全半壊、床上・床下浸水―。甚大な被害をもたらした台風
2019年に起きた水害は記憶に新しい。
九州北部豪雨、台風15号、19号と、立て続けに起きた水害による家屋への被害は甚大なもので、台風19号では、河川の氾濫やがけ崩れによって全半壊等が約28,000棟、床下・床上浸水が合わせて約 60,000棟(※)という被害が発生した。
例年、5月から徐々に降雨量が増え、梅雨前線、秋雨前線、大気が不安定になる夏場には台風に伴った大雨に見舞われる日本。国土交通省「水害対策を考える」のデータによると、1年の平均降水量が1,718mmの日本は、世界平均の880mmと比べると約2倍もの雨が降る多雨地帯だ。
被害にあうのは河川近くの住まいだけではない。都市化が進んだ市街地での内水氾濫も起こっている。50ml/hの雨水に対応できる排水構造になっている地域が多いものの、地球温暖化で雨量が増えたこともあり、開発が進み保水・遊水機能が低下した市街地では、行き場を失った大量の雨水が大きな被害をもたらすこともあるということだ。
もし水害にあったら―。
知っておいたほうがいい水害後の家屋への適切な対応について、「震災がつなぐ全国ネットワーク」代表の栗田暢之(のぶゆき)さんにお話を伺った。
(※)消防庁「令和元年台風第19号及び前線による大雨による被害及び 消防機関等の対応状況(第52報)による
水が引いたら床下のチェックを
床下収納や通風口から床下を確認。床下に水がたまり、プール状態になっていることも―(写真)イラスト上:フローリングの洋室で点検口がない場合は、工務店に依頼するなどして床を切り取って点検を。その際はのちの生活に支障が出ないよう、一辺60センチ未満の正方形で床を切り取り、開け閉めできる状態にしておくことがポイントだ
イラスト下:和室の場合は、バールなどで床板を剥がせば床下をチェックすることができる
多くの水害被災地で支援活動にあたっている「震災がつなぐ全国ネットワーク」が作成した「浸水被害からの生活再建の手引き~水害にあったときに~」をベースに話を進めていこう。
浸水時の家屋に対する対応を大きく分けると
①片付けに取り掛かる前に被害状況を写真に撮る(罹災証明書の発行に必要なため、さまざまな角度から写真を撮っておく) ②濡れた家電・家具類を撤去 ③床下の汚泥や水をチェック。たまっていれば除去、乾燥、消毒 ④修復
という流れになる。
「床下は必ずチェックしてみてください。もう水が引いたから大丈夫だと思っていたら、床下にはまだ水が残っていてプール状態になっていることもあります。水害で流れ着いた水は不衛生な汚泥を含んでいます。汚泥がたまったままだとツンと鼻をつくような悪臭が発生し、最悪の場合は健康被害をもたらしたり、住むことが困難になる場合もあります」
濡れた家電や家具を外に出したら、和室の場合は畳を外してその下にある床板をバールなどで剥がし、床下に水や汚泥がたまっていないかをチェック。無垢の床板の場合は再利用できるので、丁寧に剥がして水洗いし、陰干しで乾燥させる。
洋室の場合は通風口や床下収納の間口から床下をのぞき込んで、水や汚泥がたまっていればそれらを掃き出す作業をしなくてはならない。
「全室フローリングという家の場合、床下をのぞく点検口がない場合も多いようです。そんなときは、工務店に依頼して点検口を作ってもらい、そこから潜って作業をします。点検口は自分で床を切り抜いて作ることもできますが、後からフタのように閉められるようにしたほうが後々の生活のためですので、そこはプロに依頼したほうがいいでしょう」
濡れた壁は壊して撤去。グラスウールも除去
次は壁材の撤去。
石膏ボードの場合は、浸水したラインから20~30センチ上の高さまでカッターなどで切れ目を入れながら剥がしていく。ボードの半分以上が濡れている場合は、1枚まるごと廃棄する。土壁の場合、剥がした土は再利用できるのでとっておこう。
