賃貸アパートと賃貸マンション間で、物件属性が賃料単価に与える影響の違い

「東京23区の賃貸アパートの世帯数は、大阪市の賃貸マンション世帯数を上回り、賃貸住宅市場において2番目の規模となっている」ということについて、賃貸マンションと比較した賃貸アパート実態分析①でお伝えした。また、一般的なイメージである「賃貸アパートは賃料が安い」というのは、賃貸アパートの方が狭い物件が多いことでイメージが増幅された可能性があるということを賃貸マンションと比較した賃貸アパート実態分析②でお伝えした。

今回は、賃貸アパートと賃貸マンションは、例えば通勤時間が長くなることで、賃料単価が下落するのか、またその下落度合いに違いはあるのかということを検証したい。今回のレポートでは、こうした疑問を検証すべく、で分布状況を確認した東京23 区の賃貸アパートと賃貸マンションのデータから、統計モデルを構築している。

この統計モデルの係数や、算出した理論賃料単価を比較することで、物件属性が賃料単価に与える影響の違いを分析するという試みである。またその結果から、同条件の賃貸マンションと比較して賃貸アパートが特に割安と感じられる場合について考えてみたい(図表1)(図表2)。

図表1)レポートの分析フロー 出所)三井住友トラスト基礎研究所図表1)レポートの分析フロー 出所)三井住友トラスト基礎研究所

「専有面積が広くなる」ことによる賃料単価下落効果
「通勤時間が長くなる」ことによる賃料単価下落効果

図表2で専有面積の係数に着目すると、専有面積の増加は ともに賃料単価を押し下げる要因となっている 。専有面積が大きくなると、グロスの賃料も比例して増加するが 、これに応じて単価は減少していくことを意味している 。この「専有面積増加による 賃料単価の押し下げ」は、賃貸アパートの方が大きい 。

要因としては、で見たように 、 賃貸アパートはシングルタイプ( 30 m2未満)が約76%と狭い物件の割合が高く、かつ募集賃料(総額)が低価格帯の物件が多いため、 借り手にとって「広くて募集賃料(総額)が相応に高い賃貸アパート」が一般的でないことが影響している可能性がある。

そのため、投資家目線では、一戸あたりの専有面積が広いファミリータイプ等の物件を建築する場合 には 、賃貸マンションを選択する方が賃料単価の下落を抑えることができ、賃貸アパートを選択する場合には設備面等での工夫や差別化がより重要になると考えられる。

通勤時間の係数に着目すると、通勤時間の増加はともに賃料単価を押し下げる要因となっている(図表2)。借り手は、物件から最寄り駅までの所要時間にとどまらず、最寄り駅から最寄りターミナル駅までの所要時間を合算した通勤時間を意識して、賃貸物件を評価していることを意味している。この「通勤時間増加による賃料単価の押し下げ」は賃貸マンションの方がやや大きいが、差はわずかではある。

賃貸マンションは、土地が高度利用される都心部ほど供給可能性が高いと考えられ、また②で見たように駅徒歩 5 分未満が約 44% と突出し、交通利便性が高い立地での供給が中心である。そのため、駅から遠い賃貸マンションは借り手から厳しい値付けがなされ、「通勤時間増加による賃料単価の押し下げ」効果が特に大きいかと思われた。

しかし実際には、借り手は「通勤時間増加による賃料単価の押し下げ」効果を、賃貸アパート・賃貸マンション間でほとんど区別せず、同程度に評価していると解釈できる。

図表2)賃貸アパートと賃貸マンションの統計モデル 出所)LIFULL HOME'S</br>注1)LIFULL HOME'Sで2018年7月から2019年6月までの期間に、賃貸アパート(70,558件)・賃貸マンション(209,260件)として掲載された物件が分析対象。各種ダミーは、間取り、構造、時点、区、駅、設備について設定した</br>注2)通勤時間は、当該物件から最寄りの主要ターミナル駅までの所要時間。所要時間は、物件からの最寄り駅と最寄り駅から最寄りターミナル駅までの所要時間の合算。尚、主要ターミナル駅は、東京駅・大手町駅・新宿駅・渋谷駅・品川駅とした</br>注3)*は有意水準。***、**、*は、それぞれ1%、5%、10%を指す図表2)賃貸アパートと賃貸マンションの統計モデル 出所)LIFULL HOME'S
注1)LIFULL HOME'Sで2018年7月から2019年6月までの期間に、賃貸アパート(70,558件)・賃貸マンション(209,260件)として掲載された物件が分析対象。各種ダミーは、間取り、構造、時点、区、駅、設備について設定した
注2)通勤時間は、当該物件から最寄りの主要ターミナル駅までの所要時間。所要時間は、物件からの最寄り駅と最寄り駅から最寄りターミナル駅までの所要時間の合算。尚、主要ターミナル駅は、東京駅・大手町駅・新宿駅・渋谷駅・品川駅とした
注3)*は有意水準。***、**、*は、それぞれ1%、5%、10%を指す

「築年数が古くなる 」ことによる賃料単価下落効果
エリアで見る賃貸アパートと賃貸マンションの賃料坪単価の差

築年数の係数に着目すると、築年数の経過はともに 賃料単価 を押し下げる要因となっている (図表 2 )。そして、この「築年数経過による賃料単価の押し下げ」は、賃貸マンションの方がやや大きいが、その差はわずかである 。

三井住友トラスト基礎研究所レポートの『経年劣化が住宅賃料に与える影響とその理由』で示しているとおり、賃貸マンションの経年による賃料下落率は 概ね年1%前後と考えられるが、賃貸アパートにおいても同水準の可能性がある。

