学生アイデアのリノベーションプラン『借り暮らしのシェアハウス』

料理旅館時代にあった寿司カウンターを再利用し、地域交流の場として活用予定のバー空間にリノベーション(写真上はBefore、写真下はAfter)料理旅館時代にあった寿司カウンターを再利用し、地域交流の場として活用予定のバー空間にリノベーション(写真上はBefore、写真下はAfter)

有名洋菓子店やパン屋が立ち並ぶ、緑豊かな山の手の住宅街・西宮市甲陽園。駅からほど近い便利な立地に、この秋、宝塚市の不動産会社・株式会社ウィルが手掛けるコンセプト型シェアハウス「ダイバーシティ甲陽園」が誕生した。
この建物はかつて、地域集会や高校球児の宿舎としても利用され、地元住民に親しまれた料理旅館だった。建て替えるにはもったいないその建物を、リノベーションを得意とする同社が、建築を学ぶ学生限定でリノベーションアイデアコンペを実施し、地域に愛されたその風情を残したシェアハウスに生まれ変わらせた。

2014年に行われたこのコンペには37作品の応募があったという。その中から、関西大学大学院の学生メンバーによる企画『借り暮らしのシェアハウス』が最優秀賞を受賞。その後会議が重ねられ、シェアハウスのコンセプトは「みんなでつくり上げていく過程を楽しむ」「若者×アクティブシニアの交流」「シェアハウス×地域の交流」となった。

建物は1979年に竣工、敷地面積601.88平方メートルで、鉄骨鉄筋コンクリート造地上3階地下1階建て。内部を25室に区切って居室とし、フリールームやキッチン、展望風呂など入居者が共有できるスペースを整備。自由にカスタマイズできるDIY対応の居室も5部屋用意されている。また、料理旅館時代に使われていた白木の寿司カウンターを活かしたバー空間や、楽器演奏などが行える防音室も併設。運用方法はまだ検討段階とのことだが、本入居が始まる2016年4月には運用方法を決め、入居者と地域住民との交流の場として活用していきたいとの考えだ。

受賞メンバー3名は昨年10月のプロジェクト始動からリノベーションの全工程に関わってきた。メンバーのうち、関西で就職した塗師木(ぬしき)伸介さん、草田将平さんの2名は現在、1ヵ月間限定のモニター入居にも参加。公募で集まったモニター入居者とともに、新しいシェアハウスの入居ルールづくりに取り組んでいる。「自分たちがアイデアを出し、一つひとつカタチにして実現させたこのプロジェクト。とても貴重な体験をさせていただいています。入居ルールづくりにも関わって、このシェアハウスがどうなっていくのか見届けたいと思っています」と塗師木さん。

1ヵ月間のモニター入居によって、入居者の生活ルールを模索

モニター入居者による全体ミーティングの様子モニター入居者による全体ミーティングの様子

来年春の本入居に先立ち、シェアハウス内の生活ルールを模索するため、1ヵ月限定でモニター入居者を募集。SNSやクチコミなどで広まり、募集人員10名のところ応募者数は約60名にものぼったという。これは同社プロジェクト担当も驚く反響で、昨今のシェアハウス人気の高さが窺える。

多数の応募者の中から選ばれたのは、日本に来てまだ間もないという外国人留学生を含む19歳〜63歳までの男女17名。モニター入居者はシェアハウスから通勤、通学、買い物、散歩…と普段と変わりない生活を送る。その中でシェアするキッチンやお風呂、洗濯機、トイレなどの利用ルール、掃除当番などについて率直な意見を出し合い、生活上のルール制定に携わるほか、SNSやブログでの情報発信にも協力することで、この間の家賃は無料だ。

「『みんなでつくり上げていく』というコンセプトのもと、入居者それぞれが意識を高く持って暮らしていけるように、敢えて管理人は置かずに運営したい」と同社プロジェクト担当の森下慎司さん。自身もモニター入居に参加し、実際にシェアハウスでの暮らしを体験しながら、入居者それぞれの意見をまとめていく役割を担っている。

今回はモニター入居第3週目の全体ミーティングの様子を見学させていただいた。皆さんモニターとして応募してくれた方たちだけあって入居して3週間とは思えないほど打ち解けており、非常に活発な意見交換が行われていた。

トイレを男女別にするかどうか、冷蔵庫内のスペース分けや各々の食材管理をどうするか、浴室利用時間の制限を設けるかなど、いまモニター入居している自分たちのことだけでなく、本入居が始まってからの運用も可能であるかどうか視野に入れた話し合いが行われる。話し合いの結果でたルールを実験的に導入して体験し、またその結果を議論することを繰り返し行うなかで、ルールを決める部分、決めない部分をモニター全員で見極めていく。年齢も職業もさまざまな人たちの共同生活だからこそ生まれる発見がある反面、考え方の違いや、それぞれの基準の違いは大なり小なり出てくる。その調整はとても大変だが、「ルールにばかり縛られず、最低限のルールの中で心地よく暮らせる方法を探っていきたい」と森下さん。

