渋谷区長の発案でスタートした防災フェス

地震や津波、台風、集中豪雨など、自然災害が多発する日本。そんな日本で1960年に定められた記念日が9月1日の「防災の日」だ。1923年9月1日に発生し、10万人以上の死者・行方不明者を出した関東大震災の惨事を伝え、教訓として活かすことを目的としている。

この9月1日を含む9月は「防災月間」として、今年も全国各地でさまざまな防災訓練が行われた。
そのなかで、東京都渋谷区の「渋谷防災フェス」へ取材に出向いた。9月2日(土)、3日(日)の2日間に渡り、代々木公園のイベント広場一帯を会場に開催された。

場内には防災に関するさまざまな展示ブースが並ぶほか、ステージではトークイベントや、渋谷のコミュニティFM局「渋谷のラジオ」の公開生放送などがあったり、陸上自衛隊の炊き出しのデモンストレーションなど、文化祭といった趣。親子連れやカップル、外国人、愛犬を連れた人、高齢者など、さまざまな人が訪れていた。

渋谷防災フェスが始まったのは昨年のこと。それ以前も、渋谷区の防災訓練は代々木公園で行なわれていた。陸上自衛隊や警視庁、消防署などとの連携による総合防災訓練だったという。ただ、実施するのが防災の日の9月1日と決まっていて、平日になるケースがほとんどだったため、学校や会社勤めがある世代は参加できず、参加者の年齢層に偏りが出てしまっていた。そこで、「幅広い年齢層の人が参加できるような防災訓練を」と、長谷部健渋谷区長が発案したのが、休日に開催するフェス形式の防災訓練だったのだ。休日に開催すれば若い世代も参加しやすくなる。

また、東京都渋谷区は日本を代表する繁華街のひとつ、渋谷を擁するエリアである。そうしたことから、渋谷区民だけではなく、渋谷に集う誰もが気軽に参加できる防災イベントとし、2016年9月4日(日)に第1回渋谷防災フェスを開催。約1万5000人の来場があった。

メインステージでは、長谷部健渋谷区長によるトークショーなど、防災をテーマにさまざまなイベントが開催された</BR>写真は、FMラジオ「J-WAVE」の番組「AVALON」の公開収録の様子。人気ラッパーのACE、DOTAMAが出演し、即興防災ラップを披露してくれたメインステージでは、長谷部健渋谷区長によるトークショーなど、防災をテーマにさまざまなイベントが開催された
写真は、FMラジオ「J-WAVE」の番組「AVALON」の公開収録の様子。人気ラッパーのACE、DOTAMAが出演し、即興防災ラップを披露してくれた

木造住宅の耐震相談窓口も開設されていた

第2回目の今回は「ダイバーシティ(多様性)」をテーマに先述のように2日間に拡大されて開催された。

そのテーマが示しているように、防災に関する「多様」な内容を盛り込んだフェスだった。災害時のガスや電気の安全、地震発生時の家具類の転倒防止対策、ケガ人や病人の救急救助、防災時のラジオの役割、液状化現象を理解するための実験など幅広く学ぶことができた。このほか、ペットの防災に特化したコーナーもあった。

そのなかで「あなたの家は大丈夫ですか?」というタイトルで2団体の共同でブースを出展していたのは、日本建築家協会渋谷地域会と東京都建築士事務所協会渋谷支部(以下、建築士事務所協会)。日本建築家協会渋谷地域会では熊本地震の被災写真などを展示し、木造住宅の耐震簡易相談窓口を開設して相談に対応していた。一方の建築士事務所協会で取り組んでいたのは、地震被災後の建築物に対する「応急危険度判定」の制度の紹介だった。

応急危険度判定とは、大地震で住宅など建築物が被災すると、地震直後に市区町村が行なう調査。余震などによる建物の倒壊や落下物など二次災害を防ぐために建築物の被災状況を調査し、当面の被災建築物が使用できるかどうかを判定する。調査を担う応急危険度判定員は、各都道府県の所定の講習を受けた建築士などが行なうこととなっている。

調査後、「調査済み(建築物の被災程度は小さいと考えられ、使用可能)」「要注意(建築物に立ち入る場合は十分な注意が必要。応急的に補強する場合は、専門家への相談すること)」「危険(建築物への立ち入りは危険)」のいずれかで判定結果が示される。

「応急危険度判定は被災直後にそのまま自宅にいてもいいのか、避難所へ避難する方がいいのかなどを判定するもの。人命にかかわる重要な調査なので、この渋谷防災フェスを機に多くの人に知ってほしい制度です」と、建築士事務所協会の担当者は話していた。