続いてエリアの観点から、「物件がどの区に所在するか」が賃料単価に与える影響を分析する。具体的には、行政区の違いのみを反映した区ごとの理論賃料坪単価を算出して比較を行ってみた。なお、総階数および構造については、それぞれ2 階・木造、5 階・RC 造とすることで、賃貸アパートと賃貸マンションの違いを表現している(図表3)。

図表3)賃貸アパートと賃貸マンションの各統計モデルに外挿する物件属性 出所)LIFULL HOME'S 三井住友トラスト基礎研究所</br>注)駅ダミー、設備系ダミー、時点ダミーについては、アパート・マンション間でも同条件となっている図表3)賃貸アパートと賃貸マンションの各統計モデルに外挿する物件属性 出所)LIFULL HOME'S 三井住友トラスト基礎研究所
注)駅ダミー、設備系ダミー、時点ダミーについては、アパート・マンション間でも同条件となっている

賃貸アパートと賃貸マンションの理論賃料坪単価

統計モデルによって算出された各区の理論賃料坪単価を、賃貸アパートは横軸に、賃貸マンションは縦軸に示した(図表4)。

理論賃料坪単価はすべての区で賃貸マンションの方が高く、都心部から周辺部に向かって賃料単価が低くなっていくのは賃貸アパート・賃貸マンションで同様である。

図表4)賃貸アパートと賃貸マンションの理論賃料坪単価</br>LIFULL HOME'S算出の理論賃料m2単価をもとに、三井住友トラスト基礎研究所作成図表4)賃貸アパートと賃貸マンションの理論賃料坪単価
LIFULL HOME'S算出の理論賃料m2単価をもとに、三井住友トラスト基礎研究所作成

賃貸アパートの理論賃料坪単価との関係性

ただし、同区内における両者の理論賃料坪単価の乖離度合については、異なった傾向がうかがえる。(図表5)では縦軸を、この乖離度合をもとに算出した賃貸アパート割安感偏差値に変更し、横軸の賃貸アパートの理論賃料坪単価との関係性を区ごとに示した。

すると、都心部の千代田区・渋谷区・港区・中央区は他の区と比較して理論賃料坪単価の水準は高いが、賃貸アパートの割安感が強くなっており、また周辺部の江戸川区・葛飾区は理論賃料坪単価の水準が低く、かつ賃貸アパートの割安感が強くなっている。

②で確認したとおり、賃貸アパートの賃料単価は賃貸マンションと比較して低価格帯が中心であり、同条件の賃貸マンションとの対比において、賃貸アパートは割安に感じられることが一般的と思われる。その中でも、賃貸アパートが特に割安と感じられるのは、今回のレポートの結果を踏まえると次の3 つの場合だろう。

1 つ目は、「広い物件を探している場合」である。専有面積増加による賃料単価の押し下げ効果は賃貸アパートの方が大きく、専有面積が広くなるほど両者の賃料単価の乖離は大きくなると捉えられる。そのため、専有面積が広めの賃貸物件を探しているファミリー層やDINKS 層にとっては、賃貸マンションだけでなく賃貸アパートも探索候補に加えることで、割安感が特に強い物件を見つけることができると考えられる。

2 つ目は、「都心部で家賃出費を少しでも抑えて居住したい時に、千代田区・渋谷区・港区・中央区で賃貸アパートを探す場合」である。これらの区では、賃料水準が高いことには変わりなく、物件数が限られるという可能性はあるものの、賃貸アパートを探索することで割安感が特に強い物件を見つけることができ、家賃出費を極力抑えることができる可能性がある。

3 つ目は、「周辺部で家賃出費をとにかく抑えて居住したい時に、江戸川区・葛飾区で賃貸アパートを探す場合」である。これらの区では、賃料水準が低く、また賃貸アパートと賃貸マンションの理論賃料単価の乖離度合が大きい。そのため、賃貸アパートを探索することで家賃出費を大きく抑えることができる可能性がある。

LIFULL HOME'S×SMTRI
https://www.smtri.jp/market/lifull_homes/

●アパート・マンションの物件属性が賃料単価に与える影響の違い

【過去のレポート(SMTRI)】
●「賃貸アパートは安い」イメージは、狭い物件の多さが一因か
●レポート「大阪の賃貸マンションを上回る、東京の賃貸アパートの市場規模」

◎分析  :三井住友トラスト基礎研究所 菅田 修、 髙林 一樹
     :株式会社 LIFULL 遠藤 圭介

参考:東京23区の賃貸アパート(LIFULL HOME'S)
   東京23区の賃貸マンション(LIFULL HOME'S)

図表5)賃貸アパートの理論賃料坪単価と賃貸アパートの割安感偏差値 出所)LIFULL HOME'S算出の理論賃料m2単価をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成</br>注)賃貸アパート割安感偏差値は、各区の理論賃料坪単価倍率(賃貸マンション理論賃料坪単価が、賃貸アパート理論賃料坪単価の何倍か)をもとに次式により算出した</br>各区の賃貸アパート割安感偏差値={{10×(各区の理論賃料坪単価倍率ー理論賃料坪単価倍率の平均値)}/理論賃料坪単価倍率の標準偏差}+50図表5)賃貸アパートの理論賃料坪単価と賃貸アパートの割安感偏差値 出所)LIFULL HOME'S算出の理論賃料m2単価をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成
注)賃貸アパート割安感偏差値は、各区の理論賃料坪単価倍率(賃貸マンション理論賃料坪単価が、賃貸アパート理論賃料坪単価の何倍か)をもとに次式により算出した
各区の賃貸アパート割安感偏差値={{10×(各区の理論賃料坪単価倍率ー理論賃料坪単価倍率の平均値)}/理論賃料坪単価倍率の標準偏差}+50

2020年 03月03日 11時05分