太陽の熱を利用、それぞれの気候風土にあった省エネ技術、設計手法を検討

冬の昼間の熱、空気の流れを図化したもの(OMソーラーのホームページより)冬の昼間の熱、空気の流れを図化したもの(OMソーラーのホームページより)

これから我が家をと考えるなら、気にしたいのは住宅の省エネ問題だ。2013年に改正された省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)は2020年には義務化される。さらに国は2030年には新築住宅を平均でゼロ・エネルギー住宅、つまり消費する電力量を発電する電力量で相殺できる住宅とすることを目標として掲げている。

この背景には日本全体のエネルギー消費量の削減、世界の温暖化防止などといった大きな目標があるのはもちろんだが、個人レベルで考えてもゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)には光熱費の削減、災害時のエネルギー供給、安定した温熱環境下での快適な暮らしの実現などの大きなメリットがある。

住宅の省エネ化については様々な側面から研究、開発が試みられているが、そのひとつに太陽熱を利用してエネルギーを作り出すというものがある。今回、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて行われている太陽熱エネルギー活用型住宅の技術開発プロジェクトのモデルハウスを見学、合わせて研究の概要などを聞くイベントに参加してきた。

プロジェクト自体は2011年にスタート。当初3年間は基礎的な研究開発を続け、2014年、2015年の2年間で実証研究に取り組むというもので、寒冷地、準寒冷地などといった日本の8つの気候区分すべてに合計10軒のモデルハウスを建設、温熱環境のデータを取り続けている。訪れたのは気候区分では温暖地とされる静岡県浜松市、浜名湖のほとりに建つモデルハウスである。

どんな天気の日でも室内ではシャツ一枚で快適なモデルルーム

こちらは同敷地内にあった他のモデルハウス。風の吹いてくる向きに合わせて大きな開口部を取り、室内には自然素材を多用。こんなところにも快適さの要因が散りばめられているこちらは同敷地内にあった他のモデルハウス。風の吹いてくる向きに合わせて大きな開口部を取り、室内には自然素材を多用。こんなところにも快適さの要因が散りばめられている

モデルハウスを担当したのは1987年の会社創立以来太陽熱利用に取り組んできたOMソーラー。同社では大学や建築家と協働、浜松のほか、北海道伊達市、宮城県仙台市、鹿児島県鹿児島市、沖縄県中頭郡に計5軒、地元の工務店施工によるモデルハウスを建設し(沖縄は8月末完成予定)、気候の違いに合わせた快適な住宅作りの実験を行っている。

モデルルームは斜めになった大きな屋根をカバーするように乗せられた黒いパネルが目をひく平屋プラスロフトのコンパクトな家。訪れたのは4月半ばというのに、ひなたにいると汗ばむほど太陽がまばゆい好天の日だったが、室内に入ると暑さは和らぎ、シャツ一枚でいるのがちょうど良い感じ。しかも、住戸内はどこも同じくらいの室温に保たれていた。

この日、モデルハウスの運転状況は「太陽熱による暖房モード」。ソーラーハウスでは屋根で太陽の熱を集め、それを床下の基礎部分にある蓄熱コンクリートに蓄えておき、その熱が適宜室内に放熱されることで暖房を行う。夏の夜は逆に放射冷却作用で冷えた屋根面の外気を床下に集め、その冷気で室内の温度上昇を抑える。では、外の日照が暑さを感じさせる日に、どうして室内が快適なのか?

それは床下の蓄熱能力が高く、日照による熱が室内に上がってくることがないため。ソーラーハウスの室内は過度に熱くなったり、寒くなったりしないのである。加えて、床や壁などに使われている自然素材の質感や、通風を配慮して設けられた開口部からの通風、リビングの窓の外などに設けられた木製のルーバーなどによる日射遮蔽なども、この日の心地よい室内の環境作りに寄与していたそうである。

省エネ技術は日進月歩、組み合わせで浜松なら無暖房も可

覗き込むと床下にペットボトルが。訪れた人の大半がカメラ、スマホを向けて撮影していた。見た目だけで驚きである覗き込むと床下にペットボトルが。訪れた人の大半がカメラ、スマホを向けて撮影していた。見た目だけで驚きである

面白かったのは床下に設置されたペットボトル。2リットルのペットボトルが500本使われているそうで、特殊な品かと思いきや、ごく一般的なものなのだとか。だが、その役割が面白い。熱を蓄えておく、蓄熱設備だというのである。

前述したようにソーラーハウスでは屋根で太陽の熱を集め、それを床下の基礎部分にある蓄熱コンクリートに蓄えて、その熱で室温をコントロールする。取入れるだけでなく、熱をどう蓄えて使うかが快適さのためには重要なポイントになるわけだ。これまでは基礎の蓄熱コンクリートが単独でその役目を担っていたが、今回のプロジェクトでは蓄熱効果を高めるため、より床面に近い場所に効果が高く、でも安価なペットボトルを配したという。身近なペットボトルの意外な使い道に、難しいはずの実験に妙な親近感を覚えてしまった一瞬である。

