タブレットを使って空き家マップをデータベース化

タブレットを使っての空き家マップの作成作業風景。すべてを集約して記録できるタブレットを使っての空き家マップの作成作業風景。すべてを集約して記録できる

2020年1月。福井県美浜町のNPO法人「ふるさと福井サポートセンター(ふるさぽ)」が、共同通信社が地方新聞46紙とともに地域の課題解決に取り組む団体を表彰する第10回地域再生大賞を受賞した。評価されたのはITを利用した空き家のデータベース化や、空き家が発生する前に防ぐための仕組みである。

空き家があっても市場に出てこないため、美浜町に住みたくても住めず、外に出て行ってしまう人を食い止めようと2011年に空き家マッチングツアーから活動を始めたふるさぽが、最初にITを利用して空き家対策に取り組んだのは5年前。美浜町から空き家マップ作製を委託された時である。多くの自治体では紙の地図を持って現場に出かけて写真を撮影、紙の調査表に必要事項を記載して記録という作業を行っており、さらに2~3年も経つと自治体の担当者が変わってしまう。空き家になった経緯や事情などは異動に伴って忘れられてしまい、定期的に行われる空き家調査は毎回、新たに手間をかけてやり直すことになる。

「紙を使った手作業ではご近所に似たような空き家があった場合には、どれがどれだか分からなくなることすらあります。そんな無駄を省くために作ったのがタブレットを使った入力システム。地図上で空き家をマーキング、写真撮影、調査票記載もタブレット上で行ってその情報をPCでデータベース化。経緯や苦情なども細かく入っているので、担当者が変わっても情報は共有できる。他の自治体にも使ってもらいたいと思っていますが、いまだに大半は紙ベース。近隣の自治体がいくつか使ってくれているだけです」(ふるさぽ理事長・北山大志郎氏)

空家を上流で予防する3つの手だて

役所の仕事は紙をベースにするものが多いが、ふるさぽはそれをいち早くデータベース化した役所の仕事は紙をベースにするものが多いが、ふるさぽはそれをいち早くデータベース化した

その後に取り組んだのが空き家に悩む自治体ならどこも考えているであろう、空き家を発生させないための取組みである。発足以来、年に3回ほどの空き家マッチングツアーを行ってきたふるさぽだが、いつも苦労するのは空き家探し。町内には約3,700世帯が居住しており、うち420軒ほどが空き家になっているが、外観目視で確認した範囲でそのまま使える空き家は10%ほど。それ以外は老朽化が進むなどにより改修が必要で、そうなるとなかなか貸せなくなる。

「当初は空き家に人を入れることだけを考えていましたが、放置された空き家はどんどん活用しにくくなる。また、町内には65歳以上の単身世帯が670軒ほどもあり、これらにも空き家になる可能性がある。だとしたら、既存の空き家にアプローチして利活用に腐心するより、空き家問題の上流部分、つまり空き家予備軍、空き家になってすぐの人たちに働きかけたほうが効果があるのではないかと考えるようになりました」

そのためにふるさぽが考えたのが早期決断への3つの手立てである。ひとつ目はタブレットを利用した「空き家おねだんシミュレーション」である。

「空き家問題で多くの人が気になるのが住宅が売れるのか、解体費用や相続税はどうなるのかなどお金の問題。ところが役場に行っても不動産会社のリストを渡されるだけでどの会社に相談すれば良いかすら分からない。それで面倒になって放置しておこうとなるのを防ごうと、知りたいお金の情報が簡単に、一度にすべて出るものを作ったのです」

相談者には課税証明書を用意してもらい、それを元に情報を入力していくといくらで売れるか、解体費用はいくらかかるかに始まり、登記費用や税金など気になるお金の話が出てくるのだ。

空き家を思い出とともに次の居住者に住み継ぐ

しかも、売却価格は3種類出る。ひとつは最近の周辺での取引事例であり、もうひとつは税金その他から算出したもの。そして、最後のひとつは自分が売りたい価格である。売る時はできるだけ高くは誰しも思うが、実際の取引価格などが明示されているところに、その何倍もの額を希望する人はそうそういない。それに機械が自動的に算出しているので、ある種の客観性を感じるのだろう、人間が値付けをした場合と違い、安く見積もったと憤慨されることもないそうだ。

お金の問題をざっくり理解してもらったところで、ふたつ目の手立てとして出てくるのが「空き家決断シート」である。空き家の所有者にとっての選択肢は売る、貸す、譲る、解体、放置だが、放置は論外として、どの手段を取るかをシートを見ながら家族でシミュレーションしてもらうのである。「ここまでやってくると空き家を自分の問題として真剣に考えるようになり、あと一歩で決断できるところまできます」

ちなみにこの段階で大半の女性は決断。仕方ないねと思いきるそうだが、なかなか決断できないのが男性。「なんとかしなくちゃいけないのは分かったが、う~ん」などと悩む男性に妻が「お父さんは何もしないくせに。空き家になって面倒を見るのは私ですよ」と一喝することもあるそうだ。

