2018年4月の宅建業法改正で、インスペクション斡旋の可否、重要事項説明告知、書面交付が義務化したが…

住宅政策においてストック住宅の維持・管理が急務となっている。

少子化・高齢化が進み住宅需要が徐々に減少する中、新築主導によるスクラップ&ビルドを続けることには、限界があるからだ。総務省住宅・土地統計調査では、平成25年時点で総住宅数6,063万戸に対して総世帯数5,245万世帯と既に818万戸もの住宅が余っている計算になる。

余剰住宅をこれ以上増やさないためには、新築住宅を大量に造り続けるよりも今あるストック=既存住宅を適切に維持管理して使い続けること、および良質なストック住宅を増やすことがポイントとなる。
そのためには住宅の健康診断=インスペクションは欠かせない条件だ。

だが、日本では新築信仰が強く、なかなか既存住宅の利活用が進んでいない。
既存住宅を購入してそのまま住むにしても、リフォームをして性能と居住性を高めるとしても、一方でインスペクションは、売主にとっては瑕疵が発見され希望価格で売れなくなるリスクがあり、仲介業者にとっては手間のかかる売却手続き、という認識が多数を占めるようだ。

こういった現状を解決していくにはどうしたらよいのだろうか。
宅建業法の改正から約1年を経て、インスペクション普及のための課題と解決策について有識者に聞いた。

2018年4月の宅建業法改正で、インスペクション斡旋の可否、重要事項説明告知、書面交付が義務化したが…

海外に学び、仕組みを整えることが必要~大西倫加氏

<b>大西倫加(おおにし・のりか)</b>:さくら事務所代表取締役社長。広告・マーケティング会社などを経て、2004年に個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」へ参画。広報室を立ち上げ、マーケティングPR全般を行う。2013年代表取締役に就任。2008年のNPO法人 日本ホームインスペクターズ協会設立時より理事を務める。不動産・建築業界を専門とした執筆協力・出版や講演多数。大西倫加(おおにし・のりか):さくら事務所代表取締役社長。広告・マーケティング会社などを経て、2004年に個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」へ参画。広報室を立ち上げ、マーケティングPR全般を行う。2013年代表取締役に就任。2008年のNPO法人 日本ホームインスペクターズ協会設立時より理事を務める。不動産・建築業界を専門とした執筆協力・出版や講演多数。

宅建業法改正によるインスペクション説明義務にともない、さくら事務所には宅建事業者から「どのようにすればいいのか」といった問合せは増え、インスペクションの実施総数が増加傾向にある。
とはいえ内訳を見ると、増加の多くは「契約後」所有者によるインスペクション。いわゆる売買時点での建物状況調査ではない。

売買時点にインスペクションを入れられず諦めたが、やはり建物への不安がぬぐえず瑕疵担保期間にインスペクションを入れたいという要望である。売主に建物状況調査を説明した時点で同時に買主側からのインスペクションも拒否された、そもそも買主は建物状況調査を説明されなかったという話も聞く。

先日、アメリカ最大のインスペクション団体によるカンファレンスで情報交換をしてきた。40年の歴史をもつアメリカのインスペクションは州にもよるが取引の7~9割で活用され、買主主導である。「売主側による情報開示は100%信じられない・仲介との癒着を防ぐ・建物コンディションが変わるリスクもある」ためだ。 

契約後に買主が一定期間、インスペクションや契約書類の精査期間をもてる代わりに、そこで申し立てなかったことは売主・仲介ともに遡及されることがない。逆にインスペクションを拒めば建物不具合があると責任が大きくなるため、仲介も買主インスペクションを推奨・協力している。癒着の疑義を生まないよう、仲介が特定インスペクターのみを斡旋することもない(複数を紹介)。

不動産取引の透明化、安全性向上には日本でも買主が内見時など早い段階でインスペクションの権利を告知され、実施期間をもてるなどの仕組み導入が必要だと考える。

実態は宅建業者のミスリード?宅建業者の選別が重要~高橋正典氏

<b>高橋正典(たかはし・まさのり)</b>:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など。高橋正典(たかはし・まさのり):不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など。

