西陣で“いつもの京を、特別な今日に”
京都市バスを「千本今出川」の停留所で降りた。ここは京都市の北西部に位置する、西陣と呼ばれる地域。京都の伝統的な織物・西陣織の生産地だ。
向かったのは、千本通と今出川通の交差点から徒歩5分ほどのところに立つ、2020年4月誕生の宿泊施設「KéFU(ケフ) stay&lounge」。織物関係の店や古くから続く飲食店、民家などが並ぶ、落ち着いた雰囲気のエリアである。西陣に宿泊施設を建てることになった理由をマネージャー・横山恵さんに聞いてみると、「本当に偶然。京都で土地探しをしているときに、たまたまこの場所に出会ったんです」という。
最初から西陣にこだわっていたわけではなかったというが、決め手になったのはなんだったのだろう。
「京都には国内外から観光客が訪れるとはいえ、有名な観光地が少ない西陣に足を運ぶ人はそうたくさんはいないんです」それこそが横山さんたちにとっては魅力だった。
「私たちが考えたのは“いつもの京を、特別な今日に”というコンセプト。『もう少し京都の深い部分を知りたい』『今まで行ったことがない京都を見たい』という京都旅行の経験者をターゲットにできたら、需要があるんじゃないかと考えました」
伝えたいのは、機織りの音が耳に届く日常の京都
“特別な今日”を体感してもらうため、「KéFU stay&lounge」が打ち立てたのは、“繋ぐ・繋がる”というコンセプトだ。
「観光地化していないぶん、日常の京都を楽しんでもらえる場所がいっぱいあります。地元の人しか行かない店だったり、機織りの音が聞こえる路地だったり。ここに住んでいる人たちの生活を大切にしながら、私たちだからこそ発信できる情報を提供し、宿泊客とまちや人を繋ぎたい。この土地のことを知らない旅行者にとっての、まちの入り口になりたいと思っています」
そのためにも、まず自分たちが土地になじむ必要があると、オープン前から近くの店を訪れて店主と会話をしたり、地域の人と積極的に交流を重ねたりしてきた。その甲斐あって、そこで知り合った人がまた知り合いを紹介してくれることも増えるなど、少しずつ輪が広がっていったのだ。
手書きのメモが貼られた、人と人を繋げる地図
“繋ぐ・繋がる”というコンセプトは、館内でも感じられる。
特に目を引くのが、入り口右手にあるカフェラウンジの壁にかけられた地図だ。東は銀閣寺、西は金閣寺、南は二条城、北は大徳寺まで、京都市の北部エリアが描かれている。宿周辺を中心にあちこちに貼られたメモには、スタッフが見つけた店やスポットがおすすめコメントとともに書かれている。中には、カフェラウンジの料理に使っている調味料や食材を仕入れている店の情報も。
「お豆腐屋さんや昆布屋さん。醤油に味噌、お酢のお店もあります。西陣にあるお店ばかりなのは、この地にこうした食文化があることを伝えたいと思っているからなんです」
人と店を繋ぐだけではない。地図を前にすると、知らない人同士でも会話が弾むと横山さん。地元の人が地図を見ながら思い出話を披露してくれることもあるそうだ。
「そうした様子を目にするたびに、この地図を作った甲斐があったなと感じます」
出会いを期待して、さまざまなタイプの部屋を用意
3階建ての施設内には、宿泊者が自由に集える場所を用意。1階の吹き抜け部分にはテーブルとイスが置かれ、3階には共用キッチンもある。そこかしこで人が交わり、会話が弾む工夫がされているのだ。
客室も紹介しよう。シングル、ダブル、ツイン、ファミリー向けの部屋があるため、一人旅からグループ旅、家族旅行にも対応可能。こうしたいろいろな旅のスタイルの人を迎えるようにしているのも、この建物の中でさまざまな出会いが起こり、繋がりが生まれるようにという思いがあるからだそうだ。
「人が集まれば、自然と情報も集まります。そういうなかで新しい文化が生まれればいいなと思っています」
いずれは、西陣織の職人ともコラボイベントをしたいと計画を練っているという。
「たくさんの人に地元の伝統工芸を知ってもらうことで、西陣を盛り上げていきたい。西陣は、私たちを含め移住してきた人も多い土地。デザイナーやプログラマーといったクリエイターもいらっしゃいます。みんなで何か一緒にやっていこう!という動きも出つつあって、ますますおもしろい町だなと感じています」
2020年 08月09日 11時00分