防災と同時に求められるスムーズな復興

1995年の阪神・淡路大震災、そして2011年の東日本大震災。そのほかにも多くの地震や台風の発生、噴火、洪水、土砂災害、大雪など、「自然災害大国」ともいえる日本。自然災害はいつ起こるか予測できないとはいえ、日頃から防災対策をしておくことで、被害を少なくすることは可能だ。また自然災害は、人命のみならず、電気・ガス・水道、電話などのライフライン、さらに交通網の遮断など日々の生活や経済活動にも大きな影響を及ぼすため、いかに災害後の復興を速やかに行えるかも大きな課題となる。

東京都では、大規模な震災が発生した際の復興を円滑に進めるため、2000年度から都民参加型の「震災復興シンポジウム」を開催。震災後のまちづくりのあり方について、都民と共に考える場を設けている。
2019年1月15日、糸魚川市の太田亘復興管理監による基調講演や東京都からの報告、パネルディスカッションなどが行われた「木造住宅密集市街地の新たな復興」をテーマとしたシンポジウムに参加した。

震災に備え、都は無電柱化などを推進

開会の挨拶を行う小池都知事。「この震災復興シンポジウムも事前復興の取り組みの一環です。発災後の都市復興のあり方を都民の皆さまと行政が共に考える機会として、平成12年度から毎年開催しています」開会の挨拶を行う小池都知事。「この震災復興シンポジウムも事前復興の取り組みの一環です。発災後の都市復興のあり方を都民の皆さまと行政が共に考える機会として、平成12年度から毎年開催しています」

開会にあたり、小池都知事が登壇し、挨拶を行った。「あの時のことを忘れることができない」と話し始めたのが、24年前に起こった阪神・淡路大震災の出来事。テレビ画面では知人のNHK記者が報道を行っており、電柱が倒れている様子を見て「大変なことが起こった」と実感したという。

阪神・淡路大震災の教訓として、「災害は単発で起こるわけではなく、同時にさまざまなことが起こる。そのために何を用意しておくかが大事」であること。「電柱が倒れると救急車や消防車、自衛隊、警察などの緊急車両の通行が妨げられるため、地震国だからこそ地域によっては無電柱化を進めるべきだと考え、東京都でも無電柱化を推進している」などと、事前の備えの重要性を訴えた。

また、「自然災害は防ぎようがないが、工夫によって減災できること」「どのようにして減災するか、さらに事前の防災との組み合わせが大切」と説いた。いつ起こるかわからない災害に備え、道路整備や建築物の不燃化や耐震化といった防災都市づくりを進めていく必要があると話し、被災した場合も迅速に都市の復興が進められるように、東京都では発災後の復興手順や執行体制をあらかじめ検討し、東京都震災復興マニュアルとしてまとめるなど、全国に先駆けて事前復興の取り組みを進めていると述べた。

「都内には約1万3,000ヘクタールもの木造住宅密集市街地が点在しています。自身の仕事や地域をイメージしながら、首都直下型地震やさまざまな災害に遭ったときにどうすればよいかを考えるきっかけにしてほしい」と話を締めくくった。

2016年12月に大火に見舞われた糸魚川市の復興

糸魚川市 産業部 復興推進課 復興管理監の太田亘氏糸魚川市 産業部 復興推進課 復興管理監の太田亘氏

基調講演に登壇したのは、糸魚川市 産業部 復興推進課 復興管理監の太田亘氏。『糸魚川市大規模火災からの復興』と題し、2016年12月22日に発生した火災後のソフト・ハード両面における復興まちづくり計画と、今後の課題などについて講演を行った。

2016年12月の大火の原因は、ラーメン店のコンロの消し忘れ。フェーン現象に伴う強い南風により延焼が拡大し、焼損棟数147棟(全焼120棟、半焼5棟、部分焼22棟)、焼失面積約4万m2、負傷者17人という、鎮火まで約30時間を要した大きな火災となった。これは1976年の酒田大火災以来40年ぶりの市街地大規模火災だという。

今回の大火を誘引した主な原因について太田氏は、(1)老朽木造家屋の密集や狭い道路、広場の不足など、都市基盤が整備できていなかったこと、(2)強風による飛び火で消火活動に手間取ったこと、(3)小規模消防本部の消防力の限界の3点を指摘。さらに、人口減少や高齢化社会による地域のコミュニティ力の低下などを挙げた。

大火後の復興まちづくり計画では、初期段階でどのような方向性を目指すのかが検討されたという。特に、火災に強いまちづくりを目指すために、全面的な区画整理等の実施とあわせ不燃化を行う「抜本的な基盤整備を行うまちづくり」を目指すのか、現状の道路網を前提とした建て替えにより不燃化を図る「修復型のまちづくり」を目指すのかが話し合われ、糸魚川市では「修復型」を選択。

復興の中心となったのが、市民と、また国や県との意見交換を両輪で行う「糸魚川復興まちづくり推進協議会」。12月の大火から8ヶ月後の8月22日、復興まちづくり計画が公表された。
当面は迅速な対応が可能な被災した4haを中心としたエリアから着手し、トップダウンではなく住民の意向に沿った復興を選択。また、雁木や酒蔵など景観を残すことにも配慮された。住民の意向を把握するために発災の翌日から相談窓口を設けたほか、スピード感のある対応をするために応急仮設住宅(新たな仮説住宅の建設ではなく、借上げ方式によるみなし仮設住宅)を採用し、希望者や条件等のマッチング、入居の受付などを行った。また、がれきの撤去に関しては市が建設業協会に一括発注することで個人負担をゼロにしている。

