広島『SATONOWA(さとのわ)』高度経済成長期に開発された、郊外の大規模団地の一部を再編
2021年5月、広島市東区の高台に、約3.1ha・131区画の住宅地『SATONOWA』が“里びらき”した。
JR広島駅の北約3kmほど、標高70mほどに位置し、背後は牛田山の豊かな緑に包まれ、南に広島市街を望む。周辺は高度経済成長期に開発された大規模団地で、成熟したコミュニティが育まれている。
『SATONOWA』ができたのは、団地のうち国家公務員宿舎が建っていたエリアで、宿舎の移転・削減に伴って土地・建物が払い下げられた。
おのおの道路に囲まれた4つのブロックは、1つ1つ別々に入札が行われ、事業者のトータテ都市開発は、それを1つずつ落札して、まとまったまちづくりを目指したという。「広島市内で、近年これほど大規模な宅地開発は希少だと思う」とトータテ都市開発の浅並大悟事業部次長はいう。
半世紀近くの歴史を重ねてきた団地で、まちを再編する責任は重い。トータテ都市開発でははじめ、既存の建物を残して活用する方法も考えたそうだ。そこで、社宅再生などに実績のあるリノベーションのパイオニア、ブルースタジオに相談を持ち掛けた。結果的に建物の活用は実現できなかったが、ブルースタジオならではの視点から、まちをまるごとリノベーションする提案を受けた。
『SATONOWA』とはつまり『里の環』。地域とつながり、人の流れをつくる、循環型のまちづくり
「まちのリノベーションで重要なのは、地域の文脈を読み取ること」だとブルースタジオの大島芳彦さんはいう。
「大きな団地の一部を変えることになるので、周辺との関係を整理し直さなければなりません」
提案・設計にあたっては、団地周辺を広範囲にリサーチし、隣接する広島女学院大学や、地域住民の取りまとめ役である社会福祉協議会とも連携を図った。
「一帯は『ニュータウン』として生まれて40年以上経過して、一部は高齢化が進み、一部は世代交代が起こり始めています。その中間に位置する『SATONOWA』には、まちによりよい循環を起こす役割があると考えました」。
『SATONOWA』の北側には小中学校があり、子どもたちの通学路にも当たる。バス停や郵便局に接し、地域交流の結節点でもある。
さらに「市街地の奥まった位置にあり、里山の緑に接する地形は、関東でいう『谷戸(やと)』のようです。自然と暮らしが共存する『里』のイメージがふさわしい」と大島さん。新しくここに住む人と、昔から住む人との間に自然な交流が生まれて、地域になじんでいく。『SATONOWA』とはつまり『里の環』なのだ。
『SATONOWA』の特徴は、4つのブロックそれぞれを巡る街路がゆるやかにカーブしていて行き止まりがなく、いろんな方向に通り抜けられることだ。家々の間に車の通れない遊歩道「フットパス」があり、子どもたちも安心して歩いたり遊んだりできる。
住宅は建売で、事業者がトータルに企画しているので、街並みの調和も徹底されている。1つ1つの家に個性を持たせつつも、外観の色彩はトーンが揃って統一感がある。街路面に門扉や塀はなく、開かれて親しみやすい雰囲気だ。
まち全体に施されたバリエーション豊かな植栽は、近隣の里山の植生に倣ったものという。四季の移ろいに伴ってさまざまな花が咲き、紅葉し、実がなるので「ここに来ると季節の変化が実感できるんですよ」と前出のトータテ都市開発・浅並さんはいう。
ブロックごとに公園や広場を設け、まちを巡る楽しみを提供
4つのブロックにはおのおの個性の異なる公園があり、それぞれを巡りながら散歩を楽しめるように配置されている。西の端の「牛田早稲田第九公園」からは市街地の眺望が拡がり、日が暮れると夜景が美しいそうだ。
東の端にある「わせだ広場」は、正確には「公園」ではなく、トータテ都市開発が自ら所有して管理している。この広場は払い下げ以前、地元住民たちが盆踊りに使う場所だった。その伝統を受け継いで、引き続き、地域に開放することにしたわけだ。開発中は中学校の校庭に場所を移していた盆踊りが、またここで開催されることを期待している。
コミュニティをリードする賃貸住宅は、まちの循環を促す
『SATONOWA』のほとんどは分譲住宅だが、「わせだ広場」に面して2棟8戸だけ、賃貸住宅を設けている。名前は『SATONOWA TERRACE』、広場に面して土間のテラスがあり、店舗のようなガラスの開口部を持つ、オープンなメゾネットだ。これも、ブルースタジオの提案に基づくという。
「この賃貸住宅はコミュニティに積極的にかかわることを示したプランで、その価値観に共感してくれる人が入居するだろうと想定しました。ここで『SATONOWA』ならではの暮らし方を住人たち自身でつくってもらえれば、あとから分譲住宅に入居する人たちにとっても、いいお手本になると思ったんです」と大島さん。
トータテ都市開発の社内では「外から覗かれそうな間取りなので、入居者が決まらないのでは」と不安視する声もあったそうだが「蓋を開けてみれば、あっという間に満室になりました」と浅並さん。「意外だったのは、入居者が多世代にまたがっていること。50m2弱の1LDKなので、20〜30代のカップル向きかなと思っていたのですが、50代のご夫婦もいれば、10〜20代の学生姉妹も住まわれています。土間テラスやバルコニーの使い方も上手で、それぞれ個性があって感心します」。
分譲住宅の初期の購入者は、もともとこの団地や周辺に住んでいた人が多いが、賃貸住宅の入居者は、まちの外から入ってきた人がほとんどという。「賃貸をきっかけに、このまちの魅力を知ってもらえるといいですね」と浅並さん。数年ごとに入居者が入れ替わる賃貸住宅は、まちの循環を促す装置でもある。
住人みんなで共有するフットパスが、気兼ねのない遊び場に
これまでの宅地開発でも、外構や植栽に力を入れてきたというトータテ都市開発だが、家々の軒先を巡るような「フットパス」の導入は初めての試みだそうだ。
「賃貸住宅の間取りと同様、社内では議論が分かれました。特に販売担当の心配は大きかったようです。けれどもこれもまた、私たちの予想を超えて歓迎されています。思っていたよりずっと、うまく使いこなされていると感じます」と浅並さん。
「たとえば、ご近所の子ども同士が遊ぶのにも、誰かの家の庭ではなくて、みんなで共有する遊歩道なので、お互いに気兼ねがないようです。お天気のいい昼下がりには子どもたちが自由に駆け回っていて、その様子を見ると、つくづくフットパスをつくってよかったと思います」。
コロナ禍に重なって、里びらきのイベントは縮小せざるを得なかったが、最近は少しずつ、広場を舞台にしたポップアップショップなども行っている。会場は広場に設けたコミュニティハウスで、基本設計を広島女学院大学の学生たちが手掛けた。これについては、稿を改めて紹介したい。
『SATONOWA』全戸の完成は、2023年を予定している。2016年の用地取得から数えれば、およそ7年がかりのまちづくりだ。新しく植えられた木々がゆっくりと育つように、里の環もまた、ゆっくりと拡がり、回り始めていくのだろう。
■取材協力
ヴェルコート牛田早稲田『SATONOWA』
https://www.totate.co.jp/satonowa/
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