家づくりの情報収集は遅れている?

おいしいレストランや映画、行きたい旅の場所や満足度の高いホテルや旅館など、私たちはたくさんの情報を仕入れ、さらに実際に経験を積むことにより「自分に合った」情報選択をすることができる。今やインターネットの普及でユーザーの情報収集の習熟度が増す中、様々な業界がユーザーの満足度をあげるための進化をつづけているといえる。

さて、住宅選び・家づくりはどうかというと、もちろん情報は多くネット上にあふれてはいるが、そのほとんどは家を提供する側からの情報であり、ユーザーの口コミなどはあっても、なかなかグルメ情報のようにはいかないようだ。
さらに経験を積むとなると、よほどのお金持ちでない限り、何度も個人で家を建てることはないであろうし、建築士や大工と同じ知識をもって家づくりを理解することは難しい。それでも少なくとも「一生に一度の買い物」であるがゆえに失敗はしたくない、と「失敗しない」「後悔しない」などのワードを入れて情報を探す人も多いであろう。

おのずと安心・安全な家を…と願い「みんなが良いといっていそう」「たくさん家を建てていそう」な大手の住宅を選ぶ人が多いのもうなずける。もちろん大手の住宅選びが悪いわけではないが「自分はどういった家を望んでいたのか、本当に住みやすい家とはどういった家なのか、についてとことん考えた上の選択だった」と、納得していいきれる人がどのくらいいるだろうか?

住宅の情報には、どうしても情報量や知識量に非対称が生まれる。本質的に納得した上で家をつくることができれば一番良いのであろうが、それには片や「正しくわかりやすい情報」があることと、また片やそれをユーザーが「勉強できる、または体験できる環境と機会があること」が条件になる。

家づくりについて、本や情報誌を片手に勉強している人も多いと思うが、動画で家づくりを勉強できるという新しい流れがあるという。YouTubeに公開したとたんに、短期でユーザーの支持を集めている例があるというのでお話を伺ってみた。

動画で家づくりのノウハウをわかりやすく公開する

工務店向けに約300回の講演、および500社を超える技術指導を行ってきたという松尾設計室の松尾 和也氏工務店向けに約300回の講演、および500社を超える技術指導を行ってきたという松尾設計室の松尾 和也氏

家づくりのノウハウを動画として配信し始めたのはLIFULL HOME'S PRESSのオピニオンリーダーでもある松尾設計室の松尾和也氏。動画公開からわずか45日で、約2万人のチャンネル登録ユーザーを集めたという。

松尾氏といえば、家の断熱や熱効率など性能の高い家づくりの知識が豊富な建築士であり、その知識を生かして工務店向けのセミナーやメーカーとの技術開発など、日本の家の性能を高めるための取組みを行っている人物である。

「家づくりのノウハウを動画で発信しようと考えたきっかけは、太陽光発電についての間違った情報の横行です。太陽光発電に関してはネットでもウソや間違った情報が多すぎます。それによって多くの方々、日本全体としても損失が拡大してしまうことがあまりにも口惜しいと感じたからでした。そういった業界の発信する情報の誤認をふせぐためにも、そういった情報発信は今までも文字などで伝えていたつもりですが、より分かりやすく多くの方々に情報を届けるためにはどうしたらいいのか、と考えていました。

今のところ数多くはありませんが、先行して住宅づくりのノウハウの動画発信を行っている住宅会社があり、見てみると文字より数段わかりやすい。動画でわかりやすく正しい情報を伝えることは意義があるのではないか……と考え、機材を購入してYouTubeで公開をはじめました」

動画で配信を始めてみると、すぐにユーザーからコメントがついたという。その中には多く「こういうことだったのかとよく理解できた」「こういった家づくりが必要なのだと納得できた」などのコメントが並ぶ。
「動画をアップするとユーザーからの反応がすぐに見える。また、動画を見て質問コメントをくれる方などもいて、とにかく反応がはやいのに驚きます」という。

