうしたんですか?
中島:まず、NPOの理事長が資金を準備してくれました。
加藤:寄付したんですか?
中島:建物の一角を、自らテナントとして借りて、25年分の賃料を先払いしてくださったんです。それが、今入居している朝日屋酒店です。
加藤:25年はすごい。とはいえ、それでも全部はまかなえないですよね。
中島:途中で挫折する可能性大で。そこで、DIYリノベーションなんですよ。
加藤:DIYリノベWEEKに参加したわけだ。
中島:DIYや古い建物に関心がある人たちの手を借りながら、自分たちでできることから始めようと。まだ改修に取りかかる前の2014年の第1回福岡DIYリノベWEEKに参加して、郡役所を会場に、バンコ(縁台)づくりのワークショップを開催しました。その翌年から、大工さんや左官職人さんに相談しながら、少しずつ屋根や外壁の修理を進めていったんです。
加藤:DIYリノベWEEKに参加した狙いはなんだったんですか。
中島:NPOに寄付された時点では、ただの廃墟としか見られていない建物でしたが、もともと郡役所だったという由緒もあるし、地元の人が歴史を知れば、大事に思ってもらえるようになるんじゃないかと期待して。DIYリノベWEEKをはじめ、壁を塗ったり板を張ったりするDIYワークショップを繰り返しながら、理解を広めていきました。
再生の取組みを評価して、八女市が敷地の寄付受け入れを決定
加藤:DIYリノベーションで、町の人の意識に変化はありましたか。
中島:何より、市役所が活動を認めてくださったようで、土地をもらってくれることになったんです。
加藤:もらってくれた?
中島:もともと持ち主は、自分の手に負えないから誰かに引き取ってほしいと考えていました。そこへ、改修の様子を見た市役所が、寄付の受け入れを決断してくれたわけです。
加藤:先に活用してみせる作戦が功を奏したわけですね。土地は市が、建物はNPOが持つことになったと。
中島:市は、建物の一部も借りてくれました。それが、今話しているこの場所です。
加藤:なるほど、市が家賃も払ってくれているんだ。
中島:市が一定期間借りる契約で、八女杉をPRする場に使っています。ほか、広い土間のホールはイベントや展示会に貸して、収益が出たらNPOに入れてもらうことにしています。
加藤:行政以外はどうですか。DIYワークショップに参加してくれた人もたくさんいたんですよね。
中島:一番大きな変化は、無名の廃墟だったこの建物を、地元の人たちが当たり前のように「郡役所」と呼ぶようになったことだと思います。ここに、この建物、この空間があることが、広く認知されてきたようです。ワークショップに参加した人は、今も来るたびに「ここは自分が塗った壁だよ」なんて言ってますし。学生さんはじめ、里帰りの折に寄って、朝日屋酒店でお土産を買ってくれる人もいます。
加藤:みんなから関心を持たれる場所になったわけですね。
中島:街並み保存の観点からは、ひとつのモデルケースにもなっているのではないかと思います。あの廃墟が直せたんだから、あなたのところの町家だって直せるでしょう、って。八女にはまだたくさん、歴史的な町家が残っているんですよ。
120年前から続いてきた建物を、120年後にも継承したい
加藤:郡役所の改修に着手してから何年経ちましたか。
中島:おおよそ6年です。
加藤:6年経ってみて、今の課題はなんですか?
中島:やっぱり建物の傷みは進みます。ここ20年ぐらいで、もう1回は大きな修理が必要になるんじゃないでしょうか。
加藤:改修に終わりはありませんね。
中島:ものごとを長期で動かしていく視点に立たなくてはいけないと思うんですよ。長期というのは10年とかじゃなく、100年とか200年とか。というのも、この建物は120年前からあるわけで、120年後にもつないでいかなければならない。そのために何ができるかを考えないと、せっかく頑張ってももったいないな、と思うんです。
加藤:120年後につなぐ秘策はありますか?
中島:ひとつは、新建材に頼らずに、昔からある素材や手法を踏襲することですね。外壁には杉の表面を焦がすことで湿気や腐朽に強くする「焼き杉」を使い、壁の下地は昔ながらの「竹小舞」でつくっています。大工さんや左官さんに教わりながら技術を身に付けました。時代が変わっても手に入る材料で、使える手法です。もうひとつは資源の問題です。八女は杉の産地であり、一軒の建物のさまざまな部材に使える多様な杉が植えられています。八女の山地とまちをつなぐために、製材や在庫管理を行う会社も立ち上げました。旧郡役所のこの場所は、八女杉の使い方を見せるショールームでもあるんです。
加藤:素晴らしいなあ。八女のこれからを、僕らも楽しみにしています。
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アーカイブ動画では、中島さんの案内で旧八女郡役所内を見学することができる。また、八女というまちの成り立ちや、町家再生・街並み保存の歩みについても語られている。興味を持たれた向きは、ぜひ元の動画を視聴してみてほしい。
元動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=ZMfil460WkE&t=9s
オンラインステーションアーカイブ:
https://www.youtube.com/channel/UCd-nd9RQWXCqUt5TV_OVvGQ
今後のイベント:https://diyrweek.peatix.com/view
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