でも、大丈夫。ふるさぽではさらに最後の手段も用意している。それが三つ目の「家の思い出レター」。処分することになる家をスタッフが家族とともに訪れ、家に関するすべての思い出を語ってもらい、それをすべて撮影、紙にも書いて記録するという作業だ。家中のあちこちでの思い出を語り終わる頃にはそれまで諦めがつかなかった人もさっぱりした表情で「もう、これでいいよ」となるそうで、実に人の気持ちに添ったやり方だと思う。また、そこで作られた記録は新たにその家で生活を始める人に渡され、新住民は記憶とともに家を住み継ぐことに。きっと家を大事にして住んでくれるに違いない。

空き家決断シートを使用して空き家について考える集まり。空き家になる前から自分はどうしようと考える機会があることは大事だ空き家決断シートを使用して空き家について考える集まり。空き家になる前から自分はどうしようと考える機会があることは大事だ

地域で活動を支える、ふるサポーターも300人超

これらのツールに加え、2019年には「どうする?空き家 空き家の意思決定緊急度診断サイト」も作っており、ここまで読んできた印象からは機械頼りの対策をしている団体のように思われるかもしれないが、それは全く逆だ。ツール開発の背景には地域密着で空き家所有者や地元の人たちの話と真摯に向き合い、問題を解決しようと取り組んできた実績がある。その活動ぶりが分かるのがふるサポーターと呼ばれる、地域でふるさぽの活動を支えてくれる応援団的な人たちの存在だ。

「美浜町には37の集落があり、それぞれにローカルルールもあれば、特徴もあります。そのため、家と人とだけではだめで、集落もマッチングし、間を取り持つ必要があります。本当はそれぞれの集落に一人ずつメンバーがいれば良いのでしょうが、それは難しい話。そこで集落のキーマンに頼んで紹介をいただき、さらにそこから紹介をしていただくような形で、何かあった時には相談させてくださいくらいの緩い関係で繋がっています。現在は300人程度ですが、これからの5年で2,000人くらいには増やしたいと思っています」

ここ10年弱の活動でふるさぽの認知度は上がっており、法事の時などに空き家の話題が出ると「だったらふるさぽに相談したらいい」と勧めてくれる人も出るようになったそうだ。

また、美浜町の小学校では10年ほど前から子どもたちが地域の課題を自主的に学ぶ総合学習を取り入れているが、3年前からはふるさぽも協力して空き家問題が取り上げられている。

空き家のマッチングツアーなど日常の地道な積み重ねも地元の人たちに支えられている空き家のマッチングツアーなど日常の地道な積み重ねも地元の人たちに支えられている

子どもたちも空き家問題に取組む

「小学校5年生時から2年間、総合学習が行われるのですが、そこで空き家をテーマとした学校では、子どもたちが空き家を借りて自分たちで片付けをし、カフェをやりました。借りるところから始まり、近隣に車を置かせて欲しいと頼みに行ったり、メニューを考えたり、最後は片づけまで。自分たちで考え、自分たちなりに工夫を凝らす姿は頼もしい限り。

昨年は所有者が家財道具などをそのままに残して施設に入所した家を借りたのですが、それをきっかけに所有者のご子息たちは片づけをする気になったようです。ふるさぽはこの学習のお手伝いをしており、昨年12月に行われた成果を発表するイベントでは6年生の皆さんにふるサポータージュニアの認定証、ふるさぽピンバッジを贈呈しました」

地域での活動を経験した子どもたちは郷里に帰って来ることが多いそうで、北山氏もいずれは子どもたちが地元に戻り、地域の課題に立ち向かってくれることを期待している。空き家カフェを開いた家もそうだが、地域の人たちもまた、子どもたちの活動に触発されて何とかしなくてはいけないと思うようにもなっている。

もうひとつ、ふるさぽの活動で特徴的なのは活動を移住者向けに考えていないこと。これまで移住者を受け入れてきた経験がない地域に「空き家が増えているから移住者を受け入れましょう」と急に言ったところで抵抗を感じるだけ。それよりも地元が楽しそうにしていることで、面白そうだからと関わる人が増え、その人たちがいずれ住みたいと思うようになれば抵抗は少なくなるはずと北山氏。急がず、地道に、これまで同様積み上げていこうというわけだが、徐々に認知度はアップしている。これまでマッチングした空き家は25軒というが、徐々に加速傾向に転ずるかもしれない。楽しみである。

空き家を利用したカフェでは近所の子育て支援センターを利用する親子がお客さん。子どもたちはいろいろな工夫をしておもてなし空き家を利用したカフェでは近所の子育て支援センターを利用する親子がお客さん。子どもたちはいろいろな工夫をしておもてなし

2020年 03月17日 11時05分