「第1種低層住居専用地域」の規制が緩和

「自宅の近くにコンビニがあったら……」。そう思いながら日々生活をしている人は意外に多いのではないだろうか。特に閑静な住宅地に限ってコンビニはないものだ。なぜならコンビニの出店には用途地域という壁があるためだ。これは都市計画法の一つで、土地の用途の混在を防ぐことを目的としている。
たとえば「閑静な住宅地にパチンコ屋」「大型トラックが行き交う工業地域のなかに住宅地」といったようにならないために土地の用途を12種類に分類している。自分の土地であれば何を建ててもいい、というわけではないのだ。

閑静な住宅地のほとんどは、この「第1種低層住居専用地域」となっている。これは一戸建てを中心とする住宅地とするもので、12種類用途地域の中でもっとも規制が厳しい地域だ。コンビニなどの店舗や事務所の出店は原則不可。原則というのは、銀行の支店や給食センターなど公共性の高い店舗は許可される場合があるからだ。

ところが2016年6月2日、「規制改革実施計画」が閣議決定され、住環境を害さない、公益上やむを得ないといった条件をクリアすれば、コンビニの出店が許可される見通しとなった。この規制緩和により、私たちの暮らしはより便利になるのだろうか。

土地の用途を12種類に分類している用途地域。「第1種低層住居専用地域」は一戸建て中心の住宅地とするもので、<BR />12種類中でもっとも規制が厳しい地域だ土地の用途を12種類に分類している用途地域。「第1種低層住居専用地域」は一戸建て中心の住宅地とするもので、
12種類中でもっとも規制が厳しい地域だ

理由の一つは高齢者の生活利便性の向上

高齢者を中心に、近くに買い物をする店舗がない、という買い物弱者が全国で700万人に達している。コンビニ出店の規制緩和はその対策となり得るのか高齢者を中心に、近くに買い物をする店舗がない、という買い物弱者が全国で700万人に達している。コンビニ出店の規制緩和はその対策となり得るのか

コンビニを含む小売店には、スーパーやホームセンターなど様々な業態がある。なぜコンビニだけが今回の規制緩和の対象になったのか。その理由は大きく二つある。

一つは、高齢者を中心とする"買い物弱者"の存在だ。昨今、少子高齢化による人口減などで、大型スーパーの撤退や商店街の衰退が進み、食料品などの日常の買い物が困難な状況に置かれている人々が増加している。
経済産業省の調査によると、高齢者の約17%が"買物に困難を感じている"と回答しており、その数は700万人にのぼると推計される。また、農林水産政策研究所の調査では、自宅から生鮮食料店までの距離が500メートル以上あり、且つ自動車を持たない65歳以上と定義した"買い物弱者"が、2025年に全国で598万人にのぼり、2010年の382万人から200万人以上増えるとの推計されている。また、その増加の大部分が都市的地域であることも報告されており、買い物弱者は、過疎化の進む地方だけでなく、居住者の高年齢化が進む都市郊外でも問題が表面化している。

買い物弱者を救うために、コンビニの出店は有効なひとつの手段となるだろう。そこで動きもでてきた。2016年7月5日、UR都市機構は、大手コンビニ3社との連携協定を発表した。セブン‐イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンは、URが管理する団地、約100カ所に出店する方針だという。品ぞろえは小分けのおかずや日用品など高齢者のニーズの高いものを増やし、室内の清掃など家事代行サービスも受け付ける。店舗によっては住民の集会所としてスペースを開放する予定だ。URは全国で1,664団地(74万戸)を管理し、高齢者世帯が約4割を占める。

まちの"ライフライン"としての活用も

そしてもう一つの理由は、コンビニ出店による経済効果だ。魚屋や肉屋といった昔ながらの商店が少なくなっている一方で、全国のコンビニが加盟している日本フランチャイズチェーン協会の発表によると、2016年2月末現在でコンビニの店舗数は5万5,000店以上と、前年と比べて2,872店増えており、10兆円を超える市場規模となっている。最近は肉や野菜などの生鮮食品まで品揃えを広げる店舗も増え、さらにATM設置による金融サービスの提供、宅配サービスの受付、住民票の写しや戸籍証明書の取得など、公共性の高いサービスの提供をしている店舗もある。

また、同協会は、2009年に「社会インフラとしてのコンビニエンスストア宣言」を取りまとめている。この中では、消費者の利便性向上に加え、地域経済の活性化やまちの安全・安心、地域社会への貢献を目標に掲げている。2011年3月の東日本大震災では、仮設店舗、移動販売車による食糧、緊急時支援物資の提供や、帰宅困難者への水道水やトイレ、休憩場所などの提供など、コンビニが"ライフライン"として活用されるなど、社会インフラとしての役割も果たしていた。

東日本大震災時の東京都内の帰宅困難者の様子<BR />(日本フランチャイズチェーン協会 「社会インフラとしてのコンビニエンスストア宣言」進捗状況)<BR />出典:経済産業省東日本大震災時の東京都内の帰宅困難者の様子
(日本フランチャイズチェーン協会 「社会インフラとしてのコンビニエンスストア宣言」進捗状況)
出典:経済産業省

結局、出店できるかどうかは周辺住民の理解次第

では、「第1種低層住居専用地域」への出店は誰もが望むことなのだろうか。出店の条件は、住環境を害さない、公益上やむを得ないなど。しかし、住環境を害さないかどうかの基準は人それぞれだ。

おもに問題となるのは騒音だろう。これは客の車の排気音や話し声だけではない。弁当などを配送するトラックは深夜でも行き来する。また、エアコンの室外機の騒音も設置場所によっては近所迷惑となり得るだろう。実際にこれらの問題で警察や裁判沙汰になっているケースもある。

また、筆者は自宅近くで出店後でも数年に渡って周辺住民が反対運動を展開しているケースを目にしている。そこは前面道路が片側2車線の広い通りで、交通量も多い。一見コンビニ向きの立地だ。しかし、両隣の家は反対の大きな看板を庭に掲げ、反対していた。現在は解決し、営業を続けているが、それでも円満なご近所づきあいは難しいだろう。

このようにコンビニの出店に対する周辺住民の理解は千差万別。強引に出店してしまうと周辺住民から強烈に反対されてしまうこともある。また、どの範囲の住民まで賛成してもらえればいいという基準もない。規制は緩和されるものの、出店できるかどうかは個別対応ということになる。これから出店を計画するオーナーは、規制緩和を頭ごなしに主張することなく、とにかく穏便に計画を進めてほしい。

2016年 07月31日 11時00分