19世紀後半から世界各地の人気観光地となったミニチュアパーク

実在の街や建造物を小型模型で再現したミニチュアパークが造られるようになったのは、19世紀後半のこと。世界最古のミニチュアパークとされているのはイギリス・ロンドン郊外に1929年に開園した『ベコンスコット モデルビレッジ』で、古き良きイギリスの風景が再現された。

また、オランダのデン・ハーグで第二次世界大戦後の1952年に開園した『マドローダム』は、戦時中に失われた街並みをミニチュアで再現し、人々の心を癒す目的で造られた施設だったという。日本では1993年、栃木県日光市に『東武ワールドスクエア』が誕生。2001年にはドイツ・ハンブルグに世界最大の鉄道模型テーマパーク『ミニチュアワンダーランド』が開業するなど、世界的ブームとなったミニチュアパークはファンたちを歓喜させ、地域の観光名所として地元経済に潤いをもたらす存在となっている。

そして、いま最も新しい屋内型のミニチュアパークとして注目を集めているのが、東京・有明で2020年6月に開業した『スモールワールズTOKYO』だ。

同パークの誕生経緯と、ミニチュアの世界の楽しみ方について担当者に話を聞いた。

▲ゆりかもめ『有明テニスの森』駅から徒歩3分。周辺には高層マンションや物流センターが集まる湾岸エリアに2020年6月にオープンした。約5,000m2の展示スペースは6つのエリアに分かれており、すべて80分の1スケールで再現されている。入口にあるトンネルを通り抜けると、自分がどんどん小さくなっていくような感覚を覚える。※下2枚の写真は、ロケットの発射風景を眺める『宇宙センター』エリアと、飛行機模型がリアルに離発着する『関西国際空港』エリアの様子▲ゆりかもめ『有明テニスの森』駅から徒歩3分。周辺には高層マンションや物流センターが集まる湾岸エリアに2020年6月にオープンした。約5,000m2の展示スペースは6つのエリアに分かれており、すべて80分の1スケールで再現されている。入口にあるトンネルを通り抜けると、自分がどんどん小さくなっていくような感覚を覚える。※下2枚の写真は、ロケットの発射風景を眺める『宇宙センター』エリアと、飛行機模型がリアルに離発着する『関西国際空港』エリアの様子

大型テーマパークとは異なり、ミニチュアパークでは”個の時間”を楽しむ

▲株式会社スモールワールズ マーケティング部執行役員の山田俊太郎氏。建物3階には『移住サポートセンター』があり、住民権を獲得すると3Dスキャナー(写真下)で80分の1のフィギュアが作成され完成後は希望エリアに設置。”ミニチュアの街で1年間暮らす”ことができる▲株式会社スモールワールズ マーケティング部執行役員の山田俊太郎氏。建物3階には『移住サポートセンター』があり、住民権を獲得すると3Dスキャナー(写真下)で80分の1のフィギュアが作成され完成後は希望エリアに設置。”ミニチュアの街で1年間暮らす”ことができる

「実はこのスモールワールズは、50年近くの構想を経て誕生しました。当初から”次世代のテーマパークはミニチュアだ”と考えていたのです。

有名な大規模テーマパークというのは、言うなれば“ハレの日のコース”で、何か月も前からワクワクしながらみんなで訪れる日を楽しみにするような存在です。それに対してスモールワールズTOKYOというのは、仕事が終わったらふらっと一人でも立ち寄りたくなるような”個の時間”であり、“癒されるためのコース”と言えます。

都心近郊の屋内型施設であれば、平日でも、休日でも、雨の日でも、真夏の暑さの中でも気軽に楽しめますから、同じテーマパークであっても、アクティブな大規模テーマパークとは“ハッピーの質を差別化できる”と考えました」と語るのは、株式会社スモールワールズの山田俊太郎氏だ(以下「」内は山田氏談)。

コンテンツとしてミニチュアを選択したのは、思わず見入ってしまう魅力と製作の効率性。山田氏によると、大規模テーマパークはスポンサーに依るところが大きく、パビリオン建設には膨大な予算と期間を費やすことになるが、ミニチュアパークなら予算の桁も違い、開業までの迅速なスピード感が見込める点も大きなメリットだと言う。

