藤の花、天王祭、織田信長――。津島市は、観光資源の宝庫
名古屋駅から名鉄で約24分の愛知県津島市について、どんな印象をお持ちだろうか。愛知県民である筆者も実は初めて訪れた。「そういう声をよく聞きます」と津島市役所シティプロモーション課の山本幸恵さんはほほえむ。
まずは、津島市の見どころを紹介しよう。まちのシンボルである「津島神社」は、全国に約3,000社ある天王信仰の総本社だ。祭りも有名で、春は壮麗な藤の花が咲き誇る「尾張津島藤まつり」、夏はまきわら船の幻想的な光景で知られる「尾張津島天王祭」が行われ、季節ごとに大勢の観光客が訪れる。
さらに時代を遡ると、津島には貿易の拠点となる天王川の湊(みなと)があり、織田家3代にわたり経済の要所として栄えた。織田信長が天下取りを成し遂げたのは津島の財力があったからと言われ、「信長の台所」とも称された歴史あるまちなのだ。
このように歴史と伝統が残る津島市だが、祭り以外の知名度は高いとは言い難い。「観光客が長く滞在できる観光地」を目指し、津島市が取り組むプロジェクトについて取材してきた。
3年前にスタートした『滞在型観光地域再生プロジェクト』とは?
祭りは有名だけれど、それ以外の時期に観光で訪れる人が少ない、というのが津島市の課題のひとつ。またバブル崩壊や外国製の安い織物の進出とともに地場の毛織物産業が衰退し、平成当初までにぎわっていた目抜き通り「天王通り」は現在約20%が空き家になるなど、まち自体の活気も減ってきた。
そこで津島市ではにぎわい創出に向けて、2016年に『滞在型観光地域再生プロジェクト』を立ち上げた。「観光スポットが豊富な津島駅西地域には観光客が宿泊できるホテル・旅館といった宿泊施設が1軒もなく、お祭りで訪れる観光客の滞在時間が短いのが課題でした」と山本さんは話す。
初年度の2016年に観光コンテンツを掘り起こした結果、目をつけたのが「お寺」だ。「市民の方から提案があり、お寺の宿坊で滞在時間を伸ばそうと考えたのです」。
2年目となる2017年、宿坊から派生し、市内の空き家をリノベーションした「ゲストハウス」を運営する計画がスタート。同時にお寺での写経や座禅体験、名菓の手作り体験などの「体験プログラム」を用意した。
3年目となる2018年。インバウンド向けに体験プログラムとゲストハウス宿泊を組み合わせた旅行商品を造成した。「市内の店舗に体験の実施についてお願いしたところ、津島が元気になるためなら、と快く協力してくれました」と山本さん。市民の並々ならぬ“津島愛”に感激したそうだ。
世界をバックパッカーで旅した経験を生かし、管理人に
2018年4月、津島神社の周辺に3つのゲストハウスがついにオープンした。3軒を管理する田中裕樹さんは静岡県出身で、「正直なところ、津島市には何のゆかりもありませんでした」と振り返る。
ヨーロッパのゲストハウスで働きながらバックパッカーとして旅行していた経験を生かすべく、国内でゲストハウスの求人を探していたところ、偶然、津島市の取り組みが目に入ったという。
「僕の出身地である静岡県湖西市は競艇とともに栄えた市ですが、かつての活気が失われつつあります。それもあってか津島市と自分の故郷がリンクして見えました。でも面接で津島に初めて訪れたとき、マーケットとして可能性があると思ったのです。一番惹かれたのは、津島の『人のよさ』でした」(田中さん)
面接のためスーツ姿で津島駅に降り立った田中さん。昼間に若い男性が歩くのは珍しいらしく、お店の人から声をかけられ「面白い、人情が残っている」と思ったそうだ。実際ゲストハウスをオープン後、外国人観光客に日本語でどんどん話しかける街の人もいて、第一印象は間違っていなかった、と笑顔を見せる。
ゲストハウスを運営して約半年が経ったが、「利用状況はまだまだです」と田中さんは話す。
「利用者は、近くのテーマパークに行くため前泊する若い世代、御朱印巡りの方、名古屋近辺の宿を探す外国人観光客など多岐にわたります。選ばれる理由は1泊2,000円~という価格の安さですね。今はゲストハウスの認知度を上げるべく、価格優位を目指しています」。
まずは宿泊してもらい、津島市を肌で感じてもらうことから。飲食店MAPの配布や名所案内を行い、宿泊客の回遊を高めるべく工夫しているそうだ。
「御朱印ブームに頼らず、ゲストハウスを軌道に乗せていきたい」
『滞在型観光地域再生プロジェクト』は今年度でいったん終了する。3年間の手応えを聞いてみると「津島市は、1km2あたりのお寺の数が東海3県で一番多いことがわかりました。また、ちょうど『御朱印ブーム』のおかげで、絵付きの御朱印で有名な観音寺さんへ訪れた方が、観光マップ片手にまち歩きを楽しむ姿が増えました。その流れでゲストハウスに宿泊してくださる方やお寺体験を楽しむ方もいます。でも一過性のブームに頼らず、観光コンテンツを充実させていきたいと思います」と山本さんは話す。
プロジェクトの終了により、ゲストハウスも単独で事業を進めていくことになる。
「このゲストハウスとまち歩きツアーは『にぎわい創出機構OSHI』が運営しています。今後も市や地域の方、メンバーと連携し、宿泊+体験コンテンツを増やしていきたいです」と田中さん。第1弾として「着付け+抹茶」体験が宿泊料込みで6,800円というプランをつくり、外国人観光客向けにPRしているそうだ。
もうひとつ、ゲストハウス内に「コミュニティスペース」の新設も考えている。「交流目的でゲストハウスに宿泊する方も多いので、ソファを置いた憩いの場をつくり、地域の方とも気軽に交流できるようにしたいですね」。
2019年にはラグビーの国際大会、2020年に東京五輪、2026年は愛知県・名古屋市でアジア大会開催が決定。
「国際的なスポーツイベントが目白押しの今後はチャンスです」と目を輝かせる田中さん。歴史あるまちと若いパワーの連携で、津島市が新たな表情を見せてくれそうだ。
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