山手線にベビーカーや車いす利用のためのフリースペースを導入

山手線の新型通勤電車(E235系)のフリースペースについて語る、JR東日本の本室匡一氏。ベビーカー協議会で決定した統一的なベビーカーマークも床に掲出される山手線の新型通勤電車(E235系)のフリースペースについて語る、JR東日本の本室匡一氏。ベビーカー協議会で決定した統一的なベビーカーマークも床に掲出される

レポート第2回目の今回は、ベビーカー利用をめぐる鉄道・バス会社の取り組みを中心にお伝えしよう。前回記事に引き続き、『子育てにやさしいまちを考えるイベント』(主催:公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団)の「子育て応援に関する取り組み」フォーラムでの取材をもとに、記事をお届けする。

このフォーラムには交通事業者から鉄道会社2社、バス会社1社の計3社が参加し、各社より、ベビーカー利用や子育て支援の取り組みに関する発表があった。まず、登壇したのは東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)鉄道事業本部サービス品質改革部企画・品質戦略グループの課長、本室匡一氏。

前回レポート記事でお伝えしたように、国土交通省が設置した「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会(以下、ベビーカー協議会)」でベビーカー利用についての協議が重ねられ、2014年3月にベビーカー利用にあたってのお願い事項とともに、統一的なベビーカーマークが決定した。それらの啓発・普及活動として5月にキャンペーンが行なわれたことも前回記事で記述しているのだが、その一環で実施した活動についての発表が最初にあった。鉄道車両や駅構内で安全なベビーカーの使い方を学んでもらおうと、JR東日本をはじめ、首都圏鉄道各社が共同で親子向け安全教室を鉄道博物館(さいたま市)で開いた。5月20日(火)の平日1日限りのイベントだったが、約1,000人の親子が参加。当日は館内にあるJR東日本の車両を使い、ベビーカーでの乗り降りを体験してもらいながら安全なベビーカー利用やマナーについて学んでもらい、参加した親子から好評だったという。

JR東日本としての取り組みでは、駅構内や駅ビルにベビーカー使用の親子が利用できる多機能トイレや授乳室などの施設の整備を進めていること、ホームページでベビーカー利用に関する情報発信を行なっていること、首都圏を中心にした沿線の駅ビルの中や、駅へのアクセスのよい場所で保育園を設置する「駅型保育園」事業などについて語られた。なかでも興味を引いたのは、東京の鉄道網の心臓部ともいえる山手線の動向だ。現在、山手線には高齢者などの優先席や、車いすスペースは設けられているが、今年秋頃に営業運転が予定されている新型通勤電車(E235系)では優先席を増設するとともに、車いすやベビーカー利用の人のためのフリースペースを設けるという。11両編成で走行する車両のすべての車両に1ヵ所ずつフリースペースを設置する計画となっている。

ベビーカー利用に配慮した子育て施設の整備

京王電鉄の巣山真也氏からは、ベビーカー利用に配慮した保育園など、同社の子育て支援事業について語られた京王電鉄の巣山真也氏からは、ベビーカー利用に配慮した保育園など、同社の子育て支援事業について語られた

次に登壇したのは、京王電鉄株式会社総合企画本部沿線価値創造部・子育てサポートチーム課長補佐の巣山真也氏。冒頭、巣山氏より「当社は、東京都西部を中心に神奈川県北部にもまたがる84.7kmの路線で鉄道事業を展開しています。沿線には多摩ニュータウンや、観光地として知られる高尾山があります」といった挨拶があった。主に都心への通勤通学路線としての役割を担ってきた鉄道だが、「少子高齢化で輸送人員の増加はむずかしくなってきているため、沿線価値を向上させるための長期的な戦略の策定と推進を行なっています」と、巣山氏。そうした「住んでもらえる、選んでもらえる沿線」を具現化するために、子育て世代とシニア世代の生活をサポートする施策に力を入れているという。

