2026年7月24日に「副首都機能の整備の推進に関する法律」が成立した。第1条で「~東京圏への政治、行政、経済等の中枢機能及び人口の一極集中により、東京圏とその他の地域との間における経済的格差が生じていること、災害その他非常の事態(略)の発生により首都中枢機能(略)を維持することが困難となるおそれがあること及び我が国における少子化が進展し、人口の減少が継続するおそれがあることに鑑み、~政治、行政、経済等の中枢機能及び人口の一極集中を是正し、もって国民経済の発展及び国民生活の安定向上に資することを目的とする。」とある。つまり、「(1)地域間の経済格差」、「(2)災害時等の首都機能維持の困難性」、「(3)少子化の進展と人口減少の継続」が、東京一極集中是正を行う理由として掲げられている。

「(2)災害時等の首都機能維持の困難性」については筆者も含めて多くの人が賛同する指摘であろう。一方「(1)地域間の経済格差」が地方住民の厚生水準の低下を表しているとしても、住民は移動可能であることを勘案すれば、それが規制や税財源を用いた介入を行う直接の理由にはならない。「国土の均衡ある発展」などの特定の価値観に基づく再分配だと解釈したとしても、地域間の再分配は豊かな地域の低所得者から貧しい地域の高所得者への所得移転を含意するため、積極的には支持できないと一般には考えられている。さらに今後述べるように、東京一極集中とよばれる現象が日本の少子化に影響を与えているというロジックは、控えめに言っても誇張されたものである。

東京一極集中は人口減少を加速する?

例えば2014年に日本創生会議及び2024年に人口戦略会議から提唱された、東京への人口集中が日本全体の出生率を引き下げているというロジックを検証しよう。2023年の東京都の出生率が0.99と、群を抜いて低いことをより詳細にみてみよう。東京都の有配偶出生率は全国の水準から特別に低いというものではない。一方、東京都の15歳以上女性の未婚率を見ると、2020年の国勢調査では27%と他の地域に比較して高くなっている(全国は23%)。このように東京都の出生率が低いのは、「子どもを産まない」のではなく、「結婚しない」ことが大きく影響しているようにみえる。

しかし、このことはやや奇妙に聞こえる。都市の存在意義とは、多様な人々が稠密(ちゅうみつ)に生活し、フェイスツーフェイスのコミュニケーションを可能とするところにあると言われている。この特性は、効率的にパートナーを探すことのできる条件にも該当し、都市とは効率的な結婚市場だと考えられるからである。

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効率的な結婚市場としての大都市

では何が起こっているのだろうか。大都市には産業の集積に伴って多様な企業が集まってくるが、そうした企業は当然のことながら多様な労働者を必要とする。これが多様な人々を全国から大都市にひきつけるメカニズムである。このような多様な人材が集まるメカニズムと同じように、自分に適した交際相手や結婚相手を見つけるための魅力的な場として、大都市は機能する。その結果、都市には未婚の男女が集まり、うまく結婚できたカップルが次に考えるのは子どもや住宅のこととなる。しかし、広い住宅に住むには東京はコストが高すぎるので、相対的にコストの低い東京の郊外や周辺の三県に転出することになる。つまり、たくさんの未婚者が東京にひきつけられて集まり、出会い、めでたく結婚したあとに他の地域に転出するため、東京都の未婚率は必然的に上昇することになる。有配偶出生率が全国と同程度でも、結婚している人が少なければ、東京都の出生率は低下してしまうことになる。

東京大都市圏で起こっていること

図 女性有配偶率の地域格差図 女性有配偶率の地域格差

国勢調査の記述データを用いて解説する。図においては、全国の女性を基準にして、東京都と東京圏(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県)の有配偶率格差が記述されている(国勢調査(2020年))。東京都の女性の有配偶率は49.4%。全国が54.0%であり、5ポイント程度の格差が存在する。東京都はすべての年齢階層にわたって、全国の有配偶率を大きく下回っている。

しかし、東京圏(53.5%)と全国の格差は、0.5ポイントとほとんど差がない。詳細にみると、東京圏周辺(千葉県、埼玉県、神奈川県)の有配偶率が、15~29歳においては全国の水準とほとんど変わらない一方で、30歳以上の有配偶率は、全国の水準を大きく上回るようになっている。このことは、東京都でパートナーを見つけたカップルが、東京圏周辺に転出していることを反映していると考えられる。

このような、東京都と東京圏周辺の有配偶率の格差にみられるような関係は、東京圏でのみ観察されるものではない。仙台市と仙台大都市雇用圏の周辺市町村(名取市、多賀城市、岩沼市、富谷市、大河原町、柴田町、川崎町、亘理町、山元町、松島町、七ヶ浜町、利府町、大郷町、大和町)の有配偶率の関係をみても、有配偶率格差の規模が東京大都市圏と仙台大都市雇用圏では異なるという違いはあるものの、都市圏の中心都市は有配偶率が低く、その周辺都市では有配偶率が高いというのは、一般的な傾向である。

効率的な結婚市場としての東京

このように、効率的な出会いの場であると考えられる東京都は、その他地域から未婚者を集めてマッチングをする場になっている。しかし、転職などのコストが高いため、成立したカップルはその他地域に帰ることなく、東京圏周辺で生活を送るという姿がみえてくる。このこと自体は、東京圏に人口を集める結果になっているが、日本全体の出生率には、一般に主張されているよりは、限定的な影響しか与えていないと考えるべきであろう。ここで限定的というのは、さきにみたように、周辺三県を含めた東京圏の有配偶率は全国平均に比べていくぶん低いという程度であるためだ。

東京都はカップルを生み出す出会いの場としての重要な役割を果たしている。したがって、東京への人口集中を抑制することは、出会いの場を失うことになるため、かえって社会全体の未婚率を高め、ひいては出生率を低下させることになる可能性があろう。東京をはじめとした大都市圏における子育て支援等の環境整備を図るという、当たり前の政策を実施することが求められているのではないだろうか。