童話をまとめたグリム兄弟の足跡をたどる
「ヘンゼルとグレーテル」「星の銀貨」「赤ずきん」「シンデレラ」「白雪姫」……。いずれもなじみ深いグリム童話の作品だ。グリム童話は、19世紀にグリム兄弟がドイツ各地を回って昔から伝わる話や伝説をまとめ編集したもので、ドイツには彼らが書いた童話の足跡をたどれる全長約600kmに及ぶ「メルヘン街道」がある。コロナ禍が終息した後に、童話に思いをはせながらメルヘンの舞台を巡る旅に出かけてみてはいかがだろうか。
関係自治体が協力して1975年に誕生したメルヘン街道
グリム童話をまとめたのは、文学者・言語学者であるヤーコブ・グリムとヴィルヘルム・グリムのグリム兄弟。2人は9人兄弟の次男と三男で、最近では六男のルートヴィヒ・グリムも童話の収集や編集に関わっていたという説もある。メルヘン街道は、ドイツ中部のハーナウから北部のブレーメンにかけて、童話の舞台となった場所、グリム兄弟が通ったマールブルク大学など兄弟ゆかりの地、観光客に人気のある木組みの家で知られる美しい街、挿し絵画家の仕事場など観光要素満載の街道だ。昔から街道があったわけでなく、1975年に周辺の自治体が協力し、観光名所にしようと定めたもので、55の自治体が関係している。定期的に野外劇やお祭りを開いている町もある。
街道の起点はフランクフルトの東に位置するハーナウ。グリム兄弟が生まれた地で、市内中心のマルクト広場にはグリム兄弟の銅像がある。歴史博物館にも2人に関する詳細な展示があり、グリム兄弟を知りたい人には外せない場所だ。
メルヘン街道の中心に位置するカッセルは、少年時代を含めて兄弟が最も長く暮らした町だ。旧グリム兄弟博物館は、2015年に全面改装して「グリムの世界(グリムヴェルト)」として生まれ変わり、本を通してグリム童話を体験するだけではなく、等身大のオブジェを配置するなどこれまでにない大胆な展示で人気を集めている。ユネスコの世界遺産に登録されている手書きの本「グリム兄弟の子供と家庭の童話」が展示されているほか、アルファベットごとにグリムの世界が体験できる常設展も魅力である。
古城のホテルで実感するメルヘンの世界
コロナ禍の前に、「ラプンツェル」(邦題:髪長姫)の舞台となったトレンデルブルクの城を訪れた。メルヘン街道沿いの小さな町トレンデルブルクの古城は、石の塔がそびえ、続きの石造りの建物にはホテルとレストランが入っている。この塔のてっぺんの窓から長い髪を垂らし、王子様を招き入れたのかと想像力がかき立てられる。建物自体に派手さはなく、こぢんまりしているが、ドイツの中世を彷彿とさせるロマンチックさがある。ホテルには、なめらかな木の手すりがあり、階段を上ると天蓋付のお姫様ベッドのある部屋。昔、夢に描いていたメルヘンの世界を実感できた。寒い冬の日、レストランで食べたコーヒーとケーキの味は忘れられない。
トレンデルブルクの城から東に10kmほど離れたところにあるホーフガイスマーには「いばら姫」の舞台となったザバブルク城がある。石造りのどっしりとした城が、山の上から下界を見下ろしている。麓にはヤギや羊など動物と触れ合えるザバブルク動物公園があり、家族連れに人気。時々中世のお祭りが開かれ、長いドレスやマント、皮ズボンなど当時の服装をした人が音楽や芸を披露し、にぎわっている。食べ物や雑貨などを販売する個性豊かなスタンドが並ぶのも目玉となっている。
路地に迷い込んだだけで別の時代に来たような錯覚に
「ハーメルンの笛吹き男」の舞台となったハーメルンは人口6 万人程度の小さな町で、昔ながらの町並みが残っている。歩行者天国で、れんが造りの建物を見ながら散策できる。夏には毎週日曜日、地元の人たちがハーメルンの笛吹き男の劇を屋外で上演し、観光の目玉となっている。ハーメルン博物館には町の歴史をはじめ、笛吹き男にちなんだ展示もあり見応えがある。
街道の終点となるブレーメンは、ロバ、犬、猫、鶏の「ブレーメンの音楽隊」で知られている町。中心部にある広場には絵本に出てくるように4匹が乗った銅像があり、記念写真のスポットとして人気である。お土産屋にはぬいぐるみやオブジェ、絵本など関連グッズが置かれている。市中心部にある15世紀初頭に建てられたブレーメンの市庁舎と、天蓋を支える支柱を入れると高さ10mにもなるローラント像がユネスコの世界遺産となっている。また狭い路地に建物が密に並んでいるシュノーア地区には、かわいらしいお土産屋やカフェが並び、多くの観光客が訪れている。
メルヘン街道の出発点となるハーナウは、フランクフルトから東へ列車で20分ほどのところに位置する。ブレーメンやハーメルンなどの有名都市には列車でアクセスでき、駅から街中心部の観光名所までバスが出ている。紹介してきた城などがある村は、いわゆる典型的なドイツの田舎のため車での観光が必須だ。
*ドイツでは執筆時点(3月初旬)でロックダウンが継続中。渡航や観光に関する情報については、駐日ドイツ大使館のHP(https://japan.diplo.de/ja-ja)などで情報収集することをお勧めする。
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