それは津島の長屋郡の再生プロジェクトから始まった

一級建築士であり、大同大学専任講師でもある米澤隆氏。『京都デザイン賞』、『AR Awards 2011(イギリス)優秀賞』、『JCDデザインアワード2012 金賞+五十嵐太郎賞』、『U-30 Glass Architecture Competition 最優秀賞』、『THE INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARD 2013(アメリカ)』、『日本建築学会作品選集新人賞2015』、『AR House Awards2015(イギリス)Shortlisted』など、数々の賞を受賞している

一級建築士であり、大同大学専任講師でもある米澤隆氏。『京都デザイン賞』、『AR Awards 2011(イギリス)優秀賞』、『JCDデザインアワード2012 金賞+五十嵐太郎賞』、『U-30 Glass Architecture Competition 最優秀賞』、『THE INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARD 2013(アメリカ)』、『日本建築学会作品選集新人賞2015』、『AR House Awards2015(イギリス)Shortlisted』など、数々の賞を受賞している

空き家問題が取りざたされて久しい。日本国内には現在820万棟もの空き家が存在し、社会問題にもなっている。人口は減っているが、住宅自体は増え続けており、2013年時点の空き家率は13.5%にもなっているという(※)。
こうした中、空き家再生の取り組みも各地で行われているが、今回は『空き家再生データバンク』なるものを制作した、一級建築士であり大同大学専任講師でもある米澤隆氏に、その内容について聞いてみた。
実用化が待たれる『空き家再生データバンク』とは、いったいどんなものなのだろうか。

そもそも、このデータバンクを作るきっかけとなったプロジェクトについて、少しふれておこう。
名古屋から電車で約20分。愛知県津島市に広大な住宅群がある。1,000m2を超える敷地に、11軒の家が軒を連ね、集会所や町屋も備えた長屋群である。もともとは近くにある工場に勤める人たちの社宅として使用されていたが、現在は2組が住むだけとなりほとんどが空き家となっている。この長屋群の再生プロジェクトに建築家として携わったのが米澤氏だ。
「この長屋群の再生案を考えていくうち、今回のプロジェクトだけでなく、汎用性のある設計の手法はないかを考えました。津島の物件だけでなく、もう少し大きな目線で全国にある空き家を再生させるための手法を提案できないか」そう考えた米澤氏は、2014年~15年、『空き家再生データバンク』の制作に取り組んだ。

※総務省平成25年住宅・土地統計調査による

専門家が長年にわたって蓄積した知恵とアイデアが詰まった辞書のようなもの

現時点でこのデータバンクは一般に使えるようにはなっていないのだが、これが使えるようになると私たちユーザーにどんなメリットがあるのか、まずはそこから聞いてみた。

「いってみれば、これは空き家再生の図鑑のようなものです。過去の建築作品からリノベーションの事例をピックアップ、分類し、アイデアを集約したものですので、辞書のように使ってもらえると思っています」と米澤氏。
つまり、私たちがリノベーションを考える際、どこをどうしたいかによって必要な情報とその建築手法をすぐさま情報収集できるというわけだ。
たとえば、古い建物の多くが「暗い・狭い」といった悩みを抱えている。それに対して、どんな手法で悩みを解決できるか、というリノベーションのアイデアが集約されているというのだ。

「建築の専門家が長年にわたって蓄積した知恵とアイデアが詰まっていますので、これを実際に施工するプロの方に見せたり、大掛かりなものでなければ、自分でDIYする際のアイデアとしても使えるわけです」(米澤氏)

左は「入れ子BOX」、右が「内外連続縁側」のアイデア。後にふれるが、課題、操作、効果が明記してあり、簡素化したビジュアルでわかりやすく説明してある。このようなアイデアが【アイデアの種】として193例紹介されている左は「入れ子BOX」、右が「内外連続縁側」のアイデア。後にふれるが、課題、操作、効果が明記してあり、簡素化したビジュアルでわかりやすく説明してある。このようなアイデアが【アイデアの種】として193例紹介されている

2000年以降、日本で建築された木造住宅のリノベーションを分析・分類

展覧会のために冊子としてまとめられた『空き家再生データバンク』(写真左)。中身を見ると、334の【アイデアの源】がぎっしりと詰まっている。実用化の際には、明るい部屋にしたい、空間を広くしたい、眺望をよくしたいなど、リノベーションに際しての悩みや希望から検索できるようなシステムにしていくそう展覧会のために冊子としてまとめられた『空き家再生データバンク』(写真左)。中身を見ると、334の【アイデアの源】がぎっしりと詰まっている。実用化の際には、明るい部屋にしたい、空間を広くしたい、眺望をよくしたいなど、リノベーションに際しての悩みや希望から検索できるようなシステムにしていくそう

米澤氏が資料としたのは建築作品と図面、設計者の解説文が掲載された建築専門誌。その中から、リノベーションという言葉が定着しだした2000年以降の建築をピックアップ。
これまでに日本で建築された木造住宅のリノベーションを例に、単一操作(つまり天窓や縁側、土間を設けるなど)に分解し、その中から
◆課題
◆操作
◆効果
を抽出して整理。リノベーションの手法を【アイデアの源】としてまとめた。

