MRJの初飛行でも注目された名古屋空港に航空機をテーマにしたミュージアムが完成

2017年11月30日オープン。名古屋駅から車で約30分。名古屋駅、栄、JR勝川駅、名鉄西春駅からはバスでも行ける。ショッピングモールに隣接しているため休日は家族連れでにぎわっている(写真提供/あいち航空ミュージアム)2017年11月30日オープン。名古屋駅から車で約30分。名古屋駅、栄、JR勝川駅、名鉄西春駅からはバスでも行ける。ショッピングモールに隣接しているため休日は家族連れでにぎわっている(写真提供/あいち航空ミュージアム)

愛知県といえば何を思い浮かべるだろう。
日本を代表する自動車メーカー「トヨタ自動車」を挙げる人が多いのではないかと思うが、実は自動車だけでなく日本最大、アジアNO.1の航空宇宙産業の集積基地だということをご存知だろうか。

県内には日本の主要機体メーカー、三菱重工業、川崎重工業、SUBARUの生産拠点が集中。飛行機部品の製造や材料、燃料を供給する関連会社などが集まっており、日本の航空機・部品の5割以上、航空機体部品の約8割(※)を生産しているのだ。
2011年には国からの「アジアNO.1航空宇宙産業クラスター形成特区」の指定を受け、アメリカのシアトル、フランスのツールーズに並ぶ世界三大拠点形成を目指し、県をあげて推進に取り組んでいる。
2015年11月に県営名古屋空港(以下名古屋空港)での国産初の小型ジェット旅客機MRJ(Mitsubishi Regional Jet)の初飛行が成功したというニュースは国内外からも注目されたところだ。

そんななか、名古屋空港内に2017年11月、航空機をテーマにした「あいち航空ミュージアム」が完成した。戦後初の国産旅客機「YS-11」や小型ビジネスジェット機「MU-300」の実機展示がみどころとなるミュージアムだ。
ミュージアムの管理運営を行う名古屋空港ビルディング株式会社の内藤恵子さんに館内を案内していただいた。


※中部地域の航空宇宙産業の生産高の割合(2017年)

精巧な1/25模型と迫力の実機展示

【写真上】1957年に愛知県で最終組み立てが行われ、1962年に名古屋空港で初飛行に成功した「YS-11」。展示されている機体は現役時代、鳥取県の美保基地で運用されていたため尾翼には「因幡の白うさぎ」の部隊マークがついている。奥に並ぶ赤白の機体は「MU-300」。週末には機内公開もされている<br>
【写真下】ショーケースにずらりと並ぶ名機百選。壁面には世界の航空史とともに日本の航空史が紹介されている【写真上】1957年に愛知県で最終組み立てが行われ、1962年に名古屋空港で初飛行に成功した「YS-11」。展示されている機体は現役時代、鳥取県の美保基地で運用されていたため尾翼には「因幡の白うさぎ」の部隊マークがついている。奥に並ぶ赤白の機体は「MU-300」。週末には機内公開もされている
【写真下】ショーケースにずらりと並ぶ名機百選。壁面には世界の航空史とともに日本の航空史が紹介されている

ミュージアムは名古屋市北西の豊山町にある。通常の出入り口のほか、名古屋空港旧国際線ターミナルビルを再活用したショッピングモール「エアポートウォーク名古屋」から搭乗口をイメージして作られた連絡通路を通り、ミュージアム内へ入ることができる。

ルートはまず吹き抜けになっている2階の展示エリアからスタート。最初に出迎えてくれるのは、レオナルド・ダ・ヴィンチのスケッチを元に作られたヘリコプターの模型だ。
「飛行機の原点を感じてほしいという思いで展示されています」と内藤さん。人力で羽を回転させる仕組みが今考えると斬新に思える。
先へ進むと名機百選の展示エリアへ。名古屋空港に国際線があったころ、ターミナルの3階にあった航空宇宙館に展示していたもので、今回のミュージアム開館にあたり再度展示されることになったという。

「航空博士の木村秀政さんが選出した日本の航空史に名を残す名機を並べています。模型職人の田中祥一さんが作られたもので、すべて木とプラスチックでできているんですよ」(内藤さん)。
模型の中をのぞくと、座席ひとつひとつ、安全ベルトのバックル部分まで驚くほど精巧に作られているのがわかる。