同社の子育て支援事業の一環として、子育て施設の運営がある。沿線の7ヵ所に保育園「京王キッズプラッツ」を設けているが(運営は子会社の京王子育てサポート)、いずれも駅から徒歩すぐの便利な立地にある。ベビーカーの利用に配慮した保育園が2施設あるという。ひとつめは東府中駅に2012年に開設された「京王キッズプラッツ東府中」。駅の改札を出てすぐ、駅ビルの中にあり、エレベーターと隣接する場所にあるので、雨天のときでも濡れることなく、ベビーカーでの移動に負担が少なくて済むという。もうひとつは、京王よみうりランド駅から徒歩2分の場所に2014年に開設された「京王キッズプラッツよみうりランド」。駅から園までの移動は段差のないスロープに整備され、ベビーカー置き場も定員分がゆったりおけるスペースをとっているという。

バスは通路幅などの問題があり、たたんでの乗車を求める場合も

国土交通省が設置したベビーカー協議会で2014年5月にベビーカーの安全な利用についてのキャンペーンを実施した際、配布されたチラシ。鉄道利用時用のチラシには、「ベビーカーは、折りたたまずに乗車することができます。」と記載されているが、バス利用時用のチラシには「ベビーカーは、折りたたまずに乗車することができます。ただし、走行環境によっては、折りたたみ、着席でのご乗車をお願いする場合があります。」と記載されている国土交通省が設置したベビーカー協議会で2014年5月にベビーカーの安全な利用についてのキャンペーンを実施した際、配布されたチラシ。鉄道利用時用のチラシには、「ベビーカーは、折りたたまずに乗車することができます。」と記載されているが、バス利用時用のチラシには「ベビーカーは、折りたたまずに乗車することができます。ただし、走行環境によっては、折りたたみ、着席でのご乗車をお願いする場合があります。」と記載されている

鉄道会社2社に続き、バス会社の取り組みとして京浜急行バス株式会社運輸部安全対策サービス向上担当・課長の生出淳氏による発表があった。

「2000年に交通バリアフリー法ができ、ワンステップバス、ノンステップバスの普及が進み、高齢者や障がいのある方にはやさしいバスにはなりました。ただ、子育て支援という考え方はなかなか生まれてこなかったように思います。ベビーカー利用のお客様に対しても、ベビーカーをたたんでご乗車いただき、小さいお子様は保護者の方が抱いて座ることを基本としていました」と、生出氏。同社に限らず、バス会社では全般的に「折りたたむ」を原則とする対応をしていたという。その理由には車内スペースが限られていること、車両の構造上の問題、走行環境によって急ブレーキをかけざるを得ない状況での安全面の問題などが挙げられるという。その後、低床バスの増加など車両構造の変化があり、各社でバスでのベビーカー利用の安全性や使用方法のルール作りに取り組むようになり、首都圏のバス会社では2004年、2005年頃から「ベビーカーは折りたたまずに利用可能」とするようになったと話す。京急バスもその時期に「折りたたまずに利用できる」というルールに変わった。補助ベルトを社内に備え付けたことで可能になったということだが「ベビーカー固定用補助ベルトが備え付けられている座席の横に、ベビーカーを進行方向に対して後ろ向きにして、車輪ストッパーをかけること」「補助ベルトでベビーカーをしっかり固定すること」「不測の事態に備え、走行中は常にベビーカーを手で支えること」をお願いしているという。ただ、バスは車内スペースには限りがあり、通路幅が確保できない場合や朝夕のラッシュ時、混雑時などはたたんでの乗車をお願いするケースがあるとのことだった。

これらは路線バスでのベビーカーの利用方法としているものなのだが、長距離を走行する高速バス、空港と近郊の都市との間を走行する空港リムジンバス、深夜急行バスなどは、ベビーカーは折りたたむことになっているという。「通路のスペースの関係で、ベビーカーにお子さんを乗せたままでの乗車はできません。ベビーカーは、車両のトランクに収納していただくことになります」と、生出氏は語った。

母親がおしゃれをしてベビーカーで外出するのは受け入れられない?

