人気が再燃している石油ストーブ

懐かしさ漂うランタン調の石油ストーブ(写真提供:トヨトミ)懐かしさ漂うランタン調の石油ストーブ(写真提供:トヨトミ)

季節を表す二十四節気のうち冬の始まりとされるのが「立冬」。毎年11月7日ごろが立冬となるが、まだ秋も深まり切らぬうちから冬が始まるのは少々不思議な気がする。一方、気象庁が用いる冬の定義は12月~2月。暦の上では3月はすでに春である。ただ、2020年の記録的な暖冬を除けば、ここ数年は3月に入っても降雪が見られたり、寒い日が続いたりと、冷え込みが長引いている。

さて、寒い季節に欠かせないものといえば暖房器具。みなさんの家ではどういったものをお使いだろうか。エアコン、オイルヒーター、電気ストーブ、ガスストーブなど、使用する場所や用途によって使い分け、または併用している人も多いのではないだろうか。
さまざまな暖房器具の中でも、ある理由から今人気が再燃している石油ストーブについて紹介してみようと思う。

コンロから発展してきた石油ストーブの歴史

トヨトミ創業の商品。このコンロを元にトヨトミストーブの歴史が始まったトヨトミ創業の商品。このコンロを元にトヨトミストーブの歴史が始まった

灯油を使用して室内を温める石油ストーブ。日本では1960年頃から愛用され活躍してきた暖房器具だ。石油ストーブのパイオニアとして歩んできた株式会社トヨトミ(以下トヨトミ)の国内営業部業務部販促企画課・三浦大基さんと雁部耕介さんにお話を聞いた。

トヨトミの石油ストーブの歴史をさかのぼると、1952年自社開発製品第一号として石油コンロを生産したことに始まる。「当時はかまどや炭火を使う七輪が煮炊きの主流だった時代に、灯油を使う石油コンロの発売を開始しました。その利便性とススの出ない製品として、飛ぶように売れたと聞いています」(三浦さん)

トヨトミ創業の商品。このコンロを元にトヨトミストーブの歴史が始まった創業70周年のトヨトミがこれまでに作ってきたストーブ(写真提供:トヨトミ)
ガラス燃焼筒を搭載したRS- 10タイプ。赤いボディと斬新なデザインは当時「ダリア」という愛称で人気を集め、累計生産数は130万台を超えるベストセラーとなった
ガラス燃焼筒を搭載したRS- 10タイプ。赤いボディと斬新なデザインは当時「ダリア」という愛称で人気を集め、累計生産数は130万台を超えるベストセラーとなった

この石油コンロを元に、1959年には対流型石油ストーブを開発。翌年には世界初のガラス燃焼筒ストーブを完成させた。今では当たり前になっているガラス製の燃焼筒。実はトヨトミが開発し特許を取ったものだった。特許の失効後に各社がこぞって追随したことで、現在の石油ストーブの原型ができあがったのだという。

360°暖めてくれる、デザイン性も兼ね備えた対流型が人気

反射型石油ストーブの一例。背面の反射板が熱を反射し前方へ暖気を送り出す(写真提供:トヨトミ)反射型石油ストーブの一例。背面の反射板が熱を反射し前方へ暖気を送り出す(写真提供:トヨトミ)

石油ストーブには反射型、対流型の2つのタイプがある。

反射型石油ストーブは、主に四角いフォルムをしているものが多く、燃焼筒と呼ばれる円筒部分を囲うように反射板が設置されているものをいう。反射板から発生する輻射熱を利用して前方に熱を発し、部屋全体を暖める。遠赤外線で床や壁を暖めるため、じんわりと温かくなるのが特長だ。

一方、対流式ストーブのフォルムは円筒状で、上方に放熱し室内の空気を循環させるように燃焼するもの。そのフォルムから「昔はだるま式ストーブと呼ばれていた」(三浦さん)そう。