ちなみに、もうひとつ、親近感を抱いたのは太鼓張りにした障子の間に断熱材を入れたという断熱障子。素材を生かしたり、工夫をすることでも省エネは実現できるわけである。

もちろん、技術の解説全体としては素人の私には難しいものが多かった。たとえば、このモデルハウスでは床の合板、寝室の壁面にPCMのシートを張ったという説明があった。PCMとは潜熱蓄熱材のことで、これは簡単に言うと一定の温度で熱を放散、吸収、室温を安定させる効果を持つ素材だそうで、すでに自動車部品、ビル蓄熱空調システム、住宅建材などに使われているとのこと。また、鹿児島、沖縄のモデルハウスでは太陽熱冷房を利用するというのだが、太陽の熱がどうやったら冷房に使えるのか……。

内容の理解には及ばなかったが、分かったことは住宅の省エネ技術は日進月歩で進化し、試されているということ。今回の実験でも浜松では屋根上に乗せられたOMソーラーの従来のシステムと新しく取り入れられたペットボトルその他の技術によってほぼ暖房を使わずに暮らせることが分かったという。

私たちが考える「省エネによいこと」には誤解も?

著書「エコハウスのうそ」で話題を呼んだ前先生。非常に痛烈な語り口が印象的だった著書「エコハウスのうそ」で話題を呼んだ前先生。非常に痛烈な語り口が印象的だった

モデルハウス見学後は浜松市内に戻り、東京大学工学部建築学科の前真之准教授による講演を聞いた。ここではその中からいくつか面白かったトピックスをご紹介しよう。ひとつは一般に思われている「省エネに良いこと」が実は見た目で分かるものに偏る傾向があるという点。

家を新築した人へのアンケート調査によると省エネのためとして、LEDや節水型トイレにシャワーヘッド、高断熱浴槽など目に見えるものの導入はたいへんに進んでいるという。だが、一方で多くの人は冷房のエネルギー消費量を過大に評価しており、実際に消費量の多い給湯、暖房には無頓着だという。そのため、給湯については約半数が従来型の省エネ効果のない設備を使っているのだとか。何が本当の省エネにつながるのか、もっと正確に知る必要がありそうだ。

家を新築した人も含め、多くの人は人間は暑さに弱く、寒さに強いと思っているが、これも誤解だと前教授。人間の直接の先祖は500万年前、アフリカにおり、人間はそこで体毛を無くすことで発汗蒸散能力を身に付けたのだそうで、汗さえ乾かすことができれば人間は非常に暑さに強い動物で、逆に寒さには弱い。さらに日本では多様な気候があるにも関わらず、京都の蒸し暑い夏仕様が全国に広まってしまい、その土地の風土にあった住宅になっていないのも問題だという。

加えて誤解されているのは日本人は長い間、囲炉裏の生の火で暖を取ってきたため、それを普通だと思っているが、これは体に大きな負担をかけるものだということ。その例証として前教授はサーモグラフィーでストーブに当たっている人の図を示した。確かに体前面は真っ赤に加熱され、背中は冷えて青いまま。この状態の均衡を取ろうと血液が体内を循環するとなると、それが大きな負担になるであろうことは容易に想像できる。体に負担をかけないためには、室内の空間全体を均等に暖かくする必要があるわけだ。

これから建てるなら必要最小限、長く使える家を

参加者には工務店、建築関係者が多く、専門的な内容が取り上げられた参加者には工務店、建築関係者が多く、専門的な内容が取り上げられた

続いて行われたのは前教授に加え、新建新聞社の三浦祐成氏、建築家の秋山東一氏、OMソーラーの飯田祥久氏によるパネルディスカッション。工務店の参加者が多いことから、工務店の生き残り策などといって話が多かったのだが、その中からいくつか、これから家を建てる人に役に立ちそうな内容をご紹介しよう。

ひとつは建築家の秋山氏から出た、これからの家は小さな家であろうという点。秋山氏設計のモデルハウスも不動産的に言うと1階にリビングと1室、2階にロフトというコンパクトなものだが、「いずれ子どもはいなくなる、そのためのスペースを最初から作る必要はない。人数分用意するなど無駄」と秋山氏。長寿になった分、現在は子育て期間よりも老後のほうが長いこともある時代。子ども第一で大きな家を作るより、必要になったら改築その他で対応できる家を作るほうが現実的ということだろう。

もうひとつは三浦氏から出た、長く使える家を作れば住宅にかかるコストを下げられるという一言。当たり前のようだが、最近は長く住めるかどうかよりも、目の前の安さに惹かれて施工会社を決める人が少なくない。だが、超高齢化、低経済成長など不安な要素のある中での、住宅建設にはリスクがあることを考えると、長く使えるかどうかは必ず気にしたいポイント。3世代住める、スケルトンにして間取り等可変性が高い、貸せる、使い方はいろいろあろうが、家はリスクを希望に転換できる存在であって欲しいものだ。

OMソーラー
http://omsolar.jp/


2015年 05月27日 11時06分