水辺に舞い降りた白鳥をイメージした茶室

木々と水辺に囲まれ、美しい景観を楽しむことができる清羽亭木々と水辺に囲まれ、美しい景観を楽しむことができる清羽亭

前回「【白鳥庭園】中部地方の地形をモチーフに。名古屋市最大級の日本庭園の歴史と取り組み」では、その成り立ちから美しさを維持する取り組みを紹介した。今回は、庭園のほぼ中央に位置する茶室「清羽亭(せいうてい)」に迫りたい。

清羽亭は、1989年に開催された世界デザイン博覧会では、迎賓館として利用された。現在は名古屋市の有料施設として、茶会、展示会など予約制で一般に貸し出しているほか、白鳥庭園主催で年に7回ほど市民茶会(入園料+参加費が必要)や、第3水曜日に観覧無料の寄席が開かれている。

母屋は、主室となる一の間と二の間、そして汲江軒(きゅうこうけん)、澄蘆(ちょうろ)と名付けられた2つの茶室から成る。母屋から渡り廊下(廊橋)で池の中の中洲に建つイス席の茶室・立礼席(りゅうれいせき)につながっている。設計を手掛けたのは、茶室の第一人者といわれる建築家・中村昌生氏。庭園を設計した吉村元男氏から依頼されてのことだったという。

もともとは離れとなる立礼席の計画はなかったが、「中村先生が下見をされた時に、ちょうどこの島(中洲)ができていて、あの島にも建物を建てたいと思ったそうです。渡り廊下でつなぐと他にはない、流れを渡る茶室になるのではと。また、多目的に使っていただくには、イスでお茶を楽しんでいただく場所もあったほうがいいのでは、ということで立礼席が建てられることになったそうです」と、白鳥庭園管理事務所・所長の川島さん。

そして考えられたのが、この地に伝わる日本武尊の白鳥伝説にちなんだ白鳥のデザイン。離れが頭の部分、渡り廊下が首、母屋が胴体と羽となっている。

建物と庭が調和するように設計された空間。建築の苦労も…

水辺に浮かぶように立っている清羽亭は、庭園の中でも一番低い場所に建っている。

「日本建築の理想のひとつに『庭屋一如(ていおくいちにょ)』という言葉があります。建物と自然が調和していることを現します。最近では、京都の東山の別荘群ではそれを意識して造られたものも多いといいます。清羽亭はこの考えに基づいています」。

清羽亭の室内から外を見ると、床と水面の近さに驚く。白鳥庭園のテーマである水の恵みに親しみが持てる。そして、庭の自然にすっぽりと包まれている感覚にもなる。「庭屋一如」の考えから、白鳥が水辺に舞い降りたイメージを体感できるという実に趣のある造りだ。

こだわりの場所ではあるが、敷地内で最も低い場所ということで建設時には苦労もあった。「庭園が造られる初期段階から清羽亭の工事も始まりましたが、雨が降るとこの清羽亭の場所に水が溜まってしまい、かなり大工さんが苦労されたそうです。基礎が土砂で埋まってしまい、それをとって、また埋まっての繰り返しもあったとか。まだ池ができていなかったにも関わらず、池のようになってしまったり。低いところに建物を作るリスクですね」。

それを乗り越え、見事な数寄屋建築の茶室が完成した。

清羽亭の母屋の主室、一の間。水辺に近い眺めに癒される清羽亭の母屋の主室、一の間。水辺に近い眺めに癒される

庭の景色を楽しむための工夫が随所に施されている

名古屋は江戸時代に“芸どころ”といわれるほど文化が花開いた。そんな日本の伝統文化を継承する場所を目指したのが清羽亭。本格的な数寄屋建築は、地元・尾張の大工と京都から呼び寄せた大工の合作だ。