石油ストーブの人気が再燃している理由のひとつが、この対流式ストーブのデザインだ。インテリアの実例を共有するサイトやSNSでは、このレトロでおしゃれな対流式ストーブがたびたび紹介されている。

ユーザー層について三浦さんは「ここ10年でガラッと変わりました」と話す。ひと昔前は、長年石油ストーブを愛用する年配の方の買い替えとしての需要が大半。それが今では、生活にこだわりをもった若い層が中心となっているそうだ。

対流型石油ストーブが若い層に人気となってきたのには、企業努力もある。
「2011年あたりから古民家カフェや、使い切りカメラ、ラジカセといったレトロなものが若い人たちの間で注目を浴びるようになりました。そこで、当時の社長の号令のもと、20代を中心とした若手社員を集め、今の時代に合った石油ストーブを開発することになりました」と話す。
その時生まれたのが「Classic」。1980年に発売された「RB-2」から継承されるレインボー加工とよばれる特殊ガラスを採用した七色に輝く炎は、トヨトミ独自のもの。レトロなデザインに加え、ふんわりとした炎のゆらぎにぬくもりを感じることができると話題となった。

反射型石油ストーブの一例。背面の反射板が熱を反射し前方へ暖気を送り出す(写真提供:トヨトミ)デザイン性に富んだ対流型石油ストーブは、暮らしにこだわりを持つ若い人たちから支持されている(写真提供:トヨトミ)
反射型石油ストーブの一例。背面の反射板が熱を反射し前方へ暖気を送り出す(写真提供:トヨトミ)七色の炎が揺らぐレインボーストーブ(写真提供:トヨトミ)

災害時にも活躍するアイテムとして再認識された

東日本大震災の被災地および、愛知県に避難してきた被災者たちに対流型石油ストーブを寄贈した(写真提供:トヨトミ)東日本大震災の被災地および、愛知県に避難してきた被災者たちに対流型石油ストーブを寄贈した(写真提供:トヨトミ)

過去5年間の業界全体の対流型石油ストーブの売り上げを見ると、前年比で
2021年4月~1月 124%
2020年4月~3月 115%
2019年4月~3月 98%
2018年4月~3月 117%
2017年4月~3月 113%
と、2019年の記録的な暖冬の年をのぞいて右肩上がりとなっている。

そんな対流型ストーブが、爆発的に売れた年があったという。東日本大震災が起きた2011年だ。
震災直後の東北地方では、3月に入っても降雪がみられ厳しい寒さが続いていた。政府からの要請もあり、トヨトミでは被災地支援の一環として石油ストーブ800台を寄贈。電気やガスが使えないなか、電源を必要としない石油ストーブが大いに役に立ったという。

「ガスや電気の復旧に時間がかかった地域では、暖房・照明・煮炊きに使うことのできる石油ストーブは大いに活躍できたようです。計画停電の際も、ガスや電気が無くても使える石油ストーブは、災害時にも使えるアイテムだという認識が広がったことで、注目度が上がったと考えています」と三浦さんは振り返る。
また、「お湯が沸かせる石油ストーブは、赤ちゃんの哺乳瓶や衣類などを煮沸消毒することができるので、衛生管理にも使うことができます」と話していた。

電池レスで点火するタイプも登場

震災の翌年、世界初の乾電池不要の石油ストーブとして発売された「ぐるんPa」シリーズ。右のレバーを起こして回転させると瞬時に火が付く仕様だ(写真提供:トヨトミ)震災の翌年、世界初の乾電池不要の石油ストーブとして発売された「ぐるんPa」シリーズ。右のレバーを起こして回転させると瞬時に火が付く仕様だ(写真提供:トヨトミ)

