CO2削減や高齢化の課題解決のほか、観光資源にもなりうる「グリーンスローモビリティ」

シンポジウムで展示されたグリーンスローモビリティシンポジウムで展示されたグリーンスローモビリティ

「グリーンスローモビリティ」をご存じだろうか。

国土交通省のホームページによると、グリーンスローモビリティとは、「電動で、時速20km未満で公道を走る4人乗り以上のパブリックモビリティ」とある。辞書で調べてみると、「モビリティ」は「乗り物」や「移動手段」を指す言葉。4人乗りのゴルフカートのようなものから、10人以上乗れる小型のバスのようなタイプまでさまざまな種類があるが、「グリーンスローモビリティ」の特長としては以下の5つが挙げられる。

・Green…CO2排出量が少ない電気自動車である
・Slow…ゆっくり走行する。観光にぴったり
・Safty…速度制限で安全。高齢者も運転しやすい
・Small…小型で、狭い道を走るのに適している
・Open…窓がない開放感が、乗っていて楽しい

グリーンスローモビリティが必要と言われる背景には、温暖化対策におけるCO2排出量の削減がある。国の地球温暖化対策計画に掲げられている2030年度のCO2排出量は、2013年度比26%減を目標としており、それを達成するためには、運輸部門のCO2排出量を3割削減しなくてはならない。そこで、CO2排出量の少ない交通機関への転換が求められているのだ。

さらに、操作が簡単で高齢者にも運転しやすいことや、車両がコンパクトで道が狭いエリアでも利用することができ、今までバスや電車といった大型の公共交通機関が活用しにくかった場所にも適しているという特性からも、グリーンスローモビリティが注目されている。

今、このグリーンスローモビリティを使って、CO2削減と同時に、地域が抱える交通課題の解決に利用しようとさまざまな取り組みが行われている。6月13日マイドームおおさかで行われた「グリーンスローモビリティシンポジウム」では、大阪大学大学院工学研究科・土井健司教授による基調講演や「グリーンスローモビリティの事業化に向けて」と題したパネルディカッションのほか、広島県福山市と富山県黒部市の宇奈月温泉での活用例の2つが紹介された。

広島県福山市鞆の浦の景観に溶け込む「潮待ちタクシー」

ひとつは、平成30年の実証実験に参加し、翌年4月からグリーンスローモビリティを使った全国初のタクシー事業を開始した福山市。実証実験の舞台は、潮待ちの港として古代から知られる鞆の浦だ。

鞆の浦は「福山市鞆町伝統的建造物群保存地区」が重要伝統的建造物群保存地区に選定されている歴史ある美しいまちで、近年では映画のモデルやロケ地にもなり、年間約200万人が訪れるという人気の観光地でもある。

一方で、人口はおよそ4000人、高齢化率は47.2%と高い。そのうえ、街中に古くからの地割が残り、道幅が狭く、急な坂道も多い。路線バスが運行できないという公共交通の課題もあった。そこにたくさんの観光客が車で流入しているのだ。「鞆の浦に住む人々の暮らし」と「鞆の浦を訪れる人たちへのおもてなし」。この2つをゆっくりとつなぐというコンセプトで取り組んだのが、グリーンスローモビリティの実証実験だった。

使用したのは7人乗りのゴルフカート型のモビリティ2台。
高齢者を対象に、定時定路線で、支所やふれあいサロン、病院を経由して福山駅行のバス停やフェリー乗り場への接続を図る「暮らしおたすけルート」、観光客をメインターゲットにして鞆町の観光名所を行き来する「絶景おもてなしルート」、そして走島内の3つの集落、フェリー乗り場、診療所をつなぐ「走島おでかけルート」。この3つのルートで実証実験を行い、2週間で1071人が利用という結果を得た。その後、実験に協力したタクシー会社から、グリーンスローモビリティの車両を購入したいと連絡があり、グリスロタクシーの本格運用、緑ナンバーの取得に向けて動き出したのだ。