軒の深さは夏の日差しを遮り、雨から土壁などを守る。清羽亭では、室内から庭を見た時に軒が額縁の役割も果たし、美しい風景を切り取ってくれる。深くて長い軒は構造上難しく、支えるための柱を、と考えられるが、清羽亭では庭の眺めを楽しむところではなるべく柱を使わないようにされた。すべて木組みとなるが、長い梁を支える工夫など伝統の技術でカバーしているという。

また廊下の建具に使われた大正ガラスは、ほかにあまり見られない精度のいいガラス。手打ちのため、表面が少し波打っているようだが、「それも景色を柔らかく見せるための手法のひとつです」。

いずれの部屋からも日本庭園の景色を堪能できる。時を経た丸太の風合い、欄間、天井など日本の建築美にうなる(中央上段の茶室・澄蘆の写真は、白鳥庭園管理事務所提供)いずれの部屋からも日本庭園の景色を堪能できる。時を経た丸太の風合い、欄間、天井など日本の建築美にうなる(中央上段の茶室・澄蘆の写真は、白鳥庭園管理事務所提供)

日本庭園の美しき風習、“月”を見るための造り

立礼席の濡縁で十五夜に開かれる「観月の会」(写真提供:白鳥庭園管理事務所)立礼席の濡縁で十五夜に開かれる「観月の会」(写真提供:白鳥庭園管理事務所)

清羽亭は9月に特別な時を迎える。十五夜だ。

「建築家の中村先生に、立礼席でお茶会の開催を提案されました。立礼席の正面に十五夜の月が上がるように計算したと言われるんです。最初は信じられませんでしたが本当にきれいに見えるんです。以前は立礼席の建物を舞台にする形で、対岸から見てもらうイベントをしていたので、お客様の真後ろに月が上がっていたんです(笑)」。

それからは、十五夜の前後4日ほど「観月の会」を開催し、お茶と共に名月を楽しんでもらっている。

「日本庭園はもともと月見をするための場所だったとも言われています。昔は直接月を見るのは不吉とされていたので、池に映ったものを見ていました。月の移動に合わせて建物をつくったということも。例えば銀閣寺は月の位置によって1階や2階へ、桂離宮もそうですね。庭園の中で月を見るというのは本来の使い方でもあります」。

名勝指定を目指して

「日本庭園は文化財として名勝指定というのがあり、それは開園から50年たつとエントリーができます。今年で27年たちましたので、のちに名勝指定がとれるように自分たちがベースを作れるといいなと思いながらやっています」と川島さん。

開園から時間がたち、これからは植物の手入れをはじめ、補修、修繕が大事になってくる。「弱ったり壊れたりしたから直す、というのではなく、その前に手を施すというサイクルを作るのも必要だと思います。あとは、庭の図面も整理し、直す際にきちんとできるようにしなければなりませんね。自分たちが整備して、受け渡していくバトンリレーのように、それが長期の目標です」。

「短期では、ひとつひとつやらなければならないことを毎日やっていくということ。例えば、今年度からは八景の場所それぞれに見どころのポイントを整備していこうかと思っています。具体的には、海洋の景のそばにはサツキが咲き誇ります。それをちょうどよい時期に、お客様にきれいに見てもらえるようにサツキの前にあるヨシなどの水生植物の手入れをする。その場所を美しく見せるために手入れのタイミングであったり、景色を生かすための庭園管理を考えて計画を立てているところです」。

白鳥庭園をさらによいものにするため、細やかな取り組みがされている。何度も訪れたくなる魅力がさらに増していくだろう。

取材協力:白鳥庭園 http://www.shirotori-garden.jp/

正門の建築も見どころのひとつ。むくりという上にふくらんだ造りで、両サイドから雨が垂れるようになり、この真下を通る際は雨にあたらない。柔らかな曲線でデザイン性もあり、日本建築の機能美だ正門の建築も見どころのひとつ。むくりという上にふくらんだ造りで、両サイドから雨が垂れるようになり、この真下を通る際は雨にあたらない。柔らかな曲線でデザイン性もあり、日本建築の機能美だ

2018年 07月23日 11時05分