まちなかの空き家を活用し、移住者を受け入れる「お試し住宅」
海沿いに並ぶ、明治期から大正期にかけて建設された赤れんが建造物。
明智光秀の盟友といわれる細川幽斎が築城した田辺城(1873年に廃城、現在は公園として整備)があったことから、まちの西側には城下町の風情が漂っている。
ここがどこか、わかるだろうか。
答えは、京都府北部に位置する舞鶴市。京都市からは車で約1時間半の場所にある、日本海に面した地方都市だ。
舞鶴市で近年課題となっているのが、人口減少、空き家の対策である。
「20年前の人口は約9万8000人でしたが、今は8万人をきっています。特に減少しているのは若い世代。舞鶴市には大学がありませんから、進学で市外に出て、そのまま戻らないケースもみられます」とは、舞鶴市政策推進部移住・定住促進課の堂田久美さん。続けて同課の布川裕子さんは、「人口減少が進行すれば空き家も増え、対策が重要となります」と話す。
そこで、力を入れているのが若い世代の移住の受け入れである。
「2013年以降、年によって増減はありますが、合計で104人が舞鶴市に移住してきました。その多くは、市内でもより自然に近い農漁村部への移住です」(堂田さん)
まちなかエリアにも移住者を━。その思いで立ち上げた事業が「居住促進住宅」(お試し住宅)だ。駅や病院、スーパーなども近く、好立地なまちなかエリアにある空き家を利活用し、移住者を受け入れる新しいモデルを構築させる。同時に、近年増え続ける空き家を低価格でリノベーションする空き家改修モデルとして提言し、空き家の利活用を促進する目的で、2017年にスタートした。
所有者から空き家を10年間借り上げて改修、子育て世代に貸し出し
お試し住宅とは、移住者に比較的安価で住宅を貸し出す事業のこと。全国でも多くの市町村が取組んでいるが、内容はそれぞれで異なっている。
舞鶴市の場合、次のような特徴がある。
1.市が居住誘導区域内(とその周辺)の空き家を所有者から10年間借り上げ、改修したうえで移住希望者に貸し出す
2.10年後に所有者に返却
3.必要なリフォームは市が行い、改修費用の約半分は入居者からの家賃で回収
4.家賃残額は家主の家賃収入
5.借り上げ期間内の維持管理は市が実施
「対象は市外から移住する子育て世代としています。借り上げ期間を10年としているのは、定住に結びつく移住と考えているからです」(布川さん)
さらに舞鶴市ならではなのが、舞鶴工業高等専門学校と協働し、空き家対策に取り組んでいる点だ。舞鶴工業高等専門学校に設計や測量を依頼することで、学生がまちづくりや実践的な建築を学ぶ貴重な機会になっている。
「専門的な知識がある教授、その教授のもとで勉強をする生徒さんたちに協力してもらうことで、私たちだけでは思いつかないアイデアが出ます」(堂田さん)
舞鶴工業高等専門学校の生徒がまちづくりを考えるきっかけに
お試し住宅の第1号は2018年に完成し、入居者は移住と同時にカフェをオープン。新たなにぎわいづくりに結びついたという。翌年出来上がった第2号には小さな子どもがいる夫婦が入居。夫は舞鶴市出身で、自然豊かな場所で子育てをしたいとUターンをしてきたそうだ。第3号は2020年3月に完成(2020年10月現在未入居)で、今は第4号に取組み始めている。
この取材の日、堂田さんと布川さんに第3号に案内してもらうことになっていたが、その前に舞鶴工業高等専門学校に向かうことにした。第1号から関わっている建設システム工学科教授・尾上亮介さんと、第3号設計のリーダー的役割をになった専攻科2年・木村悠希さんに話を聞くためだ。
「空き家は社会的に大きな問題となっています。どのように考え、取組んでいくか、学校としても方向性を検証するべきだと思っています。学生にとっては単に改修を経験するだけではなく、地方都市が抱える問題を考えるきっかけになるはず。実際、建築を通してまちづくりをしたいと就職先を選んだ生徒もいます」(尾上さん)
地域住民の意識を変えることも目的の一つと尾上さんは話す。
「1軒のお試し住宅ができることで生まれる波及効果を期待しています。空き家の所有者が『うちもやってみようかな』と思えば、空き家減少につながるかもしれません。また、地域にお試し住宅ができれば、『そういえば、ここも長く誰も住んでいないね』と、空き家への関心が高まるかもしれません。そこから、なにかしらのアクションが生まれればと思っています」
空き家を改修するとなると地域の工務店も動く。地場の経済が活発になることもこの事業のメリットといえるだろう。
第3号の改修ポイントは横と縦のゆとり、地域とのつながりを生む光
木村さんには、設計に携わった第3号について聞いてみよう。改修されたのは、築55年の木造2階建ての住宅である。
「第3号は2階建てで、敷地ぎりぎりまで建物がある状態。敷地的なゆとりを確保するのは難しかったので、内部でどのようにゆとりを持たせるかが課題になりました」
ゆとりにこだわったのには、理由がある。
「第3号の設計にあたり、第1号と第2号の居住者にインタビューをしたんです。そのとき、地方都市ならではのゆとりがある空間が気に入っているという言葉を聞いて。ともに平屋で庭も広く、ゆったりとした敷地がありましたから」
そこで改修のポイントとしたのが、縦と横の空間の広がりだったという。
「横方向のゆとりのために1階は3部屋を区切っていた壁を取り壊し、広々とした空間をつくりました。縦のゆとりを生み出すために設けたのが吹き抜けです。光が入る、明るい空間になりました」
もう一つ。地域との関わりも意識した点だ。
「前の通りに面して車庫があるんですが、間にある壁に大きなすりガラスを入れることで家の中の光が漏れるように工夫しました」
地域の人が住人の気配を感じ、存在を認識することで、気にとめやすくするためだ。それにより、移住者が早く地域になじめるようにとの思いが込められている。街路が明るくなることでにぎわいが生まれ、安全性が高まるという狙いもある。
お試し住宅で、にぎわいの連鎖を生み出したい
取材の最後に、第3号住宅に案内してもらった。
場所はJR西舞鶴駅から徒歩約2分の住宅街にある1軒家。近くには大型スーパーもあり、生活しやすそうなまちである。
「ここもいいでしょう?」と堂田さんが指さしたのは、車庫と建物の間を区切っている出入りができる大きさの窓である。
「この窓を開けておけば、室内との一体感が出て、さらに開放的。車庫でバーベキューをするときにも、台所に食材を取りに行きやすいし、楽ですよね。お住まいになった方がそんなふうにワイワイにぎやかにしている様子が、地域で感じられるといいなと思います」
一つのにぎわいが、次のにぎわいを生み出す。これが、お試し住宅の大きな役割。
「1年間に1軒ずつのペースで進めていますので、それで人口が大きく増えるとは考えていません。ですが、市外から来られた方が楽しく生活されている姿を見たら、地域の人も改めて舞鶴の良さに気付いてもらえると思っています。大学進学で市外に出ても、卒業後、戻ってくる人が増えるのではという思いもあります」
そうした人が増えることで、空き家を貸してみようかと思う所有者も増えるなど、良い循環を生み出したいと堂田さん。人口減少を止めることや空き家を完全になくすことは難しい。だが少しでもゆるやかにすることは可能だ。
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