「東京で開業するにあたり、ここ『有明』を選んだのは羽田・成田・都心からのアクセスが良く、インバウンドの旅行客もターゲットにできると考えたからです。当初は商業施設の中で開業することも検討しましたが、この建物の中に模型の製作室があるため、同じ建物内に展示施設をつくることにしました。こうすることでミニチュアの補修をしたり、次の企画の展示準備を進める際にもスムーズに行えます」

筆者も実際に見学ルートに沿って館内を取材したのだが、80分の1のスケールの小さな街を俯瞰することができるせいか、歩行距離はさほど長くはないものの“いろいろな国を旅したような充足感”に満たされた。何より驚いたのは、ミニチュアの精巧さに加えて自動運転などの先進技術が導入されている点だ。小さな街の中を細かく観察すると、車が走っていたり、自転車に乗っている人がいたり、庭先で飼われているニワトリの首の動きまで見事に再現されている。

「小型模型の技術は格段に進化しています。当施設でも3Dスキャナーと3Dプリンターを使って細部を仕上げたり、カーボンファイバーでミニチュア飛行機を作ったり、自動運転システムでミニチュア自動車を走らせたりと、最先端の模型技術を導入することでより精巧なミニチュアの街をつくることができました。技術を提供している企業側からしてみると、こうしたスペースで自社の技術を公開することにより、展示会等に出展するよりもリアルに消費者とつながることができるというメリットがあります」

移住サポートセンターで申し込むと、1年間の『住民権』を獲得できる

加えて、他のミニチュアパークと大きく異なるのは“来場者参加型”となっている点だ。実はスモールワールズ東京内には『移住サポートセンター』があり、エリアごとの『住民権』を獲得(購入)することができる。スモールワールズの住民になると、80分の1サイズの自分にそっくりなフィギュアがつくられ、自分が希望する街の中で一年間”暮らす”ことができるのだ。

「テーマパークの新しい楽しみ方として、来場してくださったお客様にもご参加いただき、一緒に創り上げていくということができないかな、と考えていました。この発想から生まれたのが“住民権付きフィギュアプログラム”です。こうした住民権付きのミニチュアパークというのは世界初の試みで、フィギュア製作にあたり移住サポートセンターに設置されている最新の3Dスキャナーを使って全身スキャンを行います。

スキャンの所要時間は30秒ほど。2週間後には自分にそっくりなフィギュアが完成し、ご希望のエリアに1年間設置することができます。体格や髪型、着ている服のシワまで再現されますから、かなりリアルな仕上がりになります。また、住民権獲得の記念として、年間パスポートと自宅保管用のフィギュアを2体プレゼントしております」

開業から約3ケ月が経ち、多くの人たちが街の住民となった。中には恋人同士で来場した記念に住民権を獲得し、二人で同じポーズを取ってフィギュアを作成。「ミニチュアの世界でも変わらぬ愛を誓う」など、住民それぞれに楽しみ方を見つけているようだ。

▲こちらはアジア・ヨーロッパをテーマにした5つの街が集まる『世界の街』エリア。館内では15分ごとに朝・昼・夜と時間帯が変わり、風景の違いを楽しむことができる。建物、道路、橋、人物、樹木、花、動物など、見れば見るほど精巧なつくりだが、開業にあたって約100名のスタッフがそれぞれの得意分野で製作を担当したという(昼の風景と住民フィギュア設置の様子)▲こちらはアジア・ヨーロッパをテーマにした5つの街が集まる『世界の街』エリア。館内では15分ごとに朝・昼・夜と時間帯が変わり、風景の違いを楽しむことができる。建物、道路、橋、人物、樹木、花、動物など、見れば見るほど精巧なつくりだが、開業にあたって約100名のスタッフがそれぞれの得意分野で製作を担当したという(昼の風景と住民フィギュア設置の様子)

