学生たちが運営するカフェはどのようにして誕生したか

近畿大学 建築学部 准教授の寺川政司氏近畿大学 建築学部 准教授の寺川政司氏

近年社会問題視されつつある「空き家」をリノベーションして活用することで、人との出会いやつながりを生み、地域活性化に一助を成す。そんな「コミュニティカフェ」が最近、全国的に増えている。
2014年秋に大阪・八尾に誕生した「学生カフェはなことば」もその1つだ。

コミュニティカフェ設置・運営者の大半はNPO法人や個人、任意団体だが、「はなことば」の特色は、近畿大学建築学部地域マネジメント研究室に所属する学生たちが学びの集大成として、また社会勉強の一環として、運営の一部を担っている点にある。
彼らにこうした貴重な機会を与えた寺川政司准教授に話を伺った。

まずは、どういう経緯で「はなことば」は誕生したのだろうか。
「専門分野であるまちづくりを八尾でも進めてきた経緯から、若者の就労支援を行うNPO団体おしごと興行合同会社さんや八尾市パーソナルサポートセンターさんと出会い、それまでの就労支援のイメージではなかなかできなかった、おしゃれで、もっと人とかかわり合える場や仕事の機会を創出したいというお話を伺ったんです。就労困難な若者たちを社会へと後押しする事業として清掃活動などは継続されていたのですが、もう1つ、社会に出る前段階としての彼らの居場所づくりとして立ち上がったのが【PROJECTふらここ】でした」。

そして、このプロジェクトに近畿大学建築学部地域マネジメント研究室が加わることになったそうだ。
「若年層と高齢者の交流の場の欠如や単身高齢者の居場所不足といった社会問題にクローズアップし、地域住民の居場所の創造・関係づくりの場の提供を目的としてカフェを開店する運びとなりました。学生たちが運営を行う「はなことば」は水曜日のみ、残りの開店日の火・木・金曜日は先述したNPO団体らが就労支援を取り入れたカフェ「ふらここ」を営んでいます」。

学生の手によるリノベーション、そのポイントは

左官工事もタイル貼りも床の塗装もすべて学生たちの手で行われた左官工事もタイル貼りも床の塗装もすべて学生たちの手で行われた

学生たちがリノベーションにのりだしたのは一昨年のこと。現在カフェを運営する4回生の先輩に当たる卒業生たちが実際に着手した。
空き家を有効利用したい所有者と、就労困難な若者におしゃれな居場所を提供したいと願う事業主の想い。両者を結ぶ媒介となったのが彼らだった。

当時を振り返り、寺川准教授は
「事業者の考える居場所としての機能を追求することはもちろん、カフェとして事業運営が成り立つか繰り返し検証を重ねた上で、事業主の想いを伝えるべく、建物の所有者との交渉に当たったのも学生でした。学生たちが研究の一環でリノベーションを請け負うわけですから、費用も極力抑えたい。建築学部生ですから、相応の知識はあるものの、それまで実際にリノベーションにや社会事業に携わることがなかったため、貴重な機会であると同時にチャレンジでもあります。左官、水道、電気、そして大工と、その道の専門家に教わりながら、最初はまさに見よう見まねでリノベーションは進んでいきました。基本設計から実施設計、電気や水道、果ては内装から家具選びに至るまで、必要となる材料の選択や購入、図面を描くのも、コスト管理もすべて学生たちが行いました。授業で図面を描いていても、いざ、それを基に施工を行うとなると足りない要素が多々ある。キレイに描けてはいても現実的ではないということで指摘が入る。そんな風にプロとのやりとりから、生きた工程やコミュニケーションスキルも学んでいましたね」と話す。

コミュニティカフェとして追求した空間デザインのこだわりやポイントについては
「中央に設えた大きなカウンターテーブル。ここに“間”のデザインがあるんです。余白にちゃんと意味がある、あの“間”ですね。テーブルの向こう側とこちら側とで、店主と客など、立場が入れ替わるんですよ。ただ、その線引きは明確なものでもありません。この緩やかな関係性を成立させることが、就労支援の場と地域コミュニティを兼ねた空間を生み出す上でのこだわりでした」と寺川准教授。