防火水槽の整備や延焼遮断帯の形成、防火器具等の工夫で火事に強いまちに

太田氏のスライドから。強風や飛び火などの影響もあり大火となった太田氏のスライドから。強風や飛び火などの影響もあり大火となった

都市構造の改善については、本町道路沿いの建物を準耐火構造にしたほか、重点地域には助成金を払い外壁や軒裏のすべてを防火構造にして火事の広がりにくいまちに。消火活動に支障が出ないように、防火水槽などの整備や自然水を活用できる取水口の設置も積極的に進めている。
「初期消火態勢を強化するために、小口径ホースの配備にも力を入れています。通常の65ミリの消火ホースを40ミリの小口径にすることで住民の皆さんにも扱えるようにしました。40ミリの消火ホースは私でも扱うことができました」

今後の課題についても述べた。
「暮らしの復興とは、『産業の復興』『コミュニティの復興』『住宅の復興』があり、その3つの要素を取り戻すプロセスだと思います。また、復興には『被災者の生活復興』と『被災地の新たなまちづくり』という2つの側面もあります。被災地全体のまちづくりでは、活力が低下している中心市街地をどのように活性化していくのかが今後の課題です」

また、太田氏は復興に求められるものとして、被災者の速やかな生活再建を図る「回復性」、ソフト・ハード両面から大火を繰り返さない安全・安心なまちづくりのための「安全性」、息の長い取り組みになると前置きしながら、大火が提起した社会的問題と向き合う「改革性」の3つを挙げる。
「被災前からの、平時のまちづくりがとても大事で、災害に遭ったときに動きだしのイメージがあれば、どちらの方向に進んでいくか考える時間が短くて済むでしょう。被災後、糸魚川市では広場を使って『復興マルシェ』を開催し、青空市で顔見知りになっていただくなど、コミュニティの基礎をつくっています。地域活性化のための小さな一歩だと考えています」

国の防災対策に加え、東京都独自の補助金や税の減免も実施

都からの報告として登壇した、東京都 都市整備局 市街地整備部 防災都市づくり課長の栗原聰夫氏都からの報告として登壇した、東京都 都市整備局 市街地整備部 防災都市づくり課長の栗原聰夫氏

太田氏の講演の後、東京都 都市整備局 市街地整備部 防災都市づくり課長の栗原聰夫氏の「東京都における木造住宅密集市街地の将来像」と題した報告が行われた。

今後30年の間に70%の確率で発生するといわれている、首都直下を震源とする巨大地震。東京都では東京湾北部地震や多摩直下地震における被害を想定。建物に関しては、阪神・淡路大震災や東日本大震災よりも大きな被害があると想定している。
「地震の備えとして、平時からの準備が重要です。建物の不燃化など減災対策・防災都市づくりのほか、事前復興(迅速な都市復興に向けた事前準備)も極めて大事だと考えています。
東京都には、1万3,000ヘクタールほどの木造住宅密集地域があり、これは世田谷区の倍以上の大きさになります。6,900ヘクタールほどの整備地域(木造住宅密集地域のうち特に甚大な被害が想定される地域)など、もし震災が起こったら甚大な被害が想定される場所もあります」

そこで東京都では「延焼遮断帯の形成」や、「安全で良質な市街地の形成」に注力。延焼遮断帯の形成では、基本的に幹線道路の両側の建物を不燃化することで火が燃え広がらないような取り組みを行っており、1キロ四方ぐらいのマス目状の延焼遮断帯で囲むような事業を展開している。
安全で良質な市街地の形成に関しては、老朽建物の除却や不燃化、防災拠点や延焼の防止に役立つ公園や広場の整備、緊急車両が通行できるようにする生活道路の整備や、建て替えを可能にする細街路の整備などを進めている。

これらの事業は国によるものだが、東京都ではさらに一歩踏み込んだ取り組みも行っている。国では建て替えの場合、マンションやアパートにしなければ補助金が支給されないが、都では一戸建ての場合にも補助金を支給。また、不燃化建て替えを行った場合には固定資産税と都市計画税を5年間減免。建物を除去する場合はほぼ全額補助できるように都と地元区が連携して助成を行っているという。

都独自の取り組みも紹介された。
「被災した場合に、都民や行政職員が迅速に復興に取り組めるように、あらかじめ災害後の復興手順や執行体制を検討し、『東京都震災復興マニュアル』としてまとめています。また、地区のコミュニティを維持しながらまちづくりが進められるように、民有地を利用し、復興用の仮設住宅や店舗、集会所などを一時的に建てる『時限的市街地』づくりを支援する施策も整えています」

また2017年9月には、災害時も都市活動と都民の生活を継続し、速やかな復興につなげるための「都市づくりのグランドデザイン」を公表。平時から大規模な災害の発生を想定し、時代を先取りした復興に関する計画や仕組みを持つことで、発災後には東京をさらに強靭化できるようにしているそうだ。

まだ世田谷区の倍ほどの木造住宅密集市街地が残っている東京都。もし大地震が起きれば、東京でも大規模火災が発生することが予想される。防災のためのまちづくり、防災の意識づけや訓練が重要であることは言うまでもない。いつ発生するかわからない自然災害に備え、常に個人個人で備えを万全にしておくことが一番の防災になるだろう。しかし、いざ災害が起これば、被災後の復興も大きな課題となる。個人と行政が一体となった事前復興の必要性も強く感じた。

2019年 03月04日 11時05分