『美少女戦士セーラームーン』と『エヴァンゲリオン』の世界を再現

もうひとつファンを喜ばせているのは、人気作品の世界がリアルに再現されている点だ。『美少女戦士セーラームーン』エリアでは原作の舞台とされている麻布十番の街が。『エヴァンゲリオン 第3新東京市』エリアでは物語の舞台となった箱根の街が。そして『エヴァンゲリオン 格納庫』エリアでは、初号機・零号機・2号機が次々と射出される様子が再現されるため、その場から長時間動くことなく憧れの作品の世界に浸っている来場者も多い。

「各エリアのテーマを絞りこむときに『空港』『世界の街』『宇宙』についてはミニチュアの定番として比較的早く決まったのですが、せっかくなら日本ならではのものをつくりたいな、と。

“テレビや漫画の2次元で見ている世界を3次元にしてしまったらおもしろいのでは?”ということで、アジア全域で人気の『美少女戦士セーラームーン』と『エヴァンゲリオン』という2つのテーマが決まったのです。街の中をじっくり観察していただくと、作品の中の名シーンが再現されていたり、作品に登場するキャラクターのフィギュアが街角に立っていたりと、製作者側が仕掛けた様々なサプライズも楽しんでいただけると思います」

なお、この2つのエリアについては“作品に登場するキャラクターの近くに住みたい”と考える希望者が多いため、人気エリアへのフィギュア設置については一定の人数制限を設けている。

▲『美少女戦士セーラームーン』エリアでは、ファンから”聖地”と呼ばれている麻布十番の街を再現。物語の舞台となった1990年代の街並みが広がっており、現存する人気中華料理店や有名鯛焼き店の看板なども確認できる。©Naoko Takeuchi▲『美少女戦士セーラームーン』エリアでは、ファンから”聖地”と呼ばれている麻布十番の街を再現。物語の舞台となった1990年代の街並みが広がっており、現存する人気中華料理店や有名鯛焼き店の看板なども確認できる。©Naoko Takeuchi

2022年以降、沖縄をはじめアジア全域で展開予定

▲『エヴァンゲリオン 第3新東京市』エリアの夜景と『エヴァンゲリオン 格納庫』エリア。憧れの作品の世界を俯瞰することで想像力がさらに膨らんでいく。お気に入りの場所を見つけるとその一ケ所に佇んだままずっと動かず、ミニチュアを眺めている来場者も多い。©khara▲『エヴァンゲリオン 第3新東京市』エリアの夜景と『エヴァンゲリオン 格納庫』エリア。憧れの作品の世界を俯瞰することで想像力がさらに膨らんでいく。お気に入りの場所を見つけるとその一ケ所に佇んだままずっと動かず、ミニチュアを眺めている来場者も多い。©khara

「僕自身もそうですが、男性の場合はただただ模型の同じ動きをぼーっと眺めているだけでも飽きないようです(笑)。

女性の場合はミニチュアの細かいつくりこみを確認したり、街の中の仕掛けを発見して楽しんでいらっしゃる方が多いようですね。

いずれにしても”まるで自分が巨人になったかのように、街を俯瞰できる気持ち良さ”がミニチュアの世界に惹きつけられる理由なのだと思います」と山田さん。

今後スモールワールズはアジア全域への展開を計画しており、2022年には『スモールワールズ沖縄』が那覇空港そばのショッピングモール内に開業予定だ。こうしたミニチュア製作のような細かな技巧というのは日本人が元来得意とする分野であり、訪れる人たちを魅了する不思議な魅力を備えている。今後日本発のスモールワールズが世界的に認知されていけば、アニメ同様にミニチュアパークも“日本が誇る文化のひとつ”となるに違いない。

なお、館内にはお酒も飲めるバーラウンジも設置されている。皆さんも仕事帰りにふらっと立ち寄って、ミニチュアがつくりだす“もうひとつの世界”を楽しんでみてはいかがだろうか?

■取材協力 スモールワールズTOKYO
https://www.smallworlds.jp/
●住民権付きフィギュアプログラム(年間パスポート付き) 
 高校生以下 1万760円(税込)・大人 1万2,630円(税込)
●『美少女戦士セーラームーン』エリア および
 『エヴァンゲリオン 第3新東京市』エリア ・『エヴァンゲリオン 格納庫』エリア
 高校生以下 1万7,600円・大人 1万9,800円(税込)

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