運輸局や警察との協議では、グリーンスローモビリティはドアがないことから、乗客や運転手の安全の担保や実際に運用する道路事情の調査が必要であるとの指摘などを受け、
・鞆町は道が狭いので衝突事故は考えづらい
・地域では普段からスピードは出さず衝突事故は少ない
・一般車と共存した際に渋滞を生み出さないように運行エリアを設定
・裏道を中心に通る
といった運用ルールを作成。理解を得た。

そうして、平成31年4月19日から「グリスロ潮待ちタクシー」の運用が開始。
5人乗りのモビリティに、タクシーメーターや行灯、カーナビや無線など、通常のタクシーとほとんど変わらない設備を搭載し、平均1日4~5回、休日は10回以上稼働している。観光客のほか、地元住民も乗り合わせをして利用し、じわじわと稼働数が増えている。

今後は、グリーンスローモビリティバスの本格運行も考えているという福山市。住人の利便性が向上するのはもちろんのこと、美しい景観をゆっくり楽しめる、そんな時間を提供してくれるのも、グリーンモビリティならではだろう。

福山市の潮待ちタクシー。海辺を爽やかに観光できそうだ(写真提供:福山市建設局都市部都市交通課)福山市の潮待ちタクシー。海辺を爽やかに観光できそうだ(写真提供:福山市建設局都市部都市交通課)

電力の地産地消を目指す宇奈月温泉の「EMU」

美しい山々を見ながら乗車できる宇奈月温泉の「EMU」(写真提供:一般社団法人でんき宇奈月)美しい山々を見ながら乗車できる宇奈月温泉の「EMU」(写真提供:一般社団法人でんき宇奈月)

続いての事例は、宇奈月温泉でグリーンスローモビリティを活用している一般社団法人でんき宇奈月。自然エネルギーと電気バスによる公共交通事業を導入し、先進的な温泉リゾートとして、観光客を誘致するとともに、エネルギーの地産地消による自立した地域づくりを推進している。

宇奈月温泉は、富山県黒部市にあり、黒部峡谷や黒部ダムが有名な温泉地だ。豊かな自然、そして、電源開発とともに歩んできた。だが、バブル期以降は宿泊者が減少。平成2年には約60万人だったが、平成26年には約25万人まで減少している。また、最寄り駅を降りると、送迎バスがエンジンをかけながら待っている……。せっかく自然を満喫しに来たにもかかわらず、送迎バスの排気ガスに迎えられるという問題点も言われていた。

宇奈月温泉で走っている電気自動車、すなわち、グリーンスローモビリティバスの名前は「EMU(エミュー)」。平成24年に運行を開始した。

コースは2つ。平日の午後には30分間隔で、土日祝は午前からに15分間隔で運行している宇奈月温泉街周回コースと、ダムや温泉入浴施設を、平日午後に2往復、土日祝は午前から3往復する「宇奈月ダム&とちの湯コース」だ(※運行時間は時季により変化あり)。

シルバー人材センターを活用して運転手を確保し、出発地点はきまっているものの、その後は、乗客は乗りたいところで手をあげ、降りたい場所を運転手に伝える仕組み。温泉街をゆっくり走る無料の乗り合いバスだ。
本格運行後は、CO2排出量を削減できているのはもちろんのこと(マイクロガソリンバス車と比較して約3700㎏/年削減)、視察団体の来訪が増えたり、子どもたちの環境教育に活用するなどさまざまな効果を生み出している。そしてなにより宇奈月温泉の象徴的な乗り物になりつつあるという。

だが同時に、「乗り方が浸透していない」「電気的なトラブルは製造会社に対応してもらう必要があり時間がかかる」「市からの運行補助金が出なくなった場合」など課題はあることが、発表者から付け加えられた。

鞆の浦も宇奈月温泉も、観光客の来訪と高齢化・人口減少という共通した問題の解決に、グリーンモビリティが活用されている。身近な乗り物がエコであれば住民の意識への影響も大きく、また旅行者にスローな時間を提供できることはその地に魅力をひとつ加えてくれるだろう。

〝移動〟をエコに、スローにすることがもたらすさまざまなメリット。早くて便利な車移動にはない特徴を、グリーンスローモビリティは持っている。今後、同様な課題を抱える自治体で広く導入され、〝移動〟に対する私たちの認識が変わっていくだろうと感じたシンポジウムだった。

公開日: