団地の空き店舗300坪を活用し、「ソーネおおぞね」がオープン

公社住宅の1階にオープンした「ソーネおおぞね」。キッズコーナーで遊ぶ子どもを見守りながらランチができると口コミで知り「初めて来ました」というママ友仲間も公社住宅の1階にオープンした「ソーネおおぞね」。キッズコーナーで遊ぶ子どもを見守りながらランチができると口コミで知り「初めて来ました」というママ友仲間も

「団地の高齢化が進み、空き室が増えてきた」「ごみが増え続け、自治体の処理費用がかさむ」「子どもたちの安全な居場所がほしい」「高齢者や障がい者、引きこもりの方にもっと活躍の場を」…。どの市町村にもありがちな“まちの課題”について、ひとつの施設でまるごとサポートできる、と聞くと驚くのではないだろうか。

そんな可能性に満ちた複合施設「ソーネおおぞね」が2018年3月、名古屋市北区の大曽根住宅1階にオープンした。約300坪の空き店舗部分に、朝から晩まで食事ができる「ソーネカフェ」、焼き立てのパンと地産地消の食、雑貨が揃う「ソーネショップ」、資源を買取る「ソーネしげん」、暮らしの相談ができる「ソーネそうだん」、格安のレンタルスペース「ソーネホール」という5つの機能が集約されている。

スーパーが撤退し空き店舗になっていた団地1階を、見事によみがえらせた「ソーネおおぞね」。年配の方々から親子連れまで幅広く集う“にぎわいの場”になっている。なぜ民間でこのような施設を立ち上げたのか、全国にも広がる「しげんカフェ」とは? キーマンの2人に話を聞いてきた。

東京・神戸のデザイナーズ集団によるおしゃれな内外観

「ソーネおおぞね」を手がけているのは、障がい者の就労支援を行うNPO法人わっぱの会。ベーカリーや農場といった障がい者の共働事業所を運営する福祉団体が、なぜこの施設を立ち上げたのだろうか。

「公社団地の大曽根住宅は築45年が経ち、約480戸のうち3分の1が空き室でした。空き住戸の活用として “分散型のサービス付き高齢者住宅”を公社に提案した企業から、『1階の空き店舗を運営しないか』と声がかかったのがきっかけです。ちょうど、6カ所の共働事業所が満員で障がい者の働く場を確保したかったことと、『しげんカフェ』を名古屋で始めてみたいと考えていたタイミングでした」(わっぱの会代表、斎藤縣三さん)

「しげんカフェ」の詳細は後述するが、愛知県津島市で元・市職員の浅井直樹さんが始めた「家庭の資源を買取り、そのポイントをカフェで利用できるシステム」のこと。
「しげんカフェに興味を持ったのは、障がい者の働く場が孤立するのではなく、地域と結びつき地域の方にも喜んでもらえる場にしたいという想いからです。空間が300坪と広かったので、ショップやホールなども盛り込みました」(斎藤さん)

地域に開かれた施設を目指すには、おしゃれなデザインがカギとなる。設計は東京の建築家が担当し、コンクリートむき出しの空間に木の温もりをプラス。愛知県豊根村の木材、名古屋市の街路樹をリサイクルした木材など地産地消の建材を使ったのもこだわりだ。また施設名称やロゴ、パンフレットは神戸のデザイナーに依頼。築45年の団地に新しい風を吹かせた同施設は、2018年「愛知まちなみ建築賞」にも選ばれた。

上左/「ソーネおおぞね」の外観。ソーネとはネットの「いいね!」ではなく「そうだね」と顔を合わせてつながってほしいという意味。上右/ショップは焼き立てパン「わっぱん」、産直野菜のほか、全国の福祉団体がつくるアイテムのアンテナショップにも。下左/カフェの左奥にホールがあり、会員は3時間1,000円と格安!(2019 年 12 月取材時)下右/街路樹のリサイクル木材でつくったテーブルと、カフェのモーニング上左/「ソーネおおぞね」の外観。ソーネとはネットの「いいね!」ではなく「そうだね」と顔を合わせてつながってほしいという意味。上右/ショップは焼き立てパン「わっぱん」、産直野菜のほか、全国の福祉団体がつくるアイテムのアンテナショップにも。下左/カフェの左奥にホールがあり、会員は3時間1,000円と格安!(2019 年 12 月取材時)下右/街路樹のリサイクル木材でつくったテーブルと、カフェのモーニング

住民の手でリサイクルをする「しげんカフェ」とは?

年末の大掃除でモノを処分するとき、「あぁ、もったいない…」と心苦しく感じなかっただろうか。自治体のリサイクルは回収日や品目が限られているが、都合のいい時に幅広いアイテムを持ち込んでリサイクルやリユースできるのが「しげんカフェ」。処分という罪の意識が軽くなる。

ソーネおおぞねにある「ソーネしげん」では、新聞・チラシ、段ボール、紙パック、アルミ・スチール缶、ペットボトルとそのキャップ、金属、発泡トレー、ガラス瓶など多彩な品目を回収している。古着やカバン、靴、洋食器、ぬいぐるみも回収し、質のいいものは併設のリサイクルショップで販売する循環システムもさすがだ。

持ち込んだ資源は計量し、買取りやソーネカフェで使えるポイントに交換できる。目安としては朝夕刊1ヶ月分(約20~25キログラム)が約50ポイントで、1ドリンク分300ポイントを貯めるには半年かかる。でも金額よりも「ほぼ毎日持ち込める」点が好評だそう。昨秋からは家庭の生ごみを回収し、たい肥化する取組みもスタートした。

「ソーネしげんには、悪臭がありません。対面型の資源買取りのため、皆さんがラベルをはがし、キャップを取り、容器を水洗いして持ってきてくれるんです。一般的なリサイクル施設は容器に残ったしずくの腐敗により悪臭が発生し、都心や住宅地では難しいとされてきましたが、対面型によって団地の1階で実現できました」(しげんカフェシステムズ代表、浅井直樹さん)

ペーパーレス化で新聞や雑誌の持ち込みが減っているが、「ネット通販が広がり、段ボールの持ち込みが増えました」と浅井さんペーパーレス化で新聞や雑誌の持ち込みが減っているが、「ネット通販が広がり、段ボールの持ち込みが増えました」と浅井さん

「しげんカフェ」の取組みは、全国5カ所に拡大中

「しげんカフェ」は元々、愛知県津島市で浅井直樹さんがたった一人で始めた取組みだ。資源買取り施設を併設した明るい津島のカフェは、高齢者の働く場にもなっている。

「津島市は、1979年に新焼却炉の建設が住民の反対運動で中止になり、そこからごみの分別にいち早く注力した自治体です。私は市職員としてごみ関連の業務に関わり、さまざまな課題が見えてきました。実は自治体がリサイクル資源を回収し始めた歴史は浅く、1990~2000年くらいから。それまでは民間業者が一般の家庭を回って集めることが多かったんです。昭和後半までちり紙交換のトラックが来ましたよね」(浅井さん)

法改正によって自治体によるリサイクルが進んだものの、利益目的ではないため、負担は増えるばかり。一方で2001年以降、中国が先進国の再生資源を原材料として求めるようになり、資源の買取り価格が上がってきた。
「資源がお金になるのならば、リサイクルは民間の手でおしゃれなビジネスとして展開できる。ごみ回収は自治体、資源回収は民間とすみ分ければ、自治体の財政を子育てなどの必要な分野に回せます。そこで市役所を早期退職して、2013年に『しげんカフェ』を立ち上げました」

回収型ではなく市民の方が持ち込む方式のため、知名度を上げるために「カフェ」にした。オープン当初から「完全禁煙、キッズコーナー完備」を実施し、エコ意識が高いファミリー層を取り込んだのも先見の明がある。「しげんカフェ」という新しい形は全国的にも注目を集め、津島市と名古屋市、岐阜県海津市、東京都荒川区、東村山市という5カ所でスタートしているそうだ。

左から/一般社団法人しげんカフェシステムズの代表、浅井直樹さん、NPO法人わっぱの会の代表、斎藤縣三さん。資源の買取り価格は中国の再生資源輸入規制といった世界情勢に左右され、変動が激しくなった。「しげんカフェの認知度を高めて、回収量を増やしていくのが目標です」左から/一般社団法人しげんカフェシステムズの代表、浅井直樹さん、NPO法人わっぱの会の代表、斎藤縣三さん。資源の買取り価格は中国の再生資源輸入規制といった世界情勢に左右され、変動が激しくなった。「しげんカフェの認知度を高めて、回収量を増やしていくのが目標です」

「ソーネおおぞね」では子ども向けイベントもいっぱい!

「ソーネおおぞね」では、子どもの居場所づくりにも一役買っている。例えば2ヶ月に1度、子ども食堂「ソーネ みんなでごはん」を開催。子どもは無料、大人は200円で利用でき、ボランティアが食事を振る舞っている。また子どもの職業体験イベント「ソーネ キッズカフェ&ショップ」もこれまでに3回開催。子どもたちはカフェで働き、得た通貨を使ってソーネホールに並ぶお店で買い物を楽しんだ。

さて縁の下の力持ちである2人のバイタリティは、これにとどまらない。

「これからはソーネおおぞねを拠点にして、地域へサービスを広げていきたいですね。一人暮らしの方に食事を届けて、その帰りに資源回収をすることも可能だと思います」(斎藤さん)
「老人ホームへの入居などで生前整理を希望される方の片付けを手伝い、不用品をリサイクルするサービスを考えています。引きこもりの方などの新たな活躍の場になればいいですね」(浅井さん)

「ソーネおおぞねのような施設は団地だけでなく、シャッター商店街や山村部など過疎化に悩む地域にも応用できると思います」という2人。この言葉から公助に頼り過ぎない、自助共助の新たなまちづくりが見えた気がした。

「ソーネ キッズカフェ&ショップ」では通常営業をするカフェで働くため、子どもたちは真剣そのもの。前回は160人ほども集まったそう

「ソーネ キッズカフェ&ショップ」では通常営業をするカフェで働くため、子どもたちは真剣そのもの。前回は160人ほども集まったそう

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