「最近の家は断熱材として、壁や床下にスポンジ状のグラスウールが入っていることが多いと思いますが、いったん水に浸かると乾燥させることが難しくカビが発生することも多いので、すべて廃棄します。スチロール板状の断熱材の場合は洗って使える場合もあるので、外して乾燥させます。
なによりも重要なのは乾燥です。被害がなさそうに見える壁も、中を見るとカビが発生していたりするので、必ずチェックしてみてください」
1~2ヶ月は扇風機なども使って徹底的に乾燥を
逆性石けん(ベンザルコニウム塩化物:代表的な商品名は「オスバンS」など)を噴霧し乾燥させる。木製部分は消毒液をしみこませた雑巾で拭くと消毒効果があがる。床下を完全に乾燥させるには最低でも1ヶ月はかかるそう。扇風機なども駆使しつつしっかり乾燥させよう床下、壁の汚泥を処理し終えたら、次は洗浄・消毒だ。
家屋の構造体に付着した汚れはすべて洗い流し、ある程度乾燥させてから薬液で消毒を。消毒薬については、消毒用アルコール、10%塩化ベンザルコニウム(逆性石けん)を表示通りに薄めて噴霧、もしくは雑巾などでふき取る。これらの薬剤はドラッグストアでも販売しているそうだ。
浸水した家屋は細菌やカビが繁殖しやすい状態。釘や木材などでケガをすると 感染症にかかるおそれがある。清掃中のケガ予防に手袋を着用 し、ほこりを吸わないようにマスクも着用して、換気をしっかりしたうえで作業することも心掛けたい。
「床も壁も、とにかく大切なのは乾燥です。濡れてしまった家電や家具などをすべて出し、床、壁の洗浄、消毒が完了したら1~2ヶ月は扇風機なども使いながら乾燥させていきます。晴れた日は窓を開放し、床下の点検口も空けて、外気を送り込んで十分に乾燥させてください」
土地の水害履歴を調べることも大切
お話を伺った栗田さん。「川で囲まれた輪中の土地では昔から『堤防切れたら戸を開けろ』という言い伝えがあります。水を防ぐよりも流してしまえという過去の教訓をもとにした家を守るための知恵なのですが、そういったことを新しい人たちに伝えていくのも必要なことかもしれません」とも
ボランティア活動で被災地を訪れることが多い栗田さん。
「被害にあった方と話していると『生きるも地獄』とおっしゃる方もいて、浸水した家屋を元通りにするのは肉体的にも精神的にも大変な作業だと思います。無理をせずボランティアの力を借りながら少しずつ進めていくということも頭に入れておいてほしいです」
と話していた。
浸水被害にあった家屋に住み続ける場合、金銭的負担も大きくなる。
栗田さんによると、大規模半壊のレベルだと家屋の修繕、家電の購入などに平均して800~1,000万円はかかるそう。
公的支援を受けるためには、市町村から罹災証明書を発行してもらわなくてはならない。そのため先述したように、まずは被害状況をさまざまな角度から写真に撮っておくことが必要となる。片付けに取り掛かる前に家の中、外、車、倉庫、濡れてしまった家電なども撮影し、被害状況を記録に残しておこう。
家が建っている場所、これから家を建てる人は候補に挙げている土地の過去の水害履歴を調べることも大切なことだ。
「地名にも注目してみてください。歴史的に水害が多かった場所は、土地の歴史や特徴を伝えるために地名に『沢』や『洲』、『灘』といった文字が使われていることがあります。自分の住む土地がどういう場所なのかを把握して、対策をたてることが重要です」
水害の多くなる季節の前に、火災保険の加入状況、ハザードマップなどで自宅周辺の危険を把握しつつ、万が一浸水被害にあった場合に備えて心の準備もしておきたい。
【取材協力】
震災がつなぐ全国ネットワーク
https://blog.canpan.info/shintsuna/
【写真・イラスト提供】
「震災がつなぐ全国ネットワーク作成: 水害後の家屋への適切な対応 」
http://blog.canpan.info/shintsuna/archive/1420
アイキャッチ画像:国土交通省「水害レポート2019」より
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