親子が別々ではなく「一緒に」笑顔になれる場所~ひなたカフェ~

親子カフェ、あるいはキッズカフェ。小さな子どもを連れたママたちがくつろいで気軽にランチやお茶を楽しめるようさまざまな工夫や配慮の行き届いた飲食店のことであり、そのニーズの高まりを受けて全国的に増えている。個人店主によって経営される店もあれば家族向け商品やサービスを提供する企業が母体となって運営することもあり、また店全体を親子向けにデザインされる場合もあれば、店舗の一部にキッズスペースやプレイルームを設ける場合など、その事業主も形態も実にさまざまだ。

奈良県大和郡山市筒井町の住宅街の一角に2016年6月に誕生した「ちびっこ共和国ひなたカフェ(以下、ひなたカフェ)」もその1つ。駐車スペースも用意されてあるが、近鉄橿原線「筒井」駅より歩いて5分ほどという至便さから電車で通う親子や妊婦さんも多いという。オーナーは地元で美容室を営む、自身も子育て真っ盛り中のママ、松下千晶さん。女性が出産・子育てをすると、それまでの仕事を一時中断せざるを得なかったり、復職しても以前のように、自分の思い通りには働けない。加えて、子連れでの外出や外食にも「少しでも子どもが騒ぐと、周囲からの冷ややかな目」など、さまざまな気苦労がつきまとうことも身を持って痛感したという。

「そう感じる母親はきっと自分だけではないはず」。

自分の周囲を見回してみると、同じような想い、悩みを抱えるママがいることに気付いた。

田舎の祖父母宅でくつろぐような、どこか懐かしい空間。どの席からでも子どもたちの遊ぶ様子が見通せる造りになっている田舎の祖父母宅でくつろぐような、どこか懐かしい空間。どの席からでも子どもたちの遊ぶ様子が見通せる造りになっている

「子連れ」で楽しむ生活を、もっと当たり前に

安心して働ける場所がない、気軽に集える場所がない。だったら、そういう場や機会を作ろうー。

「子育て中のママを雇用」「子連れ出勤OK」「子ども優先のシフト」「子連れママが気兼ねなくランチやおしゃべりを楽しめること」。そんなママとしての気付きや想いを原点に、自身の子どもたちが通う校区内に「ひなたカフェ」をオープンさせた。以前より経営する美容室は自宅から約5kmの距離にあって、子どもの足で訪れるには少々厳しいものがあった。そこで今回は子どもたちも学校帰りや遊びの合間に気軽に顔を出せる場所を選んだ。住宅街のど真ん中と言うことで、町内会との折衝は必要不可欠だった。高齢者世帯からは「母親が家事や子育てに忙しいのは当たり前だ」「こうした場所の必要性が分からない」など、周辺住民の理解を得るのに予想以上の手間を要したものの、家主の寛大さからリフォームは自由、子どもたちの活発な動きによる傷みにいちいち気を揉む心配がない物件に出会うことができたのは幸運だった。

リフォーム時にこだわったのは「子どもが中心」という発想。同カフェは子育てママたちの職場であり居場所となることを目指してはいるが、子育てに主軸を置くことは忘れない。

「子連れを歓迎するカフェやレストランの多くを見ると、キッズスペースは店の中心ではなく隅っこに設けられていたり、ママたちがランチする座席から離れていることも多々ありました。それでは、子どもたちの行動が気になって、おしゃべりや食事を心から楽しむことはできないんじゃないかと。私たちのひなたカフェでは、お店の真ん中に、遊び場を設けています。スタッフとして働くママたちにとっては厨房の真ん前、お客様として来られたママたちにとってはどの座席からも目が届く。この安心感にこだわったのです」。

床もフローリングではなくすべて畳敷きである点にも松下氏なりの想いがある。

「小さな子どもたちを連れていると、食事やお茶の途中で眠くなることもしばしば。でも和室だったら、ごろんと寝転がってそのまま寝てしまってもお布団をかけてあげれば大丈夫。ハイハイしたってへっちゃらです。最近の家事情で、和室を知らない子どもたちも多いので、日本らしい畳の良さを味わってもらえるかなとも思います」。

子どもが走り回り、飛び跳ねることは想定内。家主の理解を得てリフォーム自由で、活動によって傷むことにも気兼ね不要子どもが走り回り、飛び跳ねることは想定内。家主の理解を得てリフォーム自由で、活動によって傷むことにも気兼ね不要

カフェでくつろいだ後の「家事」にもささやかな気遣いを

美味しい食事と楽しい会話、子ども同士が仲良く遊ぶ姿にほほえむひととき。互いの子育ての苦労を分ち合い、労い「さぁ明日も頑張ろう」。そんな風に気持ちを切り替えリフレッシュできるのも、親子カフェの良いところだ。

「通常のランチバイキングでは時間制限が付き物ですが、ここは無制限。子育てママにとってつかの間、家事や子育てから解放される特別なひととき。時間を気にせず、ゆっくりと楽しんでほしいからです」とは松下氏。

せっかく良い気分転換ができても、カフェを出て、帰宅後にはまた家事でドタバタすることを想像すると憂うつになる。そんなママたちの気持ちが分かるのも、みなと同じく、子育て中のオーナー所以の気付きだろう。そこで、ひなたカフェではバイキングとは別料金にはなるものの、気に入ったお惣菜をパックに詰め替えるサービスも提供している。バイキングは常時20種類、お野菜中心のヘルシーな献立で、いずれもスタッフが手づくりする家庭的な優しい味が特徴だ。地産地消を目指し、食材はできるだけ近郊農家より仕入れている。お米も奈良産だ。ママが作る手料理のように子どもたちも安心して食べさせてあげられるのも人気の理由となっている。

食材の無駄などを少しでも減らし、家事子育てで忙しいスタッフのシフト管理も行い易くするため、通常のランチ営業は基本は事前予約制。予約が入っている日は営業、予約がなければ営業しない、不定休なので興味のある方は事前問い合わせしてから足を運ぶのが懸命だ。食事の提供以外にも、写真撮影会、ベビーマッサージなど、親子向けママ向けイベントも開催。今後はそうした幅広い活動の拠点となることも視野に入れている。

家事に育児、さらには仕事と、母親が抱える負担は大きい。「負担」と感じることにさえ後ろめたさ、罪悪感を感じる風潮がある中で、少しでも、つかの間でも肩の荷を下ろす機会があれば、ストレスはきっとまだ少ないだろう。母親がストレスを抱え込んだ家庭で家族が幸せでいられるわけがない。だからこそ、ママも子どもたちも笑顔になれる「ひなた」のように温かい場所が全国津々浦々へと広がって行くことを願わずにいられない。

バイキング形式のランチ。夕食の一品にと詰めて帰ることもできるのが嬉しい(別料金)バイキング形式のランチ。夕食の一品にと詰めて帰ることもできるのが嬉しい(別料金)

2016年 12月01日 11時05分