上左)日本建築家協会渋谷地域会・東京都建築士事務所協会渋谷支部の出展ブースの様子</BR>上右)陸上自衛隊は災害時に行なっている炊き出しのデモンストレーションと炊き出しカレーを提供</BR>下右)東京都水道局渋谷営業所の出展ブースでは、応急給水用資材の組み立てを体験できた</BR>下左)「液状化を実験してみよう」をテーマに出展していたのは、</BR>早稲田大学社会環境工学科(旧土木工学科)の学生などからなる早大防災教育支援会WASEND上左)日本建築家協会渋谷地域会・東京都建築士事務所協会渋谷支部の出展ブースの様子
上右)陸上自衛隊は災害時に行なっている炊き出しのデモンストレーションと炊き出しカレーを提供
下右)東京都水道局渋谷営業所の出展ブースでは、応急給水用資材の組み立てを体験できた
下左)「液状化を実験してみよう」をテーマに出展していたのは、
早稲田大学社会環境工学科(旧土木工学科)の学生などからなる早大防災教育支援会WASEND

避難所のトイレ不足解消を目指す助け合いプロジェクトの紹介も

場内では災害時に備え、揃えておくべき、水や食料品、日用品などの防災グッズを見ることもできた。絶対に必要だとあらためて感じたのは、水がなくても使える携帯トイレ。避難所に行っても仮設トイレが設置されるまでに数日間かかるケースが多く、自宅で避難生活を送る場合でも排水設備などが破損していて水洗トイレが使えないこともある。用意の目安は、最低でも7日分。

トイレの話題でもう1点。場内では「みんなが元気になるトイレ」というプロジェクトが紹介されていた。

災害時の避難所では大勢の人たちが避難してくるのに対し、トイレが不足しがち。そんなトイレ不足の問題を解消しようと、公益社団法人助けあいジャパンが企画したのが、洋式水洗トイレを搭載したトレーラーを被災地の避難所へ派遣するというプロジェクトだ。避難所にはたくさんのトイレが必要になるので、全国にある約1700の市区町村が1台ずつトイレトレーラーを常備し、災害が発生したら一斉に被災地へ運び、貸し出すという仕組みづくりの実現を目指している。そんなプロジェクトにいち早く賛同したのが静岡県富士市。この防災フェスでは、富士市の意気込みを伝えるとともに、トレーラーの購入資金を広く一般から募るクラウドファンディングの協力を呼びかけていた。

ちなみにこのクラウドファンディングは2017年9月16日に終了し、目標金額1000万円を上回る寄附が集まり、プロジェクト成立が決定した。富士市から始動する、自治体間の助け合いネットワークの広がりを期待したい。

上左)セコム株式会社のブースでは、災害時に役立つ防災用品セットを展示</BR>上右)「学ぼう!災害時のトイレ!」と題したコーナーでは、携帯トイレの備えや使い方について教わることができた</BR>下右)写真はまいにち株式会社の携帯トイレ「マイレット」。排便袋と抗菌性をもたせた凝固剤がセットされている。100回分のパックだと、1万6200円(大型外袋10枚付き)</BR>下左)「みんなが元気になるトイレ」のプロジェクトでは、全国の市区町村よる助け合いネットワークづくりを目指す上左)セコム株式会社のブースでは、災害時に役立つ防災用品セットを展示
上右)「学ぼう!災害時のトイレ!」と題したコーナーでは、携帯トイレの備えや使い方について教わることができた
下右)写真はまいにち株式会社の携帯トイレ「マイレット」。排便袋と抗菌性をもたせた凝固剤がセットされている。100回分のパックだと、1万6200円(大型外袋10枚付き)
下左)「みんなが元気になるトイレ」のプロジェクトでは、全国の市区町村よる助け合いネットワークづくりを目指す

女性の視点で開発された下着のセット

「レスキューランジェリー」を出展した、株式会社ファンクションの代表・本間麻衣さん

「レスキューランジェリー」を出展した、株式会社ファンクションの代表・本間麻衣さん

さて、防災グッズで女性の役に立つと思ったのは、「レスキューランジェリー」という商品で、上下の女性用下着と洗剤、防水バッグのセット。災害が起きて避難所での生活を余儀なくされたとき、入浴や着替えなどがむずかしく、臭いの問題にも悩まされるという。

