需要が高まる狭小戸建て。首都圏の掲載数は5年で2.8倍に
コンパクトな敷地に背の高い3階建てが立ち並ぶ、いわゆる狭小戸建てを街中で見かけることが多くなった。LIFULL HOME'Sの調査によれば、首都圏における敷地面積60m2未満の新築狭小一戸建ての掲載数は、2020年の1,011戸から2025年には2,815戸へと、約2.8倍に急増した。市場全体に占める割合も1.2%から2.5%へと倍増している。
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近年はマンション価格が高騰し、マンション検討層の一定数が、価格の安さ、広さを求めて一戸建てへとシフトしている。タカマツハウスが2026年5月に「住宅購入を検討している首都圏1,000人」を対象に行った調査によれば、『当初はマンションだったが、現在は一戸建ても検討している、または一戸建てのみを検討している』との回答が増加しており、特に20代と30代では3割以上が一戸建てへと検討の幅を広げているという。
利便性の高い立地に一戸建てを持ち、仕事と育児を両立させたいと考える子育て世帯の受け皿として、狭小戸建てへの注目が集まっているといえる。
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子育て世帯にとって、狭小戸建ては暮らしやすいのか?
一見すると、狭くて窮屈と思われがちな狭小住宅だが、職住近接を重視する子育て世帯のライフスタイルとは相性がいいといえる。メリットとデメリットは、以下の通りだ。
メリット:利便性と経済性の両立
・タイムパフォーマンス(時間効率)の確保:都心周辺や駅近の物件を予算内で購入しやすく、共働き夫婦の通勤や保育園の送迎にかかる時間を短縮できる。
・実質的な広さの確保:3階建てにすることで延床面積を90m2前後まで確保している物件が多く、部屋数が必要な多子世帯にとっても実質的な広さを確保しやすい。
・ランニングコストの低さ:一戸建てにおいても建物の修繕費の準備は必要であるが、マンションのような毎月の管理費や修繕積立金、駐車場代がかからないため、ランニングコストを抑えることができる。
・一戸建てならではの気兼ねなさ:マンションではトラブルになりやすい上下階への子どもの足音や泣き声を気にするストレスから解放される。
デメリット:住環境の制約
・階段の負担と家事動線:乳幼児を抱っこしての移動や縦に長い家事動線が、日々の身体的負担を増やしやすい。
・建物周囲のゆとりの欠如:敷地境界線ギリギリまで建物を建てるため、庭や、ベビーカー・自転車を出し入れするための敷地の余白が確保しづらい。
・住宅適地ではないところが多い:接道条件や日照、通風条件などがよくないことが多い。
利便性と引き換えに、家事の労力や住環境の制限をどこまで受け入れるか。各家庭の選択が求められるが、職住近接をかなえる上では、狭小戸建ては合理的な選択肢であるといえる。
東京23区内の狭小戸建ては約13%、地域差が大きく城東は60%超も
では、都心へのアクセスに優れた東京23区の現状はどうなのか。LIFULL HOME'Sの2025年度掲載データによれば、23区内で分譲された新築一戸建てのうち約13%、約8戸に1戸が敷地面積60m2未満の狭小戸建てであった。
さらに、狭小戸建ての供給動向は区によって明確な差が見られる。
狭小戸建ての供給戸数の動向:城東エリア・城北エリアに集中
掲載戸数が多いエリアは、179戸の足立区を筆頭に、葛飾区、江戸川区、北区、墨田区、江東区の順に多くなっている。城東ならびに城北エリアにおいて、供給戸数が集中しているのがわかる。
次に、一般戸建て(敷地面積60m2以上)を合わせた総戸数に占める狭小戸建ての割合を見てみる。
狭小戸建ての供給割合:都心近接エリアほど比率が高く、城西・城南エリアは低い
狭小戸建ての掲載割合が高いエリアは、墨田区(65%)、江東区(62%)、品川区(60%)、文京区(58%)と続く。一方で、掲載割合が低いエリアは、練馬区(1%)、目黒区(2%)、杉並区(3%)、世田谷区(3%)など、極めて低い水準だ。
供給戸数とは異なり、都心に隣接するエリアほど狭小戸建ての比率が高く、城西・城南の住宅街エリアほど比率が低いという明確な二極化が見られる。
墨田区や品川区、文京区など都心隣接エリアは地価が高いため、一般的な敷地面積で家を建てると、実需層の手が届かない価格帯になりやすい。そのため、デベロッパーが敷地を細分化し、1戸あたりの販売総額を抑えることで需要に応えていると見て取れる。
一方、足立区、葛飾区、江戸川区などは、狭小戸建ての供給戸数は23区内トップクラスであるものの、割合で見ると9〜19%程度に留まっている。これは、都心周辺部に比べて地価が比較的抑えられているため、狭小戸建てだけでなく、一般的な広さの一戸建ても十分に供給できる余地があるためと考えられる。
敷地面積の最低限度は自治体により異なる
また、狭小戸建ての供給動向に地域差が生まれる背景には、各行政区が定めている「敷地面積の最低限度(最低敷地面積)」がある。一つの土地を細かく分割するミニ開発を規制するため、土地をこれ以上小さくしてはいけないという下限を示したものだ。
最低敷地面積の規制が緩いエリア(主に城東、城北エリア)