デザイン性だけでなく、スペックも進化し続けている。
灯油を染みこませる芯の部分は、綿でできた芯からガラス繊維を混ぜた耐久性の高いものに切り替わった。
点火の際、電池を使わないタイプも登場した。これは、先述の東日本大震災の際の教訓から生まれたもの。レバーを1、2周回すだけで点火できる「ぐるんPa」シリーズは、電池が手に入りにくい災害時を想定して開発されたものだ。
「ダブルクリーン」と呼ばれる2段階の燃焼装置は、最初に搭載された1980年から現在までずっと改良され続けている。下段で燃え切らなかった匂いの元を上段で燃やしきることで、消火時の匂いを低減させる効果がある。二段構えにしたことで、通常タイプより40%程度火力をしぼることができるため、灯油を節約することもできるという。
三浦さんは「燃焼筒の穴の大きさや位置など、ほんのちょっと変えるだけでストーブの性能は変わってくるんです。でも、正解があってないような世界。本当に細かい部分に至るまで日々改良を続けている技術者たちの研鑽のたまものです」と話していた。

震災の翌年、世界初の乾電池不要の石油ストーブとして発売された「ぐるんPa」シリーズ。右のレバーを起こして回転させると瞬時に火が付く仕様だ(写真提供:トヨトミ)「ダブルクリーン」の仕組みについて説明してくれた三浦さん(右)と雁部さん(左)

これらは昨今の地球温暖化防止や廃棄物の減量化、資源の有効活用、省エネといった動きに対する取り組みともいえる。
「今はモノを大切にする人が増えてきました。壊れたから捨てるのではなく、修理して使うという時代です。メンテナンスをしながら長く使える、使い込むほどに味わいが出る石油ストーブは、そういった意識の高まりとも合致している」と三浦さんは話していた。

震災の翌年、世界初の乾電池不要の石油ストーブとして発売された「ぐるんPa」シリーズ。右のレバーを起こして回転させると瞬時に火が付く仕様だ(写真提供:トヨトミ)和洋どちらの部屋に置いても絵になるアンティーク調のデザイン。唐草模様のガードも印象的なCL-250 (写真提供:トヨトミ)

キャンプでの使用は要注意!

タンクの底に溜まった水分や不純物は、ストーブの芯にダメージを与える原因に。灯油はワンシーズンで使い切るのがベストタンクの底に溜まった水分や不純物は、ストーブの芯にダメージを与える原因に。灯油はワンシーズンで使い切るのがベスト

さて、そんな石油ストーブについて、使用方法など注意点を聞いてみた。

まず、火を使うため火気厳禁のマンションやアパートでは使用できない。隙間風が吹く昔の日本家屋とは違い、今の住宅は気密性が高いため、1時間に1回は換気が必要だ。あと、灯油はワンシーズンで使い切ることがストーブを長持ちさせるコツとのこと。
「石油ストーブの故障原因のトップは灯油です。灯油は変質するもの。使いきれなかった灯油を次のシーズンに使うのはやめたほうがいいですね。灯油の成分には水蒸気が含まれています。暖かい季節になるとその水蒸気が蒸発して結露となり、水滴となって灯油の中に落ちます。一度分離した水と油は混ざらないので、落ちた水滴はタンクの下に溜まってしまいます。こうした水や不純物を含んだ灯油を使うと、灯油を吸い込むストーブの芯の寿命を縮めてしまう恐れがあります」(三浦さん)

また、最近ではキャンプで石油ストーブを使用する人も増えているが、ここにも注意点が。実は、石油ストーブの屋外での使用は禁止されている。風に当たってストーブにダメージを与える可能性があるためだ。使用上の注意事項には「水平でない場所や不安定な場所での使用は禁止」という項目もあるため、各自責任をもって判断することが望まれる。

タンクの底に溜まった水分や不純物は、ストーブの芯にダメージを与える原因に。灯油はワンシーズンで使い切るのがベスト石油ストーブの屋外での使用は禁止されている
暖気は上に溜まっていく。サーキュレーターで暖気を循環させて効率よく部屋を暖めよう暖気は上に溜まっていく。サーキュレーターで暖気を循環させて効率よく部屋を暖めよう