モニター入居者からは、「よりよい話し合いのために、1ヶ月という期間は短か過ぎる」という声も上がるほど。そんな意見を受け、11月末までモニター期間の延長を決めたそう。住人の意見をできるだけ尊重したいと考えているこのプロジェクト。「ダイバーシティ甲陽園」という物件名称も今後、住人との意見交換によって、変更になる可能性もあるという。

モニター募集の動機・目的はさまざま。いろんな人たちが集まるからこそ、おもしろい

時には希望者で一緒に食事をしたり、適度な距離感で交流を図っている時には希望者で一緒に食事をしたり、適度な距離感で交流を図っている

今回の期間限定モニター入居に応募した人たちがどのような思いで応募に至ったのかインタビューしてみた。

フルタイムで病院に勤務しているという最年長63歳のAさん(女性)は、「子どもは独立し、いまは1人暮らし。将来、老人ホームに入ることになったときに、果たして集団生活ができるのかどうかと不安に思っていた矢先、モニター募集を知ったんです。練習のつもりで応募しました。若い人たちとの生活はとても刺激的。年長者だからと口うるさくせずに、一緒に生活を楽しみたいと思っています」。

最年少19歳・学生のTさん(女性)は人見知りな性格で、最初は一番年下だからと遠慮がちだったそうだが、いまではすっかり打ち解けている様子。「父からの勧めで応募しました。初めての1人暮らしですが、相談できる年上の方がいて安心です。みなさんに教えていただきながら、自炊にもチャレンジしています」。

地域福祉を推進する仕事に携わっているという24歳Hさん(男性)は、「地域の交流、若者とシニアの交流をコンセプトとしているところに惹かれました。高齢化社会が進むなかで、共同生活で人と繋がりを持ち、支え合って暮らしていくということは、これからの社会にとても重要なこと。地域福祉に携わる者として、自分のノウハウが活かせる場があるのではないかと応募しました。近隣の方々も注目されているこのシェアハウスで、今後どんな取り組みができるのか楽しみです」。

これまでに2軒のシェアハウスに入居経験があるという29歳のシステムエンジニアFさん(男性)は、「経験を活かし、一からルールづくりに携わってみたいという思いがありました。普段の暮らしの中では知り合えない、全然違う背景を持つ人との出会いは貴重。ここは1ヵ月限定ですが、いろんなシェアハウスに住んでみたいと思っています」。

また、学生の間にさまざまな経験がしたいと応募した22歳の学生Sさん(男性)は、「社会人やアクティブシニアの方との出会いはなかなかない貴重な体験。前向きな人が多く、仕事の愚痴を言う人はいません。社会人になる前に、生き生きと働く人生の先輩に出会えたことはとても良かったと思います。モニターだけでなく、ぜひここで本格的に暮らしてみたいと考えています」と語る。

今回のモニター入居では、日本に来てまだ間もない外国人も2名参加している。「日本語を学びたい、もっと日本の文化に馴染みたいということで応募していただいたのですが、シェアハウス文化に慣れている外国人の意見はとても参考になります。日本人にはない感覚を持っている方が参加してくれたことで、私たちもよい刺激を受けています」と森下さん。

地域に根ざし、親しまれるシェアハウスを目指して

以前の料理旅館だった頃のように、このシェアハウスがまた地域住民の方の交流拠点となることを目指し、工事着工前、工事着工後には近隣の方を招いた見学会を開催したそう。

「建物だけでなく元のオーナーさんや地域のみなさんの思いも受け継いでいきたいと考えています。近隣のみなさんにはこのプロジェクトに高い関心を持っていただけるよう、関わり合いを大切にしながら、『人が集まる場所』としてこの場所を継いでいきたい」と森下さん。

残りのモニター入居期間中には、映画鑑賞会や周辺散策など、実験的に入居者イベントを行うそうだが、今後は共に暮らす入居者同士だけでなく、1階のバースペースや地下の防音ルームなどを使用した地域交流活動も企画していきたいとのこと。

「ダイバーシティ甲陽園」が地域に根付き、愛されるシェアハウスとして、活性化の拠点となっていくことを期待し、今後の活動にも注目していきたい。

入居者で力を合わせて作成した黒板は、近隣住民への活動アピールも兼ねている入居者で力を合わせて作成した黒板は、近隣住民への活動アピールも兼ねている

2015年 11月08日 11時00分