リフォームやリノベーションに興味を持つ人は近年増えているが、費用面で躊躇するという話もよく聞く。だが、今回の学生たちの取り組みのように、自分たちの手で行えば、費用は最小限に抑えることも可能だ。実際、今回のリノベでは通常の10分の1程度の費用で済んだそうだ。

高齢者と学生のシェアハウスで多世代のコミュニティを

“間”のデザインを成す、カウンターテーブル。主客入れ替えも容易な、ゆるやかな境界となっている“間”のデザインを成す、カウンターテーブル。主客入れ替えも容易な、ゆるやかな境界となっている

「はなことば」にはコミュニティカフェに加えてもう1つ、特長がある。学生カフェの階上にシェアハウスを設けている点だ。

「営業中はカフェですが、普段はここが共用リビングになります。上に5つ部屋があり、1室には実際に高齢者が居住されています。大学からほど近いこともあり、ここに入居する学生もいます。高齢者の独居生活にはさまざまな問題もひそんでいますが、若者が近くにいることで“見守り”の役目にもなる。学生にとっても家賃を抑えるメリットがあるし、就労支援が必要な若者の場合であれば、この緩やかなコミュニティで人との関わりを持つ経験が中間就労としての位置づけにもなっています。ここから社会へと踏み出す第一歩にしてもらえれば」と寺川准教授は話す。

自分たちの暮らす街に、居場所があるという安心感

毎週水曜日限定でオープンする学生カフェはなことば。店舗設計を行った先輩の意思を受け継ぎ、現在の4回生が運営に当たる毎週水曜日限定でオープンする学生カフェはなことば。店舗設計を行った先輩の意思を受け継ぎ、現在の4回生が運営に当たる

寺川准教授の専門は「まちをシェアする機会を生みだす居場所づくり」。
大阪・八尾に限らず、街には居場所が必要な人がいて、空き家を活用したい人がいる。そこに焦点を当て、建築的手法を用いて社会事業を生み出していく。「リノベーションは手段の1つであって、目的ではない」と寺川准教授は言う。今回の事例では就労支援が必要な若者や高齢者と、空き家の施主、その架け橋を担ったのが建築的手法を持った学生たちということになる。

「建築はハコを作って終わりと思われがちで、実際にそこで終わってしまうことが多いのも事実です。私たち研究室ではハコなどのハード面だけでなくマネジメントなどのソフト面を含めての建築を学んでいます。今回のプロジェクトはそういう意味でも学生にとって良い経験になると思いました。まだまだ試行段階で持続性には課題が残っていますが、社会問題化される空き家などは地域資源として活用していく術をこれからも模索していきたいし、学生自身が社会に関わりながら今後もさまざまな資源を掘り起こしニーズを掛け合わせることにより、いろいろなプロジェクトを生み出していきたい」。

「はなことば」を運営する学生たちは、その一方で、新たなプロジェクトにも取り組んでいる。
例えば、団地内にある空き部屋を利用したシェア型住まいの提案や、奈良吉野の街の古民家を購入した地域の人々と共同で交流機会を創出する拠点整備など。「はなことば」で得た経験や、実際に運営していく上での課題など、すべてを糧に次なるステップへと歩を進めている。

彼らが考えるコミュニティカフェとは、その街において何らかの拠点機能を担うことにある。
「はなことば」であれば高齢者の見守り、就労困難な若者の支援がそうだ。居場所があることによって「社会が抱える問題を見えやすくする」そんな役割を備えているのだ。その街で長く暮らす上での安心材料と言えるかもしれない。みなさんの住まいのお近くにもこうしたコミュニティカフェがあれば、ぜひ一度足を運んでみてもらいたいと思う。

2016年 01月19日 11時06分