石油ストーブの効果的な使用方法

効果的な使用方法については、反射型の場合は前方に暖気を出すため、部屋の壁際に置くのが望ましいとのこと。反対に対流型の場合は上方に暖気を出すため、部屋の中央に置いて360°暖めるのが効率的だ。ただし、転倒防止のため人が出入りするような場所は避けた方が無難だ。
「さらに効率よく使うためにはサーキュレーターを併用するのがおすすめです。サーキュレーターを上の方に向けて天井付近に溜まった暖気を部屋全体に循環させるのがポイントです。少ないエネルギーで部屋を暖めることができるので省エネにもつながります」と三浦さん。
また、翌シーズンも快適に使用するためには、ストーブをしまう前に空焚きをするのがポイント。芯に付着した不純物を取り除き、タールを付着しにくくする作用がある。

暖をとるだけでなく癒しのアイテムとしても

イベントで展示された歴代のストーブ。中央の緑色のタンクのストーブは1963年に発売された「KS-48」。通称「ひまわり」。昭和30年代を代表する対流型ストーブだ(写真提供:トヨトミ)イベントで展示された歴代のストーブ。中央の緑色のタンクのストーブは1963年に発売された「KS-48」。通称「ひまわり」。昭和30年代を代表する対流型ストーブだ(写真提供:トヨトミ)

同社では、2022年1月に名古屋市千種区の商業施設「星ヶ丘テラス」で、石油ストーブをフィーチャーしたポップアップストアを展開。
1980年代に人気を博したレインボーストーブなど過去の製品を展示したほか、無骨でクールなインテリアを好む人たちから支持を集める「GEAR MISSION」など最近人気のラインアップを展示販売した。
イベントに携わった雁部さんは「16日間の開催で1,200名以上のお客様にご来場していただきました。特に若い世代の反響が大きく、20~30代の女性からレトロでかわいいという声が多く聞かれました。ストーブの暖かさを実際に体感していただく機会の創出という意味で、今後もこういったイベントは継続していきたいと思っています」と話す。
同社のインスタグラムも好評で、2020年末の開設時に1,000人ほどだったフォロワーは、現在8,000人まで増えたという。

イベントで展示された歴代のストーブ。中央の緑色のタンクのストーブは1963年に発売された「KS-48」。通称「ひまわり」。昭和30年代を代表する対流型ストーブだ(写真提供:トヨトミ)無骨でクールなインテリアに映える「GEAR MISSION」シリーズの展示販売も行われた(写真提供:トヨトミ)
炎のゆらぎを見つめているだけで癒される(写真提供:トヨトミ)炎のゆらぎを見つめているだけで癒される(写真提供:トヨトミ)

電源のないところでも使用でき、天板部分で煮炊きができる点が石油ストーブの最大のメリット。それ以外にも昔ながらのストーブの人気が再燃した理由は「火が見える」ということではないだろうか。

焚火に癒される人が多いように、炎のゆらぎにはリラックス効果がある。
実際に、雁部さんも「家に帰ったら、電気を消した部屋でストーブの炎を見つめるリラックスタイムを設けている」という。さらに「リラックスするためには何もしない時間をつくることが大事。でも、何もしないって実はけっこう難しいですよね。そういう時に、ボ~っとするためのツールとしてストーブの揺らぎを使ってもらえたらいいなと思っています」と話していた。

より便利で快適な生活が実現できるようになった半面、ストレスを抱える人も増えてきている。冷えた部屋や体を暖める便利なアイテムとしてだけでなく、視覚的にも癒してくれる石油ストーブはこれからも需要が伸びていきそうな気配がする。

【取材協力・写真提供】
株式会社トヨトミ
http://www.toyotomi.jp/

イベントで展示された歴代のストーブ。中央の緑色のタンクのストーブは1963年に発売された「KS-48」。通称「ひまわり」。昭和30年代を代表する対流型ストーブだ(写真提供:トヨトミ)ほんのりと部屋を灯す石油ストーブ。ゆったりとしたくつろぎの時間を作るアイテムとしても有効かもしれない(写真提供:トヨトミ)

公開日: