マンション購入前に、住戸ごとの“燃費”が分かったら?

マンションのランニングコストの「見える化」を実現した「マンション家計簿」。2015年度グッドデザイン・未来づくりデザイン賞(経済産業省商務情報政策局長賞)、さらに平成27年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受彰しているマンションのランニングコストの「見える化」を実現した「マンション家計簿」。2015年度グッドデザイン・未来づくりデザイン賞(経済産業省商務情報政策局長賞)、さらに平成27年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受彰している

住宅購入は人生で一番高い買い物。最近では購入代金だけでなく光熱費などのランニングコストを踏まえてトータルに金額を検討する人が増えてきた。パッシブハウスなどある程度初期投資をかけても普段のランニングコストを抑えようという動きだ。環境面への意識の高まりからこうした傾向にあるが、あくまでも戸建て中心の話だ。マンションとなると、環境性能が建物全体の評価となるため、なかなか消費者にランニングコストまでは見えてこない。

こうした中、マンション業界初の試みとして三菱地所レジデンス株式会社が提供しているのが「マンション家計簿」だ。これは、マンションの住戸ごとの冷暖房費まで「見える化」させた「家計簿」をマンションごとに冊子でまとめたもの。

同じマンション内の同じ広さの住戸であっても、階層や向きによってランニングコストは変わってくる。住んだ後の“燃費”の違いまで加味して、消費者にマンション選びをしてもらおうという狙いだ。

今回は、マンションの新たな評価基準づくりに挑戦している「マンション家計簿」について取材をした。

直感的に住戸ごとの環境性能を把握する

「マンション家計簿」の算出項目。いえの燃費は、特に各住戸によって変化がある「マンション家計簿」の算出項目。いえの燃費は、特に各住戸によって変化がある

「世の中では省エネ性能の高い車や家電が登場し、燃費やランニングコストを考えて購入するのが当たり前です。にもかかわらず人生で一番大きな買い物のマンション購入で“燃費”が見えないのはおかしい」そんな思いが、マンション家計簿への取り組みのきっかけだったと三菱地所グループの株式会社メックecoライフ 三輪弘美氏は振り返る。

メックecoライフは、三菱地所レジデンスの100%子会社として環境・デザインに関する様々な研究・提案を行う会社だ。2013年より三菱地所レジデンスが販売する「ザ・パークハウス」の新築物件で「マンション家計簿」の配布をスタート。これまでに6万部を製作し、モデルルーム来場者へ配布している。2016年度には導入するマンションが100物件を超える見込みだという。

この「マンション家計簿」は、販売する新築マンションの各住戸のランニングコスト(燃費)を購入検討者に提示するもの。ランニングコストの内訳には以下の費用が積み上げられる仕組みだ。

【「マンション家計簿」の算出項目】
・「いえの燃費(冷暖房費)」=建物の省エネルギー性能や住戸位置によって変わる費用を住戸ごとに算出
・「くらしの燃費(水道光熱費)」=エアコンの電気代を除く光熱費を家族構成やライフスタイルにより算出
・「その他の費用(維持費)」=マンション固有の管理費、修繕積立金、固定資産税など

これにより、①同じマンション内で、同じ広さ、同じ間取りの住戸でも階層や向きによって“燃費”に差があること、②同社のマンションの環境性能の高さなどを数値として直感的に把握することが可能になるという。

同じマンションでも、ひと月1,000円も暖房費が違う?

実際に、「ザ・パークハウス成城彩景」の「マンション家計簿」を見てみよう。家計簿では、各住戸の間取り、平米数、暖房期・冷房期それぞれのコスト、年間の冷暖房費がそれぞれ明示されている。こちらの住居は、高層マンションではなく5階建てのマンションなのだが、意外と住まいの“燃費”に違いがあることに驚く。

例えば東南東向き住戸の117号室と520号室を比較すると、同じ広さながら117号室が暖房期:4,500円/月、冷房期:3,600円/月が算出されているが、520号室になると暖房期:4,800円/月、冷房期4,600円/月となる。暖房期にはさほど違いはないが、冷房期でおよそ1,000円/月も違いが出ているのだ。

