オール富良野でもてなす複合施設

リノベーションされる前のデパート(上)と後の「コンシェルジュフラノ」(下)リノベーションされる前のデパート(上)と後の「コンシェルジュフラノ」(下)

「フラノマルシェ」でまちなかに賑わいをもたらした「ふらのまちづくり株式会社」は次に、空きビルのリノベーション事業に挑んだ。インバウンド(訪日旅行客)と長期滞在者の需要を見込み、「オール富良野」でもてなし、発信する複合施設「コンシェルジュフラノ」だ。行政との連携で自己資金の負担を抑え、観光分野での連携強化も狙った。フラノマルシェに続く「まちの縁側」としての期待も背負い、2018年6月にオープンした。

コンシェルジュフラノはJR富良野駅から徒歩約3分。市民に親しまれながらも撤退した老舗デパート「三番舘ふらの」のビルを再生した。4階建てで延床面積は4,900m2。1階のエントランスすぐの場所には多言語に対応したインフォメーションコーナー(観光協会)、サービスカウンターとお土産が並ぶ物販店(ともに富良野物産観光公社)、農村レストランと続く。2階はシェアオフィスで、商工会議所や富良野市商工観光課、民間企業の事務所が並ぶ。3階は若者が長期滞在しやすいホステル「TOMAR(トマール)」が入居する。4階はコミュニティFMのスタジオが入る。

富良野の課題を一手に解決し、ニーズを満たす場に

リノベーションで官民ない交ぜの複合施設にしたのには、いくつもの狙いがあった。経緯を説明してくれたのは、仕掛人の1人、ふらのまちづくり株式会社の西本伸顕社長だ。

2016年春ごろ、西本社長の耳に、撤退の情報がもたらされた。西本社長は「富良野のまちにとってシンボリックな建物。観光都市として、大きなマイナスのイメージになる。幽霊屋敷にするわけにはいかない」と検討を急いだ。試算してみると、必要な費用は解体に1億円、建て替えに20億円ほど。引き受け手はスムーズに見つかりそうもなかった。リノベーションでも費用がかさみ、大きな収益を生むスキームが見込みづらかったため、行政の協力を前提に活用法を検討した。

ふらのまちづくり株式会社が、地域で指摘されている課題やニーズをあらためてまとめたところ、インバウンドの増加を見込んだ多言語対応が求められていた。中心市街地に宿泊施設がほぼなく、ハイシーズンは宿が足りなくなる問題もあった。地元発信で楽しみ方を提案する「着地型観光」の拡充が叫ばれる中、観光協会だけでなく、行政や商工会議所といった多様な主体が、まちぐるみで知恵を出し合う必要があった。富良野市は美瑛を含む広域の情報を発信するインフォメーション施設を新設する計画があり、老朽化したビルに収まっていた商工会議所が移転を検討していたという背景もあった。

コンシェルジュフラノ内にあるホステル(左)と着地型観光のサービスカウンター(右上)、入居する富良野商工会議所(右下)コンシェルジュフラノ内にあるホステル(左)と着地型観光のサービスカウンター(右上)、入居する富良野商工会議所(右下)

行政との連携やリノベーションの工夫でコストを抑制

富良野市が買い取った、2階のシェアオフィス部分富良野市が買い取った、2階のシェアオフィス部分

「商工会議所や富良野市からのテナント収入という経済的な理由もありますが、もっと前向きな理由もあります。富良野のいろいろな課題を解決し、さまざまなニーズをすべて満たすことを考えました」と西本社長。国から約2億5,000万円の補助金を得て、富良野市に、2階のシェアオフィス部分を約1億3,000万円で購入してもらった。自己資金約3億7,000万円を加えて総額約7億5,000万円をかけ、2017年6月にリノベーションを始めた。

費用を抑えながらデザイン性を高めるための工夫が随所にちりばめられた。1階やホステルフロア(3階)の天井の一部はあえて躯体むき出しの「スケルトン」とし、デパート時代の防火シャッターは壁として活用。ホステルのトイレには、タイル壁をそのまま生かした。各種設備も買い替えずに利用しているものも多い。一方で、北海道らしさの演出にもこだわり、内装は道産のトドマツ、カラマツ、タモ、カバを採用した。そして2018年6月、「オール富良野」を体現するコンシェルジュフラノが稼働を始めた。

「フラノマルシェ」との相乗効果で観光客の取り込みを

以降、2019年3月末までに来訪者は13万人を数え、売上高は1億円を突破。ホステルではゲスト同士が交流する様子も見られるようになった。また2010年に開業した「フラノマルシェ」から続く中心市街地の回遊拠点=「まちの縁側」が増えたことで、相乗効果が期待されている。

コンシェルジュフラノがオープンしてから、周辺に新しい飲食店がお目見えし、居酒屋やカレー店、カフェなどが開業した。また富良野駅近くでリゾートホテル「ラビスタ富良野ヒルズ」の建設が始まるなど、新しい動きも生まれつつある。コンシェルジュフラノの1階には、スポーツ用品店が入居する予定で、アウトドアを楽しむ自転車やスキーの貸し出しなどを通して、集客力が高まることが見込まれている。

ふらのまちづくり株式会社は、フラノマルシェ、コンシェルジュフラノと相次ぐまちなか活性化策を打ってきたが、西本社長は今後、着地型観光を売り出す機能の強化や、夜に回遊できる魅力の創出に力を入れるという。「まちなかを回遊してもらうには、拠点は複数ないといけません。地元客と観光客の両方から支えられる、しっかりとした『稼ぐエンジン』を回し、地元の人の暮らしが豊かになるようにしたいですね」

着地型観光の強化につながるリニューアルが予定されている1階着地型観光の強化につながるリニューアルが予定されている1階

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