「リノベーションスクール」から5社の家守会社が誕生

平成25年度に開催された第1回「リノベーションスクール@わかやま」平成25年度に開催された第1回「リノベーションスクール@わかやま」

「家守(やもり)会社」という言葉をご存じだろうか? もともと「家守」というのは、江戸時代に地主・家主に代わってその土地・家屋を管理した不動産業者のことを言う。ここ数年では、リノベーションまちづくりの担い手として、エリアマネージメントを担当する「家守会社」が誕生している。

現代版「家守」の育成では、全国各地で開催されている「リノベーションスクール」の存在を外して語ることができないが、(参考記事:民間主導のプロジェクトで誕生した「シーナと一平」。まちに溶け込む「お宿と喫茶」を目指す)スクール実施後になかなか事業化までこぎつけられない自治体も多い。そんな中、和歌山市では誘致したリノベーションスクールの実施により、続々と家守会社が誕生している。

その実績は目を見張るほどだ。平成25年度から6回のスクール実施で輩出した受講生は約180名、誕生した家守会社も5社に上る。スクール実施時の提案案件から事業化されたものが7件。そのほかスクール受講生が携わり事業化されたものも11件あり、まちなかのコンテンツが充実してきている。

こうした広がりが起きているのはあくまでも民間の力だが、その流れに勢いをつける自治体のサポートも欠かせない。和歌山市では、どのようなまちづくり対策を推進しているのだろうか。今回は、空家対策を進める和歌山市 空家対策課と「リノベーションまちづくり」を推進する商工振興課にお話しを伺ってきた。

まずの一手は「不良空家」の抑制

和歌山市の中心地は、なんといっても和歌山城の周辺地域。しかし、残念なことに終戦間際の大空襲で城の天守閣もろとも中心地の建物はほぼ焼失してしまった。また、主要駅である私鉄の南海和歌山駅とJR和歌山駅が街の中心を挟み東西に分かれているため、再開発も分散しているのか少々閑散とした雰囲気が漂う。

「地方都市が抱える課題の1つ、郊外への大型ショッピングモールの出店など、まちなかのドーナツ化現象も進んできました」と説明するのは、和歌山市 産業まちづくり局 産業部 商工振興課 商業振興班の榎本 和弘班長である。

総務省の「住宅・土地統計調査」をみても、平成5年から和歌山市の空き家数は年々増加し、平成25年には2万8980戸とされている。平成20年と比較すると、平成25年には一見減少しているようにみえる空き家数だが、内訳をみると賃貸向けが大幅に減少し、そのほかの空き家は増加している。つまり、収益性のない賃貸物件が維持されなくなる一方で、それこそ対応が必要な相続が進まない一般物件は増えているのが窺える。

そこで和歌山市では、平成27年11月には建築指導課内に「空家対策班」を設置し、翌年には「空家対策課」を興している。さらには、平成27年より市独自の空き家調査を実施し、「不良空家」になることを未然に防ぐ対策に力を入れているという。

「独自の調査では、不良空家を防止するための現状把握という側面が強くあります。そのため実態調査をしながら、補助事業も拡張していきました。例えば、『空き家を活用した三世代同居・近居』や『不良空家の除去』『空き家を活用した地域交流拠点等づくり』などに補助費用を一部提供する事業を進めています」(同市 建設局 住宅部 空家対策課 山下 英二課長)

同じく空家対策課の木村 幸男副課長によれば、「空き家の調査は平成29年に完了し、ベースとなる情報が揃いました。その上で、基本の補助制度などを整えた形」になるという。空き家対策としては、これから本格的な「空き家バンク」を設置し、その活用に拍車をかけていく方針だ。

出典:総務省統計局「住宅・土地統計調査」出典:総務省統計局「住宅・土地統計調査」

遊休不動産と駐車場がまちなか50%を占める

一方、「空き家をいかに活かすか」では、地域住民の意識にはかなり偏りがあったと榎本班長は次のように指摘する。

「市が平成26年に実施した『遊休不動産調査』では、空き店舗や空き家も多いのですが、駐車場が溢れかえっていることに改めて驚きました。駐車場の用途はあれど、空き家と駐車場で街の約50%を占めるほどになっていました。これではまったく街に面白みはありません。元々和歌山市というのは、大阪などにも出やすいため、買い物や遊びには大阪まで出るのが常識でした。それも手伝ってかすっかりコンテンツのない街になっていたのです。これをなんとか変えていかなければこの街に未来はない。そこで、空き家の活用にリノベーションを取り入れようと考えたのです」

九州で開催された第1回目のリノベーションスクールの様子を動画サイトで見つけた榎本班長らは、早速和歌山市でも、リノベーションスクールを誘致するために動いた。リノベーションスクールのプロデューサーである清水義次氏の元を訪れ、和歌山市で開催できるよう口説き落としたという。