NPO法人せたがや子育てネットの代表理事、松田妙子氏。せたがや子育てネットは2001年設立。東京都世田谷区を拠点に、子育て支援活動を行なっている

NPO法人せたがや子育てネットの代表理事、松田妙子氏。せたがや子育てネットは2001年設立。東京都世田谷区を拠点に、子育て支援活動を行なっている

さて、子育て当事者の側からの話も紹介したいと思う。この「子育て応援に関する取り組み」フォーラムには子育て関連団体のNPO法人せたがや子育てネットの代表理事、松田妙子氏も講師として登壇した。松田氏はベビーカー協議会の構成員でもあり、ベビーカー利用にあたってのお願い事項の策定やベビーカーマークの決定にも関わった。「ベビーカー協議会は、私のような子育て関連団体の関係者もいれば、子育て当事者ではない方もいらしたのですが、多様な背景をもつ人がさまざまに意見を出し合い、異なる意見も受け止め、話し合って、納得できる結論を導き出せたということで、よかったと思います」と松田氏はふり返った。

松田氏はベビーカー協議会に関わる以前、東京都福祉保健局が設置した「子育て応援とうきょう会議」のプロジェクトに参加し、鉄道での安全なベビーカー利用に関するキャンペーンを実施した経験があるという。「みんなで赤ちゃんを守ろう」と題したキャンペーンで、ベビーカーでスムーズに安全に乗り降りできるよう、周囲の乗客への理解・協力と、ベビーカーを使用する人への注意や周囲の乗客に対する配慮を呼びかけるというもの。キャンペーンの内容はポスターの掲出と、ベビーカー利用者へのパンフレットの配布だったというが、2012年のポスターのイラストがおしゃれな雰囲気の母親がベビーカーを押して楽しく外出という絵柄だったことから、「乳幼児は抱っこするか、おんぶするべき」「こんな小さい子どもを連れ歩くなんてけしからん!」といったようなメールがせたがや子育てネットに寄せられたという。ところが翌年、会社に出勤する働く母親の絵柄にしたら、批判的な激しい反応はなく好意的だったといい、「若い母親がおしゃれをするとダメ、お仕事で大変そうにしているとOKということみたいです。幼い子どものいる母親はこうあるべき、というようなバイアスがかかっているのかなと感じました」と松田さんは言う。

若い母親のなかにはおんぶや抱っこをする方法を知らない人も

『子育てにやさしいまちを考えるイベント』の会場には鉄道会社、バス会社など交通事業者や、子育て支援団体の関係者を中心に約70人が訪れた『子育てにやさしいまちを考えるイベント』の会場には鉄道会社、バス会社など交通事業者や、子育て支援団体の関係者を中心に約70人が訪れた

「もちろん、ベビーカー利用でマナーに問題がある親もいるでしょう。そういうケースは改善していかなければならないと思います。でも、東京で暮らす若いお母さんのなかには故郷を離れて学生時代に上京して卒業してすぐに結婚、知り合いの少ない都会で子育てを始めることになったという人も少なくありません。そして、そういう人たちは子どもの世話をした経験がなく、おんぶや抱っこの方法を知らないケースもあるんです。下に妹や弟がいなかったり、近所に小さい子どもがいないので、赤ちゃんを抱っこしたり、おんぶしている光景を見たことがないんです。ですから、おんぶや抱っこの方法を伝えたり、ベビーカーでの乗車のコツなどを一緒に考えています」と、松田氏は話す。そして、こう続けた。「東京で孤独を感じながら慣れない子育てをしている若い母親が、ベビーカーで子連れで出かけたとき、周囲の人となんらかのトラブルがあったとします。そんなとき、“自分は受け入れてもらえないのかも”と感じてしまったとしたら、つらいことだと思います。いろいろな状況があるので、一概には言いきれないかもしれませんが、駅の中や電車、バスでベビーカーを押しているお母さんを見かけたら、その場限りであっても周囲にいる人たちはどうしたらいいのかな、何かお手伝いできることがあるのかな、と考えられるような社会になるといいなと思います」。


国土交通省の資料によると、ベビーカーで外出する保護者は、外出時におむつなどの子どもの荷物を持つ必要があるため、ベビーカーを含めるとおよそ20㎏の荷物を抱えて移動している計算になるという。駅や電車の中でベビーカーを押しての電車の乗り降りが大変そうだったり、エレベーターのない駅でベビーカーを折りたたんで子どもを抱いて階段を昇る若いお母さんの姿を見かけたら……そんなとき、勇気を出して「お手伝いしましょうか」と声をかけてみようと思う。

今回の取材を通して、ふだんあまり考えたことのない子育て世代のためのバリアフリーについて、理解を深めることができたように感じている。

☆取材協力
公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団
http://www.ecomo.or.jp/index.html
☆参考
「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会 とりまとめ」(国土交通省)

2015年 02月11日 11時38分