賃貸や建て替え予定の家など、実は多い耐震補強ができないケース

左から、広報担当の松井秀一氏、代表取締役村林敏明氏、開発担当の石野信生氏左から、広報担当の松井秀一氏、代表取締役村林敏明氏、開発担当の石野信生氏

将来おこる可能性が指摘されている首都直下型地震や南海トラフ地震。しかし、万全の備えができている人はそう多くはないのではないだろうか。
国土交通省の発表によれば、平成20年時点で約1,050万戸の住宅の耐震化が不十分と推計されている。行政の補助も設定されているが、耐震改修工事の補助費用が満額でない場合も多く、耐震化が必要な旧耐震住宅の耐震化率は、全国平均で3.9%程度だという。(2008年版住宅・土地統計調査より、神戸新聞社調べ)つまり、残りの家屋はなんの対策もされていないことになる。

その理由は費用面以外にも、家族構成の変化などがある。たとえば近い将来家族構成が変わり、建て替えをする可能性があるなら、今建て替えたり補強したりすると無駄になってしまうと考える人もいるのだろう。
しかし、震災はいつ起こるかわからない。手軽に震災対策ができないものだろうか。そこで、耐震家具の開発と販売を行う株式会社安信の代表取締役 村林敏明氏、広報担当の松井秀一氏、開発担当の石野信生氏からお話をうかがってみた。

被災経験を家具に活かす

実は株式会社安信の社員のほとんどが阪神大震災で被災した経験をもつ。震災の恐ろしさや、どのような問題が起きるかを肌で知っているため、なんとか安心を提供したいという思いから耐震家具の商品開発に着手したという。
震災の朝、テレビが鼻先をかすめて壁にぶつかるという経験をした松井氏は、
「勘違いしている人が多いのですが、家を出れば安全というものではありません。ビルの上から物が落ちてくるかもしれないし、家が崩れてくる可能性も高いのです。だから家の中に一カ所、避難できる場所を作っておく方が安心です」と語る。

そこで、家具に注目した。建物の耐震補強に何百万もの費用をかけるのは難しくても、家具なら手が届く。また、引っ越しの際には持ち運べるから、家族構成が変わって建て替えても無駄にはならないと考えたのだ。賃貸住宅にお住まいの方や建て替える費用が捻出できない家庭はもちろん、年輩の方や小さな子どもがいる家庭にも使ってほしいという。

耐震テーブルを家庭内の安全地帯に

サイドガードを下せば、横から物が飛んできても安心。サイドガードが収納されていた箇所にはスペースがあり、オプションの網をとり憑ければ、緊急用のスリッパやバールなどを収納できるサイドガードを下せば、横から物が飛んできても安心。サイドガードが収納されていた箇所にはスペースがあり、オプションの網をとり憑ければ、緊急用のスリッパやバールなどを収納できる

現在、商品として完成しているのは、耐震テーブル。天板の中に鉄板が仕込まれており、角部分を曲げることにより強度がさらにアップしているので、設計上は60トンの荷重にも耐えるという。一般的な家の屋根瓦は10トン程度なので、家全体が崩れて加速がついても、この下に隠れていれば守られそうだ。
注目したいのが、床に接する部分がHの形をしていること。床が抜けないように、重力を分散させる工夫だ。さらに、サイドガードがあるので、横からものが飛んできても身を守れる。
サイズは1500×900、1800×900、2000×1000の3タイプが用意されているが、セミオーダーなので、要望に合わせて作ってもらうことが可能だ。ちなみに、一番小さな1500×900サイズでも、大人2人と子供2人、2000×1000なら大人4名まで隠れられるという。

また命が助かっても、がれきの中から脱出しなければいけない場合の安全対策も必要だ。そこで、サイドガードと天板の間のスペースにオプションの網をとりつけると、スリッパ、折りたたみ用のヘルメット、懐中電灯、バールを収納できるようにした。バールは扉が開かないときに壊すための備品だ。
オプションで、これらの道具をひとまとめにしたものもあるとのことで、念には念を入れた設計になっている。震災の経験者によってつくられるからこそだろう。家屋の重さによっては、オプションで脚に鉄骨を入れるなどして、さらに強度をあげることもできる。

「楽しく使える家具」も目指す

耐震への工夫が詰め込まれているが、見た目は普通のテーブルと大きな違いはない耐震への工夫が詰め込まれているが、見た目は普通のテーブルと大きな違いはない

もちろん、家具が形になるまでにはいくつもの課題があった。
「建て替えをしなくても安価に震災対策をしてもらいたいという出発点があるので、高額になっては意味がありません。強度を十分に持った上に、コストとデザインをあわせ持つように考えると、鉄骨を入れるのが最適なのですが、どうしても重量が出てしまいます。いかに軽くしながら、強度を上げるかが課題でした」
と、石野さん。試行錯誤の結果、机は100キロほどとなった。一般的な机と比較すると重いと感じるが、60トンの荷重に耐えられることを考えると、その開発努力の成果がうかがえる。

また、いつも地震を意識して暮らしたくはないので、普段は普通の家具として楽しく使えることにこだわったそうだ。そのため、フォルムは普通の家具と大きくは変わらない。表面はサンユーペイントのセラウッド仕上げで、紫外線や汚れに強い。また、耐熱性もあるので、調理した鍋を直接置いても大丈夫だそうだ。

特許申請前なので詳細は語れないが、家庭用としてはベッドも開発中だという。テーブルと同じく最低60トンまで耐えることができ、緊急用の道具を収納できる。その他、オフィス用のものとしては、スチールデスクや会議用テーブルなどを開発中だ。

家具だけじゃ不足!震災に備えてしておきたいこと

このように地震対策としては耐震家具も有効だが、一番肝心なのは家族で話し合うことだと三人は口をそろえる。
「行政は中小企業や大企業にビジネスコンティニュープランを推奨しています。これは地震後も会社を継続するためにプランを練っておきなさいということで、このために、中小企業経営者の認識は高まっています。この感覚が、各家庭にまで浸透してほしいのです。」とは松井氏。
村林氏は、「家具を設置したとしてもそれだけで安心せず、まずここに逃げた後その先はどこに避難するかなど、家族で話し合うきっかけにしてほしいと思います」と話す。
石野氏も、「まずは補強工事や建て替えだけでなく、耐震家具という選択肢もあるということを知っていただきたいです。そこからそれぞれの家庭に合った備えが何か、考え始めてほしいですね」と、熱を籠めて語る。

では、家族でなにを話し合っておくべきかというと、次の5点だそうだ。
・スマホにどういう防災のソフトやアプリを入れておくか
・携帯電話がつながらなかった場合の集合場所と連絡手段
・会社から家までの経路
・避難場所と避難経路
・備蓄するものと置いておく場所
避難場所や避難経路を考える際は、地方自治体のサイトからハザードマップがダウンロードできるので、参考にすると良いという。また、備蓄については、少し心配な事実がある。行政が推奨する備蓄の量が、最近になって、三日分から一週間分に増えたというのだ。これは、大規模震災により自衛隊や消防隊が人手不足に陥り、長期間救助されない可能性もあることを示唆している。このテーマについては、安信の会社ホームページではさらに詳細に説明されているので、合わせて参考にしてみると良いだろう。

いつか来るのではと恐怖はしていても、対策は後回しになりがちな震災。建て替えや補強工事をするのは難しくても、耐震家具の導入なら検討しやすい。大きな家具を置くスペースがないご家庭でも、家具の転倒防止対策をするなど、できる対策から始めてみてはいかがだろう。

取材協力:株式会社安信
http://ansin-bousai.com/

2015年 05月31日 10時27分