「模型はすべて実際の1/25の大きさで作られています。戦後初の国産小型旅客機「YS-11」の模型に関しては、階下に実機も展示されています」との説明を受け階下にある実機を見てみると、なかなかの迫力!模型と実機を見比べられるのが面白い。
「YS-11」のほか「零戦」「名市工フライヤー」「MU-2」「MU-300」「MH-2000」が並ぶが、これらは愛知で作られたものや愛知にゆかりのある機体ばかりだという。

パイロット・整備士体験やサイエンスラボで“飛ぶ”を体感

ミュージアムのコンセプトは
①航空機産業の情報発信 ②航空機産業をベースとした産業観光の強化 ③次世代の航空機産業を担う人材育成の推進の3つ。
「なかでも力を入れていきたいと思っているのは3つめの人材育成の推進です」と内藤さん。
「よりリアルな体験をしていただくことで、空への憧れを感じてもらえたらと思っています」と話す。

体験のひとつとして用意されているのがサイエンスラボ。小学生以上向けの「航空教室」と幼児以上向けの「工作教室」にわかれ、「航空教室」では実験、学習、サイエンスショーを通して飛行機が飛ぶ仕組みを学べる内容となっている。
「工作教室」では紙コップなどを使って飛び出す飛行機を作るワークショップが行われ、翼の形や付ける場所などを工夫しながら、実際の飛行機の仕組みを知ることができる。

さらに、パイロットや整備士の仕事を体験できる職業体験プログラムもあり、子どもにも大人にも人気だという。
例えばパイロット体験の場合、まず教官とともにフライトプランを立てるところから行い、風向きや進入角度などについてレクチャーを受ける。その後、フライトシミュレーターで操縦桿を握り、飛行、離着陸を体験する。
整備士体験の場合は、展示されている実機の点検をしてあらかじめ用意されている故障個所を見つけるところからスタート。故障個所を再現した整備エリアで、さまざまな工具を駆使しながらパーツを分解し整備し直していくというものだ。
どちらも約50分と、充実した内容となっている。

ほかにも館内には、動くシートに座り遊覧飛行を体感できる「フライングボックス」や、当時の零戦工房をイメージして作られた「飛行機の工房」、飛行機グッズなどを販売するミュージアムショップなどがあり、航空の歴史や飛行機の魅力を感じることができる。


※航空教室、工作教室、職業体験は入場時に要予約。

【写真左上下】サイエンスラボの小中学生向けプログラムでは、模型とドライヤーの風を使って飛行機が飛ぶために必要な<br>4つの力(重力・効力・揚力・推力)について実験する<br>
【写真右】職業体験は時間帯によって大人も参加可能。職業体験というだけあって講義と実習あわせて約50分の充実した内容に。<br>右上はフライトシミュレーターを使ったパイロット体験。右下は整備士体験エリア
【写真左上下】サイエンスラボの小中学生向けプログラムでは、模型とドライヤーの風を使って飛行機が飛ぶために必要な
4つの力(重力・効力・揚力・推力)について実験する
【写真右】職業体験は時間帯によって大人も参加可能。職業体験というだけあって講義と実習あわせて約50分の充実した内容に。
右上はフライトシミュレーターを使ったパイロット体験。右下は整備士体験エリア

滑走路まで約300メートル。飛行機がすぐそばに見える展望デッキ

ミュージアムの見学をして印象的だったのは、飛行機の音と匂いだ。空港内の施設だけに、1階の実機展示ゾーンの窓からは駐機場や格納庫を見ることができるし、飛行機が飛び立つ音、ヘリコプターのプロペラの音などリアルな音が館内にまで聞こえてくるのだ。
さらに展望デッキにのぼると間近に飛行機の離着陸が見え、燃料の匂いがかすかに漂う。
デッキから滑走路までは約300メートル。

「名古屋空港は全国でも珍しい民間と自衛隊の共用飛行場です。
FDA(フジドリームエアラインズ)のカラフルな旅客機や、警察のヘリコプター、ドクターヘリの離着陸を間近に見ることができます。自衛隊機を間近で見られる施設はほかにもありますが、民間の飛行機の離着陸も見られるという点では、ここが日本一近くで見られる場所なのではないでしょうか」と内藤さん。

日によってはタッチアンドゴーの操縦訓練を見ることができたり、滑走路までの誘導路を走る飛行機から操縦士が手を振ってくれることもあるという。「見学に来た子どもさんは大喜びなんですよ」と言うが、大人もつい興奮してしまいそうだ。