狭小戸建ての割合が高い城東、城北エリアは、商業混在エリアや木造住宅密集地域を抱えるため、下限を低く設定する、あるいは設定なしにしている地域が多い。結果として、狭小戸建ての分譲が増加している。
例えば、狭小戸建ての割合が65%と高い墨田区でも、地区計画が定められた地域では最低敷地面積の指定はある。ただし、商業地域や工業地域など、墨田区に多い町工場と住宅が混在するエリアや駅周辺の商業地域では、都市の利便性や土地の有効活用を優先するため、最低敷地面積の制限が設定されていない、もしくは非常に緩いケースが目立つ。
こうした規制の緩さの背景には、行政の判断だけでなく、最低限度を強く設定しづらい地域特有の事情もある。墨田区は戦前・戦後から敷地が細かく密集して形成されてきた歴史を持つ地域だ。そこにはすでに人々の暮らしが根づいている。
そのため、最低敷地面積を条例で定めた地区であっても、実態としては狭小敷地でも合法的に建築可能としている。建て替えが発生しても敷地はそのままの状態で引き継がれ、狭小戸建てが供給され続けることになる。行政と民間が連携し、一帯をまとめて区画整理していく仕組みも考えうるが、権利関係が複雑な密集市街地でこうした大規模な再開発を実現するのは容易ではなく、現実には狭小戸建ての供給が続いているのが実情だ。
最低敷地面積の規制が厳しいエリア(主に城西、城北エリア)
一方、城西・城北エリアでは、閑静な住環境や地域ブランドの維持を重視し、最低敷地面積を指定建ぺい率に応じて60m2~100m2などと制限している地域が多い。
例えば、狭小戸建ての割合が1%とごく低い練馬区では、2008年より、一部の商業地域などを除く区内全域に一律で最低敷地面積を導入している。エリアの建ぺい率に応じて制限がかけられており、一般的な住宅街(建ぺい率60%エリア)でも敷地面積の最低ラインは75m2だ。都心部と比べると、かなり余裕を持たせた基準といえる。練馬区は、「小規模な敷地が増加することによって、市街地全体に建て詰まりの状態が発生し、日照、通風、防災などの環境が悪化することを防止することが目的」としている。
練馬区と同様に、規制が厳しい世田谷区、杉並区、目黒区などでは狭小戸建てはごくわずかで、昔ながらの2階建てが大半を占める。
これらのエリアの一戸建ては良好な住環境が保たれやすい一方で、地価の高いエリアで規制を厳しくすれば物件価格にダイレクトに影響し、子育て世帯が希望する予算からはオーバーしやすくなる。予算を抑えて利便性と部屋数を取るか、価格が高くても住環境のゆとりを取るか、子育て世帯は厳しい二者択一を迫られているといえる。
狭小住宅の増加は将来的なまちづくりの課題も
限られた予算内で広い住まいを確保するために合理的な狭小戸建てだが、まちづくりの視点で見ると、将来の課題も浮かび上がってくる。
特に懸念されるのが、防災リスクと空き家リスクだ。敷地境界線ギリギリまで木造住宅が密集することで、地震時の火災延焼リスクは高まる。また、高齢化して階段の多い3階建てに住めなくなった際、細分化されすぎた土地は建て替えコストが高く、売却難易度も上がるため、空き家化しやすい可能性もある。一度細分化した土地を元に戻すことは容易ではない。市場の経済合理性だけに任せて狭小化を容認し続けていけば、都市の防災力や良好な住環境を損なうリスクがある。
とはいえ、最低敷地面積を一律に設定するのも難しい。業界団体からの「下限を厳しく決められては事業が成り立たなくなる」という声もあるし、子育て世帯からしても予算内で好立地に家を買う権利を奪われることになりかねない。狭小地であっても、3階建てにすることで居住床面積は一定確保できるのだから、昨今の住宅市場において、狭小戸建てが多くの現役世帯の暮らしを救っているのもまた事実だ。
子育て世帯の予算で買いやすく、子どもたちがのびのびと過ごせ、防災上も安全な住宅街。そうしたバランスのとれた街並みは、どう実現していけばよいのか。市場原理に任せるのではなく、各区が100年先のまちづくりのビジョンを描き、エリア特性に応じた適切な最低敷地面積の議論が交わされることに期待したい。
【調査概要】
・集計期間:2025年1月1日~2025年12月31日
・集計対象:敷地面積60m2以上、ならびに60m2未満の新築一戸建て
・対象地域:掲載戸数が一定未満であった都心部および台東区を除く19区を対象とした
【参照】
・首都圏の新築「狭小戸建」掲載戸数・シェアをLIFULL HOME'Sが調査
・【首都圏1,000人調査】マンション検討者の4人に1人が戸建てへ転向
・墨田区「墨田区良好な建築物と市街地の形成に関する指導要綱」
・練馬区「用途地域(建ぺい率、容積率、高さの制限、敷地面積の最低限度等)」
執筆:LIFULL HOME'S総研 楢崎 美香(ならさき みか)
早稲田大学第二文学部卒。住宅会社を経て、2018年より株式会社LIFULLにて不動産メディア「LIFULL HOME'S PRESS」「住まいのお役立ち情報」の編集を担当。保有資格は宅地建物取引士、二級建築士、2級FP技能士。住宅の専門知識と二児の母としての当事者目線を活かし、マイホーム購入や住宅ローン、子育て世帯の住み替えなど、住まい選びのヒントや課題を発信する。















