住宅価格の高騰や共働き世帯の増加を背景に、夫婦が住宅取得にどのように関わるか、その選択肢も多様化している。住宅ローンを組む際、ペアローンが選択肢に挙がることは多いだろう。
ペアローンとは日本特有の住宅ローンの商品で、住宅ローン控除や団体信用生命保険といった日本ならではの制度が組み込まれた商品だ。一般的にペアローンは借入可能額を増やせることや、夫婦それぞれが住宅ローン控除を利用できることなど、経済的メリットが語られることが多い。
では、実際にペアローンを選ぶ人は、借入額や住宅ローン控除といったメリットだけを理由に選んでいるのだろうか。ペアローンと似た仕組みのローンを比較するとともに、共働き世帯の住宅購入に見える価値観の変化について考えてみたい。
共働き世帯の増加と、住宅ローンの選択肢
総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2024年年平均」をもとにした独立行政法人労働政策研究・研修機構の発表によると、共働き世帯は約1,300万世帯に達し、専業主婦世帯を大きく上回っている。夫婦がともに収入を得ることが一般的となっている現在、夫婦で住宅ローンを組むケースも珍しくなく、住宅金融支援機構の2026年1月調査ではペアローン・収入合算の利用率は約4割(38.7%)となっている。
夫婦で住宅を購入する方法には、大きく分けて「ペアローン」と「収入合算」がある。 さらに、収入合算には「連帯債務」と「連帯保証」の2つの契約形態があり、それぞれ仕組みや特徴が異なる。
| ペアローン | 連帯債務(収入合算) | 連帯保証(収入合算) | |
| 契約数 | 2本 | 1本 | 1本 |
| 審査 | 夫婦それぞれが審査 | 夫婦の収入を合算して審査 | 夫婦の収入を合算して審査 |
| 夫婦の立場 | 双方が借主 | 双方が借主(主債務者・連帯債務者) | 借主+連帯保証人 |
| 住宅ローン控除 | 双方利用可(持分等の要件あり) | 双方利用可(持分等の要件あり) | 主債務者のみ |
| 団信 | それぞれ加入(ペアローン連生団信を選べる商品も有) | 原則主債務者のみ(夫婦連生団信などを選べる場合あり) | 主債務者のみ |
| 所有権 | 資金負担割合に応じて持分を設定 | 資金負担割合に応じて持分を設定 | 資金負担割合に応じて持分を設定 |
| 向いている人 | 夫婦ともに収入が安定している人 | 一つのローンで夫婦共同で購入したい人 | 主債務者の収入を補いたいが、配偶者を借主にはしたくない人 |
連帯債務や連帯保証が1本の住宅ローン契約を夫婦で支える仕組みであるのに対し、ペアローンは夫婦それぞれが独立した住宅ローン契約を結び、それぞれが債務者となる。権利と責任を夫婦それぞれが持つ点が、ペアローンの最大の特徴と言える。
この特徴は、借入額や住宅ローン控除などの面でメリットを生む一方、購入時の負担増や手続きの複雑さにつながることも否定できない。以降、そのメリットと留意点を挙げていく。
なぜペアローンを選ぶのか、特徴と留意点
ペアローンのメリットとして、単独ローンより借入可能額を増やしやすく、住宅ローン控除をより多く受けられる点が挙げられる。
高価格帯の住宅では、単独ローンでは住宅ローン控除の借入額の上限を超えるケースがあり、借入額のすべてが控除対象とならないことがあるが、ペアローンでは夫婦それぞれの借入額に対して住宅ローン控除を受けられるため、控除額は単独ローンより大きくなる。
以下の表は、新築住宅を8,000万円で購入した場合の住宅ローン控除額を比較したものである。控除対象借入額の上限により、単独ローンよりもペアローンの方が控除額は大きくなることがわかる。
| 種別 | 住宅ローン控除の対象借入額上限(1人あたり) | ペアローン(2人合計)の理論上最大控除額 | 単独ローンの理論上最大控除額 |
| 認定住宅(長期優良など) | 4,500万円 | 約728万円 | 約409万円 |
| ZEH水準省エネ住宅 | 3,500万円 | 約637万円 | 約318万円 |
| 省エネ基準適合住宅 | 2,000万円 | 約364万円 | 約182万円 |
ペアローンは原則として夫婦それぞれが団体信用生命保険(団信)に加入するため、仮に返済期間中に一方(例:夫)が亡くなった場合、亡くなった側のローンは完済となり、他方(例:妻)のローンは継続される。ただし近年は、どちらか一方に万が一のことがあった場合、双方のローンが完済される「ペアローン連生団信」を取扱う金融機関もあるので保障内容は確認しておくと安心だ。
メリットだけではなく、忘れてはならないのは夫婦それぞれの権利や責任を整理する局面で手続きが複雑になる点だ。その代表的な例が離婚だろう。離婚によって夫婦関係が終わったとしても、ペアローンの契約が終了するわけではない。そのため、どれだけ感情的になり話し合いが難しい状況であっても、その住宅を売却するのか、一方が住み続けるのか、各々の持分をどう整理するのか、などについて協議し、合意形成を図らなければならない。
ペアローンとは住宅取得という共同プロジェクト
ペアローンとは、二馬力だからこそ実現しやすい借入可能額や、夫婦それぞれが住宅ローン控除を利用できる経済的なメリットを理由に選ばれているものだと考えていた。
そこで、LIFULL社内で住宅を購入した数名に話を聞いてみた。いずれも、単独ローンでも購入できる可能性があったもののペアローンを選択していた。住宅ローン控除などのメリットは認識していた一方で、それ以上に印象的だったのは、「家は二人のものだから、責任も二人で持ちたかった」「共同の財産だから」「対等でありたかった」といった声だった。
限られたインタビュー結果を一般化することはできないが、彼らの言葉からは、ペアローンが単なる借入手段ではなく、住宅という大きな財産について、夫婦それぞれが責任を持ち、対等な立場で関わっていきたいという考えと結びついていることがうかがえた。こうした価値観は、共働きが一般的となった現代における夫婦の住宅取得への向き合い方を示しているのかもしれない。
住宅を取得することは、夫婦にとって大きな決断である。人生が進むにつれて、子どもの誕生や転職、家族環境の変化など、さまざまな出来事が訪れる中、住宅についてもリフォームや売却など、新たな判断が必要になることがあるだろう。住宅という共有財産に夫婦それぞれが権利と責任を持つ仕組みでもあるからこそ、人生の変化に向き合いながら、その都度、話し合い、選択を重ねていかなければならない。
そう考えると、ペアローンは単に住宅を購入するための仕組みではなく、住宅という共有財産に夫婦で責任を持ち、人生の変化に合わせて意思決定を重ねていく「共同プロジェクト」と捉えることもできるのではないだろうか。住宅を購入する瞬間だけではなく、その後の長い人生においても、夫婦で向き合い続けていく選択なのである。
執筆:LIFULL HOME'S総研 研究員 宮廻 優子
2006年にLIFULLへ入社。LIFULL HOME'Sの広告審査業務やガイドライン策定を通じて、不動産情報の正確性と信頼性の向上に取り組む。国土交通省の推進する不動産IDの有用性を検証するモデル事業への採択など、おとり物件撲滅の加速、業界全体の透明性とデータ基盤の高度化を通じて、仕組みによる情報精度の向上と安心できる住まい探しの実現を推進している。また、RSC(不動産情報流通推進協議会)において、省エネ性能ラベルの普及拡大についても取り組む。
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