そこからは、冒頭にも紹介したが、平成25年度から6回のスクールを実施し、スクール関係者が携わる事業化案件は17件に上り、家守会社も5社誕生している。第1回のスクール案件であった農園レストランを皮切りに、ゲストハウス、シェアハウス、日本酒バーにステーキ弁当・カフェ、焼き肉屋、子ども向け教室などバラエティ豊かだ。

しかも、固定の店舗や事業所としてだけではなく「イベント」の提案も実現し定着した。毎月第二日曜日に開催される手作りとロハスをテーマにした「ポポロハスマーケット」、肉のお店が集まる「ミートフェス」、アーケードをリビング化することを目的とした「クラフト×暮らふとビールフェス」などが行われ、賑わいが取り戻されつつある。

「これだけリノベーションスクールの成果がでるとは、当初は考えていなかった」というのは、榎本氏とリノベーションまちづくりを進める同商業振興班の國生 研人氏だ。これだけの盛り上がりを見せたのは、熱意のある参加者が集まったことももちろんあるが、市でも様々なサポートを行っている。

「常に市からも家守会社の設立を訴えていました。そのためにも、スクール実施時には専門家の相談ブースを手厚くサポートしました。建物の面では、建築主事が建築基準法の中で最大限できる事を一緒に模索し、融資面では地銀3行に入ってもらいました。現実的な事業計画と融資をサポートできたのは、事業化を促進できた一つの理由かもしれません」(榎本班長)

リノベーションスクールの成果により、まちなかのコンテンツが充実してきているリノベーションスクールの成果により、まちなかのコンテンツが充実してきている

点から線、回遊を生む施策づくり

街の繁華街の中心部「ぶらくり丁商店街」の空き家活用から始まったリノベーション事業は、現在、市の中心部全体に広がっている。

「地道な活動によって、空き家のオーナーの方々の意識も随分変わってきたことを感じます。以前はそれこそ空き家は駐車場にするというくらいの認識しかありませんでしたが、リノベーションという手法があること。それにより、空き物件が価値を持てるのではないかという可能性を少しずつ考えてもらえるようになってきました」(國生氏)

和歌山市では、平成27年度から毎年、空き店舗に2日間だけお試しで出店する「マチドリ」と呼ばれるイベントを実施している。この2日間に、例えば「和歌山産の新鮮野菜の販売ショップ」や「ハンドメイド雑貨のお店」、「アートを感じる体験型ショップ」に「水辺のカフェ」などさまざまなお店が空き店舗に出店する。この段階ではそれほど大がかりなリノベーションをするわけではないが、それでも簡単な化粧直しで店舗が様変わりするのを目にすることができる。これまで空き店舗を貸したがらなかったオーナーも、賃貸に積極的になることも多いという。空き店舗のオーナーの意識改革にはこうした取り組みも功を奏しているようだ。

現在の和歌山市は、リノベーションによりできた魅力的なコンテンツが街に点在している状態。今後はこれを線にするような回遊の流れをつくっていきたいと言う。

「和歌山市では現在、大学が市街地にしかないため、3大学の誘致や小中一貫校の開校、さらには市民図書館・市民会館の移設リニューアルを進めています。大学が誘致できれば学生はもちろんのこと、教員などの流入に期待ができます。市内の中心部にはファミリー向けの賃貸住宅などはなかったのですが、小中一貫校などができればファミリー層も住まいを求めるはずです。その場合、家守会社の活躍の場となるスタイリッシュな住宅のニーズも高まっていくはずです」(榎本班長)

このほか、市内には河川が通り、建物に隣接する水辺空間があるにも関わらず活用できていない。そのため、水辺周辺の公共不動産の活用など水辺を生かしたまりづくりを進めているという。

中心市街地の再編中心市街地の再編

縦割りではなく、“ヨコ”のつながりを

左から、和歌山市 建設局 住宅部 空家対策課の山下英二課長、同じく木村幸男副課長、続く産業まちづくり局 産業部 商工振興課 商業振興班の榎本和弘班長と同じく國生研人氏左から、和歌山市 建設局 住宅部 空家対策課の山下英二課長、同じく木村幸男副課長、続く産業まちづくり局 産業部 商工振興課 商業振興班の榎本和弘班長と同じく國生研人氏

今年度だけで50件の視察があったという和歌山市の「リノベーションまちづくり」。今後も縦割りの施策展開ではなく、民間との連携も視野に入れた横軸を踏まえた展開をしていく方針だ。もちろん、今後展開される「空き家バンク」も例外ではない。

「空き家対策は、地方まちづくりにおいて“一丁目一番地”。補助事業を通して空き家件数を減らす努力をすると同時に、『空き家バンク』も縦割りの仕組みではなく、専門家団体との連携を踏まえ、インスペクション推進や相続登記などを促しながら流通・リノベーションへの筋道にもつなげられればと考えています」(山下課長)

魅力的な「まちづくり」を官民あげて推進している和歌山市。今はまだ様々な施策が点となり、線になろうとしている段階だが、線がいつしか面を生み出す姿が期待できる。別記事では、実際に「リノベーションスクール」から誕生した家守会社の実例を紹介しよう。

2018年 03月02日 11時05分