たとえば、
「トップライトを設け、効果的に窓を設けることで光が建築全体にまわり、奥が暗くなってしまう長屋特有の欠点を解消すると同時に、四方に抜ける光と視線の空間をより広く感じられるようにした」という解説文から

◆課題:奥が暗くなってしまう長屋特有の欠点。(採光の確保)
◆操作:天窓(トップライト)を設ける
◆効果:光が全体にまわった。採光の確保・空間の拡張

といった具合に、問題点と解決策、その結果をまとめている。
こうして作り上げていった【アイデアの源】は、107の建築から334の操作を取り出して収集してあるという。

単一のアイデアを組み合わせて自分らしくカスタマイズするためのアイデアが193例も

次に【アイデアの源】をもとに、一般的な住宅をモデルとしてあてはめ、ビジュアル化したものを【アイデアの種】と名付けた。【アイデアの種】は、193例に及ぶ。

たとえば、「土間」「屋上テラス」「屋外階段」「入れ子BOX」「二棟をつなぐ中庭」などである。
こうした単一のアイデアを組み合わせたユニットモデルも紹介されている。
「止まり木ハウス」と名付けられた家には、

【エントツ窓、トップライト、入れ子BOX、屋根裏部屋、小屋組み露し、既存躯体露し、潜望鏡窓、屋根裏部屋、庇の拡張、出窓縁側、内外連続縁側、ステップフロア、床下収納】

といった13の【アイデアの種】が使われている。
エントツ窓で採光を確保し、空間の中にもう一つ空間を作る入れ子BOXでプライバシーの確保と耐震性を備え、小屋組みを露出することで空間を広く見せるといったアイデアが詰まった家といえる。

段差、出窓、屋根裏部屋など、ひとつながりの大きな空間の中に、さまざまな居場所がある家として設計された「止まり木ハウス」。データバンクから13のアイデアを引用して設計されている。ほかにも、「屋根上テラスのある家」、「アーティスト夫妻の家」など、暮らす人のスタイルに合わせたユニットモデルが11例紹介されているが、今後も継続して設計を進めるという段差、出窓、屋根裏部屋など、ひとつながりの大きな空間の中に、さまざまな居場所がある家として設計された「止まり木ハウス」。データバンクから13のアイデアを引用して設計されている。ほかにも、「屋根上テラスのある家」、「アーティスト夫妻の家」など、暮らす人のスタイルに合わせたユニットモデルが11例紹介されているが、今後も継続して設計を進めるという

若手建築家の登竜門「SDレビュー」で入選!!

『空き家再生データバンク』は、建築界の若手の登竜門といわれる「SDレビュー(※)」において入選している。建築界では有名でインパクトのあるコンテストで評価されたというのは、多いに実用性があるということだろう。

「データバンクの中身は奇抜なアイデアが詰まっているというわけではなく、あくまでもアイデアの分析・分類ですので、空き家に対する取り組み自体と、社会的な意義が大きいという点を評価されたのだと思います。」と、米澤氏は振りかえる。

単体の住宅だけではなく、出発点となった津島の長屋群のようなコミュニティを形成する場合も、このデータバンクが多いに役立つ。複数戸が連なった全体像をビジュアル化することで、住民同士が全体のイメージを共有でき、コンセプトを決めやすいというメリットもあるという。

「たとえば、津島のような長屋群の場合ですと、移住希望者にデータバンクの中からユニットモデルを選んでもらい、それをベースに【アイデアの種】でカスタマイズすることができます。よりその人の趣向に合わせた家にするために、【アイデアの種】を足したり引いたりすることで、全体のイメージを保ちつつも、個々の理想の生活を叶えるための建築ができるのです」と米澤氏は言う。


『空き家再生データバンク』は、今後インターネットでの閲覧を可能にしたり、書籍化が考えられているそう。実用化されれば、私たちが住まいをリノベーションする際、建築家と相談する流れのなかで、話がスムーズに進みそうだ。
こうしたい、ああしたい、こういう感じにできたら、といったイメージを、アイデアが詰まった辞書を片手に専門家と話し合うことができるのだから。


※SDレビュー/1982年、第1回目が開催。「実施を前提とした設計中ないしは施工中のもの」という条件で建築家・デザイナーたちの 作品を募集し、入選作品を展覧するもの。第一回の入賞者には世界的にも有名な建築家・安藤忠雄氏も。米澤氏は2008年、2014年、2015年と今回で3度めの入選。

路地を介して向き合う平屋6棟、二階建ての5棟の長屋群をリノベーションするにあたり考えられた設計。先述の11のユニットモデルを複合し、コミュニティを構想したマスタープランとなっている。こうした複数戸が集まるリノベーションの際も、『空き家再生データバンク』は多いに役立つことが期待されている路地を介して向き合う平屋6棟、二階建ての5棟の長屋群をリノベーションするにあたり考えられた設計。先述の11のユニットモデルを複合し、コミュニティを構想したマスタープランとなっている。こうした複数戸が集まるリノベーションの際も、『空き家再生データバンク』は多いに役立つことが期待されている

2016年 11月07日 11時06分