豊臣秀吉が多数の寺院を集めたことからその名が付いた寺町通に開業

京都駅から北へ約2kmのところに位置する四条河原町。百貨店やファッションビル、飲食店がたち並ぶ、にぎわいがあるエリアだ。

四条河原町の交差点から西へ数分歩くと、南北にのびる寺町通にたどり着く。大通りをはさんで北側は、買い物や食事を楽しみに来たであろう若者や家族連れが行き交うアーケード商店街。一方、南側は雰囲気が少し異なり、どこか落ち着きのある風情が漂う。

名前からもわかるように、ここは寺と深いかかわりを持つ通りで、歴史をひもとくと豊臣秀吉の時代にまでさかのぼる。秀吉が京都の都市改造に着工した際、多数の寺院を集めたことからその名が付けられたという。現在も、通り沿いには寺院のほか、数珠や仏具といった門前町らしい老舗が点在している。

今回紹介する「三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺」が建つのは、この寺町通。大通りから南へ少し進んだところに2020年9月に開業した。一番の特徴は、ホテルと寺院が一体化していること。ホテル1階の一部分が約500年の歴史を持つ浄教寺の本堂となっているのだ。

ホテルへのアプローチはまるで参道のよう。敷地奥に浄教寺の本堂があるホテルへのアプローチはまるで参道のよう。敷地奥に浄教寺の本堂がある
ホテルへのアプローチはまるで参道のよう。敷地奥に浄教寺の本堂があるホテルと一体化している浄教寺。2階から上はホテルの施設である

観光に便利な立地を生かして、寺の再建へ

「三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺」があるのは、もともと浄教寺が建てられていた場所。なぜ、この場所にホテルが建ったのか。なぜ、寺院と一体化したのか。そのいきさつを総支配人の下村美樹さんに教えてもらった。

「今のご住職は浄教寺の44代目にあたられます。もともと東京で仕事をされていたのですが、ご親戚からお寺を引き継ぐことになり、数年前に京都に移られました」

浄教寺の本堂は、約500年の歴史の中で建て替えがされている。とはいえ住職が寺をまかされた時点で既に築200年近く経っていたため、本堂は老朽化がかなり進んでいたという。

なんとか再建をしたい。でも檀家に寄付をお願いすることは現実的ではない。考えあぐねた結果、住職が注目したのが立地だった。繁華街の一角にあり、旅行者にも人気のエリア・祇園へも歩いて行ける。観光の拠点にするにはぴったりな場所だと思いついたのだ。由緒ある寺をホテルという新しい形に生まれ変わらせることができれば、とアイデアがふくらんでいった。

「その中でご住職が一番大切に考えられたのは100家族ほどいらっしゃるお檀家さんのことです。ご住職からは、皆さん、寺がいい形で次世代に残ることに賛成してくださったとお聞きしています」と下村さん。

こうして、寺とホテルが一体化する試みは実現に向けて動きだしていった。

約200年前に本堂で使われていた木鼻や床板、欄間を館内にディスプレイ

工事がスタートしたのは2018年ごろ。墓地以外の部分はすべて解体され、ホテルの建物とともに本堂も新築された。

「三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺」は地上9階建て。1階の東側が浄教寺の本堂である。この本堂の特徴は靴のまま上がれること。段差がないので車イス利用の人も楽に出入りできる。そこには、高齢化が進んでいる檀家の人々が気軽にお寺に足を運べるようにという住職の考えが反映されているそうだ。

ホテルへの入り口は本堂の西側。館内に入ってエントランスを進むと、右手にはガラス窓が設置されている。そこから見えるのは隣接する浄教寺の本堂だ。荘厳な雰囲気の本堂を間近で感じられるのは、このホテルならではだろう。

エントランスの小窓から本堂を見ることができるエントランスの小窓から本堂を見ることができる

寺とホテルの共存を体感できるのはここだけではない。ロビーの壁には木鼻が飾られている。木鼻とは、柱に通す横木の先端に施された彫刻のことで、展示されているのは以前の本堂で実際に使われていたものだという。

「エントランスやロビー、各フロアのあちこちに以前の本堂にあったものを配置しています。床板、欄間、瓦など。200年の歴史を館内で感じていただければ」(下村さん)

エントランスの小窓から本堂を見ることができる以前の本堂で使われていた木鼻。制作は1830年(文政13年)
エントランスの小窓から本堂を見ることができるかつての本堂にあった床板。アート作品のようにディスプレイされている

灯籠をイメージしたルームナンバーのオブジェに、手水鉢を模した洗面も

灯籠をモチーフにしたルームナンバーのオブジェ灯籠をモチーフにしたルームナンバーのオブジェ

客室があるのは2~9階、全167室が用意されている。

部屋の前に立ち、目線を上げるとルームナンバーのオブジェが掲げられている。これは灯籠をイメージしたもの。浄教寺の別名が鐙籠堂であることからデザインされた。こうした細かい部分でも寺院との共生への思いが伝わってくるようだ。

客室に入ると目に飛び込んでくるのは、設置されている洗面。これは町家などで見かける手水鉢を模したものだそう。宿泊客に京都らしさを感じてもらいたいというはからいである。

灯籠をモチーフにしたルームナンバーのオブジェモデレートツイン。手前が手水鉢をイメージした洗面(写真提供:三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺)
灯籠をモチーフにしたルームナンバーのオブジェ3台のベッドが置かれたトリプル(写真提供:三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺)

宿泊者限定で朝のお勤めに参加できるプランも

寺院との共生はホテルの宿泊プランからも感じられる。宿泊者は、本堂での朝のお勤めに参加できるのだ。

「ご住職の読経を聞きながら、静かな気持ちで一日をスタートできると好評です。また、お勤めにご参加された方にはご朱印を記帳させていただく特典も。お泊まりになった方からは特別感があるとお喜びいただいています。朝のお勤めをしたいからと当ホテルをお選びくださる方もいらっしゃるんです」

今後、さらにいろいろな仕掛けを考えていきたいと下村さんは話す。

「ご住職は当初から、寺町通をもっと活性化させたいと考えていらっしゃいました。界隈にあるお店とコラボをしてイベントなどができないかと模索中です」

開業後、「三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺」には全国の寺院から問い合わせがあるという。どのような経緯でホテルになったか、具体的にどのように話を進めていったのか……。

お寺の後継者不足や檀家離れ、建物の老朽化なども大きな問題となっている今。そうしたことで悩んでいる人にとっては、これからのお寺のあり方のモデルのひとつになっていることは間違いないだろう。地域活性と寺院の再生という目的を持つ「三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺」の今後に注目したい。

浄教寺の本堂。宿泊客は、こちらで朝のお勤めに参加できる(写真提供:三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺)浄教寺の本堂。宿泊客は、こちらで朝のお勤めに参加できる(写真提供:三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺)

2021年 03月21日 11時00分