そこで、開発されたのが、防臭効果の高い竹布を素材に用いた下着。防臭性のほか、この商品のポイントはもう1点ある。付属の防水バッグは内側が防水加工されていて、中に下着を入れて洗濯ができ、さらにはバッグの内側に張ってある紐を使うことでバッグに入れたまま下着を干すことができる。つまり、避難所で人目を気にせず、下着が干すことができるのだ。

「災害に備えて備蓄品を揃えようとしたとき、女性の視点に立った防災用品が少ないと思ったことが考案したきっかけです」と、出展した株式会社ファンクションの代表・本間麻衣さんは語っていた。

日ごろから近隣の人と交流を深めておくことも防災訓練に

上)9月3日(日)の12時~13時に開催された「渋谷おとなりサンデー」。定員いっぱいの約70名の参加があり、盛況だった</BR>下)石井食品の玄米がゆと甘辛豚肉。袋を立てて食べられるので、食器は不要上)9月3日(日)の12時~13時に開催された「渋谷おとなりサンデー」。定員いっぱいの約70名の参加があり、盛況だった
下)石井食品の玄米がゆと甘辛豚肉。袋を立てて食べられるので、食器は不要

防災をテーマにしたトークイベントの中で筆者が興味をそそられたのが、「渋谷おとなりサンデー」というプログラム。いざというときに頼りになり、助け合うのは近所の人たちだ。でも、「近所の人と話す機会はないし、そもそも何を話したらいいのかわからない…」という人もいるだろう。

このプログラムは、初対面の人たちと一緒に非常食を食べながら防災について学びつつ、コミュニケーション力アップに役立てようということで企画された。昨年の第1回渋谷防災フェスでも開かれ、好評につき、引き続いての開催となった。

今回の参加者たちが味わった非常食メニューは、石井食品株式会社の玄米がゆと甘辛豚肉。ともに、水や加熱は不要で、封をあけてそのまま食べられるレトルトパウチ食品。無添加調理であるうえに賞味期限5年間と長期間備蓄できるようになっている。

同社顧客サービス部のマネージャー、山岡覚さんから同社の非常食開発にまつわる話を聞くこともできた。

石井食品は、ハンバーグなどの加工食品で知られる食品会社だが、東日本大震災で被災地への食糧支援を行なったのを機に、非常食の開発に力を入れて取り組むようになったという。

「被災した方から、『水や火が使えなかったので調理できなかった』というお困りの声を多数いただいたのです。そんなご意見から生まれたのが、ライフラインが断たれてしまっても食べられる非常食です。白米ではなく、玄米のお粥にした主な理由として、玄米のほうがビタミン、ミネラルなど栄養分が高いということがあります。非常時だからこそ、被災された方には栄養をしっかり摂っていただきたいです」と、山岡さん。

また、「避難所にはさまざまな人が避難してくるので、食物アレルギーをもつ人も食べられるものを」という意見も多数寄せられたという。それを受けて、特定原材料7品目(卵、乳、小麦、エビ、カニ、そば、落花生)を使わずに同社が開発した非常食が3種類(和風、洋風、イタリアン)のリゾット。これらは渋谷区が区として備蓄している食糧品にもなっていて、「渋谷おとなりサンデー」の参加者には土産としてイタリアンリゾットの提供があった。

非常食を食べ終えたら、参加者同士の交流タイム。初対面の人に囲まれて、最初は戸惑っていた人も、「お住まいはどちらですか?」などといったひと言から会話がはずみ始めた。子連れの家族同士、子育ての話で盛り上がっていたテーブルもあった。参加者の中で渋谷区民は数名ほどで、区外からの参加が圧倒的に多く、なかには埼玉県や神奈県からやって来た人も。「たまたま代々木公園にきて、おもしろそうだったから参加してみた」という声も聞かれた。

非常食を食べる機会などほとんどないので、筆者にとっても貴重な経験になった。

この「おとなりサンデー」に限らず、渋谷防災フェスではさまざまな防災の情報を得ることができた。

首都直下地震は30年以内に70%の確率で起こるといわれている。だが、内閣府の防災に関する調査では、大地震を含む自然災害に備えて取り組んでいるという回答は37%と4割以下になっている(※)。

これまで防災を意識しなかった人が、こうしたフェスのようなイベントを通じ、災害への備えを考えるきっかけになれば、と、思った。

※参考:「平成28年版防災白書」(内閣府)

■取材協力
渋谷防災2017運営事務局
http://shibuya-bosai.tokyo

2017年 09月28日 11時05分