下北沢の新スポット「ボーナストラック」で開催されたDIYイベント
コロナ禍が長引き、家にいる時間が増えたことで、DIYに挑戦してみたいと思うようになった人は多いと思う。そこで今回お届けするレポートは、DIYのある暮らしをテーマにしたイベントレポートである。
会場は東京・下北沢の商店街「ボーナストラック」。小田急線下北沢駅の地下化で再開発が進み、小田急線線路跡エリアに2020年4月にオープンした。敷地内には職住一体型の長屋棟が3棟と、商業棟1棟が建ち、13のテナントが参画している。
ボーナストラックでは、特徴的なイベントを開催しており、そのひとつが、2021年6月6日(日)に行われた『NO BIG DEAL!! DIYのある暮らし』だ。主催はボーナストラックを運営する株式会社散歩社と、ボーナストラックのテナントである不動産会社「omusubi(おむすび)不動産」。omusubi不動産は、千葉県松戸市を拠点にする不動産会社で、空き家をDIY可能賃貸として管理・運営するほか、空き家活用の企画・再生、リノベーション再販事業などを手がける。
このイベントでは、DIYを体験できるワークショップや、建築・不動産・インテリアをテーマにしたブックマーケット、DIYをテーマしたトークイベントが開催され、会場のところどころでなごやかな光景が見られた。
トークイベントは2つのセッションが開催され、それぞれ登壇者と切り口が異なり、DIY初心者からDIY可能な賃貸に住みたい人、さらにはDIYを取り入れた事業に関心がある人まで、DIYへの興味が湧いてくる内容だった。そんな様子を、2回に分けてお伝えする。
■次回記事はこちら
空き家のDIYで、クリエイティブな賃貸経営を。実践者が語る事業化のポイントとは
DIYをより身近に感じ、楽しむための基本の考え方講座
一つ目のトークイベントは、『DIYの基本の考え方講座! 暮らしを豊かにする「Do It Yourself」の視点について』と題したもの。登壇したのは、合同会社つみき設計施工社の代表である河野直氏と、株式会社マイキーのディレクターである西山芽衣氏。お二人とも、DIY分野のキーパーソンとして知る人ぞ知る存在だ。
河野氏は、京都大学大学院で建築学を学んだ後、26歳のときに起業。「ともにつくる」を合い言葉にした参加型リノベーションを手がけるようになって11年。職人から技術を教わりながら、住む人、使う人、地域の人とともに住宅、店舗、公共施設などをつくり出すというDIYワークショップを、これまでに400回以上、行っている。
西山氏は千葉大学建築学科卒業後、まちづくり会社勤務を経て、現職。西千葉(千葉県千葉市)で「西千葉工作室」、「HELLO GARDEN」を立ち上げ、運営に携わる。「西千葉工作室」は、地域住民が利用できるシェア工房で、利用者が自由に工作を楽しめるほか、木工の基礎などを学べるワークショップ、ものづくりに関する相談室などを備えている。「HELLO GARDEN」は、空き地を活用したイベントスペース。この2つの活動について、西山さんは「地域のなかで自分たちがほしい暮らし、やってみたい体験ができる環境をつくること」と自己紹介していた。
このお二人に対し、omusubi不動産スタッフでDIY初心者という塚崎りさ子氏が進行役となってトークセッションが進められた。
DIY初心者は「妄想」することから始め、とにかく何かをつくってみる
冒頭、塚崎氏が、このDIYイベントの目的を語った。
「DIYは、やってみたいと思っていても始めるきっかけがないし、そもそも難しそうだと思っている人はいっぱいいるのかなと思います。確かに手間はかかるのかもしれませんが、『NO BIG DEAL!!(大したことないさ)』です。身の回りのちょっとしたものでも、自分でつくることができれば、暮らしが楽しくなるのでは、ということで、このイベントを企画しました」
その趣旨を受けて、このトークセッションでは、DIYを始める第一歩を踏み出していくためのDIYの考え方やヒント、魅力が語られたので、ポイントをお伝えしよう。
DIY初心者は、どんなことから始めたらいい?
【河野氏】
とにかく何かつくってみるといいと思う。家具を組み立てるでもいいし、「この部分の色が気に入らないので、そこだけ変えてみる」といったことでもいい。一度つくってみると世界が広がるし、自分で好きなものをつくり、それに囲まれて暮らすことはすごく幸せなこと。DIYで、家を豊かな空間にできる。まず、つくることの魅力を知ってほしい。
【西山氏】
DIYのよさは、自分が100%気に入ったものをつくることができること。それは、店では買えないもの。家の中がこうなればいいという夢が叶うことでもある。「こんな棚があるといいかな」「テーブルは丸くしようかな」「家族とどう住もうかな」と、妄想する……それがDIYのスタートかつ、とても楽しい時間だと思う。
最初に揃えておきたい道具、DIYを長く楽しむために揃えておきたい道具は?
【河野氏】
DIYの基本は、正確に測って、切って、取り付けること。これができれば、いろいろなものをつくることができるので、まず最初に計測工具(メジャー、差し金)、ノコギリ、電動ドライバーを揃えておきたい。この3つを、僕はDIY三種の神器と呼んでいる。つくり方については、僕らが開いているようなDIYワークショップに参加して教わるのもいいし、YouTube(ユーチューブ)などインターネット上にさまざまなノウハウがアップされているので、参考になると思う。
【西山氏】
次のステップとして買い足す道具として、おすすめは電動サンダー。やすりで磨く作業は、完成度をあげるために欠かせない工程。手やすりだと大変でも、電動サンダーなら楽にできる。きれいに仕上がると、完成したときの嬉しさも格別だ。しかし、つくる作業に入る前に、何をつくるのか、アイデアを考えることそのものにハードルを感じる人もいるかもしれない。そんな人は、Pinterest(ピンタレスト)という、無料画像探索アプリを活用してみては? 室内のコーディネートや家具など、DIYのアイデアを探せる画像がたくさんあるので、役に立つ思う。
短時間で部屋の雰囲気が変わり、達成感が得られるDIYとは?