「旨いラーメン屋がラーメンづくりに心血を注いでいるように、住宅業界も住宅づくりにとことんこだわらなければいけない」

松尾氏は、もちろん自社で建築の仕事をしているが、今回の動画配信の目的は自社の仕事を増やすためではないという。

「動画をはじめて、もちろん問合せも増えましたが、自社でできる仕事はそんなに多くはありません。たとえ全国から問合せをいただいても対応するエリアも限られます。今回、ノウハウを広く動画で伝えていきたいと思ったのは、情報格差のあるこの業界で、できるだけハードルの低い形で正しく詳しい情報をユーザーに届けたいと思ったからです。またそうすることで、営業トークは下手でも技術があり真摯に家づくりを行っている会社をユーザー自らが選ぶ目をもってほしい、という思いからです」という。

例えば、4月15日に配信されて、すでに5万9000回を超える視聴を得ている「建ててから後悔したことワースト3+α」の動画では、松尾氏が何度も工務店向けに行っているセミナーの内容が凝縮して語られている。セミナー講師をし慣れているだけあって、内容は濃いが、聞きやすく理解しやすい。

「この業界はまだまだ勉強も足りないし、マーケティングが下手なんです。良い家を建てる工務店がいても、味はいいけど偏屈なおやじのいるラーメン屋みたいなもので、発見してくれるユーザーがなければ生き残れない。その発見するユーザーも数々のラーメンを食べているからであり、家づくりをラーメンと同じようにたくさんは行えない。
なので、代わりに正しい家づくりの知識を得られる場をたくさん作っていき、賢いユーザーが良い工務店を見分ける目をもってほしいと思い、始めたのが今回の動画です」という。

2020年4月13日に最初の動画をアップしてから、約2か月の間にすでに40本以上の動画をチャンネルにアップしている。視聴回数は中には30万を超える視聴動画もある2020年4月13日に最初の動画をアップしてから、約2か月の間にすでに40本以上の動画をチャンネルにアップしている。視聴回数は中には30万を超える視聴動画もある

やはり質を見極めるのは、最後はユーザー。努力をしない会社は淘汰される当たり前の業界に

松尾氏はまた、多くの工務店も同じように動画配信等での情報発信をしてほしいという。

「動画で配信をしたいという会社にはアドバイスを含めて、現在自身で行っていることをお教えするのも積極的に行っていきたいです。先にいったように目指しているものは“日本の住宅の質の向上”です。

怖がらずに情報発信をしていき、ユーザーに選んでもらう。意見は真摯に反映して、自らも学んでいく。他の業界と同じことですが、努力をしない会社は淘汰される当たり前の業界になっていかないと、日本の住宅の質の向上はないと思っています」という。

この動画配信によって賢いユーザーをたくさんつくり、そういったユーザーが支持する家づくりの会社が増えていってほしいというのが狙いのようだ。

「住宅の商品紹介だけではなく、なぜそれが必要なのか、それがどういった性能につながるのか、またそれがどういった暮らしになっていくのかを説明できる業界になっていくべきです。単純に動画をつくったら支持されるというものでもなく、その情報の良し悪しをやはり精査するのはユーザーなのだと思います。お客さんは、賢いんですよ」

奇しくもコロナ禍の中、ステイホームのため家づくりを考えていてもなかなかモデルハウスに行けなく、家づくりの様々な情報をネットで探す人も増えているようだ。
動画のコメントの中には、「こんな動画が無料で見られる時代になったとは」と、工務店向けに行われていた専門的なセミナー内容が手軽に見られることを歓迎するものもある。

今後、動画も含め、どういった形での家づくりの情報発信が行われ、ユーザーがどう解釈して家づくりを変えていくのか、引き続き注目していきたい。

■取材協力
YouTubeチャンネル「兵庫、大阪で高断熱高気密住宅専門の建築家集団 松尾設計室」
https://www.youtube.com/channel/UCMzddq7FBK8DiP9-KPzhj9Q/videos

松尾氏の動画は、工務店向けに行われてきた講演内容をデータに基づきわかりやすく解説したものが多い松尾氏の動画は、工務店向けに行われてきた講演内容をデータに基づきわかりやすく解説したものが多い

2020年 06月23日 11時05分