「自分たちでいつかつくりたい」を実現するワークショップ

「自分の手を使ってつくる」ということは、モノができあがる以外に、いろいろな拡がりを生む。そのことに気付かせてくれたのが「KUMIKI PROJECT株式会社」代表取締役/CEOの桑原憂貴さんだ。しかし、何かをつくりだすのはKUMIKI PROJECTのスタッフの手ではない。KUMIKI PROJECTは、自分たちで空間をつくりたい人たちがそれを実現できるように、手助けをする会社である。

京都市のあるビルの一室。木材にL字の定規をあてて長さを決め、ノコギリを使ってカットし、クギで固定する。空間のおよそ半分のスペースに小上がりができ、テーブルとイスがおかれ、窓側にはカウンターが取り付けられていた。作業をしているのは、この建物をオフィスとして使用している「株式会社坂ノ途中」のスタッフと関係者。プロの現役大工はどこにもいない。会社に食堂をつくろうと、2日間かけてワークショップに取り組んでいる真っ最中だ。

自分たちの空間を、自分たちの手でつくる。言ってしまえば何でもないことのようだが、これを行動に移すとなると、なかなか難しい。イメージをきちんとした形にすること、会社であれば日常業務があるなかで、いつ、どうやって時間をとるのか、その段取り、実行するのは誰か……。仕事としてでなくても、忙しい日常のなかで新たに何かをプラスするのは簡単なことではない。「できたらいいな」と思いつつ、時間が過ぎてしまうことはよくあることだろう。そんな人たちの背中を押してくれるのが、KUMIKI PROJECTなのだ。

坂ノ途中のリノベーションワークショップの様子(上段)。野菜たっぷりのまかないでランチタイム(下段)坂ノ途中のリノベーションワークショップの様子(上段)。野菜たっぷりのまかないでランチタイム(下段)

湧き出てくるアイデアを形にする出会い

左からKUMIKI PROJECTの桑原さん、坂ノ途中の松田さん左からKUMIKI PROJECTの桑原さん、坂ノ途中の松田さん

KUMIKI PROJECTは、いわゆるリノベーション施工会社ではない。桑原さんによると「つくりたい空間を聞いて、コンセプトを立てて、それを表現する会社」。つまり、建築の専門家ではなく、施工はしない。つくりたい人を導いてくれるファシリテーターのような存在だ。

「プロがやる部分はここまで、みんながやる部分はここまでと切り分けて、ワークショップを行って空間をつくります。ただ、僕らは〝空間をつくる〟と言っても、自分たちで考えてやり方を創造したり、想いを形にすることに協力しているのです」と桑原さんは会社のことを説明してくれた。

桑原さんが行っているのは、〝DIY(Do It Yourself)〟ではなく〝DIT(Do It Together)〟。その空間をほしい人たちが、協力しあって〝共に〟つくるのだ。コンセプトを明確にし、形にする。それをどうやってつくるのか、さらには道具や材料の手配まで。つくりたい人の要望を叶えられるように、KUMIKI PROJECTも一緒に考える。その点においては、KUMIKI PROJECTも、実際につくる人たちと〝共に〟つくっていると言えるだろう。同社は神奈川県・湘南に本社を構え、東北に拠点を置いて、各地でワークショップ形式のプロジェクトを月に5つ程度進めているという(2018年夏には京都にも事務所を開設予定)。

今回、KUMIKI PROJECTと食堂をつくっている坂ノ途中は「百年先も続く、農業を」というコンセプトを掲げて、「環境負荷の小さい農業を実践する農業者を増やすこと」を目指す〝野菜提案企業〟。栽培期間中に農薬や化学肥料を使っていない野菜の販売をしたり、新規就農者をサポートしたり。さらには自社でも農作物の生産を行っている。2009年7月に誕生した若い会社だが、現在、ラオスでのコーヒー栽培を行う事業も手掛けるなど、活動の幅を広げている。そんな同社が、KUMIKI PROJECTに問い合わせをしたのは、事務所移転がきっかけだった。

「以前からちょっとしたものは自分たちでつくっていたのですが、新しいオフィスになったら、『こんなことやってみたい』『あんなことやってみたい』っていうアイデアがたくさんあがってきて。やるなら自分たちでやろうと。でも通常の仕事もありますし、何から手をつけていいかわからず、結局ほったらかしみたいな感じで……。それで、Facebookで知ったKUMIKI PROJECTに連絡してみたんです」(坂ノ途中・マーケターの松田明日香さん)

考えたい。そう思えるだけで十分前に進んでいる

2017年秋、桑原さんが坂ノ途中を訪れ、ヒアリングをした後に、リノベーション案を提示。ところが、これが坂ノ途中スタッフの〝つくりたい欲〟を刺激した。

「スタッフも案を見て『いい感じ!』となったのですが、そのうちに『デザインや空間を考えるところから自分たちでやりたい』という想いが湧いてきてしまったんです。そこで、一旦立ち止まることに。桑原さんに入ってもらって、空間を考えるワークショップを2回開催しました。そこで出たいろいろなアイデアを整理して、落とし込んでいただいたのが今日つくっている食堂です」(松田さん)