一方、西北西向き住戸の201号室では、3、4、5階に比べ、201号室の方が暖房期のコストがかかっている。これは屋外に面するゴミ置き場が1階にあるため外気の流入により、床が冷やされ暖房費が余計にかかるためだそうだ。201号室の角住戸と203号室の中住戸を比較してみると、平米数としては3m2も変わらないのだが、年間の冷暖房費で1万円も違っている。住戸の方位や開口面積によってかなり差が出てくるのだ。

「一般的にマンションは上層階の方が高級とされ、角住戸に人気があります。しかし、ランニングコストも気にしてみると、一概にそうとも言えません。物件によっては上層階よりは低層階の方が冷暖房費は下がる傾向にありますし、窓の多い角住戸よりも中住戸の方がランニングコストは抑えやすくなります」(三輪氏)

もちろん、住まい選びはランニングコストありきで決めるものではない。しかし、ちょっとした間取りや階層の違いで家の“燃費”が変わってくるのだとしたら、それを事前に知って検討できるのは消費者にとってもメリットだ。

「ザ・パークハウス成城彩景」の冷暖房費分析「ザ・パークハウス成城彩景」の冷暖房費分析

実生活に近い、緻密な独自シミュレーションを開発

ただし、これだけ各住戸の環境性能を事細かに伝えるのは、企業としてなかなかできないのではないだろうか、とも思う。そのあたりは三輪氏も「真面目にものづくりに取り組んできたからこそできたこと」と話す。

マンション家計簿を見ていて気がついた方も多いと思うが、そもそも「ザ・パークハウス」での冷暖房費などは割安感がある。

これは「ザ・パークハウス」がしっかりとした断熱構造で「省エネルギー対策等級」も最上位の「4」にランクしていること。さらに、三菱地所レジデンス独自の高圧一括受電と太陽光発電を組み合わせたエコシステム「soleco(ソレッコ)」を導入し、各家庭の電気代(従量料金)10%と共用部の電気代を削減する仕組みを取り入れていることも影響している。

しかも、マンション家計簿で提示する燃費の算出プロセスでは「省エネ法(平成25年省エネルギー基準)」よりも算出区分を大幅に多くし、より実生活に近い緻密なシミュレーションを行っているという。

「例えば、エアコンに関してはお客様が入居後購入されるものなので、エネルギー消費効率の低いものであえて算出しています。ですので、最新型のエアコンを購入していただければ住戸の冷暖房費はさらに削減できるはずです」(三輪氏)

それほど、正直かつ実用的なレベルでの徹底したコスト算出を行っているのだ。

「くらしの燃費」のうち電気代だけでもこれだけ細かく算出している「くらしの燃費」のうち電気代だけでもこれだけ細かく算出している

「マンション家計簿」は購入時の新評価軸となるか?

お話をうかがった株式会社メックecoライフ 三輪弘美氏。「マンション家計簿のシミュレーション算出にはかなり時間を要しますが、お客様にとって有意義な情報だと思っています」と言う。今後、こうした取り組みが他社や業界全体にも広がっていくことを望んでいるというお話をうかがった株式会社メックecoライフ 三輪弘美氏。「マンション家計簿のシミュレーション算出にはかなり時間を要しますが、お客様にとって有意義な情報だと思っています」と言う。今後、こうした取り組みが他社や業界全体にも広がっていくことを望んでいるという

このほか、マンション家計簿の取り組みは、社内の「ものづくり」の意識を高めることも視野に入れているという。消費者にこれだけ詳細にランニングコストを見せるということは、当然設計や間取りの工夫、省エネへの配慮を一層深めていかなければならないだろう。

そういった意味でもマンション家計簿は企業努力を「見える化」するものであり、ある意味、真面目な企業でないと対応できないのかもしれない。

「マンション家計簿では現在は燃費に焦点があたっていますが、今後は例えばメンテナンス不要の材料を積極的に使うなど、修繕費用のコストを抑えるなどトータルな意味でのランニングコストの低減ができればと思います」(三輪氏)

車を購入する際には当たり前に「燃費」を考慮する私たち。マンションの“燃費”も購入前に把握することができれば、一つの大きな判断基準になるはずだ。先頭を切って三菱地所グループがこの「見える化」に取り組んでくれたが、今後業界全体で行ってもらえれば、マンション間での環境性能の比較も分かりやすい。ぜひこうした取り組みが広がっていくことを願いたい。

2016年 07月12日 11時06分