「お客さんがインスペクションいらないって言うんだからさあ、仕方ないよな」私が先日耳にした、ある不動産仲介会社の営業マン同士の会話である。この会話が、この一年間思うように「インスペクション」が普及していない実態を示していると言えるだろう。

そもそも宅建業者は建物に関する知識があまりない。「宅建士」(旧;宅地建物取引主任者)という資格をご存知の方も多いと思うが、この試験は出題50問中、建物に関する知識を問う問題は2問程度。不動産とは「土地」と「建物」からなるもので、本来この「宅建士」たる者は「建物」に関する知識もあるレベル以上有しているべきなのだが、実際にはそのような知識をもっている者は少ない。そんな中、この「インスペクション」の斡旋の可否等を説明することが義務化されたのだから、なるべくこの問題を避けたいというのが本音だろう。

私の会社は、昨年の「改正宅建業法」施行以前の約10年前から既存住宅の取引においては「インスペクション」を実施してきたが、これまで購入者で「いらない」或いは「不要」だと答えた消費者は一人としていない。また、売主にとっては自らの建物の素性が明らかになることで、問題が発見されて売りにくくなると言う声もあるが、私の会社では売却をお任せ頂いたお客様で「やめてほしい」或いは「やって欲しくない」と答えた人もまた一人としていない。この差はいったい何なのか?

本来は、既存住宅を購入する消費者にとって「購入する物件のリスクを知る」権利なのだから、宅建業者に何を言われようと行使すべきものだが、現実には消費者もそこまでの知識を有している人が少ない。したがって、面倒くさい問題は避けたいという宅建業者のミスリードに導かれてしまう……これが実態だろう。事実を隠して売りたい「売主」も、リスクを隠されて買いたい「買主」もいないのだ。間に入る宅建業者の選別がもっとも重要になっていくだろう。

時代の変化に対応し、安心安全な取引環境の整備を~渋谷貴博氏

<b>渋谷貴博(しぶや・たかひろ)</b>:国土交通大臣指定 住宅瑕疵担保責任保険法人 国土交通大臣登録 住宅性能評価機関 株式会社 住宅あんしん保証 不動産事業部  部長代行。宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、管理業務主任者。渋谷貴博(しぶや・たかひろ):国土交通大臣指定 住宅瑕疵担保責任保険法人 国土交通大臣登録 住宅性能評価機関 株式会社 住宅あんしん保証 不動産事業部 部長代行。宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、管理業務主任者。

本来、商取引とは、需要サイド(以下「買主」という)と供給サイド(以下「売主」という)を結びつける機能を果たしているもので、買主の希望に見合う「商品の探索と評価」に始まり、売主の「商品の供給、商品の情報提供、販売促進、取引契約、商品の引渡しの各段階」を経て行われる。さらに引渡し後に商品の欠陥が発覚した場合、売主はその補償を求められる。では既存住宅の売買において商品の情報提供や保証は充分に果たせているのだろうか。

通常、既存住宅の売買は、売主が希望する価格や条件があり、買主がそれに同意して取引が成立するケースが多い。しかし、物件の状態に関する情報提供が充分でなく、また不動産では短期間しか瑕疵担保責任を負わない契約が大半であり、売買後にトラブルが発生するケースも一定数見られる。これが買主に「中古物件はよくわからないから不安である」との認識に繋がっている。

国はインスペクションについての説明を宅建業者に義務付ける宅建業法の改正を行ったが、売主や買主、不動産業者の認知度が非常に低い状態である。また、その説明も充分なものでなく、買主に正確に伝わっていない場合も散見される。今後人口減少により空き家は増加傾向にあり、中古住宅は買い手市場に変化していく可能性が高い。さらに、各種ポータルサイトを中心に、買主にメリットがある情報提供が活発化している。それらに鑑みると、買主が満足できる取引環境が整っていく傾向にあり、建物の劣化状況や補修費用やその他情報の開示、瑕疵保証を含む一定の保証があるなどが購入検討の条件になっていくであろう。

古くからの慣習を続けるのではなく時代の変化に対応し、売主、不動産業者が率先して安心安全な住宅取引を提供する意識を持つことが重要である。

2019年 03月12日 11時05分