デッキから眺めていると、滑走路に数字とアルファベットが書いてあるのが見える。
「数字は滑走路の向きを示しているんです。34だったら北に向かって340度ということ。サイエンスラボでもこうした豆知識を教えているのですが、実際の滑走路で説明するとよりわかりやすいですし、みなさん興味深く聞いてくれますね」(内藤さん)
離陸寸前の高鳴るエンジン音、飛び立った瞬間のなんともいえない感動や、着陸時の緊張感をこの距離で感じられたら、飛行機への関心はますます高まるに違いない。

2階の展望デッキではハンモックに寝そべりながら空を飛ぶ飛行機を眺められる。<br>取材時、誘導路を走る飛行機と着陸する飛行機を同時に見ることができた。<br>自衛隊機、旅客機、ヘリ、個人所有のセスナなど多くの飛行機が見えるため、カメラを抱えて撮影目的で訪れる人も少なくない2階の展望デッキではハンモックに寝そべりながら空を飛ぶ飛行機を眺められる。
取材時、誘導路を走る飛行機と着陸する飛行機を同時に見ることができた。
自衛隊機、旅客機、ヘリ、個人所有のセスナなど多くの飛行機が見えるため、カメラを抱えて撮影目的で訪れる人も少なくない

木製のゼンマイからはじまった航空機産業。今後の人材育成に力を注ぐ

今回取材にご協力いただいた内藤恵子さん。「本物の飛行機が目の前で飛び立つ姿を見ると子どもたちは目をキラキラさせて喜んでくれるんです。訪れた子どもたちには、飛行機ってかっこいい!すごいな!って感じてもらいたいです」と話してくれた今回取材にご協力いただいた内藤恵子さん。「本物の飛行機が目の前で飛び立つ姿を見ると子どもたちは目をキラキラさせて喜んでくれるんです。訪れた子どもたちには、飛行機ってかっこいい!すごいな!って感じてもらいたいです」と話してくれた

そもそもなぜ愛知県で航空機産業が発達したのか。その背景について内藤さんに教えてもらった。

「当時の飛行機はすべて木製。大きなプロペラも木を何層にも重ねて作られていました。ですから良質な木材が採れる山々があったというのが大きな理由です。その木材が木曽川や矢作川を下って集まり、からくり人形や木製の歯車などの木工技術が発達していきました。
その後、名古屋市にある愛知時計電機が精密な歯車やゼンマイ造りを極め、1920年ごろには飛行機の部品を作るまでになったのがはじまりということです」
東京と大阪の間にあり、交通の便がいいことや、木曽川などから豊富な工業用水を確保できたことも理由のひとつだという。

その後も堅実に進化し続けてきた愛知の航空機産業。
今後の見通しについて愛知県産業振興課次世代産業室に問合わせたところ、
ジェット旅客機の世界需要予測は今後20年間で約1.8倍。とりわけアジア太平洋地域は約2.5倍になると予測されるという(※1)。飛行機の部品点数は自動車と比べ約100倍(※2)というから、飛行機の世界需要が伸びれば裾野への波及効果は大きなものとなる。
さらに、新幹線や自動車に活用が広がる炭素繊維複合材(CFRP)や、身近なところでいうとエアコンや乾燥洗濯機、自動車のABS(アンチロックブレーキシステム)など、他産業への技術波及効果も期待されている。

今後もますます発展が見込まれる航空機産業。愛知県がトップとして走り続けるためには、人材育成は欠かせない。
県では、ミュージアムをそのきっかけ作りとして活用していきたい考えだ。教育機関への働きかけを強化し、郊外学習や学校行事などの提案を行っていくという。
また、産業観光の面では「トヨタ博物館」「トヨタ産業技術記念館」「かがみがはら航空宇宙博物館」などの周辺施設との共通券を設け、産業観光の拠点を周遊しながら”ものづくり”に関心をもってもらいたいとしている。


ミュージアムのこれまでの入館者数は2018年2月10日発表の時点で10万人を達成。当初の予想63万人に対しては開きがあるものの、MRJの飛行延期を加味すれば順調な滑り出しともいえる。
まだ開館したばかり。飛行機に例えれば滑走路を助走している、といったところだろうか。
“飛ぶこと”への興味と”空への憧れ”を掻き立てる―。
「あいち航空ミュージアム」がそんな場所になることに期待したい。


※1 一般財団法人日本航空機開発協会「民間航空機に関する需要予測2017-2036」より
※2 文部科学省次世代航空科学技術タスクフォース「戦略的次世代航空機研究開発ビジョン(平成26年8月)」等より

【取材協力】
あいち航空ミュージアム
https://aichi-mof.com/
愛知県振興部航空対策課、産業振興次世代産業室

2018年 07月19日 11時05分