時間に限りのある社会人。短い時間で、どんなことができる?
【河野氏】
DIY可能な住まいに限定されるが、おすすめは塗装。養生をしっかりやれば、短時間で壁や床などがガラリと変わり、室内の雰囲気を一新できる。
【西山氏】
DIY初心者のデビューでおすすめなのが、テーブル。大変そうに思うかもしれないが、すべてを自分でつくらなくてもよくて、脚と天板をどうするかということ。天板はサイズや素材、高さ、色をどうするかを妄想するだけ。購入したホームセンターが、天板を切るのを手伝ってくれる場合もある。脚は、カラーボックスを横にしてその上に天板をのせるだけでもオリジナルテーブルになる。テーブル脚も、ネットで購入できる。天板と脚を買って、塗装したり、電動サンダーできれいに仕上げて、天板と脚を組み合わせて出来上がり。テーブルは家で毎日使うものだから、「自分でつくった!」という満足感が日々感じられる。
DIY不可の賃貸に住んでいても、工夫しだいでより居心地のよい空間に変えることができる
DIYを自由に楽しみたいものだが、DIY不可の賃貸物件に住む人も多いだろう。進行役の塚崎さんが、自身の住む賃貸の部屋の画像を公開し、この部屋でどんなことできるのか、河野さん、西山さんにアドバイスを求めるコーナーもあった。
白い壁、アンティーク調のテーブルが置かれた、塚崎さんの部屋。それに対し、お二人はこんな提案をしてくれた。
【河野氏】
大工仕事だけがDIYではないので、好きな模様の生地でカーテンを縫ってみては? カーテンを縫うのに、そんなに複雑な技術は必要ないと思う。
【西山氏】
部屋の中で面積を占めるもので、自分の好きなことに結び付くものをつくってみるという方法がある。例えば、本が好きなら大きな本棚、料理が好きなら大きな食器棚をつくるという具合に、愛着がわきやすいものから手をつけるといいと思う。
DIY不可の賃貸住まいで悩ましいのが、壁の雰囲気を変えることができないということだ。原状復帰しやすいよう、貼り残しを出さずにはがせる壁紙もあるが、河野さん、西山さんはこうアドバイス。
【河野氏】
アンティークな木の感じが好きで、テーブルで過ごす時間が多いのなら、テーブルの向こう側に木目調の合板ボードなどを立ててみると、木に囲まれた感じの空間になりそう。テーブル側にビスで打ち付けて取りつければ、壁に手を入れることなく、変化を楽しめる。
【西山氏】
(河野さんのコメントを受けて)そうして立てた木目調のボードにフックをつけて植物を吊るしたり、好みの雑貨を飾ったり、自由にカスタマイズを楽しんでみては?
DIYを通して、さまざまな人とつながり、まちに面白いことを起こす力にも
このほか、団地の一室を、DIYをして住んでいるという西山さんの自宅での工夫ポイントや、河野さんが開催したDIYワークショップでのエピソードも披露された。筆者が興味深く感じたのは、DIYを楽しむ人が増えることでまちはどう変わるのかという話題になったときのこと。河野さん、西山さんはこう話してくれた。
【河野氏】
僕らは主に地元(千葉県市川市)で参加型リノベーションの活動をしているが、何かをともにつくることは、人と人との距離を近づける力があると実感している。ある店のリノベーションのワークショップに参加していた人が、その後、別の店のワークショップに参加するという現象が起きてくる。そうすると、自分が住む地域で知り合いが増え、友だちが増えていく。これはとても嬉しくて楽しいことだ。年齢も背景も異なる人同士がつながれる。そして、DIYの技術が身につくと、自分のものづくりだけではなく、他の人の手伝いをしたり、助けたり……ということを、ごく自然にやりたくなる。自分ができることで人を助けるという関係性が、地域の中に生まれていくきっかけにもなる。DIYにはそんな可能性がある。
【西山氏】
私たちの西千葉工作室などの活動の根底にあるのはDIYの精神だと、感じている。DIYは壁を塗り替える、家具をつくるということではなく、自分の生き方そのものと言ってもいい。他人に自分の暮らしを委ねるのではなく、自分の暮らしに主体的になるということ。自分で自分の暮らしをつくる。そうすると、『これならできそうだからやってみよう』ということで、ものづくりだけに限らず、イベントをつくったり、こんな場所があればいいなということで場所をつくる。自分の想いを形にしてみようと、自分で行動する人が増えていくと、まちのあちこちで面白いことが起こってくるのではないだろうか。
河野さん、西山さんの示唆に富んだ話を聞き、自他ともに認める手先が不器用な筆者も、DIYを楽しめそうな気がしてきた(いや、楽しんでみたい)。お二人の今後の抱負は「DIYの精神をもった人材を育てるべく、教室の運営やスクール事業など、教育活動にも力を入れていきたい」と聞いた。お二人の教育事業がどんな展開になるのか、楽しみだ。
次回記事ではもうひとつのトークセッション『これからのクリエイティブな賃貸経営 空き家のDIY賃貸とまちづくりが大家業のスタンダードになる時代』について、レポートする。
次回記事
空き家のDIYで、クリエイティブな賃貸経営を。実践者が語る事業化のポイントとは
ボーナストラック
https://bonus-track.net/
omusubi不動産
https://www.omusubi-estate.com/
つみき設計施工社
https://tsumiki.main.jp/
マイキー
https://mikey-inc.jp/
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