そのワークショップでは、空間のリノベーションに関する話が半分、そのほかは、整理整頓をしなくてはといった業務上の改善点がたくさんあがってきたとか。そのころ、リノベーションのワークショップは、もうやらないかもしれないと思っていたと笑って振り返る桑原さん。

「それはそれでいいんです。みんなで考えて、自分たちで決めて、自分たちの手でつくって、動く。僕らが大事にしたいのはそういうこと。自然にそういう方向になっていったので、それで改めて素敵な会社だなって思いましたし、そんな会社と一緒にできたら、すごくうれしいとも思いました」

2回のワークショップを経てできた完成イメージ(イラスト提供:坂ノ途中)2回のワークショップを経てできた完成イメージ(イラスト提供:坂ノ途中)

被災地の集会所をつくることで、取り戻せた〝場〟の力

桑原さんが「自分たちで決めて、自分たちの手でつくって、動く」ことを大切に思っていることは、同社の創業にまつわるエピソードから強く感じることができる。KUMIKI PROJECTが最初に手掛けたのは、2013年、岩手県陸前高田市のある地区の集会所だ。

桑原さんは、それまで2年ほどこの地区で、東日本大震災の復興支援を行うコンサルタントとしてまちづくりに関わっていた。だがそこには、時間が経ってもなかなか前に進まない、被災地の現状があった。

「計画書を書いても、書いても、物事が全然動かない。行政の人もみんな必死でやっているんですが、道1本つくるにしても、意見がまとまらない。未曾有の災害に見舞われて、感情の行き場がない。やり場のない怒りや悲しみまでもが、まちづくりの会議で出てきてしまう。そんな日々を過ごしているうちに、『結局話し合っても何も変わらない』、そんな雰囲気が強まってきて……。だから、何か1つでもいいから形にしたい、そう思ったんです」

そこで、KUMIKI PROJECTを立ち上げて、津波で流された集会所をつくることに。住民たちが自らの手で平屋建ての小さな集会所をつくり上げた。

「これができたからといって何もかもが上手くいくわけではないけれど、地域が再生していくきっかけになったらと。自分たちの手でつくれば、何かが生まれるんですよ。あの人とあの人は意見がすごく対立していたのに、仲よく作業している、そんな光景を見られただけでも救われた気がしました」。完成した集会所では、料理教室が始まったり、お祭りの準備がされたり。桑原さんはここで〝場〟が持つ力を実感した。

「あの時見た光景をいろいろな場所で見たいんです」。この経験が桑原さんの活動の原点だ。

津波で多くの建物が流された陸前高田市で住民が協力して集会所をつくりあげた(写真提供:KUMIKI PROJECT)津波で多くの建物が流された陸前高田市で住民が協力して集会所をつくりあげた(写真提供:KUMIKI PROJECT)

〝共に〟そして〝自分たちの手〟でつくることの意味

2日間のワークショップを経て、坂ノ途中には、協力し合って自分たちの手でつくった食堂が誕生した。このワークショップがもたらしたものとは何だったのか? 松田さんに聞いた。

「もともとは小さい会社だったんですが、最近、スタッフの人数が増えて、グループが分かれたりして、業務で接点がない人たちも出始めていたんです。そんな人たちが一緒に作業をしている姿を見ると、なんだか感慨深いですね。〝場〟さえあれば、コミュニケーションができるのだけど、そういう機会が減っていた。みんなすごく生き生きとしていて、頼んでよかったと思います」。コミュニケーションがますます活発になり、今後もきっと社内のリノベーションが進んでいくだろう。

こうして〝共に〟つくることで生まれることがある。では、〝自分の手でつくる〟ことの意味とは何だろう。桑原さんはその答えを教えてくれた。

「どうやってつくっていくかを考えることは、すべてを含んでいます。段取り、準備、誰とつくるか。素材のことを考えたり、『やっぱり職人さんの仕事ってすごいよね』とつくった人のことを思ったりすることにもつながる。そういうことを考えられる人が増えてきたら、なんとなくまちで受けるサービスも、どういうふうに手元に届くのか、ちょっとでも思えるようになる。寛容になれるというか。早くて、安くて、便利なものがすぐ出てこなくて、イライラしてしまう人が多い社会よりも、『これどうやって出てきたのかな?』と思える人が増えた方が、きっと楽しいし、人に優しくなれるでしょう。便利になることはいいこと。だけどその便利さがどうやって生まれてきているかというのを、全く想像できなくなると辛いなと思うんです」

〝共に〟〝自分たちの手〟で何かをつくることは、互いへの理解や想う力という副産物をもたらす。そうして生まれたコミュニティには、共創する力が育まれるだろう。共につくる〝DIT〟が少しずつ、社会の在り方を変えていってくれると期待したい。

完成した食堂。作業をやりとげたスタッフの清々しい笑顔が印象的(写真提供:KUMIKI PROJECT、坂ノ途中)完成した食堂。作業をやりとげたスタッフの清々しい笑顔が印象的(写真提供:KUMIKI PROJECT、坂ノ途中)

2018年 08月10日 11時05分